令和のモリアーティ   作:オッパッピー

11 / 15
本日の投稿はここまでとなります。


File.11 交わらぬ日常

九月上旬。

 

二学期が始まって一週間。

 

帝丹高校では、文化祭の実行委員を決めるホームルームが行われていた。

 

数学の授業を終えた小西浩平は、教卓の上に教科書を閉じる。

 

「来週、小テストを行う」

 

「範囲は今日までの内容だ」

 

教室のあちこちから小さなため息が漏れる。

 

「先生、早すぎますよ」

 

一人の男子生徒が苦笑しながら言った。

 

「夏休み明けだからこそだ」

 

小西は淡々と答える。

 

「忘れた知識は、早いうちに思い出した方がいい」

 

歯に衣着せぬ物言いだったが、生徒たちはすっかり慣れていた。

 

「はいはい」

 

「勉強しますよ」

 

教室には笑いが広がる。

 

小西は軽く頷くと、教室を後にした。

 

---

 

昼休み。

 

職員室。

 

椎名小春が教材を整理している小西へ声を掛ける。

 

「小西先生、お疲れさまです」

 

「ありがとう」

 

椎名は静かに腰を下ろした。

 

「工藤新一くんについてですが」

 

「新しい情報はありません」

 

「そうか」

 

小西はそれ以上尋ねなかった。

 

新聞。

 

雑誌。

 

公開情報。

 

調査会社から届く報告。

 

どれも六月以降は空白のままだった。

 

「焦る必要はない」

 

小西は書類を閉じる。

 

「証拠は、集め続ければ必ず積み上がる」

 

「途中式を飛ばした数式は、必ずどこかで破綻する」

 

「僕は、その破綻を待てばいい」

 

椎名は小さく微笑んだ。

 

「小西先生らしいですね」

 

---

 

同じ頃。

 

阿笠博士の家。

 

学校帰りのコナンは、ノートへ事件を整理していた。

 

博士が麦茶を差し出す。

 

「今日は事件はなかったようじゃな」

 

「ああ」

 

コナンは頷いた。

 

「でも、気になることがある」

 

新聞記事を一枚取り出す。

 

「最近の犯人ってさ」

 

「捕まった後、みんな同じことを言うんだ」

 

博士が記事を読む。

 

『自分で決めました。』

 

『誰の指示でもありません。』

 

『私一人でやりました。』

 

似たような供述が並んでいる。

 

「普通なら」

 

コナンが静かに言う。

 

「誰かに利用されたなら、その相手を恨む」

 

「でも誰もそう言わない」

 

「まるで……」

 

言葉を選ぶように沈黙する。

 

「誰かを庇ってるみたいなんだ」

 

博士は腕を組む。

 

「その誰か、というのが設計者か」

 

「まだ分からない」

 

コナンは首を横へ振る。

 

「でも、事件の犯人じゃない」

 

「少なくとも、人を脅して利用するような奴じゃない気がする」

 

証拠はない。

 

それでも、積み重ねた事実から見えてきた輪郭だった。

 

---

 

夜。

 

ライフ・ライン。

 

今日、小西の回線へ転送された相談は二件。

 

一件は家族間の金銭問題。

 

もう一件は職場の人間関係だった。

 

どちらも復讐へ至る段階ではない。

 

「一般オペレーターへ戻してください」

 

「承知しました」

 

椎名が操作を終える。

 

管理画面には、新たな着信は表示されない。

 

「静かですね」

 

「ああ」

 

小西は穏やかに答える。

 

「事件が起きないなら、それでいい」

 

静かな部屋。

 

時計の秒針だけが時を刻んでいた。

 

---

 

窓の外では、秋の気配を含んだ風が吹き始めていた。

 

帝丹高校では数学教師としての日常。

 

帝丹小学校では小学生としての日常。

 

二人はまだ互いを知らない。

 

しかし、一人は「証拠」を積み重ね。

 

もう一人もまた「証拠」を積み重ねていた。

 

お互いへ向かいながら、まだ交わることのない二本の線。

 

その交点は、少しずつ近づいていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。