錆びた翼は戻らない   作:黒っぽい猫

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書き上がったら早めに出すようにしています
書き直してるとエタるので


第三話

「……やりすぎた」

 

 静かになった路地裏に、チサトの声がポツリと響いた。周りにはヘルメットだった金属の塊や人の身体がそこかしこに散在している。無論誰一人として死んではいないが、ピクリと動く者すら居ないことが、この場の凄惨さを物語っていた。

 

「道を聞きたかっただけなのに……なんで向かってきたの」

 

 時を遡ること数分。電車から降りたチサトは地図と真剣に向き合い、シャーレビルとは真逆の方に突き進んでいた。自分の方向感覚のなさは自覚していたものの、茶会の後すぐ出てきてしまった為、誰かの助力を仰ぐことも出来ず、最後に頼ろうとした文明の利器(スマートフォン)もつい先程力尽きてしまい、途方に暮れていた。

 その中でふと視界に入ったのが路地裏にたむろするヘルメットを被った少女たちだった。これ幸いとその少女たちに道を聞こうとし、何故かチサトは銃撃された。

 そしてその結果、路地裏が凄惨な血の海と化したのだった。狙われた側であったチサトの肌はおろか、服にも塵一つ付けられていない。

 チサトは、自分の一番近くでうつ伏せに倒れているヘルメットを被った少女の近くでしゃがみ、静かに問いかけた。

 

「ねぇ、アナタ。まだ意識あるでしょ」

「……………………」

「もう一回食らいたい?何回でもやってあげるけど」

「起きてます!起きてますゴメンなさい!!!」

 

 チサトにとってはほんの少し脅してみた程度だったが、その少女にとっては本気のトラウマになっているらしい。目にも止まらぬ早さで正座からの土下座を行った。見る者が見れば感心するようなレベルの美しい土下座に若干引きつつ、チサトは問を投げかけていく。

 

「なんで私を狙ったの?」

「シャーレという言葉を聞いてリーダー達が殺気立ったからです……」

「それは何故?」

「…………こ、この前シャーレの先生率いる生徒達に敗北したからです、はい」

「つまり貴女達はこの前シャーレを襲撃して退けられた一派、ということでいいの?」

「はい、そうです。それでお金も装備も失って、一部の仲間もヴァルキューレに捕まってしまい……」

「ああやって路地裏でたむろしていたんだ。狐坂ワカモに唆されて高い授業料を支払う羽目になったわけ。同情はしないけど」

「はい……あれ以来連絡もつかねぇしあの女狐今どこに」「あら?(わたくし)をお呼びになりました?」

 

 この場には居なかった筈の声が耳元で聞こえた瞬間、チサトは地面に落ちていたSMGを拾い上げて振り向きざまに発砲した。不意を突かれる形ではあったがどうやら先制には成功したらしく、クスクスと笑う声が路地の大通り側から聞こえてくる。狐の面を被り、和装に身を包んだ少女がそこには立っていた。

 

「つれないですねぇ。アナタが(わたくし)の話をしたから、寂しくないよう姿を見せてあげたのに」

「私が一体何時そんなことを頼んだの、狐坂ワカモ」

「いえねぇ、風の噂で聞きましたのよ。主を失った可哀想な天使様がいらっしゃると──」

 「殺す」

「あら怖い❤」

 

 言葉とは裏腹に牽制としてSMGをばら撒き囮としつつ真正面に突っ込む戦術を取るチサトに対して、ワカモは余裕な態度を崩さぬままその場で愛銃を構え、狙いを定める。

 そして丁度ワカモが構える射線にチサトの頭が入るや否や引き金が引かれ、銃弾がチサトに直撃する。

 

 ──ガギン!!!

 

 その直前、チサトが反対の手で持つ長い棒がワカモの銃弾を弾き飛ばした(・・・・・・)。続けて放たれる銃弾も次々とチサトへ届く前に叩き落とされていく。その間も絶え間なく前方へ進み続けるチサトが、遂にワカモに肉薄しSMGを手放す。そして両手でしっかりと握りしめた棒を全力で振り抜いた。

 対抗するワカモは自身の銃の腹でそれを受けつつ全力で(・・・)後ろへと跳んだ。

 

「相変わらず厄介ですねぇ、その棒術は。(わたくし)の交戦距離とは相性が悪い」

「そう思うなら、話しかける前に遠くから私を撃ち抜くべきだった。銃口が見えないなら私も反応が難しい」

「反応できない、と言わない辺り本当に化け物ですわね、貴女は。それに先程も言ったでしょう。貴女とお話がしたかったのですよ、(わたくし)

 

 軽口を叩きながらも、チサトの視線はワカモから一切逸らされない。一方のワカモも、仮面の奥の瞳はチサトとチサトが握りしめる得物から動かさない。チサトが寄ればその分ワカモが下がり、チサトが下がればその分前に出る。互いが互いの有効距離から僅かに外れた所で一挙手一投足を見逃さぬように睨み合う。

 

「ワカモ、一つ知りたい」

「はい、なんです?」

「喪ったことを、何故知っている」

「とある筋から、とだけ申し上げておきます」

「そう……トリニティから?」

「知りたければあの時のように力づくで、と言いたいところですがどうやら時間切れのようですわね」

 

 そう言われ、遠くからサイレンが徐々に近づいてきている事に気がついたチサトは一瞬ワカモから意識が逸れた。その瞬間、ワカモは一息にチサトに肉薄しており、耳元でぽつりと囁いた。

 

友人のよしみで教えて差し上げますが、連邦生徒会も、最早一枚岩ではないようですよ

「それはどういう──」

 

 その疑問に答えることなく、そのままワカモはチサトの横をすり抜けていった。チサトが振り返った時にはもうその姿はなく、先程まで尋問していた少女は呻き声を上げながら倒れていた。

 自身は見事に逃げおおせ、情報源となりうる関係者の一時的な口封じも完璧にこなされ、チサトは思わず舌打ちをした。もしかしたら、ワカモの狙いは初めからこれだったのかもしれない。

 

「ここでヴァルキューレに捕まるのはめんどくさい」

 

 とはいえ、幾らなんでも自治区の外で無理矢理(暴力的に)振り切って逃げるわけにもいかない。目の前で意識を刈り取られた少女から情報を得られないのは癪だが、事情聴取される事に比べれば遥かにマシだ。

 握っていた長棒を手早く分解してキャリーケースにしまい、チサトはその場を後にすることを選んだ。




そろそろ主人公紹介をすべきかなと思うこの頃
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