【千代の家(小さな長屋)――夜】
薄暗い長屋の奥。あかりは古びた布団に寝かされ、苦しそうに息を吐いていた。
その傍らで、千代は何度も冷たい水で手ぬぐいを絞り、あかりの額に当ててつきっきりで看病している。
その隣の部屋。
行灯の微かな光の中、兄の立花創は、あかりが倒れた拍子にカバンからこぼれ落とした「未来の資料」――歴史の教科書や、図書館から持ってきた本を何気なく手に取っていた。
最初は、見慣れない滑らかな紙質と鮮明な図版を不思議に思っていただけだった。しかし、そこに書かれている内容を読み進めるうち、創の端正な顔が恐怖に強張っていく。
そこには、『日本の無条件降伏』『東京大空襲』『陸軍の暴走と破滅』という、国を愛する若き軍人として、絶対に信じたくない絶望の未来が冷徹に記録されていた。
創は震える手でページをめくり、激しい拒絶の声を漏らす。
「バカな……日本が負けるだと? 我が陸軍が暴走し、国を灰にする? ……悪質ないたずらか。誰がこんな破廉恥な嘘を……!」
しかし、ページをめくる創の指が、ある写真の前でピタリと止まった。
それは『昭和20年・戦災の記録』のページ。
そこには、爆風の炎で黒く焼け焦げ、12時ちょうどで針が止まった【戦災遺品:立花千代の懐中時計】の写真が、妹の生没年と共にハッキリと掲載されていた。
創「千代……? なぜ、千代の名がここに……」
創は息を呑み、懐から「今、自分の手の中でピカピカと正確な時を刻んでいる、母の形見の懐中時計」を取り出した。
お花の繊細な細工、裏蓋にある独特の小さなキズ。
どこをどう見ても、資料の写真にある「焼け焦げた遺品」と完全に同一のものだった。
創は時計を握りしめ、目を見開く。
「千代が……死ぬ? この街が燃えて……千代が、こんな凄惨な、最悪の結末を迎えるというのか……!?」
脳裏に浮かぶのは、いつも自分の後ろを健気な笑顔でついてくる、まだ14歳の可愛い妹の姿。
創は激しい情動が頭を駆け巡り、瞳が血のように赤く染まり始める。
「そんなことは……絶対に許さん。国がどうなろうと、軍がどうなろうと、俺の命に代えても、千代だけは……千代だけは絶対に死なせない!!!」
妹を失うことへの圧倒的な「恐怖」。そして、理不尽な未来の運命への激しい「怒り」。
その純粋で強大すぎる負の感情に引き寄せられるように、長屋の隅の闇から、ドロリとした不気味な黒い霧が噴き出し、創の身体を包み込んでいく。
『……そうだ……守りたくば、力を得よ……未来ごと、すべてを叩き潰す力を……』
創は狂気的な咆哮を上げ、身体が重厚な鉄の装甲に覆われていく。
「千代を……脅かす未来など、俺がすべて、叩き潰してやる――!!」
バリバリと家鳴りが響き、衝撃波で長屋の障子が吹き飛ぶ。
創の優しかった面影は消え去り、軍刀を巨大な大剣へと変貌させた異形の怪人(ネガティブ・ミリタリー)がそこに現れた。
【長屋の奥の間】
千代が隣の部屋の爆風に吹き飛ばされ、床に伏せながら叫ぶ。
「お兄ちゃん!? 嫌……どうしちゃったの……!? お兄ちゃん!!」
その凄まじい轟音と悲鳴で、あかりはハッと目を覚ました。
それと同時に、あかりが現代から無意識に握りしめてきた「歪んだ銀の懐中時計」が、胸元でパァァッと眩しい金の光を放ち、あかりの脳内に直接、気高い声を響かせる。
『……彼の心を救って。未来の悲しみを変えられるのは、あなたしかいない!』
あかり「私の……時計が、喋った……!? 彼の、心を……?」
あかりは遮二無二立ち上がり、崩れかけた障子の隙間から、暴走するお兄さんの姿を見た。
大剣を振り回し、苦しそうに咆哮する怪人。その根底にあるのは、邪悪な野心などではない。妹を死なせたくないという、張り裂けんばかりの愛の悲鳴だった。あかりの優しい感受性が、その想いを真っ向から受け止める。
あかり「お兄さんは、悪い人じゃない……! 妹を守りたいだけなんだ……! だったら……だったら、私たちがここで、その悲しい未来を変えてみせる!!」
あかりが強く叫んだ瞬間、懐中時計が完全に開き、まばゆい光のドレスとなってあかりを包み込む。
あかり「プリキュア! タイム・リライト・プロトコル!!」
光の文字が夜空へ昇り、あかりの身体を戦士の衣装へと変えていく。
ピンクのコスチュームを翻し、拳を強く握りしめて、あかりは優しく、しかし凛とした眼差しで着地した。
「時を超えて、輝く未来へ! キュアフューチャー!」
千代は涙を流したまま、呆然と見上げる。
「あ……あなた、は……?」
キュアフューチャー
「お兄さんは私が絶対に助ける! ……だから、信じて待ってて!」
フューチャーは地面を強く蹴り、大切な妹を守るために暴走してしまったお兄さんを救うため、最初の戦いへと飛び出していく――!