長かった~
更新が遅いですがこれからも頑張りますのでよろしくお願いします!!
車の中でひたすらに震えているしか無かった私は、縛られたまま何処かの工場の中へと担ぎ込まれた。
工場の中は、赤い不思議な色をしていて、気のせいか光っていた。
「わ…私をどうするつもりよ!」
「…」
私の精一杯の強勢を装っても男の人は、ただ、黙って作業の様に私を柱に縛り付けた。身体を強く縛られ一瞬体中の血管が萎縮したように感じた。身体中に痛みが走り顔をしかめる。
「イタッ…」
「…」
乾いた音が数回響いた。男の人は、南君の入った袋を再び撃ったのだ。
「ひぃ…」
「黙っていろ。こいつの様にはなりたくないだろう?」
袋からは、再び血が溢れ出していた。人間の身体からはこんなにも血が出るのかと認識した瞬間だった。
「さてと…後は、頼みますね旦那」
男はそう言うと工場の奥に声を張り上げた。
「へいへい…全く嬉しいね。俺なんか人生の負け犬だったのにこんなアニメの世界に来れるなんてね」
工場の奥から一人の男が歩いてきた。
一見ただのサラリーマンの様な容姿をした男は、私を見ると突然笑顔になった。
「アリサ・バニングスか…サブヒロインとか言われてるけど結構好みかもな…」
まるで、値踏みでもする様に私を舐める様に観察する男に嫌悪感が沸き起こった。
「あーあーそんなに気持ち悪そうな顔をしないで欲しいね。俺だって好きでこんな事しないよ。むしろ、“アイツ”に目を付けられなかったら今頃は、君の味方だったかも知れなかったんだぜ?」
男は、肩をすくめると怪しく苦笑いを浮かべた。
「分かっていると思うが…下手な事を考えるなよ?」
「へいへい…そっちこそ約束は守ってくださいよ?もう二度と俺に関わらないって」
「働き次第だな…では、健闘を祈る」
私を攫った男は、そう言うと早足で出て行った。残った男は、その後姿に親指を下げていた。
「クタバレ…化物」
そう言うと私の前にドカリと座り込んだ。
「さて、アリサちゃん」
「な…何?」
「短い付き合いに成るだろうから取り合えずよろしくね」
「…」
男は、私の態度を見ると少し気の毒そうな表情になった。そして、ため息を着く。
「俺は、アニメでしか君を知らないけど苦労が多そうだよね」
「…アニメって何よ…」
「さあ?こっちの話だよ…しかし、この世界はそう言う“設定”だったみたいだ。俺も最近気付いたんだよ」
男の言葉の意味が分からなかった。コイツは何を言っているのだろうか?
「まず、君に忠告しておくよ。君を狙っている奴らは、化物だ…なにが原因でそうなったのかは知らないけれど…キミ達に異常に執着している。バニングス全員を憎んでいると思う」
男は、冷や汗をかいているようだった。そして、表情は、真剣そのものだ。
「奴らは、手を選ばない。どんな手でも使ってくる。俺の様な無害な転生者ですら例外じゃない…」
「て…転生者…?」
何の事なのだろうか?男の表情からまじめな話だとは分かるが、理解が出来なかった。しかし、一つだけ分かる事があった。それは、この目の前の男は、そんなに悪い人では、無いと言う事だ。
「私をどうするつもりなの?」
「…分からない。俺は、イレギュラーを殺せと言われているだけだからな…そして、ここからは、誰も逃げられない」
「殺せ?逃げられない?どういうこと?」
言葉の通りだよ…そう言うと男は、ビー玉を取り出し入り口に向かって投げた。ビー玉は、勢い良く出口に向かって飛んでいくが、直前で何かに弾かれてしまった。
「“進入禁止”と“味方特殊技使用禁止”っていう制約がこの場所にかけられてるらしい」
「進入禁止?味方特殊技使用禁止って…」
意味が分からない。それ以前に今目の前で起こっている事が信じられなかった。
「アハハ…何?この悪夢は?南君は死んじゃうし訳の分からない連中は出てくるし…一体何なのよ!」
「…」
喚き声を上げる私を男は、じーっと見つめている。そして、目を閉じると諦めた様に首をふった。
「悪夢じゃない。現実だよ」
「そんな訳…」
「コレを見なよ」
男は、そう言うと南君の袋のジッパーを開け中身を私に見せた。
「い…嫌ぁ!!!」
頭の砕かれた南君がそこにはいた。力無く開いたままの眼球がギョロリと私を見た様な気がした。血の匂いと胃液の匂いが混じりあい不快なハーモニーを奏でている。私の心は、一気に恐怖で塗りつぶされた。
「斉藤!!助けて!斉藤!…約束してくれたじゃない!いつまでも一緒だって!助けてよ!進!進!」
私にとってのヒーローである幼馴染の名前を大声で呼ぶが、当然ながら彼は行方不明で居場所も分からない。来てくれる訳が無いけれど私は呼び続けた。
「…あ…」
「へ?」
そんな時だった。南君の死体であった筈の物体から声が漏れたのは。
「…あ…あ…あれ…?」
在り得ない光景だった。頭を砕かれて生きている人間なんて存在するわけが無い。いや、しちゃいけない。そんなのは、生命に対する冒涜だ。
「い…い…嫌ぁ!!!!!!!」
南君が生きていた事よりその状態で生きていた事に私は恐怖を感じこれまでの人生で一番の悲鳴を上げた。
「…こいつ…この制約下で能力を不完全ながら使えるのか?」
男は、一瞬戦慄の表情を浮かべたかと思うと手を南君の後頭部に添えた。
「…悪いが、アンタは退場願おうか…サード」
瞬間だった。男の手の平に光が迸り次の瞬間には、南君の頭はスイカの様にはじけ飛んでいた。
「え…あ…」
南君の頭の一部が私の身体に降り注ぎ服を赤く染めていく。
「…あ…あ」
足元に転がった眼球を見ながら私の頭の中は真っ白に染まり、瞬間視界は真っ黒になった。
俺の人生は、意味の分からないものだった。事故を起こし頭を強く打ったことは、ハッキリと覚えている。
「…気が付けば、知らない家の子供になってたか…」
まるで、映画や小説の様な話だ。しかし、現実には俺の身に起こっている事だった。
コレが、転生じゃないか?と理解したのは、高校生の頃だった。偶然読んだ本の中に同じ様な状態の人間の話があったのだ。それまで、コレは長い夢だと心のどこかで思っていたモノが簡単に砕け散った様な気持ちになった。
「でも、それだけなら幸せだったかもな」
次に俺は、大事故に遭ってしまった。その時起こった俺の身体の変化を今でも忘れられない。俺の四肢は、吹き飛んだ筈だったのだ。しかし、気が付くとまるで自動で戻ってくる機械の様に肉片が集まり再生した。
不死身。
その事が理解出来た瞬間の絶望は、計り知れなかった。
自分は、人間じゃない。
得体のしれない化け物だと…でも…。
「時間が解決してくれた…」
化け物な自分にも友達がいたし家族もいた。自分が黙ってさえいれば、絶対にばれる筈の無い秘密だと考えた時とても楽になった事は、今でも覚えている。
俺は、幸せになれるそう思えた日常だった。そして、きっと死ぬまでそれが続くのだと心から信じていた。しかし…。
「…あいつのせいだ…あいつが…」
俺の前に現れた男は、いとも簡単に俺の日常を破壊しつくした。
俺は、日常を守るために忌まわしい力で戦った。しかし、アイツには全く敵わなかった。
俺自体も再生能力の他に圧倒的な破壊力を持つエネルギー弾を構成出来たのだが、あの男には、それすらも全く通用しなかった。
男は自分をファーストと名乗った。そして、今回の指示を書いた手紙だけを残し去って行ったのだ。俺の全てを人質にとって。
「…だから、俺は日常を取り戻す。そのために…」
詰めなおしたサードの死体(仮)の袋を今入って来たそいつに投げつけた。
「…」
侵入者は、ただ、黙って袋を手で軽く弾いた。ただ、それだけだった。
「『…クフ』」
サードの断末魔的なくぐもった声と爆音が響き渡りサードの身体が真っ二つに左右に吹き飛んだ。
「…」
侵入者は、恐らく何を引き裂いたのか理解出来ないでいるだろう。その証拠に顔色一つ変えなかった。
「ハハ…マジかよ…」
話には聞いていたが、本人を前にすると良く分かる。
圧倒的な力。
「…」
そして、圧倒的な怒り。殺意。恐らく俺は、死ぬだろう。再生能力が通用するのか分からない怪物を相手に死ぬのだろう。…だけど。
「俺は…」
それから、先は…………。