紅蓮都市の闇夜 -オーバークロック・ガーデン-   作:A&T

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episode13 滅びの庭園

 螺旋階段は、生き物の喉のように脈打っていた。

 

 赤黒い肉壁に囲まれた階段を、四人は駆け上がる。足元の段はかつての白い石材を残していたが、その隙間には植物の根がびっしりと入り込み、踏むたびに湿った音を立てた。

 

 先頭はヴェロニカ。

 

 彼女の背後にキョウカとハルカ。

 

 最後尾を、アリスが受信機と壊れかけの基板を抱えながら追っている。

 

 誰も離れない。

 

 誰も置いていかない。

 

 四人は、ひとつの塊のように階段を駆け抜けた。

 

「上、来るよ」

 

 ハルカの小さな声。

 

 直後、天井の裂け目から毒々しい胞子が降り注いだ。

 

「ハルカ、流せ!」

 

「……うん」

 

 ハルカが片手を振る。

 

 冷たい風が階段を駆け上がり、胞子の群れを外壁の裂け目へ押し流した。

 

「道を開ける!」

 

 キョウカが前へ出る。

 

 突き当たりの大扉は、もはや扉ではなく、分厚い根と金属板が絡み合った肉の蓋だった。キョウカの巨大なガントレットが唸りを上げる。

 

「おらあああッ!!」

 

 超高密度化した拳が叩き込まれた瞬間、扉は内側から破裂するように砕けた。

 

 視界が開ける。

 

 その先に広がっていたのは、かつての洗練された空中庭園ではなかった。

 

 都市中から吸い上げた生命力と精神エネルギーで肥大化した、悍ましくも美しい真の庭園。

 

 床は白い石ではなく、脈動する根と肉質の蔦に覆われている。巨大な花々が天井の代わりに空を塞ぎ、その花弁の隙間から赤黒い月光が滲んでいた。中央には、巨大な蕾のような玉座。

 

 そこに、ベアトが座っていた。

 

 葉の冠。

 

 毒々しく美しい蝶の翅。

 

 そして、慈愛を装った微笑み。

 

「あら」

 

 ベアトは首を傾げた。

 

「あんなに可愛がってあげたのに。もう『ベアト様』とは呼んでくれないのですか、ヴェロニカ?」

 

 ヴェロニカは答える前に、一歩前へ出た。

 

 その手には、中古の剣。

 

 ジジイの店で得た、何の格式もない剣だ。

 

 だが、今の彼女には、それで十分だった。

 

「貴女をそう呼ぶべき私は、あの日、アリスと共に死んだ」

 

 ヴェロニカの声は低い。

 

「今の私は、貴女の庭を荒らしに来た害獣だ」

 

 左頬の星型の痣が、蒼く燃える。

 

「ベアト。ここで終わらせる」

 

 ベアトの微笑みが、ほんの少しだけ歪んだ。

 

「……そう。残念だわ」

 

 指が鳴る。

 

 庭園中の花々が、一斉に開いた。

 

 黄金色の鱗粉が、空間を埋め尽くす。

 

「っ、吸わないで!」

 

 アリスが叫ぶ。

 

「これ、ただの毒じゃない。ナノマシンと有機素子の混合。体に入ったら神経信号を乗っ取られる!」

 

 彼女はジャンク基板を肉壁へ叩きつけ、黒手袋の残存インターフェースを無理やり接続した。即席の反発フィールドが四人の周囲に展開される。

 

 だが、鱗粉の密度が高すぎる。

 

 防壁がじりじり削られていく。

 

「長く持たないよ、ヴェロニカ!」

 

「十分だ」

 

 ヴェロニカは即座に判断する。

 

「ハルカ、風の通り道を作れ。キョウカ、蔦を砕け。アリス、再生周期を読め」

 

「応よ!」

 

「……分かった」

 

「あはっ。無茶振りにも慣れてきたね」

 

 キョウカが拳を振るう。

 

 赤黒い蔦が砕け散る。

 

 だが、砕いた先からまた生える。まるで庭そのものが怒っているかのように、蔦は何度でも四人へ襲いかかった。

 

 ハルカが両手を広げる。

 

「……汚い空気、こっちに来ないで」

 

 彼女の周囲で空気が回転し、毒鱗粉を外へ押し流す。細い風の回廊が生まれた。

 

 ヴェロニカは、その風に乗って駆ける。

 

 眼前に迫る十数本の蔦を、一閃。

 

 さらに次の蔦を、もう一閃。

 

 剣筋に乗った蒼い魔力が鱗粉を切り裂き、ベアトへの最短距離を切り開いていく。

 

「無駄よ、ヴェロニカ」

 

 ベアトは玉座から立ち上がりもせず、穏やかに笑う。

 

「この庭は私そのもの。貴女たちがどれほど足掻こうと、最後には私の根の一部になる運命なの」

 

 背後から、大蛇のような巨大な蔦が振り下ろされた。

 

 ヴェロニカは跳ぶ。

 

 だが、次の蔦が退路を塞ぐ。

 

「ヴェロニカ、右!」

 

 ハルカの声に合わせ、ヴェロニカは体をひねった。

 

 蔦が肩をかすめる。

 

 その瞬間、キョウカが横から飛び込んだ。

 

「邪魔してんじゃねえッ!!」

 

 拳が蔦を粉砕する。

 

 肉片のように砕けた蔦が庭園の床へ散った。

 

「ベアト!」

 

 ヴェロニカは叫ぶ。

 

「絶望なら、もう組織で十分に味わった。今の私たちが持っているのは、貴女には決して計算できない……未来への執着だ!」

 

「未来?」

 

 ベアトの笑みが深くなる。

 

「なら見せてちょうだい。その美しい言葉が、どれほど高い熱量を持つのか」

 

 庭園の床が膨れ上がった。

 

 巨大な肉厚の蔦が、幾重にもベアトの前へ重なる。

 

 鉄壁の防御。

 

 だが、四人は止まらない。

 

「――ぶち抜く!」

 

 キョウカが先陣を切った。

 

 両拳を構え、全身の力を一点へ集める。拳が超高密度化し、空気が重く軋んだ。

 

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ! この拳でぶっ壊してやるッ!!」

 

 轟音。

 

 鉄より硬い蔦の防壁に亀裂が走る。

 

 さらに二撃目。

 

 三撃目。

 

 防壁が砕けた。

 

 その瞬間、ハルカが空へ手を伸ばす。

 

「……吹き荒れて」

 

 庭園全体に、嵐が生まれた。

 

 毒鱗粉が巻き上がり、花々の視界を奪う。ベアトが作り上げた死の霧が、強制的に上空へ押し流されていった。

 

「アリス!」

 

「もう入ってる!」

 

 アリスは肉壁へ突き刺した導線を握り締めていた。

 

 彼女の黒手袋から火花が散る。

 

「月桂冠のエネルギーライン、見つけた。都市全域から吸い上げた精神波を、この庭の心臓に流してる。……気持ち悪いくらい綺麗な設計だね」

 

 アリスは笑う。

 

 だが、その笑みは冷たい。

 

「だから、壊し方も分かる」

 

 指が跳ねた。

 

 塔全体が一瞬、激しく震える。

 

 ベアトの背後で脈動していた巨大な心臓状の花が、火花のような光を散らした。

 

「な……!?」

 

 初めて、ベアトの顔に驚愕が走る。

 

「私の庭が、停止する……?」

 

「一瞬だけだよ!」

 

 アリスが叫ぶ。

 

「ヴェロニカ、今!」

 

「分かっている!」

 

 ヴェロニカの背から、蒼黒い魔力が噴き上がった。

 

 それは翼のように広がり、彼女の体を流星のごとく加速させる。

 

 騎士ではない。

 

 処刑人でもない。

 

 自分の意志で牙を剥く、一人の復讐者。

 

「ベアト! 貴女の時間は、ここで止まる!」

 

 翼が空を裂く。

 

 剣が一文字に走った。

 

 ベアトの胸元が深く裂け、赤い花弁のように血が散った。

 

「が、ぁ……ッ!」

 

 ベアトが初めて膝をつく。

 

 四人はその場に立った。

 

 ヴェロニカ、アリス、キョウカ、ハルカ。

 

 誰も欠けていない。

 

「……見たか、ベアト」

 

 ヴェロニカは剣を構える。

 

「これが、貴女が馬鹿にした、私たちの絆だ」

 

「……っ」

 

 ベアトの肩が震えた。

 

 次の瞬間、彼女は笑った。

 

「……ハッ」

 

 それは、これまでの慈愛をまとった微笑みではない。

 

 怒りと屈辱に塗れた、剥き出しの嘲笑だった。

 

「やってくれたわね、この出来損ないのエルフが……!」

 

 ベアトは胸の傷を押さえながら、ゆっくり立ち上がる。

 

 仮面は、完全に剥がれ落ちていた。

 

「よくも……よくも私の皮膚に触れたわね。このゴミ溜めのネズミどもがッ! どいつもこいつも、私の庭を彩る肥やしの分際で、調子に乗るんじゃないわよ!」

 

「へっ」

 

 キョウカが吐き捨てる。

 

「本性出しやがったな、クソババア」

 

「黙りなさい、失敗作」

 

 ベアトは自らの傷口へ、周囲の蔦を突き刺した。

 

 蔦が彼女の肉体へ入り込み、繊維のように絡み合う。都市から吸い上げた生命力が一点に集まり、傷を塞ぎ、身体を変質させていく。

 

 ベアトの背に、巨大な蔦の翼が広がった。

 

 人の形を残したまま、森の女王のような異形へと変わっていく。

 

「痛いわ……痛い。けれど、足りないわね」

 

 ベアトは笑う。

 

「ヴェロニカ、貴女の絶望も。アリスの恐怖も。キョウカの怒りも、ハルカの怯えも。全部、私が飲み込んであげる」

 

「あはっ。最悪」

 

 アリスの声に、いつもの軽さはない。

 

「自己再生に形態変化。しかも都市からの供給が切れてない。生存確率、また地面にめり込んだよ」

 

「……お姉ちゃん、気をつけて」

 

 ハルカは風を維持しながら、一歩後ろへ下がった。

 

「さっきより、ずっと悪意が濃い。世界を全部、自分の中に入れようとしてる」

 

 ヴェロニカは折れかけた剣を構え直す。

 

「口の悪さこそが、貴女の真実というわけか」

 

「まだ余裕ぶるの?」

 

「違う」

 

 ヴェロニカはベアトを見る。

 

「今の方が斬りやすいと思っただけだ」

 

 ベアトの表情が歪む。

 

「本当に救いようのない馬鹿ね、ヴェロニカ」

 

 蔦と融合したベアトが、裂けた口で嘲笑った。

 

「貴女、本当に自分の意志でガーデンに来たと思っているの?」

 

 ヴェロニカの瞳がわずかに動く。

 

「……何を言っている」

 

「滅びゆく一族を再興するための資金と力。そんな甘い幻想を、誰に吹き込まれたと思っているのかしら」

 

 空気が凍った。

 

 ベアトの声は甘く、残酷だった。

 

「貴女の一族を絶滅の淵に追い込んだのは、他の誰でもない。私よ」

 

 ヴェロニカの剣先が、わずかに震える。

 

「私が貴女たちの里に枯死病を撒き、逃げ場を失った貴女に救いの手を差し伸べた。資金も、復興の約束も、すべては最高傑作を私の庭へ閉じ込めるための餌」

 

 ベアトは笑った。

 

「貴女は、一族を滅ぼした仇のために、今日まで忠実に牙を研ぎ続けてきたのよ」

 

「…………」

 

 音が消えた。

 

 ヴェロニカの胸の奥で、何かが崩れ落ちる。

 

 地獄のような任務を耐えた理由。

 

 血に塗れた手を正当化するための希望。

 

 一族を再興するという、唯一の灯火。

 

 それが、最初からベアトの撒いた毒だった。

 

「あはっ……そんなデタラメを……」

 

 アリスが叫ぶ。

 

「記録には、そんな――」

 

「記録なんていくらでも書き換えられるわ」

 

 ベアトはアリスを一瞥した。

 

「貴女ならよく分かるでしょう? ねえ、アリス」

 

「……っ」

 

「ヴェロニカ」

 

 ハルカが悲鳴に近い声を上げる。

 

「聞いちゃダメ。あの人の言葉、毒が混ざってる」

 

 だが、ヴェロニカは動かない。

 

 ベアトの黒い蔦が、音もなく彼女の喉元へ迫る。

 

「ヴェロニカ!」

 

 キョウカが踏み出そうとした瞬間。

 

「……は」

 

 ヴェロニカが笑った。

 

 乾いた笑い。

 

 だが、それは壊れた者の声ではなかった。

 

「はは……はははははッ!」

 

 ベアトの蔦が止まる。

 

「何を笑っているのよ、この壊れかけの欠陥品が!」

 

「感謝するよ、ベアト」

 

 ヴェロニカは顔を上げた。

 

 瞳には、先ほどまでを遥かに上回る光が宿っていた。

 

「貴女という女の底の浅さを、最後に教えてくれてな」

 

「何ですって……?」

 

「私は、自分でも気づかないうちに、貴女に情を抱いていたのかもしれない」

 

 ヴェロニカは剣を握り直す。

 

「どれほど冷酷でも、行き場のない私を拾い、力を与えてくれた恩人だと。そのわずかな迷いが、私の剣を鈍らせていた」

 

 背後の蒼黒い翼が、怒りではなく静かな決意で燃え上がる。

 

「だが、今の言葉で確信した。貴女は救う価値も、敬う価値もない。ただの、吐き気を催す邪悪だ」

 

 ベアトの顔から、余裕が消える。

 

「強がるんじゃないわよ! 全てを失った貴女に、何ができるというの!」

 

「失った?」

 

 ヴェロニカは首を振る。

 

「違うな」

 

 彼女は一歩踏み出す。

 

「私は今、ようやく手に入れたんだ。貴女を微塵の躊躇もなく斬れる、本当の自由を」

 

「ヴェロニカ……!」

 

 キョウカが息を呑む。

 

「あはっ……生存確率、計測不能」

 

 アリスは笑った。

 

「数値が振り切れすぎて、もう笑うしかないね」

 

「……風が、笑ってる」

 

 ハルカの瞳にも、光が戻る。

 

「ヴェロニカの風、今までで一番綺麗」

 

「行くぞ、ベアト!」

 

 ヴェロニカの声が、庭園を震わせた。

 

「これが、貴女が蹂躙したすべての命の、最後の一撃だ!」

 

「来ないで……来ないでよッ!」

 

 ベアトが叫ぶ。

 

「この出来損ないがぁ!!」

 

 第一の壁。

 

 鋼鉄の蔦。

 

 数十本の蔦が絡み合い、鉄より硬い防壁となってヴェロニカの前に立ち塞がる。

 

「断てッ!」

 

 ヴェロニカの剣が蒼く閃く。

 

 防壁が両断された。

 

 第二の壁。

 

 腐食の茨。

 

 触れるものを溶かす液体を滴らせ、毒の檻が展開される。

 

「邪魔だよッ!!」

 

 キョウカが横から飛び込み、拳の衝撃で茨の根元を粉砕した。毒液が飛び散る前に、ハルカの風がそれを上空へ押し流す。

 

 ヴェロニカは止まらない。

 

 第三の壁。

 

 精神汚染の肉壁。

 

 タワー中から吸い上げた人々の恐怖と怨念が、肉質の壁となって迫る。視界を埋め尽くす絶望の幻。

 

「ハルカ!」

 

「……うん。悲鳴は、私が全部、遠くへ飛ばす」

 

 清浄な旋風が、汚染された意識を裂く。

 

 肉壁に穴が開く。

 

 第四の壁。

 

 偽りの楽園。

 

 ベアトの魔力が空間を歪め、距離と方向を塗り替える。ヴェロニカの目の前に、存在しない庭が幾重にも重なった。

 

「あはっ。その座標、もう読んだ」

 

 アリスが肉壁へ突き立てた導線を引き抜き、即席基板を叩き割る。

 

「現実に戻れッ!」

 

 歪んだ空間が、ガラスのように砕け散った。

 

 視界が開ける。

 

 その先に、剥き出しのベアトがいた。

 

「あり得ない……」

 

 ベアトが後退する。

 

「私が作った完璧な防御を、どうして……!」

 

「言ったはずだ」

 

 ヴェロニカは空中で蒼黒い翼を大きく広げた。

 

「これは、貴女が蹂躙した命すべての重みだ」

 

 剣先に、四人の意志が収束する。

 

 ヴェロニカの怒り。

 

 アリスの計算。

 

 キョウカの拳。

 

 ハルカの風。

 

 すべてが、一撃へ集まる。

 

「これで最後だ、ベアト!!」

 

 蒼白い閃光が爆ぜた。

 

 ヴェロニカの剣が、ベアトの身体を貫く。

 

 同時に、庭園全体を満たしていた赤黒い脈動が、大きく揺らいだ。

 

「認めない……!」

 

 ベアトは崩れながら、憎悪に満ちた目でヴェロニカを見る。

 

「こんな結末、認めないわ! 私は、私は神になるはずだったのよ!」

 

 蔦が砂のように崩れる。

 

 毒の鱗粉が光の粒子へ変わっていく。

 

「ヴェロニカ……アリス……覚えておきなさい……私の庭は、いつか必ず……」

 

「終わりだ」

 

 ヴェロニカの声が、その呪詛を断ち切った。

 

「貴女の庭に、もう誰も根を下ろさない」

 

 ベアトの体が、光の中で崩れていく。

 

 最後に残ったのは、女王でも神でもない。

 

 ただ、自分以外の命を部品としてしか見られなかった、一人の支配者の空虚な表情だった。

 

 そして、それも消えた。

 

 空中庭園の脈動が止まる。

 

 都市を締め上げていた巨大な蔦が、力を失って崩れ落ちていく。

 

 長い沈黙が訪れた。

 

「……終わったな」

 

 ヴェロニカは、折れかけた剣を静かに下ろした。

 

 アリスがその場へ座り込む。

 

「あはっ……ターゲット消滅、確認。生存確率、計測不能から……ひとまず生存、に再計算」

 

「曖昧だな」

 

「今の私は現実主義者なんだよ」

 

 キョウカが空へ拳を突き上げた。

 

「やった……やったんだよな! アタシたち、あのクソババアに勝ったんだよなッ!」

 

 ハルカは目を閉じる。

 

 風が、静かに吹いていた。

 

「……うん。風が、笑ってる。みんな、自由になったんだよ」

 

 崩壊していく空中庭園の向こう側。

 

 雲の間から、朝焼けの光が差し込んだ。

 

 紅蓮都市を縛っていた赤黒い蔦は、枯れ、灰となり、瓦礫の上へ降り積もっていく。

 

 だが、その灰の下には、まだ街がある。

 

 人がいる。

 

 自由になった、傷だらけの世界がある。

 

 ヴェロニカは朝日を見つめた。

 

 一族は戻らない。

 

 失ったものは、二度と戻らない。

 

 それでも、隣には仲間がいる。

 

 ここから先は、誰かに与えられた未来ではない。

 

 自分たちで拾い集め、作っていく未来だ。

 

「行くぞ」

 

 ヴェロニカは振り返る。

 

「地獄は終わった。……次は、生きる番だ」

 

 四人は、崩れゆく庭園を後にした。

 

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