十月最初の休日。
秋晴れの空の下、米花町の大型スーパーは多くの買い物客で賑わっていた。
店内を歩く二人の男女がいる。
黒い私服に身を包んだ小西浩平。
そして、その一歩後ろを歩く椎名小春。
椎名は手元の買い物メモを見ながら、小さく口を開いた。
「小西先生」
「今日は肉じゃがと、お味噌汁にしようと思います」
「あとは、ほうれん草のおひたしを作ろうかと」
小西は野菜売り場で玉ねぎを手に取り、軽く頷く。
「任せます」
「ありがとうございます」
椎名は穏やかに微笑み、じゃがいもや人参を買い物かごへ入れていく。
「お肉は豚肉でよろしいでしょうか」
「構いません」
短いやり取り。
しかし、その息はぴったりと合っていた。
長く共同生活を続けてきた者同士だからこその自然な空気が流れている。
「今日は少し涼しいですね」
「ああ」
「温かいものが食べたくなります」
「そうですね」
何気ない会話を交わしながら、二人は店内を歩いていく。
その時だった。
「あっ!」
明るい声が響く。
振り返ると、買い物かごを持った毛利蘭が立っていた。
「小西先生! 椎名先生!」
「こんにちは」
椎名が笑顔で会釈する。
「こんにちは、毛利さん」
小西も軽く頭を下げた。
「休日にお会いするなんて、偶然ですね」
蘭は嬉しそうに笑う。
「はい! 夕飯のお買い物です」
「先生たちもですか?」
「ああ」
小西は簡潔に答える。
「今日の夕食の材料を買いに来ました」
「椎名先生がお料理されるんですか?」
蘭が尋ねると、椎名は少し照れたように笑った。
「はい」
「料理は私が担当しています」
「小西先生は後片付けを手伝ってくださいます」
「そうなんですね」
蘭は二人を交互に見つめる。
献立を相談しながら食材を選ぶ姿。
どちらかが言葉にしなくても、自然と役割が分かれている様子。
まるで長年連れ添った夫婦のようだった。
蘭は思わず笑みを浮かべる。
「あの……」
「もしかして、お二人って恋人同士なんですか?」
その言葉に、椎名は少し驚いたように目を丸くし、すぐに困ったような笑みを浮かべた。
「いえ」
返事をしたのは小西だった。
「そういう関係ではありません」
「職場が近いので、ルームシェアをしているだけです」
椎名も頷く。
「生活費も抑えられますし、お互い家事が得意なので、とても効率がいいんです」
「そうだったんですね!」
蘭はどこか安心したように笑った。
「でも、本当に仲がいいから勘違いしちゃいました」
椎名は少し照れくさそうに笑う。
「よく言われます」
「ですが、私たちは良い同居人というだけですよ」
「そうなんですね」
蘭は納得したように頷いた。
三人はそのまま少しだけ学校の話や文化祭の準備について会話を交わす。
穏やかな休日。
いつもと変わらない日常。
その空気は、一瞬で壊された。
「きゃあああっ!」
店内の奥から女性の悲鳴が響く。
続いて、人々のどよめき。
「誰か救急車を!」
「人が倒れたぞ!」
一斉に客が駆け出す。
小西は静かに視線を悲鳴の方向へ向けた。
椎名も表情を引き締める。
蘭は驚いた表情のまま、その場に立ち尽くしていた。
平穏な休日は終わりを告げる。
数分後、このスーパーは殺人事件の現場となる。