「こいつの魅力に気付いてるのアタシだけでしょw」って舐めてたら、NTRれて精神崩壊するヒロインたちの様相   作:破滅

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第9話

1.

 

「……おかえり」

 

 夕方、俊一が家に帰るとあずきはソファに座っていた。いつものシャツとハーフパンツの上からパーカーを羽織っており、寝転ばず所在なさげに腰掛けている。

 元気がないように見えた。

 

 心春と俊一が水族館デートを楽しんだのは昼過ぎのことだけど、外はすっかり暗くなってしまっていた。

 

 あずきは、二人が喫茶店でいちゃいちゃし始めた辺りから見ていられなくなり、帰宅したのだ。その後の動向を、知らない。

 

「ねえ、おにぃ。その、してきたの?」

 

「えっ、何、急に」

 

「デート。その、カフェの後、どうしたのかなって」

 

「……何で知ってるの?」

 

「あっ、いや……」

 

 あずきにデートの予定を話した覚えはない。言っている場所を知っているのは、こっそり付けていたと白状するようなものだ。あずきは墓穴を掘っていた。

 目が泳ぎ、唇を噛む。どうする……? どうすれば良い?

 

 つけていたことは知られたくない。でも、あの後心春とどうなったのかは気になる。いや、知りたくない。もしキス以上のことまでしていたと言われて、壊れない自信があずきにはなかった。

 

「……おにぃの彼女、どんな人なの?」

 

「えっ、本当に何、急に」

 

 あずきの手が、俊一の手首に伸びる。恋人との事情なんて、妹に話すのは気まず過ぎる。俊一とて、あずきに彼氏が出来たとしてその内容を根掘り葉掘り聞かされたら気まずい。

 

 だから、興味本位で聞かないで欲しい……と、煩わしく思ったけど、考え直す。

 

 あずきに、揶揄う雰囲気はなかったから。

 

 俊一は少し逡巡してから、あずきの隣に座った。

 

「ついて来てたの?」

 

 あずきは、俊一の目を見る。別に怒っている様子はない。俊一はあずきが泣いてる時、いつもこうして隣に座って「どうしたの?」と優しく聞いてくれる。その声音に似ている。

 あずきは、誤魔化そうとしたけどやめた。

 

「うん」

 

「そう。どこまでついて来たの?」

 

「カフェ。……水族館、友達からペアチケット貰ったから、おにぃと一緒行こうと思ってて」

 

「そっか」

 

 昨日、あずきがいつもよりしつこく挑発してきた後に、水族館に行こうと誘ってきたことを思い出す。思い付きかのように言ってたけど、チケットを用意していたと聞いて俊一の胸にチクリと痛みが走った。

 

「あのカフェ、凄く有名なの。イルカのキスを見た後、ペアドリンクを二人で飲んだら永遠に結ばれるって。飲んで来たの?」

 

「まあ、うん……」

 

 心春が奢るからと頼んで、飲み口が二つあるストローを共有した。

「もう直接キスしたんだから、これくらい出来るでしょ?」と言われて、渋々了承した。キスとはまた別種の恥ずかしさに襲われたことを思い出していた。

 

 あずきは泣きそうな目で俊一を見ていた。俊一は、あずきが唯一心を許している兄が、恋人に取られるようで寂しがってるんだと解釈する。

 

「彼女さんってどんな人なの?」

 

「どんな人って言われても、まだ知り合って三日しか経ってないし……」

 

「三日!? なんで? なのにもう付き合ってるの?」

 

「まあちょっと色々あって、初日の放課後に向こうから告白してきて」

 

「色々って何?」

 

「色々はまあ色々だよ」

 

 心春が痴漢に遭ってて、面白半分でネトゲのフレに共有しようとしたらシャッター音でバレて結果的に助けたら、なんか惚れられて告白したというのは、色んな意味で白状しづらい。

 

 俊一が話したくなさそうなのを察して、あずきはこれ以上追求しない。代わりに

 

「なんでOKしたの? 知り合って一日なのに」

 

「まあぐいぐい来られたし。他に好きな人いないんでしょって。まあ実際そうだったし、心春、いっぱい話しかけてくれたし。顔も可愛かったし。何より――」

 

「何より?」

 

「初めて、女の子に好きって言われて嬉しかったから――」

 

 ぶわっと、あずきの目に涙が溜まる。

 

「なにそれ……。アタシだって、アタシだって何度もおにぃに好きって言ったじゃん」

 

 あずきはずっと言っていた。

 小学生の頃までは。毎日のように「おにぃ大好き♡ 大きくなったら絶対結婚しよう」って言っていた。その度に俊一は「まあ大人になっても気が変わらなかったらね」と飄々と流し続けていた。

 

「いや、それはノーカンじゃん。あずきは妹なんだし」

 

「でも血の繋がりない!」

 

「そうだけど……」

 

 小学生の妹が「好き! 結婚しよう」なんて言ったとしても、真に受ける兄は存在しない。確かにあずきは血の繋がりのない義理の妹で法的には結婚だって可能だけど俊一は、実妹のように思っている。

 

 一方で、だんだん美少女として成長していき、身体付きも女らしくなってくるあずきが薄着で挑発を繰り返すから、それに対してやましい気持ちを持ったことがないと言えば嘘になる。

 

 その度に自分は兄だからと律してきた実績がある。

 

 だからこそ、俊一は荒ぶるあずきに困惑していた。どうして泣いているのか、理解出来なかった。いや、理解を拒んでいた。

 

 あずきが、兄妹ではなく異性として自分を見ているのだとしたら。好意を抱いていたのだとしたら……。これまでしてきたメスガキムーブの意味合いが180°変わってしまう。

 

「(いや、あずきは……俺に彼女が出来て寂しがってるだけ)」

 

 じゃなかったら、これからどう接していけば良いか理解らなくなるから。あずきが甘えられる家族は自分だけだと自負しているから。

 そうあって欲しいという願望ですらあった。

 

 そんな俊一の動揺を、あずきは見逃していなかった。

 

「(彼女に先は越されちゃったけど。おにぃ、やっとアタシのこと異性として意識してくれたかも♡ おにぃを奪う。いや、取り返す♡ あんな男に媚び売るのが上手いだけのビッチにおにぃは渡さない♡)」

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