とある市民の自己防衛   作:サクラ君

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お久しぶりです。

バイトや勉学の都合上なかなか投稿ができませんでした。すみません。

では、どうぞ!


第72話 終わりの後地

 

優しい感じがした。

 

とっても暖かい誰かの気配…。

 

それが、何かは分からなかったけど。

 

とっても…頼もしくて、信頼出来る。

 

そんな感じ…。

 

「アリサ!アリサ!」

そんな声が、私を呼んでいた。その声は、聞きなれた声だった。

 

「アリサ!しっかりしろ!」

最初に感じた気配とは違うけれど信頼出来る人の声だ。

 

「…ヴィータちゃん?」

バリアジャケットという魔道師の防護服に身を包んだ赤い女の子が私の身体を揺すっていた。

 

「アリサ!目が覚めたのか!何処も痛くないか?怪我とかしてないか?」

ヴィータちゃんは、とても心配している表情で私を質問攻めにする。だけど、それが彼女らしいと思えてしまう。

 

「…うん。大丈夫だよ…どうして此処に?」

「ナギサが南に付けてた発信機の破片を見つけてな、鈴音の予知夢とポチの鼻で此処まで来たんだよ!とにかく無事でよかった…本当によかった」

泣いているヴィータちゃんの頭を軽く撫でて落ち着いてもらう。そして、私に起こった事を思い出す。たしか、誘拐されて…いや、その前に…。

 

「ッ!!」

その時コレまでに起こった出来事が洪水の様に脳内へと流れ込んできた。

 

撃たれる南君。

 

首の折れた南君。

 

頭の吹き飛んだ南君。

 

完全に頭部の消失した南君。

 

恨めしい目で私を見ていた、南君の眼球…。

 

「南君は!」

全てを思い出し吐き気も込み上げた。だけど私の所為で撃たれた南君を放って置ける訳も無い。直ぐに辺りを見渡すが、南君の姿は何処にも無かった。

 

「ああ…南な…」

ヴィータちゃんが少し気の毒そうに顔を伏せた。

 

「リンの奴が、急いで此処に来たもんだから、足元を見ないで着地してな…顔面を粉さ…顔面を踏んづけてな…重症だったから先に病院に行って貰ったんだよ…」

 

「重症…そんな…だって、南君は頭を銃で撃たれて…」

 

「ああ、奇跡的に一命を取り留めたんだ。ほら、奇跡的な起動で弾丸が経過してて…」

 

「その頭が吹き飛んだんだよ!首も折れて変な方向だったし…」

 

「アハハ…キセキデスヨ?」

ヴィータちゃんが何故かうん臭く見えた。

 

「目が…目しか残らなかったんだよ!」

 

「…キノセイデスヨ…アリサハツカレテルンダヨ」

実に厄介そうな表情を一瞬浮かべた後ヴィータちゃんは、真剣な表情になった。

 

「所でアリサ…お前らを攫った犯人は何処にいる?」

 

「へ?」

ヴィータちゃんの言っている事の意味が分からなかった。てっきりヴィータちゃん達がやつけたのかと思っていたのだ。

 

「此処に来たときから誰もいなかったんだよ…てっきり罠かと思ったんだけどな…」

辺りを警戒するような感じで左右を見る。しかし、あの男はいなかった。

 

「まあ、とにかく一応近くにいた斉藤にバニングス家に連絡をして貰ってるから暫くしたら迎えが来るだろうさ」

その言葉に私の鼓動は高鳴った。斉藤…?

 

「斉藤が此処に来てるの?」

 

「ああ。近くにいるのを確認してな。私らの事情を話したら直ぐに…アレ?」

此処で、ヴィータちゃんが頭をかしげた。どうしたのだろうか?

 

「何でアイツ…真っ先に…アレ?」

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや…」

その時入り口近くで走る音が響いた。そして、一人の少年が姿を現せた。

 

「八神(小)!本家の連絡完了したぜ!」

その少年は、そのまま私へと駆け寄ると変わらぬ笑顔を見せた。

 

「大丈夫か?アリサ」

その言葉に私の何かが決壊した。

 

「大丈夫な訳…あるか!」

左フック。

 

「な!」

右ストレート。

 

「ガフ!」

ボディ。

 

「オエ!」

最後に回転蹴り。

 

「おかしい!」

見事に斉藤を“KO”しヴィータちゃんが私の腕を持ち上げた。

 

「ヒドイ…」

斉藤は涙目である。でも…本当に泣きたいのは私だった。

 

「斉藤…斉藤…進!」

 

「え!わー!ごめんなさい!」

突然飛び掛った私に身構えた斉藤だったけど…。

 

「怖かったよ!何処で何してたのよ!進!」

 

「…」

私を受け入れ優しく抱きこんでくれた。

 

「怖かった…本当に怖かった…南君は死んじゃうし…」

 

「生きてます」

 

「誘拐されるし…訳の分からない話をされるし…ウエ…ワアアアア!!」

涙で視界が塞がれてしまった。けれど…。

 

「…ゴメンな…本当にゴメンな…もう絶対にこんな事にはさせないから…」

進の暖かさに抱かれ不思議と怖くなかった。コイツがいたら何も怖くない様に思えるのだ。そして、私は迎えの車がやって来るまで進の腕の中で泣き続けた。

 

 

 

斉藤の腕の中で泣きじゃくるアリサにやっと素直になったな。などと歳相応な老婆心をみせていた、ヴィータは、壁の赤色について考察していた。

 

「気味が悪ぃ…」

工場特有の匂いか鉄の匂いが漂う中、かつて彼女が戦場で良く嗅いだ匂いが漂っていた。

 

血。

 

血液。

 

内臓。

 

一瞬我が部の再生特化の南のものかと思ったのだが…。

 

「アイツは…“無かった事”にするからな…」

壁の一部が不気味なほど赤く染まった壁を見上げながらかつての戦士は、考察する。そして、一つの結論へと辿り着くが。

 

「…ありえねえ…」

自分の考えに背筋を凍らせた。

 

「…人間の仕業じゃねえだろうが…もしそうなら…」

自然と震える身体を押え、この報告を誰に行えば良いのかを考える。

 

「…やっぱ、アイツしかいねえか…」

そう呟くと壁から目を逸らし再び犯人がいないかを確かめに辺りの警戒へと戻るのだった。

 

 


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