「ん?」
気が付くと俺は、日野さんのマンションの一階のエントランスしたに横たわっていた。
「あれ?“ヤマダさん”は?」
なんか、出ろ!と念じれば出れると言われたので試して見たところ凄まじい目眩に襲われ気付けばここに入た訳である。
「おや?目を覚まされましたか?」
「おわ!」
すると、目の前に日野家の執事を務める爺さんが、現れた。本当に突然だった。
「ホッホッホ。そこまで驚かれる事ですかな?」
「驚くわ!何だよ!その瞬間移動は!」
「さて?私めは、只、屋上から落下した南様を追ってきただけなのですが?」
「落下って…」
と、確かに体の下には、何かが落下し凹んだ地面があった。どうやら俺は屋上から落下し一旦へしゃげて再生したらしい。
「相変わらず奇妙な体ですな」
「どうも…あんた以外誰も見ていないよな?」
「コウ様が、見ていらっしゃいましたが、気絶いたしましたので、只今メイド共が、介抱しております」
「コウ?」
「おや?覚えていらっしゃいませんか?今日の襲撃者の妹ぎみです」
「襲撃者…ああ、あいつらか」
記憶に多少の混乱が、でたものの何とか思い出せた。確かに後藤と戦った際にいた様な気がする。
「あれから、どうなったんだ?」
「ええ。どうやら後藤殿を探すために皆様街へ探索に出かけていきました」
「…探してどうするんだ…」
後藤の力は、それこそ手の付けようが無い程の力だ。例えば、相手の存在を“気にならなくする能力”これは、“大嘘憑き”の“無かった事にする能力”以上に厄介な能力なのだ。そして、“感情による天候の支配”これは、感情によって、天候がコントロール出来る能力である。この力下手を打てば、
この地上を氷河期に変貌出来る能力なのだ。そして、何より後藤の力で恐ろしいのは、“天使化”こいつを発動された場合…近・中距離で奴に勝てる者は居なくなると言っても過言では、なくなるだろう。そんな、チート能力満載な後藤に果たして日野さん達だけで…。
「……勝てそうで恐いな…」
日野さんが叩きのめしている映像が一瞬脳内に流れた。あの人ならやりかねない。
「今、どこにいるか分かるか?」
「ええ。先程連絡があり、後藤殿を討ち取ったそうです」
「へえーって!ええ!」
討ち取った?どうやって?いや、そこは、流石日野様だよ!
「混乱なさっている所失礼致しますが、どうやら物凄く不味い状態になっているようです」
「不味い?」
「ええ。」
夢を復活させ、ついでにコウと言う女の子をつれ、やって来たのは海鳴キャンプ場のすぐ近くにある公民館。ここは、休日なら誰でも利用できる図書館があり海と山が見渡せる屋上は、人気のスポットである。
「フアァ~眠い…」
「いっちゃん…ここどこ?」
眠そうに目をこする幼女2名に小学4年の俺という奇妙なパーティは、そんな公民館の前に立っていた。因みにこの公民館は、日野家が、出資しバーニングス名義で建ったものらしい。爺さん曰く“バーニングス家”名義で建っている建築物のおよそ4割は、その他の分家が建てたものだそうだ。しかし、殆どを知名度の勝る“バーニングス”に奪われるのだそうだ。
「しかし、どこから入ったら良いんだ?」
公民館の自動ドアは、動いていないし裏口も閉まっている。
「いっそうの事ぶち破るか?後で“大嘘憑き”で直せばいいし…」
器物破損に対して余り気にならなくなった今日この頃だ。
「一夜…良いよ。私が開けるから」
と言って、前に出たのは、夢である。するといつの間にか夢のすぐ下にチェーンソウが落ちていた。それを夢は拾いスイッチを押す。刃が回転する音が当たりに響きわたる。
「“殺人規制”」
夢が、そう言うと扉に向かいチェーンソウを突き刺した。俺は、コウを後ろに隠し様子を見る。
「あいたよー」
「ご苦労さん…で…何コレ?」
チェーンソウで切った部分は明らかに異常をきたしていた。確かに建物の中に入れるのだが…。
「…何で、日野さんの後ろ姿が直ぐそこに見えるわけ?」
切られた扉の向こうで日野さんが何かを見ていた。しかもこっちに気付いた様子は無い。
「えっとね。“殺人規制”は、会いたい人がすぐ近くにいれば、その人の真後ろに出られるんだよ~」
つまりは、ホラー映画などで、殺人鬼から逃れ扉に鍵を掛けたにも関わらず振り向いた先には殺人鬼がいて、凶器を振り下ろすシーンを再現出来る能力と考えても良いだろう。流石は、“悪夢”を使えるだけはある。俺なんかより応用が効くな。
「…夢…その力は日野さんには、言うなよ?」
「何で?」
「…もう何処にも逃げられなくなるからだ」
最悪。深海か宇宙に逃げるしか手は無くなる。
「…分かった!」
どうやら俺の気持ちを察してくれたらしい…そう信じたい。
「さーて、入るか。何時までも待たせる訳にはいかないからな。夢、一応聞いておくが、コレは、俺達が入っても大丈夫なんだよな?」
「うん!あ、壁には触れないでね。混ざるから」
「分かった」
何が?とは、聞けなかった。
無力だ。そんな思いが、私を苛む。
何も出来ず。
只、友達を失った。
何とか、出来ないかと頭を悩ませたけど…無理だ。何故なら私は、何の力もない。
「…ナギサ。…自分を責めるな。奴は、最後まで騎士として戦い…散ったのだ…」
地下道から後藤の仕掛けていた薬液を全て回収してきた、リンちゃんが私の肩に手を置いた。
「でも…もう誰も戻って来ないのよ…」
ヴィータちゃんはもちろん。後藤の能力によって消えた二人。鈴音ちゃんとシュウちゃんは見つからず、リンちゃん達の記憶からも消えていた。
どうやら、後藤の能力は後藤自身が解除しなければ、意味がないみたいだ。
「全部…私のせいで…ごめんなさい…ごめんなさい…」
視界が、滲んでくる。友達を失う事がどれだけ大きな事だと言うことが身をもって分かったのだ。
「日野さん?」
後ろからは、南が困惑したような声を上げていた。そりゃあ、そうだ。私が泣くなんでそうそう無いから。…南?
「どうしたんだ?」
南は、真後ろに立っていた。なに?このホラーのシーン見たいな感じは?
「ねえ。怖く無かったでしょう?」
「うん!凄いね!夢ちゃん!」
続いて、夢ちゃんとコウちゃんも現れた。よく見ると、二人が出てきた辺りの空間には、穴が空いていた。何だろうか?
「南…アンタ元に戻ったの?…どうやって!」
「え?えっと・・・良く覚えてないけど、屋上から転落して体がひしゃげたら元に戻ったって、爺さんが言ったたぞ?」
「屋上から転落…ああ!」
そうか!こいつの“大嘘憑き”は、死後も発動可能だったんだ。そして、死ねばこれまでの事が“無かった”事にされる。最初の後藤戦の時だって、頭を砕かれた後は、催眠から抜け出してたじゃない!いくら、小さくなったからとは言え“いっちゃん”は“南”だったのだ。
“大嘘憑き”が使えない訳が無かったんだ。なんで、気が付かなかったのだろうか!
「あの時絞め殺して置けば良かったのに…」
「え?何!なんで、あの時って?」
どうやら、小さくなった時の記憶はないようだ。
「でも…」
もう、遅いのだ。いくら、南の“大嘘憑き”でも死人を復活させる事は出来ない。消された人間を呼び戻す事も出来ないのだ。
「…そこに寝てるのは、ヴィータか?」
すると、南は、直ぐそばのベットの上に寝かしてあるヴィータちゃんに気が付いた。バリアジャケット(と言うらしい防護服)も消え今は、聖杯小の白い制服姿になっている。しかし、白の上に真っ赤な赤が広がていることから悲惨さが更に増大している感じがした。
「…死んでるのか?」
南が、確認するように聞いてくる。それに私はうなづく。
「正確には、プログラムが破損したのだ」
リンちゃんが、後を継いで答えてくれた。
「プログラム?」
「ああ、ヴィータは、“闇の書”と呼ばれていたプログラムの騎士でな…本来なら死ねば書の中に戻るのだが…」
今回は、体が、残っている。つまりは、根本から壊れてしまっているのだ。
「そんな…」
南は、リンちゃんの言葉に膝を着いた。流石にショックなのだろう。
「確かに…リンの仲間だとは思ってたけど…人間じゃ無かったなんて…待てよ…じゃあ!文芸部には人間は時田さんしか居なくねえか?」
「そっち!と、言うより私も居るわよ!ついでに言うと私が文芸部有一の普通人よ!」
「そんな…」
アンタ…そこまで私の事を人外だと思いたいの?私がやった事と言えば、夢ちゃんを倒した位のもんよ?
「たいだい…何で増えてるの?」
「あ。お姉ちゃん!」
「コウ!」
飲み物を取りに行っていたランさんが帰って来たみたいだ。
「…南?ショックを受けているのは良いけど他に思う事は無いの?」
「思うこと?」
南は、キョトンと私を見る。
「友達が死んだのよ?それをアンタは、どう思ってるのよ…」
「え?そうなの?」
南は、訳が分らないと言った感じで私を見た。
「アンタ……」
「なぁ、リン」
「何だ?」
「ヴィータは、人じゃなくて、データの塊と考えても良いんだよな?」
「主が聞いたら怒りそうだが…その通りだ。人間で言う所の肉体や内臓が細胞では無く緻密なデータで構成されていたと考えて貰っても構わない」
「…“星光”との違いはあるか?」
南は“星光”と言うときに少しの声の震えがあったが、リンちゃんは答えた。
「基本的には同じだ。ただ、魔力を拡散させない様になっていて、“星光”とは、違い長期に…いや、ほぼ永遠に活動出来る。」
リンちゃんが、そう言うと南は少し俯き何かを言いかけようとしたが言葉を飲み込んだ。南とリンちゃんには、“星光”と言う人について何かの因縁があるらしいのだけど私はそれがなんなのか知らない。
「…サンキュ…それだけ聞ければ十分だ」
南は、そう言うと、ヴィータちゃんに近付き手をかざす。
「データの破損を“無かった”事にする…」
そして、軽くなでると…
「……ん?」
ヴィータちゃんが、何の前触れも無く眠そうにまぶたを開けた。
「アレ…私は…後藤は?」
寝ぼけた様に辺りを見渡すヴィータちゃんを見て、私は改めて南の凄まじさを知った気がした。