俺がその話を耳にしたのは第三師団の執務室で、ニャゼッタと会話した時だ。
戦果や物資の消費量等、報告書に必要な事項を聞き出して、ニャゼッタと円滑な関係を築く為に雑談をしたのだがその際にレオの話題が上がった。
多くは愚痴であった。
上司であるレオの自慢話がウザイだの、人族が逃げ腰で戦ってて楽しくないだの、ニャスパーとは違う方向性で溜まりに溜まったストレスを吐き出すように愚痴をこぼしていた。
レオが毛嫌いしている第一師団の俺にそんな愚痴を聞かせてもいいのかと心配したが、逆だな。俺だから聞かせても問題がないんだ。
ニャゼッタがレオのことで愚痴っていたなんて、俺が言ってもレオは信じないだろう。わざわざ噂を広めるほど俺も暇ではない。
それが分かっているからこそ愚痴の捌け口に俺を選んだわけだ。なかなかにいい性格をしていると褒めてやりたくなったな。
しばらくニャゼッタの愚痴に付き合っていたところ、流石に聞き流せないワードが飛び出してきた。
師団長の子供自慢が鬱陶しい、と。
話を聞いているとレオの嫡男が一月ほど前に生まれていたことが分かった。
子供が生まれた事は喜ばしく、大変目出度いことではあるのだが普段の不遜な態度とは想像できない程に子煩悩で、子供がいかに可愛かと何度も何度も話すらしく鬱陶しくて仕方ないとニャゼッタがこぼしていたな。
それにしてもあのレオに子供か。
レオが2年ほど前に結婚したことも、夫婦仲が冷えきっていたことも把握している。だからこそレオに嫡男が生まれたことに驚いた。
何があったと、興味本位で聞きたくなったくらいだ。レオがなんの目的で
「それで、子供が生まれたというのは事実か?」
もちろん、昨日の今日ということもあり情報の裏は取れていない。あくまでもニャゼッタから聞いただけだ。
これが人族に関するものなら俺自身が動いて情報が正しいか精査するところだが、レオに子供が生まれたくらいのことならそこまでする必要もない。
一応、魔王さまへの報告があるので事実確認はする。
実は生まれてたよー、くらいの返答でいいのだが⋯⋯何故か、俺の目の前にいるレオが激昂している。
「貴様!なぜがそれを知っている!!!」
肉食獣特有のギラりとした血に飢えた瞳が俺を睨んでいた。
ゆらゆらと、象徴とも言えるレオの鬣が揺れる。肌に突き刺すように殺気と怒気、強い感情に鬣が連動しているかのようだ。
「⋯⋯⋯⋯」
「何とか言え、シェード・フィアルティ!!」
正直、レオが激昂している理由が分からない。なんでここまで怒ってるんだこいつ。
俺が嫌いだから身の回りの事を聞かれるのが嫌⋯⋯にしては反応が過剰だな。
「落ち着け⋯⋯俺はただ、本当に子供が生まれたか確認しているだけだ。まぁ、その反応で凡そ見当はつくがな」
「っ───!!」
露骨な反応は答えを言っているようなものだ。脳筋であるレオに腹芸ができるとも思えないしな。
魔王さまに報告することが増えたな。
まぁ、悪い報告ではない。公爵家に跡取りができたという目出度い話だ。
俺からもお祝いの言葉を送っておこう。
「俺とお前とはこれまで色々とあったが⋯⋯、今は過去を忘れて素直にお祝いの言葉を送ろう。おめでとう」
お祝いの気持ちが伝わるように笑みを浮かべて言葉を述べる。俺の想いが伝わったのか、先程まで肌を突き刺すように感じていた敵意が消えた。これなら大丈夫かと判断して、レオに歩み寄る。
近付いても攻撃されることはなかったな。ピクリとも反応しなかった。
───敵意の消えたレオの肩をポンと叩く。
「それにしても目出度いな。公爵家の嫡男、初めての子供だ。
「⋯⋯どういう、意味だ」
「言葉通りだ。子供は小さく脆い⋯⋯壊れないように気をつけろ」
特にお前は獣人族の中でも屈指の筋肉を誇るフィジカルモンスターだ。力加減を間違えて子供を握り潰すなんてことも起こりえる。
そんな悲劇が起きないことを俺は心から願っている。
「吾輩の子を、壊すというのか」
「それは
お前が力加減を間違えなければ問題ない。可愛すぎるあまりぎゅっと抱きしめるような事はするなよ。ニャゼッタの話を聞いていると、お前はやりそうで怖いんだよ。
そういう意味で、気を付けるように忠告したのだが⋯⋯何故か、青ざめた顔でレオが震えている。
───なぜ?