とある市民の自己防衛   作:サクラ君

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さて南とアリサのデート開始!…もう開始していたような気もするけど…

どうなる二人の運命は!!



第61話 慣れと嫌悪

 

時刻は、8時。待ち合わせ時間まで約1時間を切った。

 

「…」

 

「…」

しかし、今この場には、既に二人いた。旗から見れば、どう考えてもこれからデートを行う二人には見えないだろう。

 

「えっと…1時間前ね…」

 

「うん…そうだね…」

2時間前に家を出た日本人の精神を怨みたい。でも、何時までもこうしている訳には行かないだろう。何せ相手は、あの“バニングス”なのだから。油断は死を意味する。

 

「時間より早いけど…行こうか?」

 

「うん…」

お互いの雰囲気は重い。しかも俺の服装は、黒を基調としている為、葬式にでも行く様だ。

 

「で?何処に行くの?」

 

「えっと…」

懐ろから今回の計画を書いた紙を取り出しこっそりと見る。今回は、9時からのハズであったが時間が1時間早まった為多少の誤差はあるだろうが、何とかなるだろう。

 

「えっと…まずは…商店街でも見てまわろうか」

 

「わかったわ」

こうして、デートが開始された。

 

 

 

デートと言うものは、実は私もよく分らない。

 

好きな人と出かけるのがデートなのか?

 

気になる人同士が出かけるのがデートなのか?

 

それとも…片思いの人と出かけるのがデートなのか?

 

「…」

そう考えると私自身は、かなりの回数デートをしている事になるけど…。

 

「はあ…」

 

「え?す…すみません!」

私がため息を着くと南君が全力で土下座を行った。商店街のど真ん中である。

 

「ちょ…そんな事しないでよ!皆が見てるじゃないの!」

 

「申し訳有りませんでした!」

そう言って、更に深みにはまって行った。因みにこのやりとりを8回は繰り返している気がする。デートの内容は結構面白いものが多かったが、流石にコレはキツいものがある。

 

「あーもう分かったから!良い?今度から土下座は一切禁止だからね!」

 

「はっは」

まるで、時代劇に出てくる主君と部下である。商店街のオジサンもオバサンも微笑ましそうに見ている。

 

「ねえ?どうして、そこまで低姿勢な訳?普段はそんなんじゃ無いわよね?」

普段の姿の事は、斎藤やヴィータちゃんに聞いているので、ここまでされると逆に気味が悪い。すると、南君は、少し汗ばんだ顔を上げて言った。

 

「“日野家”の本家である“バニングス家”の方に粗相を働いては、切腹ものかと思いまして…」

 

「…一体“バニングス”を何だと思ってるのよ…」

 

「えっと…悪の総本山?」

 

「悪って…」

普段から“日野家”に酷い目にあっているってヴィータちゃんが言ってた気もするけどまさかここまでとは…。噂では、首絞め、拷問、紐なしバンジー、新薬の実験などをされていたらしい。…新薬って…。

 

「あのね…私達は悪の総本山じゃ無いわよ!」

 

「え?」

 

「何…その「え?」って」

さも意外そうな表情の南君に私は諦めた様にため息をついた。ああ、成る程。コレが私たちからみた“日野家”の印象なのか。

 

「とにかく、土下座は今後一切禁止だからね」

私がそう言うと南くんは、渋々と言った感じに頷いた。

 

「はあー疲れちゃったわね。そろそろお昼にしない?」

腕時計を確認すると時間は、午後12時を指していた。もうお昼の時間である。

 

「そうですね…えっと…」

 

「敬語も禁止!」

同学年なのに敬語は疲れるし辛いだろう。

 

「あ、分かったよ…んじゃあ、近くの…」

南君がどこかを指そうとした時と同時に私は用意してきたお弁当を差し出した。

 

「ここの近くにあるベンチで食べましょう。近くに噴水があって綺麗なのよね」

 

「へ?」

お弁当からイマイチ状況に付いて行けて無い南君は、少し頭に“?マーク”を浮かべていた。どうやら、此方からの提案があるなど考えていなかった様だ。

 

「こっちだけ何もしない訳には行かないしね。こう見えても料理は出来るのよ?」

 

「は、はあ…」

未だにキョトンとしている南君の腕を引いて、デパート前の噴水広場まで歩いた。

 

 

 

 

幸いな事に休日なのにも関わらず人が少ない噴水広場のベンチに腰掛け作ってきたお弁当を食べる。その際、お茶を忘れた事に気が付き慌ててしまったが、すぐに南君が自販機を発見しお茶を買ってきてくれたので、問題は無かった。

 

「はあ…おいしい」

南君が関心するような顔でそう言いながらおにぎりを食べお茶で流し込む。

 

「てっきり、バニングスさんは料理が出来ない系の人だとばかり思ってたから結構意外だったな…」

 

「イメージで、そんな事決めないでくれる?」

 

「ゴメンなさい」

時間とは恐ろしい物で、この頃には、南君も多少は警戒しつつも、打ち解けてきたようである。その証拠に少しも悪びれていない。

 

「けど、美味しいって言うのはホント。俺は、一人暮らしで、結構自分で炊事をすることが増えたけど、正直ここまで美味しくは出来ないな。材料や調味料の違いか?」

 

「失敬ね。全部実力よ!」

昔、斉藤に料理を食べて貰った時に

 

『美味しかった?』

 

『あ…うん…』

その時の斉藤の表情は、なんとも言えないモノだった。その事が悔しくてその後料理を特訓してきたのだ。今では、すずかにも美味しいと言われるほどの腕前なのだ。…まあ、そんな事恥ずかしくて言えないが…。

 

「あのさ…南君」

 

「ん?」

 

「斉藤ってさ…私の事で何か言ってた?」

 

「斉藤?」

南君は先程と同じ様な目で私を見た。あ、そうか私と斉藤が幼馴染だって知っている人は少なかったんだっけ?そりゃあ、急にそう言われたら反応できないわよね。

 

「あ…やっぱり良いわ」

 

「はあ…って言うか斉藤の姿をあの日以来見てないんだけど…」

 

「あ…」

辺りを気まずい沈黙が漂った。そうだ、確かにあの日から斉藤を見ていなかったのだ。てっきり学校で、すずかと会うのが辛いので避けているだけだと思っていたのだが…これって本格的にヤバイんじゃ…。

 

「日野さんが捜索隊を結成して探してくれているから、死んでるにしろ生きているにしろ見つかるとは思うけど…正直生きていて貰わないと俺が完全に悪役だよ…」

南君の目には、色々な疲れが見えていた。

 

「まあ、斉藤は殺しても死ぬような奴じゃないしね!きっと大丈夫よ!あはは…」

この言葉に説得力など皆無であろう。

お茶を飲む音がやけに大きく聞こえた。お弁当箱の中はもう空になっておりこれ以上開けていても無意味なので、回収した。

 

「あのさ…」

一息ついていると、今度は南君の方から話しかけてきた。私は、なんとも無しに目を向けると

 

「っ!!」

とたんに身体中になんとも形容しがたい不快感が襲い掛かってきた。どういったら良いのだろうか?急に南君の事が気味が悪い存在に思えてしまったのだ。そんな私の状態を知ってか知らずか、南君は、淡々と言葉を紡いだ。

 

「あのさ、日野渚って知ってるよね?」

 

「え…ええ」

言葉一つ一つがまるで虫の大群のように感じてしまう。一体如何したのだろうか?とにかく早くここから離れたかった。

 

「日野さんは、何故か“バニングス”を嫌っているんだけど…バニングスさんは、理由を知らない?」

 

 

 

悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒悪寒

 

 

 

 

 

まるで蛆虫が身体中を這い回っている様な感覚に陥り吐き気すらこみ上げてくる。身体が無意識に震え目からは涙が滲んだ。なんだ?この人は?少なくとも嘘は通じないだろう。否。嘘など決して許さないだろう。嫌だ!嫌だ!嫌だ!一刻も早くこの人から距離を取りたい!だけれど、身体が全く動けない。南君の目から目が離せない。気のせいか彼の目の中には、私じゃない誰かが映っているような気がした。

 

「し…知らないわ…“バニングス”がこの国にやって来てから傘下に入ったって聞いたことはあるけど…それが理由なのかな?」

出来るだけ平静を装いながら正直に答える。実際にこれ以上私は知らないのだ。しかし南君は、じっと虚空の瞳で私を観察している様に見ている。

 

「ほ…本当よ!信じてよ!」

 

「…」

怖い…助けて斉藤…怖いよ…。心の中で斉藤を呼ぶけれど当然ながら誰も助けには来ない。辺りを見ても誰もいない。その時だった。

 

「…ん?ガフー!!!」

突如飛来した金属バッドと思わしきモノが南君の頭部へ命中し南君はその勢いで噴水へとダイブしてしまった。

 

「み…南君!」

気が付くと先ほどまでの気持ち悪さは、霧散しており何故私があそこまで気持ち悪いと思っていたのか自分でも分からない程であった。

 

「あーワリィワリィー」

と、どう見ても棒読みな台詞を言いながらやって来たのはヴィータちゃんだった。

 

「ついハンドベースをやってたらボールがこんな所に行くなんてなアハハ…」

私の知る限りバットをボールにするスポーツは存在しない筈だが…聞くのが怖い。

 

「おー大変だ!服が濡れている!」

それ以前に水がどんどん赤くなってきている気がするのだが…。

 

「アリサ」

 

「は…はい」

ヴィータちゃんは、南君を引き上げジッパーの付いた黒い袋へ押し込み担ぎ上げると少し笑いこう言った。

 

「10分程待っててくれないか?こうなったのも私の責任だし、ちょっとばかし着替えを探してくるから」

 

「えっと…病院へは?」

さっき見たのはどう見ても撲殺死体の様だったのだが…。行くべきは、服屋じゃなくて、病院もしくは、警察だろう。

 

「この程度で死んでたら、小学生はやってられねえぞ?んじゃ!10分待ってて」

そういうと一人デパートの中へと入っていった。

 

 

その後何事も無かったかの様に南君は復活してきたのだった。

 

 

 


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