チェンジヒストリープリキュア   作:RBうじざね

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『怨念の円卓、最悪のトリガー』

次元の裂け目を抜けたあかりと千代、そして創たち精鋭部隊。彼らを待ち受けていたのは、不気味なほどにしんと静まり返った、冷徹な人工の空間だった。

 

「誰も……いないの?」

 

あかりの掠れた声が、冷たい壁に跳ね返る。通路の奥へと続くおぼろげな常夜灯が、まるで「こちらへ来い」と手招きしているかのように、等間隔で不気味に明滅していた。

創は無言で銃を構え、千代の前に毅然と立ちはだかる。その背中から伝わる緊張感を感じながら、一行は光の導くまま、一歩一歩踏み込んでいった。

 

辿り着いたのは、巨大な会議室らしき重厚な部屋の前だった。

一触即発の空気が流れる中、精鋭部隊が左右へと突入配置につく。創が古びた木製のドアへ手をかけようとした、その瞬間――。

 

バァン! と、内側から弾かれたようにドアが開き、濃密な黒い光が溢れ出した。

 

溢れる闇に目を細めながら、一行はその光景に息を呑んだ。

巨大な円卓を囲むように、ドイツ軍、そしてソ連軍の将校や幹部たちが、微動だにせず整然と席についていた。彼らの目は例外なく禍々しく赤く光り、軍服の背中からはメラメラと黒い炎が立ち上っている。生気を失ったその姿は、完全に「闇の傀儡」と化した異様な地獄絵図だった。

 

「――おや。どうしたの? そんなに僕に会いたかったのかな」

 

円卓の奥から、低く、しかし鈴の鳴るような澄んだ声が響いた。

現れたのは、全身に漆黒の衣装を纏った小柄な人物。若い男のようにも、女のようにも見えるその中性的な美貌は、どこかこの世のものとは思えない。だが、その背中からは部屋全体を侵食するほどの黒い炎が噴き出していた。

 

「あ、あわわ……ひ、光の力が吸い取られていく……!」

あかりの懐の中で、クロノスがかつてないほどの恐怖にガタガタと歯の根を合わずに震えだした。

 

「間違いない、奴こそが敵の本命だ……ここで終わらせる!」

部隊長が冷徹な決断を下し、無言の合図を送った。

 

刹那、精鋭部隊が突入し、その小柄な人物に向けて一斉に発砲を開始した。凄まじい銃撃音が室内に轟く。あかりと千代は思わず目を背け、創もまた必死の形相で引き金を引き続けた。しかし、円卓の傀儡たちは微動だにしない。

やがて硝煙が薄まり、視界が回復したとき、そこには何事もなかったかのように、にやりとこちらを睨みつける漆黒の主が立っていた。

 

「……全員外した!? まさか……この至近距離で我々が……!?」

動揺した兵たちが再び銃弾を浴びせる。しかし、鉛の弾丸は彼の身体をただ陽炎のようにすり抜けるだけだった。

 

「僕は、実体がないからね」

涼しい顔でこちらを眺める。

「でも、うるさいのは嫌いだな……ちょっと黙っててもらおうか」

 

漆黒の主から、悍ましい黒い衝撃波が放たれた。息をする間もなく直撃を受けた兵たちは、精鋭部隊も、五郎も、そして創までもが、まるで時を凍り付かされたようにその場で硬直した。

 

「……みんなに、いったい何をしたの!」あかりが激昂する。

 

「ちょっと黙ってもらっただけさ。まだ死んではいないよ、今はね。彼らもいずれ、僕と同じになるんだから。彼らは、僕さ」

 

千代が一歩前に出て、毅然とした声で問いかける。

「何を言っているの……ここで、一体何をしたいの!」

 

「何って、決まっているじゃないか」

黒い衣装の主は、子供のように無邪気に、しかし酷く不敵に微笑んだ。

「君たちが前線で突っ立っている間にね、新しい武器の搬入がすべて終わったのさ。これからの時代を終わらせるための、最高の兵器。……君たちなら、それが何を意味するか、もちろん分かるだろう?」

 

「新しい武器……?」あかりの全身に緊張が走る。

 

「そう。この前線の何箇所かに、すでに仕掛けておいた。あ、ちなみにスイッチは僕が持っているわけじゃないよ? 戦端が開けばね、怯えた前線の誰かが、恐怖に駆られて押しちゃうかもねぇ」

 

クスクスと肩を揺らして笑うその姿に、あかりの胸の中に激しい怒りが燃え上がった。

「何のために……何のためにそんな酷いことをするの!?」

 

「何のため、だって?」

 

その瞬間、その顔から一切の感情が消え失せた。その瞳が、底なしの深淵のような冷たい光を放ち、あかりを射貫く。

 

「それは、君の時代の人たちに言ってほしいな」

 

「え……」

 

「僕はね、あの大戦で理不尽に死んでいった、何百万、何千万という人々の怨念そのものさ。名前なんてないし、自分が誰なのかももう分からない。……だけどね、僕たちは知っているんだ。人間という愚かな生き物は、圧倒的な絶望を味わわなければ、決して立ち止まれないということを。ここで新しい武器が火を吹けば、この時代の僕らも、未来から来た君らも、全部まとめて綺麗に消滅する」

 

その人物はゆっくりと両腕を広げ、背後の黒い炎を爆発的に燃え上がらせた。

 

「ここが終われば、次は世界だ。君の生きていた時代の比じゃないよ。圧倒的な絶望と、二度と草木も生えない汚れた大地の上で、生き残った人類はみんな、心からこう思うのさ。――『もう二度と、こんな悲劇はごめんだ』とね。……徹底的な破滅の果てに、人類の意識が一つになる。これでやっと、本当の意味で戦争のない、新しい世界が始まるのさ……!」

 

狂った平和の理想論。死者たちの呪いが紡ぎ出した、最悪のシステム。

そのために、今を生きる人々を、そしてあかりたちの未来をすべて消し去ろうとする絶望の化身。

 

「そんなの……そんなの間違ってる!!」

あかりの叫びが、不気味な会議室に轟いた。

 

「間違っていないよ……君は知っているだろう」

冷たい目があかりに向かう。

「君も学んだだろう。君の国は、あの戦争で三百万の命を失い、多くの都市を焼かれ、市民でさえ戦わせ、二つの核を撃たれてようやく戦争を終わらせた……」

 

「……それは」

 

「その結果どうなったかは知っているだろう? 君の国の人はみんな言ってるでしょ? 『あれだけ多くの人を死なせた戦争を二度としてはいけない』と。僕の言っていることと同じじゃないか。その結果、君の国は戦争をしない国になり、事実、君が生きていた時代まで、大きな戦争は起こっていない……間違っているかい? 僕は、それを世界中で、能動的にやろうと思っているだけさ。世界を徹底的に焼き尽くして、それでも立ち上がる人たちこそ、これから生きるべきじゃないかな……」

 

あかりは不敵な笑みを浮かべる人物を睨みつけて言う。

「そんなの……そんな世界は幸せなの? それで平和と言えるの??」

 

「……では問うが、君の住んでいた未来は幸せなのかい?」

漆黒の主は静かに言葉を返す。

「君は確かにそうかもしれないが、世界中に不幸な戦争が次々に生まれている。君は、君や君の仲間だけが幸せならそれでいいのかい? それが本当に幸せだといえるのかい? ……だから、僕はここに来たんだ。君たちが変えた歴史がこのまま続くとして……それで世界から争いがなくなるなんて言えるのかい? ……それだけでは、変わらないんだ」

 

重い問いに、あかりと千代は一瞬言葉に詰まる。だが、あかりは溢れそうになる涙を堪え、それでも前を見据えて叫んだ。

 

「それでも……それでも間違ってる! 本当にそんなことをしたら、もっと、ずっと多くの悲しい人たちが生まれてしまう……! そして、もっともっと悲しいあなたになる! 世界中から誰もいなくなるまでそれを続ける気なの!? それが本当にあなたの作りたい世界なの!!」

 

あかりは拳を固く握りしめ、魂を振り絞る。

「誰かを絶望させて作る平和なんて、本物じゃない! 私は……私たちは、そんな未来のために、ここまで来たんじゃない!」

 

千代もまた、あかりの隣にしっかりと並び立ち、その瞳に不屈の炎を宿した。

「ええ。私たちは、歴史の悲劇を乗り越えて、誰もが笑って自分で立つことのできる優しい未来を作ります。あなたの絶望のシナリオなど、ここで私たちが完全に解体してみせます!」

 

「あかり、いくよ!」

「うん、千代ちゃん!……こっから、こっから大逆転だよ!!」

 

二人の胸の奥から、吸い取られていたはずの光のエネルギーが、かつてないほどの眩い輝きとなって溢れ出した。

 

『プリキュア――タイム・リライト・プロトコル!!』

 

黒い怨念が渦巻く深淵の円卓で、今、未来と現在を繋ぐ最後の奇跡が覚醒する。世界の運命を賭けた、二人の少女の「最後の戦い」が、ついに幕を開けた。

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