「こいつの魅力に気付いてるのアタシだけでしょw」って舐めてたら、NTRれて精神崩壊するヒロインたちの様相 作:破滅
1.
それは、偶然が重なった結果だった。
俊一はいつも通り、通学するために決まった時間の決まった車両に乗る。立つ場所も何となく毎日同じような場所に落ち着くし、同じような顔ぶれが並ぶことにも気付き始める。
だけどその日は、見慣れない女の子が立っていた。制服が俊一と同じ高校のものなのに、見たことない顔だったから少し気になった。
違う学年で、いつもより早いか遅い便に乗ったのか。
唇を噛み俯いている。よく見ると、スーツを着た壮年の男が鞄をスカートの下に潜り込ませて押し当てていた。痴漢の現場だった。
俊一は善人ではない。故に、痴漢被害に遭っている女の子を見ても助けようとしたりはしない。そもそも極度の人見知りなのでそんな勇気もない。
ただ、下衆な野次馬根性だけは人一倍だった。
「(うわ、痴漢とか初めて見た。実在したんだ。クシキノにも送ってやろ)」
痴漢現場を盗撮する。バレても証拠写真を押さえましたと開き直れば無罪だという打算が頭の中で処理される。まあ証拠として提出するつもりはないのだけど。
カシャッ、とシャッター音が車両内で響いた。
注目が集まる。痴漢をしていたサラリーマンは気まずそうに眼鏡を直し、青褪めた顔で逃げて行く。
「あの、ありがとうございます。助けてくれて」
助けたつもりなんて一ミリもないし、シャッター音を切り忘れていたのは偶然だったので話しかけられて驚いていた。いや、むしろ笑いものにするためだったのに結果として助けてしまう形になっただけに気まずい。
「い、いえ……」
「あ、制服、やっぱ同じ学校ですよね! 私、実は今日転校してきたばっかりなんですよ。なのに初日からこれで、ついてない……って思ってたけど、優しい人に助けてもらったから逆にラッキーかも、みたいな? えへへ」
「あ、はぁ」
そうでなくとも、俊一は陰キャだった。極度の人見知りだから、初対面の女子ってだけでも気まずいのに。なんかぐいぐい来る。
だけど、後ろめたさみたいな感情も相まって邪険にしずらい。
「そう言えばお名前聞いてませんでしたね。私、生見 心春です」
「えっと、山田太郎……」
「山田さんですね、覚えました。お見知りおきください」
明らかな偽名っぽい名前に、特に疑う様子もなく挨拶をする。
肩口の長さに切りそろえられたしっとり黒髪と、傷一つない白い手、人当たりの良さそうで自分が可愛いことを自覚してそうな屈託のない笑顔と、ぐいぐい詰めてくる距離感。
このタイプは大きく分けて二つ。一つは打算的な清楚系ビッチで、愛想良くしている裏ではとても計算高いタイプ。もう一つはひたすらに育ちが良い天然運ガキ。心の根っこから善人でそれゆえにデリカシーがないタイプ。
前者なら、転校序盤の足掛かりとして惚れさせることでしばらく利用しようと画策しているだろう。後者なら、ただ感謝してて仲良くなりたいと本気で思ってるんだろうけど、陰キャの天敵である。
どっちにしても、関わる理由がない。
「そう言えば、どのあたりに住んでるんですか? 同じ電車ってことは駅近いんですかね? それと――」
ぺちゃくちゃと一方的に話しかけてくる生見に生返事しながら、学校まで歩く。明らかに邪険にされてるのに、彼女は気分を害した様子もなく近づいてくる。
「(まあ、同じクラスになるわけでもあるまいし、今後関わる事もないだろ)」
2.
「転校生を紹介する。これから同じクラスになる、生見心春さんだ。仲良くしてやってくれ」
「(なんで同じクラスなんだよ)」
隣に新しい机と椅子があるのを見た瞬間から嫌な予感はしていたけど、現実になった。
「同じクラス、しかも隣の席なんですね? 教えてくれれば良かったのに。山田太郎……いや、
教師の手元にあるクラス名簿をチェックしたのだろう。
「どうしてさっきは偽名を名乗ったんですか?」
「いやその……そういう冗談で」
「あ、拙者名乗るほどのモノではの婉曲バージョンってことですか? それは気付けませんでした。次からはツッコめるように頑張ります!」
心春の言葉だけを取ればどこか皮肉めいているのに、目をキラキラさせながらグッと手を握る様はまるで嫌味を感じない。多分本気で言っているのだろう。ものすごく苦手なタイプだ。俊一にとって。
「それより、私転校してきたばっかりで右も左もわからないから色々教えてください」
「あ、えっと……」
「とりあえず、今日のお昼休み、ご飯食べれる所案内してくださいよ。学食とか、購買とか」
「ちょっと待って。女子の案内をその陰キャに任せるとか意味わからんくない? 転校生の案内は女子の方が適任でしょ」
ぐいぐいと俊一に押し寄せてくる心春に、姶良が牽制した。
「いえ、私は谷山さんに案内して欲しいです。諸事情あって今朝は助けて貰いましたし。それとも彼が私を案内したら不都合でもあるんですか?」
「いや、だってそいつはアタシのパシ……」
ギラリと先生の目が光り、姶良はその口を噤む。
「そうだな。本人も望んでるみたいだし、谷山、転校生はお前に任せて良いか?」
できません、と断れるはずもない。
そんなこんなで姶良の抵抗も虚しく、俊一は心春の案内係と相成った。
3.
俊一は陰キャで人見知りであるが、コミュ障というわけではない。
夏生と二年以上友達やれていたりするし、むしろ気心が知れれば饒舌になっていく典型的な内弁慶タイプである。
休み時間、昼休み、そして放課後と接触を重ねていくことで、最初は苦手意識バリバリだった生見 心春という存在にも慣れてくる。
相変わらず、苦労知らずっぽいところとか、悪意なく皮肉めいたことをずけずけ言ってくるところは好きではないけど、それを差し引いても顔が良い女の子がニコニコ接してくれるなら嬉しいという感情が勝ち始めていた。
痴漢から結果的に助けたという偶然の産物ではあるが、女の子が初対面からこうも好意的に接してくるのは俊一にとっては初めてと言える出来事でもあった。
「ねえ、谷山くん。私たち付き合いませんか?」
そんな一日目の帰り道。駅まで向かう道中で俊一を早足で追い越した心春は、振り返って唐突に告白をした。
「えっと、お付き合いってその、恋人になる的な?」
「そうです」
「いきなり過ぎない?」
「でも、好きになっちゃいましたから。谷山くん、案外モテるみたいですし。誰かに取られる前に告白しちゃおうって思って」
「俺が、モテる……?」
「気付いてないなら気にしないでください。それに私、せっかちというか、まどろっこしいの嫌いなんで」
「理由を聞いて良い?」
「えっと、好きになったのにうだうだ告白とか躊躇って、後で誰かに取られて、ああもっと早く告白しとけばよかったって後悔するの、馬鹿らしいって思いませんか?」
「あ、いや、そっちじゃなくて、その、好きになった理由の方」
「あ、そっちか。すみません」
顔を赤くしてぺこぺこする。
「単純。転校初日に痴漢されて、人いっぱいいるのに誰も助けてくれなくて。そんな中で、谷川くんだけが助けてくれて」
「それだけで?」
てくてくと距離を詰めてその人差し指を、俊一の胸に当てる。いつの間にか敬語も外している。自分が可愛いことを自覚していてその上で、距離の詰め方を理解している。
「ううん。その後、谷山くんはさ私に凄く素っ気なかったじゃん? いっぱい喋ってるのに生返事で、迷惑そうな顔してて。おまけに名前も嘘吐くし。私のこと嫌いなの!?ってちょっと傷ついたけど、それでも痴漢から助けてくれたから、あ、好意とか下心じゃなくてただ助けてくれたんだって思って。気になって。それで話してみたらだんだん打ち解けて、最初の素っ気ない態度も嫌いとかじゃなくて単純に人見知りなんだなって思って。なのに助けてくれたって思うと気が付いたらどんどん好きになってて」
「いやでもそれ、偶然だし。って言うか助けようと思ったわけじゃ」
「まあ谷山くんならそう言うかもしれないけど、要するに、あの時結果的にでも、助けてくれたのが本当に嬉しかったの。本当に怖かったから」
そう言われると、もう、何も言えなかった。
「それで、どう? 谷山くん。私と、付き合ってくれる?」
「えっと、その、まだ初日だし、生見さんのこと好きとかじゃないし」
「それでも良いよ。付き合ってるうちに、絶対好きにさせるから。それとも、今、好きな人とかいるの?」
「それは、いないけど」
「じゃあ私と付き合うのは絶対に嫌? これでも結構可愛いと思うけど」
「まあ、うん。嫌、ではないけど」
「じゃあ、付き合ってくれるよね?」
「……はい」
転校初日。断る理由を徹底的に潰され、半ば押し切られるような形で谷山 俊一は生見 心春の彼氏になった。