カンカンに照りつける太陽。
ダラダラと流れる汗。
そして、次々と倒れていく戦士たち。
気温39度
湿度50%
天気は晴れ。
「明らかに異常気象だろう!コレ!!!」
まだ、7月になって、間もないというのに気温39度と言うのは、異常事態に他ならない。
「そこ、ちゃんと話を聞きなさい」
こんな時に持久走大会を開く理事長も異常人物に他ならない。
「全く。えー本日は、お日柄も良くお子様がたの日頃の成果を出しなさいと天がそう言っているような天気です。」
「おい!理事長先生!保護者への挨拶は、良いからさっさと大会を中止にしろ!もう、50人は倒れたぞ!」
この天候の元に長時間立っているのは、地獄の苦しみである。得に普段から快適な空調の中で過ごしている現代っ子には、この地獄に耐えられる猛者等、ひと握りしかいない。そして、今、俺の目の前の生徒が、意識を遥か彼方にある理想郷へ旅立たせた。
「このように、最近のお子様は、すぐに諦めようとする傾向にありますが、我が校では、何事においても全力で取り組む方針を立てており…」
「原田!嘘だろう?おい!しっかりしろォォォ!!!」
ここまで、耐えきてた、我が友人も理想郷へと旅立って行った。被害者回収部隊が、即座に到着し原田をタンカに乗せて何処かへと運んで行った。
最早、小学生のお気楽な行事ではなく、何処かの刑務所に入れられた気分である。と、言うより親御さんの誰か!マジで抗議してください!
「…」
が、しかし親御さんの誰からも中止の声は上がらなかった。彼等は既にあの理事長に何を言っても無駄だと言う事を理解している為である。
コレは、明らかに虐待では?と思うが、残念ながら小学生の声など誰も聞いちゃくれない。
「…ハア…ハア…残りは?」
だが、この残酷な選別は、同時にライバルを減らしてくれる。辺りを見渡して見ると、稲穂の様に不気味に揺れる男子達。因みに、女子は、だだ今体育館へ行って、午後の部に備えている。男子が、午前。女子が、午後っと言った感じだ。恐らくこの男子の結果次第では、女子の部は、中止となることだろう。あの理事長でも“バニングス家”と“月村家”の令嬢に過酷な仕打ちはするまい。
「…」
また一人犠牲者が出る。だが…。
「…化け物か?アイツ等?」
こんな状況下においても、全く身じろぎもしない連中がいた。1組の赤神達である。汗は、掻いているものの他の連中と比べたら可愛いものだった。
まあ、汗の出過ぎで、少なくなったのなら、別だが…。
「…後藤。ちょっと話がある」
「ん?何?」
一方我がクラスの文芸部員の2人も同様に無事であった。得に南に関しては、汗すら掻いていなかった。まさか、熱を“反射”しているのでは、あるまいが、異常な光景だった。流石は、文芸部である。
「まあ、それでもちゃっかりと残っている斎藤は、凄いと思うぞ?」
理事長が、小さく何かを言ったが、気にするだけ体力の無駄であるので、スルーする。
「では、これより。持久走大会を開催する。意識のある生徒は、スタートラインに立つ事」
「理事長先生~」
すると、珍しく南が、手を挙げて、理事長の言葉を遮った。
「なんだね?」
「ちょっと、トイレに行ってきても良いですか?」
「ああ。急ぎたまえ。他の生徒も水分を取るように」
理事長の言葉に俺たちは、衝撃を受ける。そんな思いやりがあるのならば、この大会を中止してくれ!と。
「さて、後藤…逝くか」
「アレ?ナンダロウ?意識が……………」
まるで、糸の切れたようにグッタリした、後藤を抱え、南は校舎のある方へと去って行った。
その後。何故か、気温は平常通りに戻った。
天使の能力の一つに自分の精神状態によって、気温を操れるものがある。過去にとある天使が、妖怪図鑑を読んだ際に世界を氷河期一歩手前にまでに追い込んだことがある程だ。まあ、前置きは、この辺として、現在の状況確認だな。今回の異常気象は全て後藤の影響である。天使である後藤の気分は、最高潮に燃えていた結果、辺りの気温も上昇し今回の惨劇が起こった訳である。本来ならもっと早く後藤を仕留めていたが、今回は、何故か日野さんから、ある程度参加者を減らしておけとの指示があり、哀れな犠牲者を出した訳である。
「さて…夢」
「はーい!ナギサお姉ちゃんから聞いてるよ!」
「なら、話が早いな。このバカを幽閉してくれ」
「うい!“不可侵の檻”!」
瞬時に後藤の周囲に何かの壁が発生する。そして、次の瞬間には消滅。そこには、寝ている後藤しかいない。
「大丈夫なのか?コレ?」
「うん!“不可侵の檻”はね、内側からの干渉を全て弾いちゃうの」
「つまり?」
「外側からの影響は受けるけど、内側。大体半径1m位まで、ゴトウちゃんの能力が行くと弾かれるの」
「成る程な。つまり、この檻がある限り後藤の能力は、半径1mまで、制限される。つまりは、無力化できるわけね」
「うん!!」
げに恐ろしい異能殺しである。つまり俺なら、“超電磁砲”が無力化される訳だ。最悪“不慮の事故”も封じられるだろう。敵であった頃に使われなくて、本当に良かった。
「まあ、これで、こいつも下手なことは出来んだろうな」
後藤の能力の強みは、アイテムにこそある。接近戦向けの“エスカリボルグ”や“ドゥリンダルテ”には、制限は無いだろうが、まさか、後藤もそこまで目立つ行動に出るとは思えない。つまり、後藤は、完全に封殺したも当然。
「…一夜」
「ん?」
「あんまり、これを過信しないでね」
「はい?」
「“不可侵の檻”は、対象の強さに応じて強度が決まるんだけど、もし対象が、急に強くなったら対応出来ないかもしんない…」
急に強くなる?そんな事があるのか?
「分かった。ありがとうな、夢」
夢の頭に手を載せて、言うと夢は、ニッコリと笑い頷いた。
「エへへ。でも、一夜なら、大丈夫だよね!理不尽だもん!」
出来れば、“強い”とか“頼りになる”とかの方が良かったんだけどな…。まあ、“不慮の事故”やら“反射”やら“大嘘憑き”を使う俺が言うのもなんだが。
「じゃあ、頑張ってね!」
夢は、そう言うと何処かへと走って行った。恐らく日野さん辺りに報告に行ったのだろう。
「…さてと…オラ、後藤起きろ!」
「…ハッ!ロリロリのフリル付きのヴィーたんは何処!」
「知らん。それより行くぞ!」
丁度その時、スタートを告げる放送が流れた。
「ヤバ!」
「俺等を無視かよ…」
俺と後藤は、慌てて、走り出した。
だが、この時。俺は、この先、過酷な運命が待ち受けている等考えてすら無かった。