スーパーでの事件から数日後。
帝丹高校。
昼休み。
小西浩平は職員室で中間試験の採点を進めていた。
「小西先生」
椎名小春が温かいコーヒーを机へ置く。
「ありがとうございます」
「先日の件ですが」
「目暮警部から、お礼のお電話がありました」
「ああ」
小西は採点の手を止めることなく答えた。
「事件が解決したなら、それで十分です」
「感謝されるようなことはしていません」
椎名は苦笑する。
「ですが、小西先生がいらっしゃらなければ、解決まで時間が掛かっていたと思います」
「そうかもしれませんが」
小西は赤ペンを置いた。
「疑われるより早く終わらせた方が合理的だった」
「それだけです」
椎名は、それ以上何も言わなかった。
それが小西の本心であることを知っていたからだ。
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その日の夕方。
毛利探偵事務所。
蘭は夕食の支度をしながら、数日前の出来事を思い返していた。
「ねえ、コナン君」
「ん、なに?蘭姉ちゃん」
ソファでテレビを見ていたコナンが振り返る。
「この前ね、スーパーで事件があったの」
「ああ」
ニュースで見ていた事件だ。
「その場に、帝丹高校の先生が居合わせてたんだけど……」
コナンは何気なく聞いていた。
「すごかったの」
「警察がまだ何も分かってないうちに、試食が原因だって見抜いちゃって」
コナンの表情が変わる。
「先生?」
「うん」
「数学の先生なんだけど」
「小西先生っていう人」
その名前を聞いても、コナンに心当たりはなかった。
六月にはすでに高校を離れている。
当然、その教師を知るはずもない。
「その先生ね」
「現場を見ただけで、警察が調べるべきことを全部当てちゃったの」
「新一みたいだなって思っちゃった」
コナンは黙ったまま話を聞いていた。
「へぇ……」
短く返事をする。
だが、頭の中では別のことを考えていた。
(警察より先に事件の本質を見抜く高校教師……)
(ただ者じゃないな)
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夜。
阿笠博士の家。
コナンは事件の記事を机へ広げていた。
「博士」
「何じゃ」
「蘭が言ってたんだけど」
「帝丹高校に、すごい数学教師がいるらしい」
博士は少し驚く。
「ふむ、探偵みたいな先生か」
「ああ」
コナンは記事を見つめる。
「今回の事件だけなら偶然かもしれない」
「でも」
「もし、次も同じようなことがあったら」
「その時は偶然じゃない」
証拠はまだない。
だから調べることもしない。
ただ、一人の教師の名前だけが、コナンの記憶に刻まれた。
小西浩平。
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同じ頃。
小西は帰宅し、ネクタイを外して椅子へ腰掛けていた。
「今日は静かな一日でしたね」
椎名が夕食を並べる。
「ああ」
「その方がいい」
小西は静かに答える。
「事件が起きないことが、一番平和だ」
その言葉とは裏腹に、小西は気付いていなかった。
数日前のスーパーでの出来事が、一人の名探偵の記憶へ、自分という存在を刻み始めていたことを。
まだ互いを知らない二人。
しかし、運命の歯車はゆっくりと噛み合い始めていた。