とある市民の自己防衛   作:サクラ君

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VS天使篇
ラストスパート!!


第45話 思いを込めて。

青空の下。可愛らしい服に身を包んだ少女3人とオシャレな服を着ている少年2人。そして、普通の服を着ている少年1が駅前の広場に集まっていた。

 

「もう!翼兄ちゃんは、何でそんなにセンスがないんや?せっかく皆オシャレしてきたのに!」

 

「…いや、はやて…今日は、クロノと仕事の打ち合わせに来ただけだよね?オシャレする必要性が、見当たらないんだけども…」

 

「それやから翼兄ちゃんは…フェイトちゃん。ここは彼女としてビッシーと!」

 

「え…えっと…翼君は何を来ても似合うよ?」

 

「あ、ありがとう…」

 

「…アカン。ここは妹として何とかせんと…将来的にフェイトちゃんのデートの相手がジャージ姿になってまう…」

 

「相変わらず仲がよさそうなの」

 

「そうだな」

 

八神兄妹とフェイト以外が笑う。

 

「そう言えば、今日は、ヴィータは来なかったんだな?付いて来ると思ってお菓子を多めに作ってきたんだが…」

 

遠藤晴樹の言葉にはやては、嬉しそうに答える。

 

「いやーあの子な学校で友達が出来たみたいでな、しかも同じ部活の子みたいで作品を作るためにその子の家に止まってくるって昨日連絡があったんよ」

 

「ふーん…確か文芸部だっけ?」

 

「そうそう。」

 

「そりゃ良かったな!」

 

「うん!」

 

2人が笑い合うと同時に何処かからクラクションの音が聴こえた。

 

「もう!なんなん?朝からこの調子やで?一体何台トラックが通ったら気が済むや?」

 

実は、今朝から同じ感じの大型トラックが何台も土を乗せて運んでいるのだ。お陰で土煙がすごいし目も痛くなる事が朝から続いていた。一体何事かと思うのは、はやてだけではなく、通行人達も迷惑そうにトラックを見つめていた。

 

「まぁ、あっちも仕事なんだから気にするなよ」

 

「…うう。服が、また、土だらけや…きっとこんな事をする奴は捻くれてるに違いないんや」

 

 

 

 

 

 

「ヘクチッ!」

 

「ナギサ。風邪か?」

 

「違うと思う。土煙のせいよ」

 

私は、そう言うと、日野家所有の屋外プールの中に注がれていく土を見やった。取り合いず10tトラック10台分の土が入っている訳だ。

 

「それにしても、南の奴。これだけの事を私にさせておいて失敗でもした日には、どうしてくれようかしら?」

 

「…せめて苦しまないようにしてくれ」

 

私が、ため息を吐くと南が言った事を再び口にする。

 

「…後藤を復活なんて本当に出来るのかしら?」

 

ヴィータちゃんを復活させた後2人に後藤の事を話し対面させるとヴィータちゃんは、体の力が抜けたようにその場にしゃがみこんだ。

南は、そんなヴィータちゃんを見てから後藤の状態を観察し後藤の死因が出血多量と判断した。復活は可能なのかをその後南に聞いたのだが、少し考える様な表情で一旦出ていき、帰ってきた南が言ったのが、戦闘の後の土を全て回収しろとの事だった。

 

「…大丈夫だと思うぞ?」

 

するとリンちゃんが、ポツリと呟くように言った。

 

「奴は、きっと今のヴィータの姿を少し前の自分と重ねているのだろう…だから、絶対に死なせない。」

 

「ねぇ…アイツに何があったの?リンちゃんは、知ってるんでしょう?」

 

「…すまない。それは言えない。」

 

リンちゃんは、それだけ言うと黙り込んでしまった。

 

「そっか…」

 

きっと、それは、2人にとっては、辛い話しなのだろう。アイツが…止めよう…。

 

「ん?」

 

その時土煙が一気に晴れた。いや、“無かった”事にされたのだ。いよいよ始まるみたいだ。南一夜の大嘘が。

 

「おお!凄い量だな…。日野さん。ありがとな」

 

「別にこの位、訳ないわ…それより南…もし失敗したら…請求書はアンタの家に来るからね?」

 

「はは…ご冗談を…」

 

「因みに今回かかった費用よ…」

 

そう言って、電卓を見せる。そこには恐らく南が電卓をデタラメに打った時にしか見たことの無い金額が表示されている事だろう。

 

「…マジ?」

 

「ええ」

 

ちょっとだけ南の顔が青くなっているのが見えた。本人も可能性が五分五分と言っていたので、しょうがないが。でも今回は、人生をかけてくれるだけのやる気が無ければ困るのだ。

 

「…深海か宇宙か…いや、マグマの中も…」

 

「一応言っておくけど…どこへ行こうが日野は逃がしはしないわよ?」

 

「全力でやらせていただきます!」

 

「よし」

 

私が、そう言うと南は、私達に下がるように言った。

 

「コウちゃん。ランさん。そっちは?」

 

すると、後藤を抱えたランさんとヴィータちゃんの手を引いたコウちゃんがやって来た。

 

「夢!そっちは?」

 

「大丈夫だよ!」

 

夢ちゃんは南とは、逆の側の位置にいた。何か発動するのか、少し汗を掻いている。南から“ワンちゃん”や“マッド・ブッチャ”を呼び出す時は、負担が少ないと言っていたので、かなりのモノが出るのは間違いない。

 

「…よし…行くぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

全員が、声を上げると、遂に後藤の蘇生が始まった。

 

「まずは、土を“無かった”事にする!」

 

すると、大量にプールの中に入っていた、土が消失し赤い液体だけが残っていた。これは恐らく後藤の血だろう。まるで、惨劇の後のようにプールの底には血が飛び散っていた。

 

「夢!」

 

「うん!“拷問絞りの部屋”!」

 

すると、空間が歪み透明の壁の様なモノが、プール内に発生下そして、徐々に前に進んでいる。よく見ると壁は4方向から発生している様だ。

確か、コレは、相手を見えない部屋に閉じ込め空間を潰し圧搾機にかけた様な状態で殺し血の一滴まで搾り取るものだ。

 

「良し!」

 

後藤の血は、見えない部屋の中に貯められた。遠目から見れば、赤い液体が宙に浮いている様に見えることだろう。

 

「次に後藤の血の酸化を“無かった”事にする!不純物を“無かった”事にする!」

 

溜まっている後藤の血が暗赤色から鮮血色に変わった。さて、これからどうするのだろうか?そこで、南は次の指示を出す。

 

「ランさん!後藤を血の海の中に沈めてくれ!」

 

「分かったわよ」

 

ランさんが渋々と言った感じに後藤を抱えて飛ぶ。まぁ、彼女からすれば、何故自分を殺した危ない変態を蘇生させなければならないのかと思っているのだろう。だけど、シュウちゃんと言う記憶に無い兄の為に協力しているのだ。

 

「そのまま落として!」

 

「えい!」

 

後藤は、落下し血のプールに沈む。そして…。

 

「…ヴィータ。後は、お前だ」

 

「…え?」

 

南は、そう言って、1本のバッドとヴィータに差し出した。それは、後藤の使っていた武器。

 

「…エスカリボルグ…」

 

「ああ。重さを“無かった”事にしてるから、ヴィータでも十分に持てる。因みに“重さ”は無くとも“破壊力”は健在だから気を付けろよ?」

 

「ちょっと待ってよ!南!それで叩いてどうするのよ?例え再生しても後藤は死んだママなのよ?」

 

「いや、大丈夫だよ日野さん。アイツは“天使”だからな。」

 

どういう意味だろうか?

 

「天使にとって死と言うものは、己の個性の消失を表すんだ。“天使の憂鬱”がいい例だな。後藤も死ねば、光に変わる。それこそ誰からも忘れられるはずなんだ。だけど、俺等は、アイツの事を覚えてる。つまり奴の個性はまだ、生きてるんだよ。」

 

「じゃあ、なんで、動いて無いし死んでるんだ?」

 

「恐らく、血を流し過ぎたんだ。だから、肉体的に滅んだ。だから、血を奴の身体に戻す。既に臓器や脳は腐敗を“無かった”事にしてるから後は、後藤をミキサーにぶち込んだように細かく砕いて良く混ぜるだけだ」

 

「…後藤を砕く…」

 

「ああ。お前の思いを込めて、殺ってこい。」

 

随分と恐ろしい会話だと思う。後半から聞いてたら後藤が食材の様だ。

 

「…分かった。私…後藤を殺って来る!」

 

「ああ!行ってこい。俺らも後から行くから」

 

「…そうね。後で、私達の思いをぶちまけましょう」

 

ついでに南…アンタにもね…。アンタの暴言…よもや忘れると思って?

 

「…何だ?何なんだ?この寒気は!」

 

「あら?どうしたの?ミナミ?カオイロガワルイワヨ?」

 

「…タスケテクダサイ…」

 

あら?なんで震えているのかしら?まあ良いか。私は、見えない壁の上を進んでいるヴィータちゃんを見た。手に釘バットを持ってゆっくりと後藤の元に進んでいる。見た感じは、危ない女の子だ。

 

「後藤…」

 

そして、血のプールの中に入る。そして、バッドを振り上げ…。

 

「この!変態が!」

 

振り下ろした。鈍い音が辺りに響き渡る。

 

「変態!最低!ロリコン!バカ!バカ!バカ!バカァ!」

 

透明だから分かるのだが、ヴィータちゃんの打撃には、一切の迷いは感じられない。しっかりと思いを込めて後藤へと打ち込んでいる。

後藤の肉体は既にミンチを通り過ぎ液体になりつつある。因みにコウちゃんは、直ぐにメイドに命じて連れて行って貰った。これは、健全な子供に見せていいものじゃない。

 

「死ね!死ね!死ね!死ね!」

 

もう死んでます。だけど、ヴィータちゃんは、叩き続ける。最早、ビチャビチャと言う音しか聞こえない。

 

「ヴィータ!もう良い!あの呪文を踊りながら唱えるんだ!」

 

南は、メガホンを持って叫んだ。…呪文…ああ。アレか…。

 

「うう…あんな恥ずかしい奴出来ねえよ!」

 

「砕いたのは、お前だ。さあ、やるんだ!」

 

何故だろうか?この言葉の裏に何かとんでもない思惑を感じるんだけど…。

 

「うう…。」

 

「早く!砕いた分酸化が速い!」

 

「わ、わかったよ!」

 

ヴィータちゃんは、恥ずかしそうに両足をそろえ、血塗れのバットをクルクルと回す。所で、何でそんなに上手いの?素人じゃないわよ?あの動き…。

 

「後藤に良くやってくれって、映像を見せられてたからな…もともとヴィータの運動能力は高いから出来るのだろう」

 

はい、リンちゃんありがとうね。

 

「ピ…」

 

そして、ヴィータちゃんは、もうどうにでもなれと言わんばかりに息を吸い込む。

 

「うわわわ!」

 

「…」

 

皆が見守る中。

 

「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪」

 

そんな、声が辺りに響いた。

 


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