七月初旬。
梅雨明けを目前に控えた帝丹高校では、期末試験が終わり、生徒たちもどこか解放された空気に包まれていた。
数学の授業を終えた小西浩平は、静かに教壇を降りる。
「今回の試験結果は来週返却する」
「点数だけを見るな。どこを間違えたかを見ろ。それが数学だ」
そう言い残すと、黒板を消し、教室を後にした。
「相変わらず厳しいよね」
「でも、説明は分かりやすいんだよな」
教室では生徒たちがそんな感想を口にしていた。
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放課後。
職員室へ戻る途中、小西は廊下で毛利蘭とすれ違う。
「失礼します」
蘭は礼儀正しく頭を下げた。
「ああ」
小西も軽く会釈を返す。
ほんの数秒。
それだけの出来事だった。
しかし、小西は蘭の名前を知っていた。
毛利蘭。
未来で名探偵の隣に立ち続けていた少女。
資料にも何度も登場していた人物だ。
(毛利蘭)
(未来では、工藤に名が変わり、あの探偵と最も近い場所にいた)
だが、それだけだった。
彼女を観察する理由はない。
今の小西に必要なのは、証拠だけである。
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夜。
自宅。
パソコンの画面には、新たなデータが表示されていた。
帝丹高校二年B組。
生徒名簿。
成績。
部活動。
交友関係。
すべて合法的に入手できる範囲の情報だけを整理していく。
小春が夕食を運びながら尋ねた。
「進展はございましたか、小西先生」
「いや」
「工藤新一について、新しい情報はない」
「そうですか……」
小春は静かに食器を並べる。
「ただ」
小西が資料を一枚めくる。
「彼の周囲の人間は調べる価値がある」
「未来を知る人間は存在しない」
「しかし、人は痕跡を残す」
「その痕跡を辿れば、いずれ本人へ辿り着く」
小春は静かに頷いた。
「ですが、小西先生」
「調べるだけ、ですね」
「ああ」
小西は迷いなく答える。
「証明できない以上、何もしない」
「推測で人生を壊されたのが、未来の僕だった」
その声には、わずかな苦みが滲んでいた。
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同じ頃。
毛利探偵事務所。
テレビでは連日のように事件が報じられている。
コナンは新聞を読みながら、小さくため息をついた。
「また事件か……」
蘭は夕食を運びながら笑う。
「最近、本当に多いよね。警察の人たちも大変そう」
「うん……」
コナンは曖昧に返事をする。
事件が増えている。
だが、この時の彼はまだ知らない。
その裏側で、一人の数学教師が静かに社会を観察していることを。
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翌日。
昼休み。
小西は窓際から校庭を眺めていた。
サッカーをする生徒。
談笑する女子生徒。
平和な学校風景。
その中に、探している人物はいない。
「焦る必要はない」
静かに呟く。
「数式は、一つずつ積み上げれば必ず答えへ辿り着く」
未来を変えるための証明は、まだ始まったばかりだった。
一方その頃、小学一年生の教室では、江戸川コナンが夏休みの予定表を眺めていた。
二人は同じ米花町で暮らしながら、まだ互いを意識することはない。
しかし、その静かな日常は、夏休みを迎える頃、一つの殺人事件によって大きく動き始めることになる。