「こいつの魅力に気付いてるのアタシだけでしょw」って舐めてたら、NTRれて精神崩壊するヒロインたちの様相 作:破滅
1.
月曜日、放課後。姶良とその取り巻きたちは、人気のない四回の踊り場に心春を呼び出して取り囲んでいた。
バンッ、と心春の逃げ道を塞ぐように壁ドンする姶良。
「あのさ、あんま調子乗んなよ?」
天然の金髪、父親譲りの鋭い目つきと通った綺麗な鼻筋の整った容姿。
学園を牛耳る生来のカリスマと理事長の孫娘という権力。
この年頃の少女にとって『力』と言えるもの全てを兼ね備えた学園の女王の恫喝にしかし、心春は涼しい顔をしていた。
「(なんでコイツ涼しい顔してんの? アタシが怖くないの?)」
いくら転校生で姶良のことをよく知らないと言えど、普通、取り巻き数人を従えた美人に人気のないところに呼び出されて恫喝されれば竦み上がる。そもそも、これだけ目立つ姶良の存在感に数日も学園に滞在して気付かない方がおかしい。
何かあるかもしれない。
けど、姶良がずっと目を付けていた俊一を搔っ攫っていたこの女が許せないという感情が勝つ。
「あのさ、俊一に絡むのやめてくんない?」
「どうしてですか? ……私は、俊一くんの彼女ですよ?」
「でもその、俊一はアタシのだし」
「そうだよ。谷山はずっと姶良が目を掛けていて――」
「つまりその、竜ヶ水さんの方が先に俊一くんとお付き合いをしていたってことですか?」
もしそうなら、俊一は姶良とお付き合いしていたにも関わらず心春の告白を了承し浮気したということになる。
「えっ、いや……」
が、当然そんな事実はない。
姶良の俊一に対する行為は一方的なもので、その関係性はあくまでもギャルとそのパシリでしかなかった。告白もしていないし、当然付き合ってもいない。
そして、俊一に彼女がいたことがないという事実は、当然心春は把握済みである。
この女、理解った上で問い詰めている。
「俊一くんが二股してたなら問題です。彼を呼んで三人で話す必要がありますね。竜ヶ水さん、俊一くんは貴方の何ですか?」
「パシリ、だけど……」
「ではむしろ、貴方が俊一くんに関わるのをやめてください。俊一くんは私の彼氏なので、他の女性と親しくされると気分が悪いです」
呼びつけて囲んで脅して、心春から俊一を取り戻す心算だったのに、蓋を開けてみれば心春は怯まず理路整然と事実を並び立て、姶良の失恋の傷をぐさぐさとめった刺しにする始末。
姶良は泣きそうだった。
「私、俊一くんと帰る約束しているので。もう行きますね?」
ピシャッと言い放った心春の鞄に、ハートの片割れの形になっているイルカのキーホルダーが付いているのを見つける。
イルカのキスを見ることが出来ればその恋人は長続きするという迷信があるあの水族館の、名物ペアキーホルダー。
姶良が俊一とあの水族館に行ったら絶対に買おうと思っていたキーホルダー。
この女のことだ。間違いなく俊一とペアで購入しているだろう。
姶良の脳裏には、二人のデートを尾行した時――イルカのキスが見られなかったからと、俊一のファーストキスを奪った心春の光景がフラッシュバックしていた。
姶良が仕掛けたこととは言え、心春の言葉の暴力で傷心をボコボコに殴りつけられ、ずっと俊一のことが好きで自分が付き合うはずだったのにいきなり現れて横取りして――姶良がしたかったことを次々に奪っていくこの悪魔のような女を前に情緒が完全におかしくなっていた。
姶良は心春のキーホルダーに手を伸ばす。
「なにこれ、ダサいキーホルダー」
「それは――!」
心春の顔色が初めて変わった。
鞄から強引に引きちぎって、奪い取る。それを床に落とした。
あまり丈夫ではないらしく、地面に堕とされたそれは破片となって、散らばってしまっていた。
膝を着いた心春は青褪めた顔で、破片に手を伸ばす。姶良はそれを踏みつけた。
「あっ――」
心春は痛みに顔を歪ませる。姶良の胸の奥からゾクゾクと快感のようなものがせり上がって来る。全てを奪い憎たらしくてしょうがなかったあの心春が痛みと悲しみに顔を歪ませている。
この学園において姶良は絶対的な女王。思い通りにならないなんてことはない。
俊一を取られファーストキスまで奪われたのは誤算だったけど、結局心春もただの女の子なのだ。
「これに懲りたら俊一には近づかないこと」
姶良は髪をかき上げて、去っていく。心春は落ちた破片の塊を、冷たい目で見ていた。
2.
パァン。
「姶良、お前なんてことをしてくれたんだ!」
帰宅するなり、玄関で待ち構えていた父親に姶良はいきなり頬を打たれた。
「えっ? あっ、えっ?」
くだらない虐め行為で精神的勝利を決め込みご満悦だった姶良に冷や水を差し込むような強烈な一撃だった。
「苦情が入った。なんでも生見さんとこの娘さんの大事なものを壊した上に、破片を拾おうとしたところを足で踏みつけたそうだな?」
「は? え? な、なんで……?」
心春にアレをした後、取り巻きたちとカフェで駄弁って帰ってきただけ。三時間ほどしか経っていない。
それが多忙な父親に既に知られているのも驚きだし、そもそも姶良に基本無関心な父がわざわざ玄関で待っていたということが信じられない。
「何でもなにも、生見さんは有名な資産家で竜ヶ水グループにも多額の寄付をしてくださった。学園に入学するので娘をよろしくお願いしますってな。なのにお前のせいでこっちの面目は丸つぶれだ。向こうもカンカンに怒っている」
「えっ、でもだってそんなの聞いてないし」
「お前が人のモノ壊して更に踏むようなクズだなんて思わないだろ。言うまでもないと思ってたんだ」
姶良はパクパクと口を開く。楽しかった気分は一点、頭から血の気が引いていくのがわかった。めまいがする。気を失って逃げれたらどんなに楽だろうか?
「(えっ? これ夢? 悪夢? 最悪。終わった。どうしよ)」
「でも、生見さんのご令嬢はお前が謝罪してくれたら今回の件は水に流すと言ってくれている。本当に心が広い、素晴らしい方だ。良いか? 明日学校行ったら必ず謝罪しろよ。良いな?」
「えっ、でも……」
姶良からすれば、俊一を横取りした心春が全部悪いはずなのに自分が謝らないといけないというのが耐えがたかった。
その躊躇の姿勢に、怒り心頭だった姶良の父、竜ヶ水 玄瑞は怒髪冠を衝く。
「チッ。はぁ。娘にこんなことはしたくなかったんだが、理解ってなさそうだししょうがねえよな」
「えっ、ちょ、待って! パパ!」
姶良の髪を引っ張って洗面所に連れて行く。棚から取り出したのは、バリカンだった。ヴィィィィンと機械の音が無情に響く。
「ねえ、嘘でしょ! 私女だよ? やめて! ねえパパ!」
「うるさい!! そもそもお前が人のもの壊したりしなければ良かったんだろうが!! 状況理解ってんのか? 許して貰えなかったらお前が――学園の理事を務める我が家の娘が虐めの首謀をしていた不祥事が世に出回ることになる。そしたら学園の信用はがた落ち。大失態だ!」
父親の 責に、姶良はようやく状況を理解した。
姶良は理事長の孫娘である。それを理由に学園では好き勝手に振る舞っていたが、漫画みたいに、理事長権限で気に入らない奴を退学にしたり強権を使ったりなんてことは出来ない。
むしろ、学園の運営に携わる一族の娘として人一倍厳しい目で見られ、誰よりも模範的な振る舞いをしないといけない立場なのだ。
今までは、姶良はそれを理解っていた。
だからこそ勉強もスポーツも行事も積極的に頑張ってきたし、俊一をパシリにする以外は横暴なこともほとんどしていない。
姶良は、色恋が絡んだ時だけ理性を失ってしまうタイプの女子だった。
今回は、嫉妬に狂った結果暴走してしまっただけなのだ。
玄瑞に頭を押さえつけられ、ゴリゴリゴリ、と母親譲りのブロンドヘアーが剃り上げられていく。姶良の目からは大粒の涙がボロボロ流れている。しかし、事の重大さを理解したからか、暴れたりするようなことはなかった。
鏡に映るのは、顔立ちは整っているが眼は赤くはれ、メイクは上がれ、髪の毛は坊主になった惨めな女の姿だった。
「鬘を着けていくのは許してやる。だが生見さんのご令嬢の前では丸めた頭を見せて土下座でもしてしっかり謝罪して来い。良いな?」
「……理解った」