「…これって…」
私達が、海鳴キャンプ場にたどり着いた時。既に全ては終わっていた。
「…見ての通りね…」
辺には布団の山が出来ており一見滑稽な光景だった。
そこに私達の友達が血塗れで倒れていなければ…。
「…相打ち…」
ヴィータちゃんは、血塗れで倒れ伏してピクリとも動かない。
「…」
そして…後藤は…。
「アンタ…何がしたかったの?」
何かの柄に突き刺されヴィータちゃんに手を伸ばすようにして倒れていた。
「…一体…何がしたかったのよ!」
後藤は、その問いには答えてはくれない。
「ねぇ…ヴィーたん」
僕は、痛む傷を押さえながらシーツに体を預けて言った。まさか、最後の一撃が僕の武器を狙ったのではなく、僕自身を狙ったものだった
とは、思いもしなかった。自分を盾にして、武器を砕かれることを計算した、ヴィーたんの勝ちだ。
「これから、ちょっと昔話をするよ」
もう動くことの無い小さな騎士に…大切な友達に。
「僕は、いわゆる転生者って奴なんだ。」
普通の人が聞けば頭を疑われるだろうが、関係ない。
「一応言っておくけど、その時は、けしてロリコンだった訳じゃ無いよ?」
僕が、喋るだけだ。
「僕には、小さい頃から付き合いがあった、幼馴染がいたんだ。本当に小さい頃から兄弟見たいに育った。小学校も中学校も高校も同じだった。」
風が、吹いてきた。散っていた落ち葉が、布団の上に振りかり白を染めてゆく。
「ある日僕は気が付いたんだ。彼女の事が好きだったんだって。」
太陽が、うっすらと昇って来ているのが分かった。もうすぐ夜明けだろう。
「でも、結局振られた。…彼女は、僕なんかよりも100倍格好良い奴と付き合ってたんだ。いやーあれは、僕の人生の中でも一番悲惨な思い出だよ。」
夜明けが近付くたびに眠気が襲ってくる。ああ、やばいかも。
「で、僕は、引き下がった。正直彼女は、僕なんか相手にもしていなかったんだ。何より彼女は幸せそうだった。邪魔なんて出来る訳が無かった。…でも…今思えば、それが、原因だったのかも知れない。」
目の前が、霞んでゆく。もう何も見えない。
「彼女は、騙されてたんだ。そして、多額の借金を残されて捨てられた。…僕は、それを知って直ぐに彼女の住んでいるアパートに行ったんだ。」
慰める為に。小さい頃から知っている、彼女の為に。きっと、直ぐに立ち直る。彼女は、強いから。
「…でも、彼女は、死んだ。近くの公園で首を吊って。勝手に読んだ遺書には、自分の愚かさが書いてあった。自分にはもう味方はいない。自分は、一人だ。そんな文字が最後に書いてあったよ。…後悔した、とっても後悔した。なんでもっと早く彼女の変化に気付かなかったのか?
なんで、自分が傍にいてやれなかったのか?なんで!あんなに強い人が簡単に…こんなにも簡単に死ぬんだって!」
声を荒らげたのがいけなかったのか、血が、ゆっくりと溢れた。鉄の味が口腔内を支配してゆく。
「それから、僕は、死人の様に過ごしたよ。別に何も食べなくなったり眠らなくなったりした訳じゃない。生きる為の最低限の事しかしなくなった。ただ、食べ、眠る。周りからも見捨てられ、親からも見捨てられた。それでも、何も気にはならなかった。」
死にたい。そう、思っていたけれど…僕には、そんな勇気も気力も無かった。
「そんな時、僕は一人の女の子を見つけたんだ。僕が、歩道橋の上でただ眺めていると彼女がいた。それも小さな頃の元気な彼女が。もちろんそれは、彼女じゃなかったけど…僕は、誘われる様にフラフラとその子に近付いた」
正直あの時の僕の見た目は、正しく変態だったに違いない。
「その子は、ボールで遊んでいてね、取り損ねたんだ。そして、道路に出てしまった。そこにトラックが来んだ。僕は、駆け出したよ何も考えずに…彼女が、僕の幼馴染にそっくりだったからかも知れない。そして、僕は、大怪我を負った」
死ぬかと思ったけど、人間は、そうは、簡単には死ねないのだ。
「それからは、辛いリハビリのスタートさ。でも、僕は、それを辛いとは思えなくなってきたんだ。理由としては、その子が毎日お見舞いに来てくれたからかな。」
そんな日々の中で、僕は、生きるって意味をまた見つける事が出来たんだ。辛い生活から僕は、彼女の死に向き合う事が出来た、そして、乗り越える強さをまだ、小さな彼女から教えて貰った。
「…でも…ある日その子は、来なくなった。初めは、きっともう許して貰えたから来なくても良いと思ったからと思った。…だけど、それは、間違いだった。…その子は、病気になってたんだ…いや、元々難病だったらしい。道理で、パジャマの様な格好で来るとは思っていたんだけどね。」
僕なんかよりずっと苦しいのに…僕なんかよりずっと辛いのに。あの子は、元気な時は必ず来てくれていた。
「その子の病気は、殆どの臓器の不全だった。治療には、多額のお金とドナーが必要だったんだ…」
僕が集めた情報では、お金は、何とかなるそうだったのだが、ドナーが見つからなかったらしい。歩けるようになった僕は、その子の病室に毎日通った。入院当初とは、立場が逆転したんだ。
「僕は、その子を死なせたくなかった。だから、試しに自分の臓器を調べてみたんだ」
最初は、期待なんてしていなかった。だけど…。
「僕は、運命に感謝したよ。本当に感謝した」
僕は、自分の命より彼女がまた、死ぬのが、怖かった。楽しげに笑う顔や恥ずかしがっている顔、僕が、思い出せる彼女は、全て子供の頃の姿だった。その彼女が死んでしまう…嫌だった。
「だから、僕は、彼女の死んだ木で彼女と同じ様に死んだ。直ぐに見つかる様に遺書を残して。警察も呼んで、ちょっとした騒ぎを起こした。遺書には、僕の臓器を彼女に移植して欲しいとの文と死んだ事は秘密にして欲しいとの旨を書いた。」
ちゃんと移植出来たのかは、死んだ後神から聞いた。いや、まさか死後の世界が、あるとはね…。
「…まぁ、そんな訳で、僕の話は、終わり。殆ど独り言見たいになったけど…」
ゆっくりと、“死”の感覚が、伝わってくる。1度は、体験した事とは言え、やっぱり怖いな…。
「あ、そうそう…ヴィーたん…」
言わなかったけれど…キミは、彼女達にそっくりだった。最初見た時は、本当に驚いたんだ。彼女が転生したのかと思ったくらいだった。
だから、声をかけた。…でもね…僕は、いつの間にか…キミを…。
「…大好き…だったよ…」
これが…僕のストーリーの結末。悪くない人生だったな…。
これにて、天使の物語は、終了。
天使は、騎士と相打ち滅しられた。
これは、覆る事のない事実。
さて、これから始まる物語のさわりでしかない。
転生者の物語。
転生者が全て集まる為のほんの些細なきっかけに過ぎない。
転生者のすべてがこんな運命をたどっていたのだろうか?
だがこれはひとつの物語に過ぎない。
ただひとつの物語。
さて次回はどんな話なのだろうか?お楽しみに…