令和のモリアーティ   作:オッパッピー

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たまった順に連投します。


File.4 交わらない視線

七月初旬。

 

梅雨明けを目前に控えた帝丹高校では、期末試験が終わり、生徒たちもどこか解放された空気に包まれていた。

 

数学の授業を終えた小西浩平は、静かに教壇を降りる。

 

「今回の試験結果は来週返却する」

 

「点数だけを見るな。どこを間違えたかを見ろ。それが数学だ」

 

そう言い残すと、黒板を消し、教室を後にした。

 

「相変わらず厳しいよね」

 

「でも、説明は分かりやすいんだよな」

 

教室では生徒たちがそんな感想を口にしていた。

 

---

 

放課後。

 

職員室へ戻る途中、小西は廊下で毛利蘭とすれ違う。

 

「失礼します」

 

蘭は礼儀正しく頭を下げた。

 

「ああ」

 

小西も軽く会釈を返す。

 

ほんの数秒。

 

それだけの出来事だった。

 

しかし、小西は蘭の名前を知っていた。

 

毛利蘭。

 

未来で名探偵の隣に立ち続けていた少女。

 

資料にも何度も登場していた人物だ。

 

(毛利蘭)

 

(未来では、工藤に名が変わり、あの探偵と最も近い場所にいた)

 

だが、それだけだった。

 

彼女を観察する理由はない。

 

今の小西に必要なのは、証拠だけである。

 

---

 

夜。

 

自宅。

 

パソコンの画面には、新たなデータが表示されていた。

 

帝丹高校二年B組。

 

生徒名簿。

 

成績。

 

部活動。

 

交友関係。

 

すべて合法的に入手できる範囲の情報だけを整理していく。

 

小春が夕食を運びながら尋ねた。

 

「進展はございましたか、小西先生」

 

「いや」

 

「工藤新一について、新しい情報はない」

 

「そうですか……」

 

小春は静かに食器を並べる。

 

「ただ」

 

小西が資料を一枚めくる。

 

「彼の周囲の人間は調べる価値がある」

 

「未来を知る人間は存在しない」

 

「しかし、人は痕跡を残す」

 

「その痕跡を辿れば、いずれ本人へ辿り着く」

 

小春は静かに頷いた。

 

「ですが、小西先生」

 

「調べるだけ、ですね」

 

「ああ」

 

小西は迷いなく答える。

 

「証明できない以上、何もしない」

 

「推測で人生を壊されたのが、未来の僕だった」

 

その声には、わずかな苦みが滲んでいた。

 

---

 

同じ頃。

 

毛利探偵事務所。

 

テレビでは連日のように事件が報じられている。

 

コナンは新聞を読みながら、小さくため息をついた。

 

「また事件か……」

 

蘭は夕食を運びながら笑う。

 

「最近、本当に多いよね。警察の人たちも大変そう」

 

「うん……」

 

コナンは曖昧に返事をする。

 

事件が増えている。

 

だが、この時の彼はまだ知らない。

 

その裏側で、一人の数学教師が静かに社会を観察していることを。

 

---

 

翌日。

 

昼休み。

 

小西は窓際から校庭を眺めていた。

 

サッカーをする生徒。

 

談笑する女子生徒。

 

平和な学校風景。

 

その中に、探している人物はいない。

 

「焦る必要はない」

 

静かに呟く。

 

「数式は、一つずつ積み上げれば必ず答えへ辿り着く」

 

未来を変えるための証明は、まだ始まったばかりだった。

 

一方その頃、小学一年生の教室では、江戸川コナンが夏休みの予定表を眺めていた。

 

二人は同じ米花町で暮らしながら、まだ互いを意識することはない。

 

しかし、その静かな日常は、夏休みを迎える頃、一つの殺人事件によって大きく動き始めることになる。

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