令和のモリアーティ   作:オッパッピー

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File.8 選択の先

八月中旬。

 

夏休みも半ばを迎えた米花町では、朝から強い日差しが街を照らしていた。

 

阿笠博士の家。

 

コナンはノートいっぱいに事件の関係図を書き込んでいた。

 

被害者。

 

犯人。

 

動機。

 

犯行方法。

 

事件ごとに線を引いていく。

 

しかし、最後には必ず一本の線だけが宙に浮く。

 

「設計者」。

 

名前も顔も分からない存在。

 

それだけが、どの事件にも共通していた。

 

「博士」

 

「なんじゃ」

 

「もし犯人に犯罪を教えてる奴がいるとしたら、その罪は証明できるかな」

 

阿笠博士は少し考えた。

 

「難しいじゃろうな」

 

「実際に指示した証拠がなければ、警察は動けん」

 

コナンは小さく頷いた。

 

それは自分も分かっている。

 

だからこそ悔しかった。

 

---

 

一方、その頃。

 

小西は書斎で一枚の報告書を読んでいた。

 

先日相談を受けた女性についての追加調査だった。

 

「小西先生」

 

椎名が静かに部屋へ入る。

 

「調査が終わりました」

 

「ありがとう」

 

小西は資料へ目を通した。

 

娘を失った母親。

 

学校側は事故として処理。

 

加害生徒は誰一人責任を問われていない。

 

相談内容と完全に一致していた。

 

虚偽はない。

 

「……」

 

しばらく沈黙が続く。

 

やがて小西は資料を閉じた。

 

「本人から連絡は」

 

「まだございません」

 

「そうか」

 

それだけだった。

 

催促もしない。

 

誘導もしない。

 

決めるのは相談者自身だった。

 

---

 

数日後。

 

『ライフ・ライン』へ一本の電話が入る。

 

『……先生。』

 

あの女性だった。

 

声は以前より落ち着いている。

 

「お話を伺います」

 

『何日も考えました。』

 

『復讐したい気持ちは消えません。』

 

『でも、人を殺す勇気もありません。』

 

『私は……どうしたらいいんでしょう。』

 

小西は静かに目を閉じた。

 

「その答えは、あなたしか決められません」

 

長い沈黙。

 

やがて小西は続ける。

 

「復讐を選ぶなら、その責任は一生背負うことになります」

 

「復讐を諦めるなら、その苦しみも一生消えないでしょう」

 

「どちらも正解ではありません」

 

「だから、最後はあなた自身が選んでください」

 

受話器の向こうから、小さな嗚咽が聞こえる。

 

そして。

 

『……私は。』

 

『娘が悲しむことだけは、したくありません。』

 

『復讐は……やめます。』

 

静かに通話が切れた。

 

---

 

椎名は何も言わず、小西を見つめていた。

 

「終わりましたか」

 

「ああ」

 

「この方は事件を起こさない」

 

椎名は微笑んだ。

 

「良かったですね」

 

「……そうだな」

 

小西も小さく頷く。

 

ライフ・ラインは犯罪を生み出すためだけの場所ではない。

 

時には、一件の事件を未然に終わらせることもある。

 

それでいい。

 

選択したのは、本人なのだから。

 

---

 

同じ頃。

 

コナンは新聞を閉じ、小さくため息をついた。

 

「また事件が起きなかった」

 

その言葉に博士が笑う。

 

「事件が起きないなら、それが一番じゃ」

 

「……うん」

 

コナンも苦笑する。

 

しかし心の奥では確信していた。

 

あの「設計者」は、まだどこかで動いている。

 

証拠を残さないだけだ。

 

---

 

夜。

 

小西は窓を開け、夏の夜風を受けていた。

 

街は静かだった。

 

今日、新たな事件は起きていない。

 

それでいい。

 

「人は最後には、自分で答えを選ぶ」

 

小西は静かに呟く。

 

その言葉を聞いた椎名は、小さく微笑みながら照明を落とした。

 

夏の夜は更けていく。

 

まだ交わることのない二人の天才は、それぞれの信じる答えを胸に、静かに次の一日を迎えようとしていた。

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