魔族の同胞に裏切り者がいるらしい   作:かませ犬S

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ニャスパーの願望

 ───シェード・フィアルティは傑物である。

 

 愚かしいことに魔王軍の中にその認識を持つ者は少ないニャ。

 

 生まれ落ちた血が貧しき者の血であると、平民だからと蔑視されている。

 

 どれだけ戦地で戦果を挙げようと、魔王さまの采配のおかげだと認めない。

 

 シェードさまが出世すれば魔王さまのお気に入りだから、男妾だからとバカにする。

 

 平民だからと、ただそれだけの理由でシェードさまを評価しない。なんと愚かしい限りにゃ。

 

 自分たちの方が優れていると、特別な血筋であると誇りたいばかりに現実を直視せずに都合のいい言葉に溺れている。

 

 人族のような爵位による階級制度だって始まったのは2代前の魔王さまの代からにゃ。

 

 人族よりももっと歴史の浅く⋯⋯その当時に魔王さまから覚えが良かった、ただそれだけで選ばれと者たちにゃ。

 

 実力の伴わない凡愚があまりに多い。

 

 シェードさまを劣等種だって見下す暇があるのなら、結果を出すことに尽力して欲しいにゃ。

 

 貴族だからって身分にあぐらをかいた、まともに仕事ができない愚図どものせいで、そのしわ寄せが回り回ってシェードさまの元へきているにゃ。

 

 一師団が請け負うにはあまりに多い書類の数。これをシェードさまが処理する為に先に目を通すボクのことも考えて欲しいにゃ、全く!

 

「どうした、ニャスパー?」

 

「んにゃ!?」

 

「人族を殺してる時と同じ眼をしていたぞ」

 

 募り募った不満やら苛立ちやらが、顔に出ていたみたいにゃ。

 

 ボクの目の前で山積みの書類を一つ一つ処理していたシェードさまが振り返って、揶揄うような笑みを浮かべて仰ったにゃ。

 

「そんにゃ顔してましたかにゃ?」

 

「してたな。書類を睨んでたから、人族を相手にするようにこの書類の山をぶん殴るんじゃないかって心配してた」

 

「そんにゃ事はしません!」

 

 やっていいならボクもやりますけど。その方がスッキリするので。けど、短絡的にそんな事をすると、ボクが使った時間がパーになるにゃ。

 

 この書類の山を仕分けするのにどれだけ時間がかかった事か!シェードさまが処理しやすいように整理もしたにゃ! 殴って崩せばそれが全て水の泡。

 

 ボクは貴族のボンクラと違ってそこまで愚かではないにゃ!拳を握りしめて強く否定すればシェードさまが乾いた声で笑う。

 

「ニャスパーの気持ちはよく分かる。この書類の山⋯⋯それにこの書類、本来俺がするべきものじゃないだろ」

 

「第三師団が本来こなす筈のものですにゃ」

 

 ボクの返答にシェードさまが深いため息を吐いた。

 

 この第三師団という存在がボクたちにとって取り扱いに困った問題児集団なのにゃ。

 

 第三師団は一言で表すなら獣人でのみ構成された師団。獣人族特有の高い身体能力をウリとした武闘派が集う師団なのにゃ。

 

 師団長であるレオさまは獣人族(ボクたち)にとって王のような存在であり、その影響力は我が国にも強く及んでいる。公爵の爵位を持つのが、その証拠にゃ。

 

 第三師団はレオさまを王として崇める獣人たちが兵として集っており、レオさまの選民思想の影響を強く受けている。師団の大部分を平民が占めるボクたち第一師団とは折り合いがよくないにゃ。

 

「また、俺に投げてきたやがって⋯⋯あいつ」

 

 机の上に置かれた書類は第三師団の戦果報告書。ただし、ほとんどが空白でこのままでは報告書としてまるで機能しない。

 

 本来なら第三師団師団長であるレオさまが、記載しないといけない書類をシェードさまが代筆されている。おかしな話にゃ。

 

  事の始まりはシェードさまに対する嫌がらせにゃ。

 

 何かと敵視しているシェードさまに対して、暇をしている第一師団に仕事をくれてやるとレオさまが空白の報告書を渡してきたにゃ。

 

 最初は当然のようにシェードさまは拒否したのだけど、公爵家のレオさまに同調した腰巾着の貴族の連中が支援を打ち切るとか、戦況を理解していないバカなことを言い出した為、シェードさまは仕方なく仕事を引き受けたにゃ。

 

 魔王さまに報告してそんなバカな貴族は処分された訳なのだけども、今も第三師団からはこうした仕事が押し付けられているにゃ。

 

 公爵家、第三師団師団長、その高い地位と軍事的観点から魔王さまも強く出れないと勝手に解釈したらしいレオさまが嫌がらせでシェードさまに仕事を押し付け、シェードさまが断れない状況。

 

 と、レオさまは思ってるけど実際はレオさまや第三師団が作った報告書があまりにデタラメで、魔王さまに通すことができないので仕方なくシェードさまが代わりに書いているという現実がある。

 

 誇り高い血だとか、平民とは違うとか、貴族であることを誇るなら字くらいまともに書けるようになって欲しいにゃ。

 

 あんなぐにゃぐにゃした文字じゃ誰も読めないにゃ。魔王さまを気遣ったシェードさまが仕事を引き受けて⋯⋯結果的に第三師団から仕事を押し付けられた形にはなっただけにゃ。

 

 戦いというその一点で言えば第三師団はボクたち第一師団に続く戦果を挙げている。軍事的に見れば必要不可欠な存在だけど、些か脳筋過ぎるにゃー。

 

 これがボクと同じ種族。

 

 ボクの主君だと思うと恥ずかしい限りにゃ。

 

「ニャシュテルに会いに行ってくる。少し席を外す」

 

「畏まりました」

 

 シェードさまが第三師団の報告書を書く為に部屋を出ていかれた。向かったのは第三師団副師団長ニャシュテル⋯⋯ボクの妹の元にゃ。

 

 レオさまが書類を書かないから、こうしてシェードさまがボクの妹に戦闘の様子や武具の消費状況、戦果なんかを聞きにいかないといけない。二度手間もいいところにゃ。

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 主のいなくなった部屋で謝る。ボクに信任置いてくれているシェードさまに申し訳なくて、さりとて本当の事を口にする事は禁じられていて⋯⋯。

 

「ボクはシェードさまの情報を流している愚か者にゃ」

 

 ボクの一族は公爵家レオ・グロースアルティヒさまに代々仕えてきた一族にゃ。父も母も、妹も親族全てがレオさまに仕えている。

 

 家族で唯一、ボクだけが第一師団に所属している。ボクがシェードさまに仕えているのはシェードさまの情報を、第一師団の情報を主君であるレオさまに流すため。

 

 シェードさまに才能を買われて引き抜かれて、副官にまで選んで頂いたのに、家族を人質に取られて⋯⋯ボクは敬愛するシェードよりも、家族を選んでしまった。

 

 第一師団副師団長であるボクが、敬愛するシェードさまを裏切っている。

 

 その現実に心が打ちのめされる。

 

 違う。本当に辛いのはボクなんかではない。ボクに裏切られて、裏切られている事も知らないシェードさまにゃ。

 

「ごめんなさい」

 

 ボクなんかが、シェードさまの腹心でごめんなさい。

 

 ボクは、⋯⋯ボクは⋯⋯。

 

「本当に、ダメな子にゃ」

 

 悪い子にゃ。

 

 シェードさまに本当の事を気付いて欲しい。ボクが情報を流している事に勘付いて欲しい。ボクが裏切り者だって分かって欲しい。

 

 シェードさまに本当の事を気付いて欲しくない。ボクが情報を流してるって知らないままでいて欲しい。信任を置く副官だって思い続けて欲しい。

 

 二律背反する思いがぐちゃぐちゃになって自分でも何が正しいか分からなくなるにゃ。

 

「優秀なシェードさまなら気付くかにゃ?」

 

 でも、さっきの様子を見るにボクの裏切りに気付くのは当分先かも知れない。

 

 ボクの演技力は獣人族の中でも随一にゃ。シェードさまもボクの言葉を心の底から信じてたにゃ。

 

 もし、気付いたらどうなるかにゃ?

 

 怒るかにゃ?許せないって!信じてたのにって、ボクの事を組み伏せるかにゃ?

 

 悪い子だって、お仕置してくれるかにゃ?

 

「早く気付いて欲しいにゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな悪いボクをシェードさまの手で躾して欲しいにゃん!

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