海鳴病院は、この町にある大きな病院である。どこぞの系統の病院らしくこの町以外でも似たような病院を見かける事がある程だ。俺も小さな頃から予防接種などでよくお世話になっている。まあ、それはともかく。
「ようやく着いたな」
張り紙を剥がしまくりながら同時に張り紙をゴミ箱に捨てながらやって来たので、思ったより時間がかかったのだ。と言うか、張り紙の数が異常だった。
「しかも、後半になるほど適当になってたしな…」
迷い人という文字が欠落しているものがあった時は、本当に指名手配犯に見えた。しかも写真も無くなっており誰かの書いた似顔絵になっていたときは、完全に驚いた。
『僕の書いた斉藤進コンテスト最優秀賞!』
と書かれていた。完全に遊ばれている感がすごい。
「ともかく文句は学校で言うとして…電話は…」
病院の必要品を扱うコンビニの近くにある筈だが…。
『故障中♪』
「……」
ふざけてんのか?なぜに『♪』?
「電話が出来ねえ~」
ここまで来て電話が出来ないとは、不幸だ。
「ここ以外に電話はあったけな?」
入院はしたことが無いので、ロビー以外の場所が分からなかった。誰かに聞いてみるか?そう思い辺りを見回すが、居るのは忙しそうに動き回る職員の方々や居眠りをしている老人の方々しか見当たらず話を聞ける状況ではなさそうだった。
「はい…そうです。(笑)の方の斉藤です…」
すると背後からそんな声が聞こえてきた。振り向くと携帯電話を持った少女がこちらを見ながら話していた。
「あ、こっちを見ました。間違いありません、斉藤(笑)です。亜種ではないようです」
そんな少女の手には、『斉藤進コンテスト』の張り紙があった。
「あの…」
取り敢えず話しかけてみるが…。
「特徴の目が空洞の様で赤い液体が流れ出ています。間違いなく斉藤進ですね」
「明らかに別人だよな!それ!」
俺の外見はそんなホラーでは、無かったハズだ。
「ん?失礼。皮膚の腐敗が酷くて見分けがつきませんでした」
「ゾンビか!」
つうか、完全に遊ばれてるよな?これ?すると、何故か少女は呆れた目になった。
「病院で大声を出すなんて非常識ですよ?」
「アンタのせいだろうが!」
「へ?」
「なに?その意外そうな顔は!」
「このやり取りどこかで見ませんでしたか?」
「知るかよ!」
何故俺は、始めてあった見知らぬ女子と漫才モドキをやっているのだろうか?はたから見れば知り合いに思われる事うけあいだろう。
「しかし、貴方が斉藤進君ですか。噂はかねがね聞いていますが、パッとしない方ですね。もっとホラーチックな方とばかり思っていましたが」
「どんなんだよ?」
「こんなんです」
差し出される『指名手配 斉藤進』の張り紙。完全に犯罪者扱いになっている事に視界が滲んだ。使われている絵は、モンタージュ写真の様で俺と同じ所もあれば、違っている所もあった。例えば、目からは、赤い液体の様な物が流出しており皮膚は、完全に腐敗していて、人相は分からなくなっていた。どちらかと言えば指名手配写真よりは、ホラーゲームの攻略本のクリーチャーのページの始めに乗っていそうな感じだった。
「サイトウハザードの新作クリーチャーじゃねえか!」
何処の誰かは知らないけれど、俺を化け物化して撃ち殺すという虐めのレベルMAXの様なゲームがある。日野さんの関連の会社が作ったとされているが実際は何処が作ったのかは分からないゲームである。本来こんなゲームなど売れるはずも無いが、意外と本格的にシステムとやりこみ要素がありヒット作品になっていた。因みにアリサはコアプレイヤーであり世界ランク上位10には入っているそうだ。そんなに俺が憎いのか?アリサよ?
「サイトウハザード?ああ、あの面白いゲームですよね。家庭版は全て持っていますよ。お気に入りのキャラクターは、サイトウタイラントXですね。あれは、可愛いです」
「確か、首だけで動き回る奴だよな?…女子の感性が分からない…」
「?あの人も同じ事を言っていましたね。何故分からないのでしょうか?」
パピヨンマスクをつけた首だけの化け物に可愛さを感じる奴は少ないだろう。因みにサイトウタイラントXは、いわゆる隠しボスであり強さはラスボスをも凌駕するほどである。すばやさが尋常ではなく弾丸を当てるのも難しいのだ。
「因みに私は、ナイフ縛り派です」
「神か!」
ナイフ縛りなど、俺の知る限りアリサ位しかしていない。俺がプレイした際は1面でゲームオーバーになった。
「って!話が完全に逸れてた!」
あまりのふざけた会話に本題を逸らされていた。俺は、頭を押え少女を見る。
「えっと、知り合いじゃないよな?」
「はい。実際に会うのは初めてですね」
少女の言葉に一瞬誰かの姿が頭に浮かんだが、直ぐに消えてしまった。なんだ?
「さっきの電話は?」
「この有力情報の提供に賞金があったので、確認の意味をこめて話しかけてみました」
張り紙を見ると確かに有力情報に懸賞金とあった。どうやら本気で探しているらしい。早い所電話をした方が良いだろう。
「って、その電話を探してるんだった」
「電話ですか?」
すると、少女は、とある方向に指を向けた。
「あそこの角を右に曲がって赤い人のマークのある所にありますよ?」
「へ?本当か!」
「ええ」
「ありがとう!じゃあ!」
俺は、電話を急いで掛ける為に走った。そんな姿を笑いながら少女が見ていることなどしらずに…。
5分後。
俺は、病院の空き部屋に身を潜めていた。
「………」
少女が笑を隠すようにしてうつむいていた。
「テメエのせいだ…」
俺が、女子トイレに入り変質者扱いを受けたのは!
「失敬。まさか、本当に入る人がいたとは…この私、感服いたしました」
「俺は、初めて女の子をぶっ飛ばしたいと思ってるぞ…」
「では、本来の場所をお教えしましょう」
そう言うと少女は、地図を取り出した。
「ここを出て、真っ直ぐ言った所の突き当たりの部屋があります。そこに扉が2つ在りますので、左の部屋に入って下さい」
「…」
「大丈夫です。信じてください」
少女の瞳には、何も映っていなかった。
15分後
俺は、病院の機材庫にいた。
「…だから言ったんですよ」
少女が呆れた視線で俺を見据えていた。
「…」
俺は、騙されたと過程し左ではなく右の部屋に入った。その時気が付くべきだった。更衣室と言う文字に…結果俺は、追い詰められた指名手配犯の様な状態で震えている訳である。
「前科2犯ですか…まだ、若いのに…」
「一つはお前のせいだ!」
こうなったら意地でも捕まる訳にはいかない。捕まれば、月村さんや学校の皆の俺を見る目が変わる事だろう。変態としてのレッテルを貼られ、行く先々で奇異の目でみられ、道行く人々から石を投げられる人生になるだろう。それだけは、なんとしても回避しなくては!
「っく!こうなったら!俺の隠された力を使うしか…」
「現実逃避は済みましたか?」
「後、5分…」
とは言え、一度犯した罪は消える訳など無いのだ。しかし、しらをきる事は出来るはずである。つまりは、アリバイを作れば良いのだ。
「まずは、電話…次いで、アリバイ…絶対にやってやる!」
「はあ、しかし、ここに隠れるのは失敗でしたね。空き部屋ならともかく機材庫はたまに人が来ますよ?男の子が女の子を機材庫に連れ込みワイセツ行為を働く。前科3犯ですね」
「殺人事件にしたろうか?」
結構本気で殺意が沸いてくる。
「それに俺は、月村さん以外の女子には、興味が無い」
「それも、問題発言の様な気もしますが…」
「どこがだ?俺は、月村さん一筋!代わりは居ねえ!」
「月村さんには、貴方の代わりなんて、いくらでも居るでしょうに」
心にナイフが突き刺さった。流石は、ナイフ縛りの達人である。
「さて、この病院からの脱出ですが、私に考えがあります。ここまで、やって来た仲です最後まで面倒をみてあげましょう」
何故か、上から目線だった。