スタートから早10分が経過した。今回の持久走のコースは、学校から出て、商店街に入り海沿いの船着場で折り返しまた、学校に戻ると言うものだ。
時間にすると、約40分程かかる。
「正直、小学生が走るコースじゃねえ!!」
と、コースに一人ツッコミを入れる斎藤進です。現在位置は、商店街の中を走っている。
「しかし、足が速いだけではクリア出来ないって、こう言う事だったのかよ」
確かに、この距離だったら、速さより体力の問題になるだろう。軽いマラソンだコレは。
「ハアハア…しかし、流石は、アイツ等か」
現在俺の目の前には、1組の赤神達とその他の有力な生徒が走っている。陸上部の速水くん。野球部に早見くん。柔道部の逸見くん。茶道部の快美くん。恐るべき偶然。赤神達以外が全てハヤミという苗字だった。ハヤミのキャプテン率が多い!茶道部強い!
「…後藤がいない?」
辺りを見るが、我が2組の問題児の姿が見えなかった。南に連れていかれてから見ていないが、一体どうしたのだろうか?アイツの事だから、例え手足がどうなっていようと参戦するハズだが…。
「まあ、良いか。ライバルが減ったと思えば」
だが、奴はあの日野さんの部下である。油断は、禁物だ。
「ハァハァハァ…ゴホッ…ハァハァハァ」
すると、俺の隣で走っていた、相撲部の后和守くんが、咳き込んでいた。
「后和守くん。大丈夫か?」
「さ、斎藤…」
后和守くんは、よわよわしくこちらを見る。その目には涙が浮かんでいた。
「…やっぱり、無理だったんだよ。ボク達が、参加して勝てる大会じゃ無かったんだ。…ゲホ」
「諦めちゃ駄目だ!せっかくここまで来んだぞ!」
あの、灼熱の地獄から生還した后和守くんは、強いはずだ。
「…斎藤は、優しいな…ライバルなのに…僕みたいな奴に声を掛けてくれるなんて」
「一応は委員長だからな」
「アハハ…そうだね…斎藤は、ボクらの委員長だったね…」
后和守くんは、そう言うと、立ち止まった。
「…后和守くん?」
「…ごめん。もう行って。ボクの事は、良いから」
「なに、諦めてんだよ!」
「良いんだ…ありがとう」
「后和守くん!!」
后和守くんから、背中を押され、俺は、後悔しながら走り出した。確かに敵だったのかも知れない。でも、同時に彼は、絶望的な勝負に挑んだ挑戦者であったのだ。
「畜生!絶対に俺が勝ってやるからな!」
全ての挑戦者の為に俺は!
「ん?」
すると、暫く先に止まっている赤神達の姿が見えてきた。何をやってるんだ?場所は、商店街の中央付近の広場だが…?気になり俺も様子を見るために近づく。そして、俺は見た。
「……なんじゃこりゃ!!!」
目の前には、巨大な何かがあった。いや、それが何かは分かるのだ。でも、何故あんなモノがこの商店街に存在してるのかが不思議なのだ。
それは、一見地面のタイルと見分けがつかないものだった。
それは、足を踏み入れた哀れな生徒を飲み込んだ。
それは、飲み込んだ生徒を頭一つ出るまでに沈めていた。
底なし沼の様なものが存在していた。
「…なんで、商店街のど真ん中にこんなものが?」
と、言うよりどうやって渡れと?
「…」
試しに商店街の店のタイルを踏んで見るが、踏んだ瞬間に足が沈んだ。どうやらここも沼の様である。
「…買い物客が大迷惑するだろうな…」
何も知らない客だったら沈んでしまっていただろう。つうか、こんなことして大丈夫なのか?海鳴商店街?最近は、デパートに客を取られていると聞いていますが?こんな巨大な沼を作って、元に戻るまで一体どれだけの予算と時間が必要なのか俺には分からん。
「しかし、問題は…」
どうやって、渡るかである。ご丁寧にも持久走のコースの端から端まで、この沼地になっているらしく人間の頭がニョッキりと生えていた。正直気味が悪い光景だ。小さい子なら確実に泣く光景だろう。
「…斎藤」
「ん?八神か」
すると、1組の代表格の一人、八神翼が声をかけてきた。こいつとは、他の二人と比べ多少なりとの付き合いがあるのだ。いつも明るく楽しげな所が女子に人気らしい。あのハオウランさんとお付き合いしているらしい。まあ、それはともかく。
「何?」
「ああ。ここの攻略法が何か分かるか?」
「ちっとも。正直参ってるよ。あの理事長の野郎今度あったらブチノメシテヤル…」
何が、難関を設置するだ。誰もクリア出来ないじゃねえか!
「まあ、そうだよな…ん?」
すると、八神が、これまで俺らが走って来た法を見て眼を細めていた。
「どうした?」
俺もその視線を追ってみる。そして・・・そこには、化け物がいた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
凄まじい勢いで、我がクラスの問題児にしてエースである後藤聖一が眼を血ばらせて走って来たのだ。
「おい!後藤!一旦止ま…」
しかし、後藤は、そんな言葉を一切聞かず沼地へと突っ込んで行った。これで、後藤も終わりになったハズだった。しかし…。
「アアアア!!!!!!!!!!!!」
後藤は、沼地に埋まった生徒の頭を踏みつけて渡って行ったのだ。
「って!!おい!」
確かに、その手は考えていたが、あまりに非人道的ではありませんか?
「ッ!!そうか!」
すると、八神も生徒の頭を渡り始めた。
「おい!八神!」
「大丈夫だ!見てみろ!」
「は?」
そう言われて、見てみると…これまで、埋まった生徒かと思っていたものは…。
「人形?」
良く出来た、鉄製の人形だった。あまりの精巧さに本物と区別がつかなかったのだ。しかもこの人形この学校の生徒を模しているらしい。俺もいた。つうか、殆ど俺だった。
「何の嫌がらせだ!理事長!!!」
何を好き好んで、俺を踏みつけて進まなければならないのか。しかし、今は、ツッコンでいる時ではない。
「お先に!」
「おし!」
赤神と遠藤が、沼地を渡るべく飛び始めたのだ。ヤバイ!あの2人を先に行かせる訳には!そんな瞬間だった。
「うををおおおお!!!!!!!!!」
俺の隣を誰かが走りって行った。そして。
「っ!何だ!」
遠藤が何者かと共に沼地へと落下した。
「斎藤!!!」
「后和守くん!どうして君が?」
「そんなことは、どうでも良いよ!早く行って!ボクには、これしか出来ないけど…早く!」
遠藤を押さえ付けながら、后和守くんは、俺にそう言った。
「クソ!離せ!」
遠藤がそう言って、后和守くんを引き剥がそうとするが、后和守くんは、相撲部と言う事もあり中々引き剥がせないようだった。
「そうは、行かないよ…遠藤。キミはここでボクとリタイアだ」
「クソ!体が沈む…ハア…分かったよ」
遠藤は、諦めた様に笑うと俺を見た。
「スゲェな、お前。リタイアしまで、助けようとする奴がいるとはな」
「后和守くん…」
「…斎藤。絶対に勝ってね。ボクらの為にも」
后和守くんの背後にこれまでに散っていった、仲間たちの姿が見えた。きっと目の錯覚だろうが、その光景は俺に力を与えてくれる。
「…ああ。任せろ!この大会、俺が勝つ!」
俺は決意を新たに足を進めた。