チェンジヒストリープリキュア   作:RBうじざね

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『死んだはずの私は、生きている』

激しい光の残光がゆっくりと消え去り、局長室に重苦しい静寂が戻ってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

変身を解いたあかりと千代が、肩を激しく上下させてその場に立ち尽くしている。本当に、歴史を変えてしまった・・・全身から汗が噴き出し、指先がかすかに震えていた。

部屋に残されたのは、破壊された調度品と、あまりの超常現象に腰を抜かしかけている小田敏次郎だった。

だが、その目は死んでいなかった。小田はバッとあかりたちを指差し、怒髪天を突くような、鬼の形相で永守に詰め寄った。

「永守……! どういうことだ、今の異形どもは!? 貴様、陸軍の裏で一体何を開発している! 国民を、兵をたぶらかす妖術の類か!?」

永守は答えず、床に落ちていた自分の眼鏡を拾い上げた。片方のレンズは粉々に割れ、蜘蛛の巣のような亀裂が入っている。それを静かに見つめながら、ゾッとするほど冷徹な、しかしどこか震える声で呟いた。

「お前……本来なら、俺の死体をここで見るはずだったんだぞ」

「何だと……?」

「歴史が正しければ、私は今、相川に斬られてこの床で血の海に沈んでいた。小田、死んだはずの私は、今、生きている。彼女たちが、その歴史を変えて私を救ったんだ」

永守の言葉に、小田は歯を食いしばって立ち上がった。その顔は屈辱と怒りで赤黒く染まっている。

「俺を……我ら皇道派をなめるな! 辻褄の合わぬ世迷言で、この小田敏次郎が惑わされると思うか!」

小田の身体から放たれる、凄まじいまでの執念と威圧感。それを見たあかりと千代の顔が強張った。

(ダメだ、この人も……相川さんと同じなんだ! 時代の狂気、ネガティブ・ミリタリーの闇に取り憑かれている!)

二人はそう直感した。彼を救わなければならない。このままだと、彼自身の憎しみがまた新しい怪人を生み出してしまう。

「千代ちゃん、いこう! この人の目を覚まさせるんだ!」

「はい! 届いて……私たちの願い!」

二人は再びその身に光を纏い、間髪入れずに必殺の浄化技を放った。

「「プリキュア・ヒストリー・リライト・シャイニング!!」」

部屋全体を包み込むほどのまばゆい救済の光が、小田の身体を完全に飲み込んだ。相川を救った、あらゆる悪意を洗い流す温かな光。

――しかし、次の瞬間。

「なっ……!?」

あかりが息を飲んだ。小田を包んでいた光は、まるで大岩にぶつかった波しぶきのように、霧散して消えていったのだ。

光が晴れた中心。そこには、煤一つ、傷一つ負わない小田が、冷然と腕を組んで立っていた。

「……小癪な術だな。だが、無駄だ」

小田の鋭い眼光があかりたちを射抜く。

「私を動かしているのは、怪異の力などではない。私自身の意志だ。大陸で赤化の魔手を広げる共産主義という最大の脅威から、命に代えてもこの皇国を守る。――そこに一点の曇りも、悪意もない! 貴様たちの光ごときで、私の魂が揺らぐと思うな!」

「キュピ!? 闇のエネルギーが、ゼロ……!?」

あかりのポケットから顔を出したクロノスが、時計の針を凝視したまま絶叫した。

「この男、本当に……自分の『正義』だけで、ここまで言っているのです……!」

「そんな……嘘でしょ……?」

あかりはその場に崩れ落ちそうになった。千代もまた、手が小刻みに震えている。

悪者だから、闇に操られているから倒せばいい、救えばいい。そんなプリキュアとしての前提が、根底から崩れ去った。自分たちと同じように、「国や人々を救いたい」と本気で、一点の曇りもなく願っている人間を、自分たちはどうやって止めればいいのか。プリキュアのアイデンティティを揺るがす、底知れない絶望が二人の少女に襲いかかった。

そこで動いたのは、永守鉄志だった。

「小田、お前の言い分は平時の論理だ」

永守は机の上に、分厚い書類の束を叩きつけた。それは彼が夜を徹して算出した「総力戦の予測データ」であり、あかりたちがもたらした「未来の戦史」そのものだった。

「だが、これを見ろ。現実の数字だ」

小田の眉がぴくりと動いた。

「今の日本が一度戦端を開けば、北のソ連も、南の英米も関係ない。全方位を敵に回し、資源は枯渇し、この国は文字通り『焦土』になる。一千万の同胞が飢え、都市は灰になる。それがお前の言う、命に代えても守りたかった皇国の未来か?」

永守の言葉は冷酷だった。しかし、その奥には、かつて陸軍幼年学校時代から競い合ってきた親友への、むき出しの必死さがあった。

「私はお前と和解するつもりはない。お前が不拡大を懸念し、ロシアとの一戦に備えたいという大局観を持っていることも知っている。だが小田、今はその『個人の正義』を捨てろ。このまま暴走する車輪の、国家のブレーキとなれ!」

小田は叩きつけられたデータを一瞥した。

書かれているのは、気が遠くなるほどの物量差。戦死者数。破滅へのスケジュール。

作り話だと笑い飛ばすことは容易だった。だが、小田は誰よりも知っている。目の前にいる永守鉄志という男が、どれほど狂気に近いほどの天才であり、絶対に嘘の数字を並べない男であるかを。

小田の胸中で、激しい葛藤の嵐が吹き荒れた。

(私は……間違っているというのか。この国を、皇国を救うための私の執念が、国を滅ぼす引き金になるというのか……)

拳を握りしめ、爪が手のひらに食い込んで血がにじむ。死んだはずの永守が生きているという「現実」が、小田の脳裏で重く響いていた。

沈黙の末、小田はフッと不敵に、どこか自嘲気味に笑った。

「……相変わらず面白みのない男だな、永守。お前の『数字の正義』は、反吐が出るほど嫌いだ」

小田はデータを乱暴に掴み取り、懐へとねじ込んだ。

「だが――このデータを前にして目を瞑るほど、私は愚かではない。皇国を焦土にされては、私の正義も、死んでいった同志たちの無念も行き場を失う」

永守が静かに右手を差し出した。だが、小田はその手を冷たく一瞥し、握手を拒んだ。

「勘違いするな。統制派に屈したわけではない。……戦線を広げず、一度引いて外交の時間を稼ぐ。その一点においてのみ、貴様を利用してやる」

背中合わせになる二人。決して相容れない二つの正義が、滅びの未来を回避するという唯一の目的のために、奇跡的な共闘を選択した瞬間だった。

小田は最後に、まだ呆然としているあかりと千代を振り返った。

「未来人のお嬢さん方。……お前たちの言う『未来』とやらが、本当に我らの命を賭けるに値するものかどうか、私がこの目で検分してやる。精々、励むことだな」

それだけ言い残すと、小田は気絶した相川を無造作に肩に担ぎ、破壊された扉の向こうへと堂々と歩み去っていった。その背中には、闇の炎など一筋も上がっていなかったが、どんな怪人よりも重く、強固な人間の意志が満ち満ちていた。

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