とある市民の自己防衛   作:サクラ君

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第56話 閉幕

長かった。

本当に長い旅だった。

何十人という猛者どもが、しのぎを削り。そして、散っていった。

眼をつむれば、思い出す。あの梅雨の日の事を。あの蒸し暑い日、俺の放ったたった一言が、若者達を駆り立てたのだ。

 

女の子とのデート。

 

その一言が。

あの、惨劇の始まりだったのかも知れない。

始まりのグラウンドで、多くの少年達が、力尽き散っていった。

俺の友である原田も力尽きた。元々体力等無かったが、それは、早すぎる最後だった。

その後生き残った男たちは、我先にと走り出した。

待ち受けていたのは、理事長の用意した難関だった。

あの常識外れの変人が創り出した桁外れの罠。

 

俺が、確認しただけでも底なし沼やハチミツの池等、常人には、理解出来ない。そして、ハタ迷惑なしろものが、平然と存在していた。

恐らくその他にも様々な罠が存在していたのだろう。人が、脱落する罠がどんなものかは分からないが…と言うか、小学生の持久走大会に何故、脱落するような罠があるのかが、そもそもの問題だが。

 

まあ、お陰で俺が有利になった訳だが…。ともかく、ユーノが変だったり、赤神が消えたり、後藤が未知の物体を振りかざしたり。様々な事があったが、それらを乗り越え現在俺は、ゴールへ向かっていた。背後に人の気配は無く、コースの脇には、脱落したと思われる男子生徒の骸が、転がっている。

 

『至急ベッドを開けろ!くそ!班長!どの病院も満員です!』

 

『ちっ、なら、診療所に連絡しろ!』

 

『はい!』

 

『それにしても、今日はハードな日だな』

 

気のせいか、病院送りになっている生徒が大半を占めているような会話である。

 

「…俺は、幸運な部類なのかもな。病院送りの罠って一体?」

 

『毒ガスでも吸ったのか?』

 

罠って一体…。

 

「ハアハア…もう少しだな」

学校の校舎のどんどん大きくなっている。ココで言う大きくなるとは、近づいていると言う事である。けして、校舎自体がデカくなっている訳ではない。いや、最終ステージで、デカくなるとは限らないが…。ともかく、ゴールは近い。

 

「く…」

とは、言え、体力も限界な状態である。何故かは、分からないが、あの坂道から体力の減りが凄かった。まさか、体力を搾り取る魔術的な仕掛けがあったのか?と考えたが、あの理事長ならやりかねないと非常識な事も思ってしまった、俺は、既に末期である。

 

「…」

目が、霞みそして、足がフラつく。頭がガンガンし吐き気すらある。

 

「もうすぐだ…もうすぐ…」

しかし、幸福な未来の事を考えると、そんな事は吹き飛ぶ。

 

「…」

一歩一歩。ゴールに近づく感覚がある。

 

「「ワア!!!!!!!」」

気が付くと、周りから歓声が聞こえてきた。左右を見ると学校の生徒や保護者達が、旗を持って、応援してくれている。

 

「「頑張れ!もうすぐゴールよ!」」

 

「「優勝は、譲ってやるよ」」

 

そんな、声が、辺りから聴こえる。見ると、女生徒や脱落した男子生徒が応援してくれていた。

 

「頑張んなさい!もうすぐよ!」

アリサが、ゴールのテープを持って俺を応援していた。

 

「まあ、頑張れ」

脱落した原田が、怪しげに笑いながら、親指を立てた。

 

「はは…みんな…サンキューな…」

これまで、辛い事が、色々あったが、報われた気持ちになれる。後、数メートルでゴールだ。

 

「ハア…」

もう、すぐ…もうすぐ…もう…。

 

「ガッ…」

足がもつれ、顔がら突っ込んだ。

 

「斎藤!」

 

「ハアハア…」

みんなの声が聴こえる。後、少しでゴールなのに身体が動かない。あと少しなのに…。

 

「動けよ…動け!」

ゆっくりと少しづつ進む。

 

「頑張りなさいよ!デートに誘いたい相手がいるんでしょう!」

アリサの激励が聴こえる。ああ、この幼馴染は、相変わらず、こちらの状態を理解しないな。そう考えつい笑いが出てしまう。

 

「ああ!分かってるよ!」

でも、お陰で、力が湧いてくる。ありがとな。

 

「ウおおお!!!」

渾身の力で立ち上がる。そして、一歩ずつ進む。

 

「頑張れ!」

 

「頑張って!」

 

「斎藤君頑張って!」

月村さんの応援も聴こえる。頑張るぞ…後、少し…。

 

「後、少し…」

腕を伸ばせば、テープに届きそうな距離だ。

 

タッタッタッタ。

気のせいか、後ろからそんな音が聴こえる。

 

タッタッタッタ。

 

「「!!」」

みんなの表情も何故か驚愕の表情だ。急がないと…急がないと…。

 

「うわわわ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ゴール!!!」

音の主は、無情にも俺の直ぐ横を通り過ぎゴールテープを切った。ゴールテープを切った。ゴールテープを切った。

 

「ヨッシャ!最下位だけは、まのがれたぞ!!」

南一夜は、そう言って嬉しそうに笑っていた。

 

「あれ?」

辺りの空気が異様な状態になっていることに気付いた。南は、訳も分らないと言った感じに辺りをみる。

 

『『く…』』

 

「く?」

 

『『空気を読め!このバカァ!!!!』』

 

 

 

 

全ての人間の意見が一致した瞬間だった。

 




これで、小説家になろうで出していた話は終了です。次回からは、また少し更新スピードが落ちるかもしれませんが、よろしくお願いします。

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