とある市民の自己防衛   作:サクラ君

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お久しぶりです。では、投稿です。


第68話 急転

 

全国のサイトウススム愛護団体が抗議するような速度でサイトウススムを蹴散らし最終的にはワンコインクリアーを果たしたバニングスさんはニコニコととっても機嫌がよさそうだった。

 

「シューティングゲームでワンコインクリアーなんてはじめて見たよ…」

 

「そう?クリーチャーの出現ポイントとか攻撃パターンとか覚えれば誰でも出来るわよ?」

 

「…そうなんだ…」

嬉々としてサイトウを撃ち続けていたバニングスさんに日野さんの面影を見たのは秘密だ。そして、ただただ撃たれ続けているサイトウに今の自分が見えたのだった。

 

「家庭用のソフトなら貸してあげましょうか?オススメはサイトウハザード5かしらね?…いや、物語の確信に迫った3…やっぱり初代の1のリメイクの方が…」

どうやらソフトを貸すのは確定事項らしい。これ以上原作キャラとの邂逅は避けたいのだが…日野さんの影が見えるバニングスさんから逃げられる気がしなかった。

 

「南君は、どれが良いと思う?」

おっと、話がこっちに来たか…。話をよく聞いていなかった。まあ、ゲームなら適当でも良いだろう。

 

「7辺りかな…」

なんとなくラッキー7な答えを返すとバニングスさんは複雑そうな表情になった。なんだ?何かおかしな事を言ったか俺?

 

「…発売3日で発狂した人間が出て発売禁止になった曰く付きの呪いのソフトをチョイスするなんて…良いわよ?さっそく帰ったらバニングスの心霊研究機関の呪い専門課に連絡して送ってもらいましょう…良い?何か異変があったら直ぐに言うのよ?」

 

「やっぱ!初代でしょう!」

そんな呪いのソフトなぞしたくねえ!つうか、何?心霊研究機関って!バニングスでは、そんな分野も網羅してたの?

 

「初代ね…うん…頑張ってね…」

 

「なに!その不気味な言葉は!」

俺が、渾身のツッコミを入れると何故かバニングスさんは、クスクスと笑い始めた。何事かと思い声をかけようとするがその前に理由が判明する事になる。

 

「…南君って、思ったってたより面白い人なんだね」

 

「はい?」

 

「だって、こっちの冗談に全力で反応してくれるんだもん…カラカイがいが在るって言うか…アハハ」

お腹を抱えて大笑いする姿にどうやらからかわれていた事が分かった。

 

「斉藤の奴も結構冗談を真に受けるから…」

 

「斉藤?」

 

「あ。何でも無い~」

サイトウハザードのクリーチャーの事だろうか?確かに陽動に弱い奴だった。俺の反応は、ゲームキャラと同格と言う事か?これは、不名誉だ。訂正してもらおう。

 

「バニングスさん!」

 

「何?」

 

「一つ言わせて貰うけど!………?」

その時周りの空気が変わった感じがした。

まるで誰かに監視されているような。そんな気配。

 

「…」

 

「ど…どうしたの?」

急に辺りを見回す俺にバニングスさんは不気味そうに話しかけるが、俺はそれ所では無かった。

 

「…日野さんの監視か?それとも本家の?…いや」

その気配ならデート開始時からヒシヒシと感じていた。今感じている気配はそれではない。もっと濃い悪意の様な視線…。

 

「バニングスさん」

 

「え?」

俺は、バニングスさんの手を強引に引き人ごみの中へ入る。

 

「どうしたの?」

 

「…誰かに見られてる…付けられてる?」

 

「へ?」

バニングスさんは、後ろを振り返るがその様な人の姿は見えないだろう。何故なら俺も気配は感じるが視線の正体までは分からないからだ。

 

「…」

 

「…」

足早に歩くが気配は一向に離れない。むしろ近づいて来る。

 

「…バニングスさん…ここら辺に知り合いの家とかある?」

 

「えっと…たしか、バニングスの経営している警備会社のビルがあったはずだけど…」

 

「…じゃあ、そこに向かおう」

警備会社なら例えどんな悪意を持っていたとしても入って来れないだろう。

 

「“大嘘憑き”」

自分とバニングスさんの気配を無かった事にする。人にぶつかり易くなったがコレで見付からない筈だ。

 

「そこを右」

バニングスさんをなるべく人とぶつからない様に誘導し道案内を頼む。しかし、気配は離れなかった。

 

「…」

在り得ない。気配を無かった事にしている現在、俺を追跡するなど不可能な筈である。それなのに気配は着々と近づいて来る。

 

「そこの角を曲がって…路地裏に出たら直ぐよ」

 

「…」

俺は、頷き路地裏へ入る。その時だった。

 

「へ?」

まず、目の前に奇妙な物体があった。まるで、箱の様な形をしたオブジェの様なモノ。

続いて、地面の色が真っ赤に染まっていた。

そして、最後に気配を無かった事にした筈のバニングスさんの姿がはっきりと見て取れた。

 

「…??」

完全な思考の停止だった。

 

「ご苦労さん」

そして…目の前に黒服の男が立っており銃を俺の頭に突きつける。

 

「お…“大嘘…”」

“大嘘憑き”を発動する前に乾いた音が辺りに響いたかと思うと俺の意識は闇へと堕ちていった。

最後に聞こえたのは、バニングスさんの悲鳴の様な叫び声だった。

 

 


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