「こいつの魅力に気付いてるのアタシだけでしょw」って舐めてたら、NTRれて精神崩壊するヒロインたちの様相   作:破滅

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第5話

 転校生に馴れ馴れしく繋がれた俊一の手、くっつけられた肩。

 まさかと思って、嘘だと言って欲しくて俊一に縋って見るけどその首は容赦なく縦に振られる。

 

「嘘、だよね?」

 

「本当」

 

 俊一の言葉でトドメを刺される。膝を折って泣き叫ばないのは、竜ヶ水姶良がこのクラスの女王であるが故の矜持だけだった。

 

「ど、どうして? 俊一は、今までアタシのパシリだったじゃん。そうだよ。別に、恋人が出来ても俊一がアタシのパシリだってことは変わらないじゃん。ねえ、買って来てよ、パン。おつり、あげるから」

 

 姶良は震える手で千円札を、いや少し考えて一万円札を出す。

 

「そんなことより俊一くん、外行こう。天気良いし。実は、俊一くんの分まで作って来たんだよ」

 

 姶良なりの必死のアピールは、心春に軽く一蹴される。

 

「(そ、そんなこと……?)」

 

「えっ、そんな悪いよ」

 

「遠慮しないでください。私たち、恋人なんだから」

 

 他の人には敬語なのに、俊一に対してだけタメ口で親し気。

 素直で清純そうで、しかも弁当まで作ってくれる尽くす女で。男に好かれそうな要素を詰め込んだような、こんな、こんなビッチに俊一が……。

 

 手を引かれ遠ざかって行く俊一に、姶良は声を。

 

「ま、待って! なんで、なんでその転校生の方に行くの? だって俊一、今までアタシのパシリだったじゃん」

 

 縋るような姶良の声に、俊一は立ち止まって振り返った。

 ドクン、と心臓が跳ねる。戻って来てくれる、俊一が。姶良の心が期待で満たされていく。

 

「いや、恋人とのご飯とパシリで後者を選ぶわけないでしょ」

 

 そりゃそうだった。

 

 俊一は心春と手を繋いで遠ざかって行く。

 

 当たり前だった。

 

 片や、ちゃんと告白してくれた彼女と、手作り弁当をお日様の下で共有する恋人との昼休み。

 片や、お釣りあげるからとお金を渡されて購買まで走る昼休み。

 

 どっちを選ぶかなんて考えるまでもない。自明の理。熟れたリンゴが地面に向かって落ちるくらいに当然の摂理。

 

「(あぁぁぁ、行かないで。行かないで俊一ぃぃい)」

 

 時すでに遅し。

 

 パシリにすることが、何の愛情表現にもなっていないと今頃気付いたとしても、俊一には既に恋人がいる。もう、姶良のパシリじゃない。

 

 

3.

 

「俊一くん、あーん」

 

「えっ」

 

「遠慮しないで。私たち、恋人でしょ」

 

 中庭にあるベンチで、俊一は心春の作って来たという手作り弁当を食べていた。

 

「美味しい?」

 

「うん、まあ……」

 

 潔癖というわけではないけど、他人の作ったご飯を食べるのが苦手なので俊一は内心微妙な気分だけど、味自体は美味しかった。

 そんな様子を、廊下から覗き見ている人が一人。

 

「(手作りの弁当を持って来る!? しかもあーん? 重すぎでしょ。痛すぎでしょ、この女。そんな浮かれたカップルみたいな真似……アタシがやりたかった)」

 

 竜ヶ水姶良である。

 

 いつもなら俊一をパシリにして、取り巻きたちを侍らせながら教室で女王様をやっている姶良も、今は単なる出歯亀女に成り下がっていた。

 

 ベタベタとくっつき、いちゃいちゃしている俊一と転校生。

 

 転校してたった一日で、特に旧知の仲とかでもなかったのにもう付き合って、こんなにいちゃいちゃして。

 

「(あれ……プライドとか言ってないで素直になってたら、今、俊一の隣にいたのはアタシだったのかな)」

 

 ここは教室じゃない。誰もいないからこそ虚勢が張り切れず、姶良の目から涙が零れ落ちてくる。

 好きだった、俊一のことが。

 

 なのに伝えられなかった。淑女足るもの自分から想いを伝えるのははしたないし、男から言ってくるのを待つべきだと教えられたから。なんてのは建前だ。本当は本心を明かすのがただ……怖かったし、恥ずかしかった。

 

 その結果が、これである。

 

 後悔先に立たず。取られてしまったものは仕方がない。一日で付き合ったなら、一日で別れる可能性もある。

 この失敗を糧にして、次、俊一がフリーになった時は素直に伝える。

 

 ……つもりだった。

 

「ねえ、俊一くん。明日土曜日だよね。デートしない?」

 

「デート?」

 

「うん。恋人だから」

 

「良いけど、どこ行くの?」

 

「うーん、水族館とかどう? 魚好きだし、あと、近くにオシャレな喫茶店もあるらしいんだよね。行ってみたいな」

 

「(あっ、それアタシが行きたかったところ……)」

 

 ぷつりと、姶良の中で何かが切れた。

 県内に唯一ある水族館。その近くにあるオシャレな喫茶店。夜な夜な姶良がシミュレーションしてきた、いつか俊一と恋人になった時の為の36個のデートプランのうちの一つだった。

 

「良いよ」

 

 俊一は承諾する。断らない。

 今まで姶良がしてきた妄想の、自分の位置があの転校生に書き換わって行くのを感じる。

 

 暗い水族館で手を繋いだり、イルカの水しぶきを浴びて笑い合ったり、喫茶店で他愛のない話を共有して、最後は近くの港で夕日を見ながらキス……。

 取られる、俊一を。やりたかったこと全部、先に、あの心春とか言う泥棒猫に、取られてしまう。

 

「(……っていうか、何あの転校生。いきなり出て来て。一日で付き合うとか頭おかしすぎでしょ。俊一はアタシが唾つけてたのに)」

 

 実際、姶良がパシリにすることで誰も俊一に寄りつかない状況は作れてた。

 別に姶良から無理して告白しなくても、いつか向こうから言い寄らざるを得ない状況は作れてたはずだ。

 

 なのに、いきなりやってきて、たった一日で全部ぶち壊された。

 

 後悔、嫉妬、その先にあったのはドロドロとした黒い怒りの感情だった。

 

「(潰す、あの女絶対に潰す。一日で俊一のこと好きになったとか眼鏡の奥の顔目当てに決まってる。どうせそんなに好きじゃない。アタシの方が俊一のことすきに決まってる。ただちょっと告白が早かっただけの、品性も恥じらいもないクソビッチに、全部取られて良いわけない)」

 

 姶良の脳内は既に、転校生をいじめる算段が組み上がっていた。

 

「(アタシがちょっとイジメれば、ビビッて俊一と別れる。そしたら俊一はまたアタシだけのパシリ)……ふふっ。月曜日まで俊一は貸してあげる」

 

 邪悪な笑みを浮かべポツリと呟いた姶良の声を聞いていた人は誰もいなかった。

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