とある市民の自己防衛   作:サクラ君

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第49話 嵐の前に

「…と言う訳で、以上が理事長先生からの連絡だ。何か質問は?」

 

どうやら、あの一撃は軽傷だったらしく、昼休み終了間際に回復し現在はホームルームにて、今日の連絡を行った。

 

「「「……」」」

 

クラスの中に静寂がおとづれる。俺は、ため息を付き教卓の下に隠れた。

 

「「「いよっしゃ!!!」」」

 

クラスの殆どの生徒が、男女問わずに歓声を上げた。その勢いで、鞄や教科書が宙を舞いボタボタと地面に落下してゆく。

 

「お前ら、落ち着けよ!」

 

「「「!!!!!!!!」」」

 

駄目だ。最早俺の言葉は届かないらしい。

 

「ちょっと、アンタ達落ち着きなさい!」

 

すると、凛とした声が響きわたった。見ると一人の女生徒が、呆れた表情で立っていた。

 

「「「……」」」

 

すると、あら不思議。声の波は収まっていった。…泣いて良いですか?

 

「助かったよ。日野さん」

 

「アンタも苦労してるわね…」

 

このクラスの真の委員長であると言われる日野渚が、辺りを見渡す。

 

「ハア…で、男の子と女の子の部門で1位になったら、その訳の分らないデートの権利が貰えるって言ってたけど、それは、相手を選べるの?」

 

「あ、いいや、その場でクジを引いて当たった子とデートだって言ってた」

 

「…相手には、ちゃんと了承が取ってあるんでしょうね?」

 

「…さあ」

 

ディスプレイにあった月村さんの写真に本人が驚いていたところを見るとその可能性は少ない様な気がしてならない。

 

「…つまりこの行事…モテない、人達の行事って訳ね…」

 

「…まあ、多分…何で、俺を見るんだ?」

 

「…いや、かなり前から、このクラスの委員長が、月村さんに思いを寄せているって噂がね…」

 

「別に俺が提案した企画じゃねえよ!!」

 

「…変人のアンタが言ってもね…」

 

「変人集団を率いている日野さんが言える事じゃないよね?」

 

日野さんは、文芸部の部長と言う立場にいる訳であるが、そのメンバーは、見事に個性的である。

 

「ちょっと待った!僕のどこが変人なのさ!」

 

「黙れ!幼女趣味が!」

 

後藤聖一。このクラスの転校生であり、恐らく変人の部類では、クラストップの実力者だろう。成績優秀。運動神経抜群。と万能で、見た目も1組の赤神達に引きを取らないが、幼い女の子が好きと言う将来がとっても心配になる性癖を持っていたりする。

 

「ハア、後藤…もう黙れ…」

 

無言で、釘バットを取り出したのは、八神ヴィータ。得に変わった特徴は無いが、クラスで一番後藤に好かれているらしく、良く付きまとわれている。

最初は、殴り飛ばすだけだったが、最近では、どこからか釘バットを取り出しては、逆に追い回している。因みにこのクラスでは、美少女の部類に入り1組の女子と比べても引きは取らない。

 

「ヴィータ。落ち着け」

 

そんな、八神を止めているのが、八神リィン・フォース。こちらも転校生であり、変人集団の中でも比較的マトモな部類に入っている人物である。

俺達と同年代とは思えないほど落ち着きがあり、クラスの行事を決めるときには、良く書記をやって貰っている。こちらも美少女であるが、どちらかと言うと、10後位に急に芽吹くタイプと理事長は語っていた。

 

「スゥ~スゥ~」

 

こんな仲間の状態にも平然と眠っているのは、時田鈴音。詳しくは知らないが、酷いイジメにあっていた事があるらしく、しばらくは学校に来ていなかった。しかし、気がつけばまた、学校に来ており、その際にイジメは無くなったらしい。しかし、彼女は、どこかで見たことがある気がするのだが、全く思い出せない。…まあ、いいか。

 

「…」

 

一方、こんなカオスな光景を呆れた表情で傍観してるのは、南一夜。たしか、3年の始め頃に転校してきたのだが、暗く誰とも関わろうとしなかったので、そんなに目立つ事は、ない存在だった。俺の第一印象は暗い奴だった。幸いな事にイジメの対象にはなっていなかったが、ある意味で、そいつらは幸運だったらしい。何故なら、時田さんがイジメられていた所に乱入しその相手をしばらく学校に来なくさせる程のトラウマを与えたらしいのだ。普段のやる気の無い姿を見たいるだけそのギャップはすごいものがある。文芸部の実質的副部長であり、日野さんが最も信頼している相手だという噂だ。

 

「だあ!もう!アンタら少しは落ち着きなさいよ!だから、変人集団なんて裏から言われんのよ!」

 

その代表は、アンタですけどね。

 

「まあ、ともかく、皆良い?きっとこの中には、やる気になっている奴ややる気の無い奴もいるでしょうけど、レースである以上は、ちゃんとルールと安全を守ってやってちょうだい!怪我人なんて出した日には、レースは中止になるからね…良いわね?後藤?」

 

「委員長!武器は使用可ですか?」

 

「不可に決まっているだろうが!」

 

何故か、バチバチ光る棒を持っている後藤に言うと、俺は、再び壇上に上がった。

 

「あー皆も分かっているとは思うが、持久走大会は、7月だ。つまり後2週間。その間もし問題が起これば、この大会中止になるかもしれん。良いな!真面目に参加する奴は、絶対に他の参加者にチョッカイをかけるなよ?後、コースは、当日に発表される。だから、街中を走り回るな。以上だ!」

 

俺が、いい終わると、異常な静けさが、辺りを包み込んでいた。

 

「…これが、嵐の前の静けさと言う訳か…」

 

「…斎藤。大丈夫だと思う?」

 

日野さんが、少し声を潜めて聞いてきた。

 

「まあ、恐らく大丈夫だろう。いくら、立場が対等とは言え、やはり、勝つのは、運動神経の良い奴だろうからな。このクラスでは、断トツで後藤だろうな。1組では、赤神、八神、遠藤か?女子では、ヴィータで1組では、月村さん当たりだろうな。」

 

恐らく4年限定で行うとすれば、今上がった名前が優勝候補だろう。いや、このメンツなら優勝も夢では無い気がする。少なくとも俺らの様な普通クラスの人間とは、違うのだろう。

 

「…だが、そのことは、理事長だって知っているはず…あの言った事だけは、きちんと守る理事長の事だ…何かはあるんだろうけど…」

 

「…そうね…警戒はしておくべきでしょうね…」

 

日野さんは、何故か南を見ながら言っていた。まあ、気にしても仕方が無いか。とにかく、安全に大会が終わる事を祈るだけである。

 


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