「こいつの魅力に気付いてるのアタシだけでしょw」って舐めてたら、NTRれて精神崩壊するヒロインたちの様相   作:破滅

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第8話

2.

 

 誰あのイケメン。隣の彼女も可愛い。美男美女カップルじゃん。うわ、羨ましい。

 

 服屋を出て、フォームチェンジをした俊一はただのイケメンだった。

 

 青いジャケットに、黒いシャツ、グレーのパンツ。簡素なデザインなのに全部合わせて5万円ちょっと。かなりの大金を心春は躊躇いなく出した。代償として、俊一は眼鏡を没収された上に買ったワックスで前髪まで上げられている。

 

 猫背は相変わらずだけど、彼を陰キャと思う人はもういないだろう。

 

 男好きする格好なのを差し引いても美少女である心春と並べば、どこに出しても恥ずかしくない美男美女カップルであり、通りすがりの人たちは思わず振り返っている。

 

「あの、目、あんまり見えないんだけど……」

 

「じゃあしっかり手、繋がないとだね」

 

 心春に指を絡められてギュッと握られる。恋人繋ぎだった。思わず俊一はビクッと背筋が伸びる。猫背を直すと、俊一は思いの外背が高い。身長は180弱ある。

 心春は肩を寄せる。

 

「背も伸ばしてた方が格好良いよ」

 

「いや……。わかった」

 

 不服はある。眼鏡を取ったせいで目は見えないし、視線が怖くて隠していた目も前髪を上げられたことで晒されているし、その上猫背をやめて背筋を伸ばすのは疲れてしまう。

 

 大変なことを強いられているけど、五万円ちょっとの洋服を奢られた後なので俊一は心春に逆らえなかった。

 

 心春は、ご満悦である。誰が見てもイケメンに見える男と手を繋いで、これから、行ってみたかった水族館でデートする。羨望の視線が心地良い。

 

「(あぁぁああ! おにぃイケメン過ぎる! えっ、眼鏡取ったら格好良いって思ってたけど、こんなにイケメンだったの!?)」

 

 そんな羨望の眼差しを向ける道中の一人(谷山あずき)が心の中で絶叫していた。

 

 もちろん、髪型と眼鏡だけじゃない。上下5万円の服も、俊一のイケメンを加速させている。元がイケメンだからブランドを着用しても、しっかり様になっている。着せられている感じがしない。

 

「(えぇぇっ、たった五万円の服を買ってあげるだけであのイケメンと手を繋いでデート出来たの!? うわぁぁ、ならアタシが買ってあげたのにぃぃ!!)」

 

 そしてもう一人、俊一と心春のデートを尾行している女がいた。

 

 そう、竜ヶ水 姶良である。

 

 親がお金持ちの姶良にとって五万円は大金ではあるが、払えない額ではない。というか、俊一の眼鏡外して前髪も上げさせて手を繋ぎ放題肩もひっつけ放題の権利が得られるなら余裕で払いたい額だった。

 

 しかし、姶良は心春と違い自ら好意を伝えるということをしてこなかった。

 

 その結果がこれである。

 

 そしてこれから、あずきや姶良が俊一と行きたかった水族館に、イケメンになった俊一が心春と手を繋いで、向かう――。

 

 

3.

 

 この町の水族館には有名なジンクスがある。

 

 イルカのキスを見ることが出来れば、そのカップルは永遠に別たれない。

 そんな浮ついた話を俊一が知るはずはないが、彼を誘った心春や、誘いたかったけと勇気が出なかった姶良、先を越されたあずきは当然知っていた。

 

 手を繋いで入場する俊一と心春の後を二人は追う。

 

 姶良はいつか俊一を誘おうと思って用意していた年間パスポート(複数人利用可)でスムーズに入場。あずきは今日の為に取っておいたペアチケットを使う。

 

 クレジットで二人分の入場料をスマートに払った心春の後を追う二人は、とても痛ましい。

 

「俊一くん、暗いから逸れるかも」

 

「さっきから一応手は繋いでるくない?」

 

「そうだけど……」

 

 むぎゅっ、と胸を押し付けるように腕に抱き着いた心春。

 

「「((あの女、やりやがった!!))」」

 

「(恥ずかしげもなくアタシの俊一にベタベタ触って。後で覚えてろ……)」

 

「(にぃ、ダメだよ。そいつ絶対ビッチだよ。騙されちゃダメ!!)」

 

 腕に柔らかい感触を押し付けられた俊一は一瞬ビクッと背筋を伸ばすけど、すぐに気持ちを押し付ける。制服の上からでも小さくないとは思っていたけど実際に押し付けられるとちゃんと大きいし、しかも柔らかい。

 男である以上、これに何の感情も抱かないのは不可能だった。

 

「ねえ、俊一くん。知ってる? この水族館のイルカショーでね、雄雌のイルカがキスをするのを一緒に見たカップルは未来永劫別たれないんだって」

 

「へぇ、伝説の桜の木の下みたいな?」

 

「ん? どういう意味?」

 

「いや、何でもないです」

 

 R18ではないけど、恋愛SLGのネタをデート中にぽろっと出してしまうあたり、俊一の乏しい経験値が伺える。

 

 二人で水族館を回って行く。

 

 ペンギン、イワシ、アザラシ、クラゲ、貝……そしてイルカ。

 

 ショーが始まる。

 

「(イルカは毎回キスするわけじゃない。今日はするな。今日はするな。今日はするな)」

 

 後ろからこっそり見物しているあずきと姶良の内心は同じだった。

 ジンクスを本気で信じているわけではない。だけど、想い人が自分以外の女とそれを共有するところを目の前で見せられるのが耐えられない。

 

 イルカは水しぶきを上げ、芸をする。

 

 イルカの数は5匹。派手なショーだった。しかし、イルカがキスをする縁結びイベントは雄雌一匹ずつのショーだ。

 

「今回は、例のジンクスのやつはなさそうだな」

 

「そうだね。でも必要ないよ」

 

 心春は俊一の襟首を掴んで引き寄せて、そのままチュッと唇を重ねた。いきなりファーストキスを奪われた俊一の目が見開かれる。

 

「イルカじゃなくて私たちがすれば済む話でしょ?」

 

「(やりやがった! あの女やりやがった! は? 今俊一にキスした? アタシの俊一にキスしたよね)」

 

「(なな、嘘。イルカのキスはないのに自分がするの? ってか肉食系過ぎない? 女の子の方から躊躇なくキスって、羞恥心とかどうなってんのあの人!!)」

 

「帰りに、イルカのペアネックレス買おうね」

 

「う、うん」

 

 さらに、着けていれば幸せな恋愛が続くという迷信があるペアネックレスの約束まで。あずきや姶良がやりたかったことを、俊一の初めてを、全部心春が目の前で奪っていく。

 

「(ちゃんと勇気を出せていれば、あそこはアタシが……)」

 

「(アタシがおにぃとするはずだったのに。どうして……)」

 

 まだ、デートは終わらない――

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