魔族の同胞に裏切り者がいるらしい   作:かませ犬S

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レオ

 小一時間ほど仕事に没頭することで、城を開けていた間に溜まりに溜まった書類を全て片付けることが出来た。

 

 先日からの作業と考えれば約一日あまり書類と向き合っていた事になる。

 

 正直疲れた。

 

 ニャスパーに休暇を取らせたが、境遇で言えば俺も全く同じだ。最前線で人族と戦い、戻ってきたら山積みになった書類が待っていた。オマケに魔王さまから密命まで受けて⋯⋯。

 

 これで疲れない方がおかしいだろう。

 

「ふぅ⋯⋯」

 

 椅子に座ったまま体を伸ばすとゴキゴキと鳴ってはいけない音が聞こえた。

 

 今すぐにでもベッドに倒れ込んで睡眠を貪りたい。何も考えずダラダラと一日を過ごしたい。戦争が起きる前であれば、当たり前にあった日常が恋しくて仕方ない。

 

「 早くこの戦いを終わらせないとな」

 

 戦争の決着より先に俺の体に限界がきそうだ。

 

「さて、どうするか」

 

 本音で言えば今すぐに自宅に戻ってゆっくり休みたいところだが、実のところ書類仕事以外にも諸々とやるべきことは溜まっていたりする。

 

 急ぎのもので言えば南の砦の一件の手回し。

 

 第一に中央で俺の代わりに戦線を維持している第五師団師団長であるネクロを呼び戻して、南の砦の奪還の任に就かせる。これに関してはさほど面倒ではない。

 

 戦線の維持はネクロと入れ替わるように俺が入ればいいし、師団長が不在の間に南の砦を奪われた件でネクロも憤っており、彼女からも南の砦を奪還したいと懇願されている。俺の段取り次第ではあるがスムーズに進むだろう。

 

 第二に南の戦線を維持している第四師団への慰労。第四師団はダークエルフや、里を追放されたはぐれエルフで構成された部隊だ。

 

 戦いを好まない者たちの集まりでも知られており、それもあって普段は魔王城に詰めて怪我人の治療や物資の搬送など裏方に徹している。

 

 今回の一件はかなり無理を言って就いて貰った。戦いを好まない者たちを無理に戦地に立たせた形になったと考えれば、何もなしに事を収めれば大きな蟠りになることは間違いない。

 

 第四師団の皆が納得する慰労を準備する必要があるな。師団長の好みは分かっているから、彼の機嫌を取ることはさほど難しくないが⋯⋯師団への慰労となると難しい。

 

「そういえば⋯⋯ニャスパーの報告に上がっていたな」

 

 新たに見つかった秘湯で英気を養って貰うというのはどうだ?戦時中である為、第四師団全員を同時にとはいかないが人数を分けてなら可能な筈だ。

 

 悪くない⋯⋯。

 

 加えて、今期の第四師団の予算を増やしておこう。師団として使える資金が増える分には嬉しい筈だ。細かい取り決めは後で第四師団の師団長と話しておくとしよう。

 

 その際に彼の好物である世界樹の蜜を持参しないとな。

 

 そして、第三。これがもっとも面倒で、もっとも重要な事柄───ドワーフの長老の説得及び安全な場所への避難誘導。

 

 彼らはとにかく頑固で、拘りが強い種族だ。

 

 先代魔王が褒美としてドワーフに領土を賜与する話が出たことがある。長年住んでいた領土を手放すことが条件ではあったが、元々の領土よりも大きく、人族との国境線から遠く離れた地であった。

 

 職人であるドワーフを護る意味合いも兼ねた賜与であったが、これをドワーフは蹴った。条件としてみれば決して悪くないのだが、長年住んでいた土地を手放す事をドワーフが嫌った形だ。

 

 ドワーフの土地に対する思い入れや拘りは、俺たちが思っているよりもずっと重かった。それだけの話だな。

 

 万が一に備えた避難とはいえ、住み慣れた土地から一時的に離れてくれと言って素直に従ってくれるだろうか?

 

 正直難しいとは思う。まぁいい。断れた時はその時はその時だ。

 

 所詮、保険でしかない。人族が攻めてこれないように第四師団に圧をかけて貰いつつ、ネクロに南の砦を奪還させる。それで全て解決する。

 

 懸念材料であった勇者が南の砦にいないのであれば、人族が無理に攻めてくるようなこともないだろう。

 

「一応、ドワーフの長老とは会っておくか」

 

 断られる事を前提として避難して欲しいと面談した際に伝えるつもりだ。正直パフォーマンスでしかないが、周囲の者には俺がドワーフを気にかけていると伝わる筈だ。

 

 こういった気遣いですら、今の立場では求められる。面倒な話だ。

 

「あ?」

 

 不意に部屋の扉が開いた。

 

 ノックもなければ声掛けもない。あまりに不躾な入室なのだが、部屋の入口に立っていた者を見て納得すると同時に不快感が込み上げてくる。

 

「相変わらず暇そうだな、平民」

 

「部屋に勝手に入ってきて、第一声がそれか」

 

 言い返せば、ニヤニヤとこちらを小馬鹿にするように大柄の獣人が笑み浮かべていた。

 

 獅子族の特徴的な鬣と、筋肉質な肉体。貴族である事を主張するような宝石の散りばめられた豪華な衣服。

 

 こうして、不遜な態度で俺に接してくる者は自然も限られてくる。

 

 この獣人の名前はレオ。

 

 レオ・グロースアルティヒ。

 

 俺のことをやたらと敵視している第三師団の師団長を務める男だ。

 

「事実だ、平民。吾輩の目には仕事もせずに椅子に腰掛ける怠け者が映っている」

 

「そう見えるならヒーラーに診てもらった方がいい。この魔王城に俺より忙しい者はいないと断言してやる」

 

「随分な物言いだな、平民。立場を弁えろ」

 

「そのまま返そう。第三師団の師団長が俺にそんな発言をしていいと思っているのか、レオ」

 

 相手は公爵の爵位を持つ貴族、対して俺はなんの身分も持たない平民。身分の差は明らかではあるが、戦時中である今のこの時に関しては貴族の爵位よりも魔王軍としての立場が重視される。

 

 つまり第一師団師団長───魔王軍の実質的No.2である俺の方が公爵であるレオよりも立場は上。それが気に食わないらしく何かと噛み付いてくるのがこのレオという男だ。

 

「魔王さまに腰巾着の分際で⋯⋯」

 

「その腰巾着よりも、弱いから俺より下の立場なんじゃないのか」

 

 魔王軍は分かりやすく弱肉強食だ。俺とリオンの地位が高いのは単純。俺たちが他の魔族よりも強い。それだけだ。

 

「まぁいい、俺もちょうどお前に用があったところだ。先の無礼な発言は聞き流してやる」

 

「平民ごときが吾輩に用だと」

 

 不快そうにレオが眉を顰めた。不快なのは俺も同じなんだがな。

 

 ため息を吐いてから、椅子から立ち上がってレオに歩み寄る。

 

 俺が一歩近付く度にあからさまに警戒して、身構えていた。不遜な態度を取る割に、俺の行動一つ一つに過剰に反応するな。

 

 少し離れた位置で立ち止まると、俺のことを睨むように凝視している。本当に愉快な男だな。

 

「そう警戒するな。別に取って食うわけじゃない。俺がしたいのはただの事実確認だ」

 

「確認だと?」

 

 言葉通り、ただの事実確認。

 

 裏切り者として疑っているわけでもない。ただ、俺が知り得た情報が正しいか本人の口から聞きたいだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、最近子供が産まれたらしいな」

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