令和のモリアーティ   作:オッパッピー

6 / 15
File.6 完成された数式

七月下旬。

 

蝉の鳴き声が響く夏の午後。

 

米花町で、一件の殺人事件が発生した。

 

被害者は建設会社の社長。

 

自宅書斎で死亡しているのが発見された。

 

死因は感電死。

 

現場は完全な密室だった。

 

---

 

「まいったなぁ……」

 

現場へ駆け付けた毛利小五郎が腕を組む。

 

目暮警部も難しい表情を浮かべていた。

 

「外部から侵入した形跡はありません」

 

「凶器も見つかっていません」

 

高木刑事が報告する。

 

部屋は荒らされた様子もない。

 

金品もそのまま。

 

自殺とも他殺とも判断できない奇妙な現場だった。

 

部屋の隅では、江戸川コナンが静かに周囲を見回していた。

 

(変だ)

 

(犯人のミスが、ほとんどない)

 

床。

 

配線。

 

家具の配置。

 

どれを見ても無駄がない。

 

まるで最初から答えだけが存在していたかのようだった。

 

---

 

その頃。

 

帝丹高校。

 

終業式を終えた小西は、職員室で答案用紙を整理していた。

 

「小西先生」

 

椎名が隣へ立つ。

 

「昨日の相談者ですが」

 

「ああ」

 

「身辺調査が終わりました」

 

一枚の封筒が机へ置かれる。

 

中には数人の名前。

 

住所。

 

勤務先。

 

そして家族構成までまとめられていた。

 

小西は一通り目を通す。

 

「十分だ」

 

「本人が決断した時だけ渡そう」

 

「承知しました」

 

それだけで会話は終わる。

 

---

 

夕方。

 

毛利探偵事務所。

 

テレビでは昼間の事件が速報として流れていた。

 

『建設会社社長、不審死。』

 

蘭が心配そうに画面を見る。

 

「最近、本当に事件が多いね」

 

「そうだな」

 

毛利小五郎はビールを飲みながら答える。

 

コナンだけは黙っていた。

 

(今日の事件)

 

(何かがおかしい)

 

犯人は捕まった。

 

証拠も揃った。

 

だが。

 

最後まで違和感だけが残っている。

 

(あの犯人が、一人で考えたとは思えない)

 

トリックが洗練され過ぎている。

 

迷いがない。

 

失敗を前提としていない。

 

まるで誰かが。

 

「こうすれば絶対に成功する」

 

そう教えたかのようだった。

 

---

 

夜。

 

小西は自宅でニュースを眺めていた。

 

『事件は解決しました。』

 

アナウンサーがそう締めくくる。

 

小西は静かにテレビを消した。

 

「解決、か」

 

小春が紅茶を差し出す。

 

「警察は真相へ辿り着いたようですね」

 

「ああ」

 

小西は淡々と答える。

 

「設計図どおりだった」

 

「相談者は逮捕されたが、それでもいい」

 

小春は少しだけ首を傾げる。

 

「本当によろしいのですか。相談者だけが罪を負うことになりますよ」

 

「それでいい」

 

小西は静かに紅茶を口へ運ぶ。

 

「警察の目が僕だけに向かなければ、それで十分だ」

 

「そのために、この仕組みを作った」

 

その瞳には、満足も後悔もなかった。

 

---

 

同じ夜。

 

毛利探偵事務所。

 

コナンは新聞記事を切り抜いていた。

 

最近解決した事件だけを並べていく。

 

どの事件にも共通していることが一つだけあった。

 

犯人は皆、ごく普通の一般人。

 

しかし。

 

犯行だけは異様なほど完成されている。

 

(偶然じゃない)

 

(誰かがいる)

 

(犯行の手口を教えている奴が)

 

その正体はまだ分からない。

 

名前も。

 

顔も。

 

目的も。

 

だが、コナンは初めて確信する。

 

この街には、自分の知らない"もう一人の天才"が存在している、と。

 

一方、小西は窓の外の夏空を静かに見上げていた。

 

互いの存在に気付き始めながらも、まだ交わることのない二人。

 

その距離は、ほんのわずかずつ縮まり始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。