七月下旬。
蝉の鳴き声が響く夏の午後。
米花町で、一件の殺人事件が発生した。
被害者は建設会社の社長。
自宅書斎で死亡しているのが発見された。
死因は感電死。
現場は完全な密室だった。
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「まいったなぁ……」
現場へ駆け付けた毛利小五郎が腕を組む。
目暮警部も難しい表情を浮かべていた。
「外部から侵入した形跡はありません」
「凶器も見つかっていません」
高木刑事が報告する。
部屋は荒らされた様子もない。
金品もそのまま。
自殺とも他殺とも判断できない奇妙な現場だった。
部屋の隅では、江戸川コナンが静かに周囲を見回していた。
(変だ)
(犯人のミスが、ほとんどない)
床。
配線。
家具の配置。
どれを見ても無駄がない。
まるで最初から答えだけが存在していたかのようだった。
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その頃。
帝丹高校。
終業式を終えた小西は、職員室で答案用紙を整理していた。
「小西先生」
椎名が隣へ立つ。
「昨日の相談者ですが」
「ああ」
「身辺調査が終わりました」
一枚の封筒が机へ置かれる。
中には数人の名前。
住所。
勤務先。
そして家族構成までまとめられていた。
小西は一通り目を通す。
「十分だ」
「本人が決断した時だけ渡そう」
「承知しました」
それだけで会話は終わる。
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夕方。
毛利探偵事務所。
テレビでは昼間の事件が速報として流れていた。
『建設会社社長、不審死。』
蘭が心配そうに画面を見る。
「最近、本当に事件が多いね」
「そうだな」
毛利小五郎はビールを飲みながら答える。
コナンだけは黙っていた。
(今日の事件)
(何かがおかしい)
犯人は捕まった。
証拠も揃った。
だが。
最後まで違和感だけが残っている。
(あの犯人が、一人で考えたとは思えない)
トリックが洗練され過ぎている。
迷いがない。
失敗を前提としていない。
まるで誰かが。
「こうすれば絶対に成功する」
そう教えたかのようだった。
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夜。
小西は自宅でニュースを眺めていた。
『事件は解決しました。』
アナウンサーがそう締めくくる。
小西は静かにテレビを消した。
「解決、か」
小春が紅茶を差し出す。
「警察は真相へ辿り着いたようですね」
「ああ」
小西は淡々と答える。
「設計図どおりだった」
「相談者は逮捕されたが、それでもいい」
小春は少しだけ首を傾げる。
「本当によろしいのですか。相談者だけが罪を負うことになりますよ」
「それでいい」
小西は静かに紅茶を口へ運ぶ。
「警察の目が僕だけに向かなければ、それで十分だ」
「そのために、この仕組みを作った」
その瞳には、満足も後悔もなかった。
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同じ夜。
毛利探偵事務所。
コナンは新聞記事を切り抜いていた。
最近解決した事件だけを並べていく。
どの事件にも共通していることが一つだけあった。
犯人は皆、ごく普通の一般人。
しかし。
犯行だけは異様なほど完成されている。
(偶然じゃない)
(誰かがいる)
(犯行の手口を教えている奴が)
その正体はまだ分からない。
名前も。
顔も。
目的も。
だが、コナンは初めて確信する。
この街には、自分の知らない"もう一人の天才"が存在している、と。
一方、小西は窓の外の夏空を静かに見上げていた。
互いの存在に気付き始めながらも、まだ交わることのない二人。
その距離は、ほんのわずかずつ縮まり始めていた。