イベントバトルってことで内容的にイメージするBGMはconfusion
デビルサバイバーはメインでBGM作ってる人がゴダイゴってバンド?の人なんだけどサントラCDで聴くとギターが印象的でカッコいいっす
渋谷駅のガラス扉をぶち破り、カズヤたちが雪崩れ込んだ地下1階のコンコース。そこは、地上の喧騒が嘘のように静まり返り、代わりに濃密な呪力とマグネタイトの霧が充満する異様な空間となっていた。
「……いるぞ。前方に強烈な生体反応だ」
アツロウがCOMPの画面を睨みつけ、声を潜める。
薄暗い通路の奥、点滅する蛍光灯の光に照らされて、一人の男が静かに佇んでいた。髪を二つに結い上げ、鼻筋に独特の文様を持つ男――呪胎九相図の長兄、脹相だった。
彼は近づいてくる一行を冷徹な双眸で見据え、その視線が虎杖悠仁に留まった瞬間、周囲の空気がピキリと凍りついた。
「見つけたぞ……虎杖悠仁。壊相と血塗の仇」
「……っ!あいつ、これまでの奴らとは格が違うぞ!」
虎杖が身構える。脹相から放たれる殺気は、これまでに遭遇したどの呪霊よりも鋭く、重かった。
「呪霊の分際で、随分とデけぇ口を叩くじゃねえか」
カイドーが獰猛に笑い、鉄パイプをガツンと床に打ち鳴らす。その合図とともに、彼の仲魔である幻魔ハヌマーンが咆哮を上げ、脹相に向けて突進した。
「邪魔をするな」
脹相が静かに両手を構える。その指先が、自身の血を凝縮させた一撃を放つ構えを取った。
――術式「赤血操術」
『穿血!!』
凄まじい速度で放たれた血のビームが、空気を切り裂いて一直線にハヌマーンの巨躯へと突き刺さる。
音速をも越える衝撃波とともに、カイドーの仲魔が大きくのけぞり、床のアスファルトが派手に弾け飛んだ。
「チッ、速ぇな!」
カイドーが顔をしかめるが、その目は完全に闘志で燃え上がっていた。
「アツロウ、ミドリ、前衛をサポートしてくれ! 虎杖、カイドー、間合いを詰めるぞ!」
カズヤの的確な指示が飛ぶ。カズヤがCOMPを操作すると、仲魔が放つ強力な衝撃魔法『マハザンマ』が発動し、突風が脹相の足元を激しく削り取ってその体勢を崩した。
「悪いやつは、これでやっつけるんだよーっ!」
速さには自信のあるミドリの叫びとともに、彼女の仲魔である神獣ハクタクが放つ回復と防御の支援光が虎杖とカイドーを包み込む。
「サンキュー! いくぜッ!!」
虎杖は呪力を爆発させ、弾丸のような速度で脹相の懐へと踏み込んだ。同時に、カイドーもまた常人離れした踏み込みで鉄パイプをフルスイングする。
「おおおおおッ!!」
虎杖の『径庭拳』が脹相のガードを叩き割り、時間差で生じた呪力の衝撃が脹相の身体を強く震わせる。そこへカイドーの重量級の一撃が迫るが、脹相は自身の血を硬化させる『凝固』でそれを受け止め、金属音のような鈍い音を響かせた。
「ふん……悪魔使いに、宿儺の器。面白い手応えだ」
脹相は口元から血を流しながらも、その瞳にはまだ光を失っていなかった。
彼は自身の周囲に血の玉を無数に浮かべ、次なる苛烈な面攻撃の構えを取る。
悪魔たちの魔法と、虎杖の肉弾戦、そして脹相の血の術式。
地下1階の狭いコンコースを舞台に、一歩も引かない激しい攻防戦が繰り広げられていた。しかし、戦いが最高潮に達しようとしたその時、決定的な「異変」が脹相の脳内を襲うことになる。
「終わりだ、虎杖悠仁……!」
血の臭気が凝縮し、空気が重く跳ね跳ぶ。
脹相の指先に、再び超高圧に凝縮された血のエネルギーが収束していく。その赤黒い輝きは、一撃で肉体を貫通し、破壊し尽くす殺意の結集だった。
虎杖悠仁もまた、死線を何度もくぐり抜けてきた眼差しで拳を固く握り直し、足裏に呪力をみなぎらせる。
「来いよ……!」
虎杖の低く絞り出すような声が、辺り一面に響く。
カズヤはCOMPの画面に視線をやりつつ、仲魔たちへ次なる魔法の選択を指示し、カイドーは鉄パイプを低く構えて殺気を研ぎ澄ましていた。誰もが、この直後に訪れるであろう苛烈な命の削り合いを覚悟していた。
――その、瞬間であった。
脹相の脳裏に、突如として溢れ出してきた存在しない――けれど、あまりにも鮮烈で、温かな「記憶」
視界が白く反転する。
そこは、薄暗く血臭の漂う渋谷の地下などではなかった。
柔らかな木漏れ日が窓から差し込み、穏やかな風がカーテンを揺らす、どこにでもある長閑な一軒家のダイニングルーム。
『おい悠仁! それ、俺の分のスパゲティだぞ!』
『にいちゃん! 悠仁がまた僕のプリン食べたー! ズルいよー!』
『こらこら、二人とも落ち着くんだ。ハハハ、仲良く分け合って食べるんだぞ。壊相、血塗、そして悠仁』
大きなテーブルを囲む、愛しい弟たち。
奇抜な姿をしながらも兄弟想いで優しい気質の壊相。無邪気に声を上げて笑う血塗。
そして――その二人の間に座り、口のまわりにソースをつけながら、屈託のない無邪気な笑顔でプリンを頬張る「弟」としての虎杖悠仁の姿。
『おいしいね、お兄ちゃん!』
そう言って、無邪気に自分へと笑いかけてくる虎杖。
何年もの月日を共に重ね、喜びも悲しみも分かち合ってきた、血の繋がったかけがえのない家族としての時間。
(な……んだ、これは……!? なんなんだ、この記憶は……!?)
激しい頭痛が、落雷のように脹相の脳髄を叩き割る。
血の繋がった実の弟たちの死。壊相と血塗を殺した憎き仇として、拳を交わした目の前の男を殺そうとしていたはずだった。だが、脳内に絶え間なく流れ込んでくるのは、あまりにも濃密で、あまりにも温かな「実の弟・虎杖悠仁」との思い出の数々。
(悠仁が……俺の、弟……? 壊相と血塗の、兄弟……!?)
「がっ……あ、あ、あぁぁぁぁぁぁッ――!!」
脹相は突然、頭を両手で強く抱え込み、喉が引き裂けんばかりの激しい苦悶の声を上げた。指先に極限まで溜め込まれていた『超新星』の赤黒い呪力が、制御を完全に失い、パチパチと不規則な火花を散らして無惨に霧散していく。
「え……!?なんだ、急にどうしたんだあいつ!?」
踏み込もうとしていた虎杖が、あまりの変貌ぶりに思わず足裏の呪力を抜き、踏み込みを止めた。
「チッ、ブラフか……!?仕掛けてこねぇならこっちから一気に――」
「待て、カイドー! 様子がおかしい」
鉄パイプを振り上げようとしたカイドーの腕を、カズヤが制する。
その場にいる皆が所持するCOMPのセンサーもまた、エネミーの反応を不規則に歪ませていた。
画面に表示された脹相の生体波形は、激しいショックと極度の混乱によって完全に精神の均衡を崩している。
「波形がめちゃくちゃだ……!それにさっきまであった殺気も全く感じられない……」
「あ、あり得ない……俺は……俺は実の弟を……!この手で、殺そうとしていたのか……!?」
脹相は狂乱したようにポロポロと涙を流しながら叫んだ。その瞳は焦点を失い、恐ろしいものを見るかのような眼差しで虎杖悠仁を見つめ、そしてその背後にいるカズヤたち悪魔使いたちの姿を視界に収める。
「虎杖悠仁……お前は……お前は、一体誰なんだ……ッ!?」
頭を抱えたまま、自らの髪を掻きむしり、フラフラとした足取りでコンコースの暗闇へと退いていく脹相。
彼は一度も振り返ることなく、まるで自身の存在そのものが崩壊していく恐怖から逃れようとするかのように、薄暗い地下の闇深くへと姿を消していった。
「……な、なんなんだあいつ……?いきなり頭抱えて泣き叫びながら逃げてっちゃったぞ……」
アツロウが茫然とCOMPを握りしめたまま呟く。ミドリも構えていたCOMPをゆっくりと下げ、呆然とその去り際を見送っていた。
「俺のこと……『弟』って言ったか……?なんでだ……?」
虎杖は自身の拳を見つめ、困惑の色を隠せないでいた。壊相と血塗を倒したのは自分だ。仇として殺されるなら理解できる。しかし、なぜあの男は自分を「弟」と呼び、あんなにも悲痛な涙を流したのか。
「わけが分からねえが……助かったのは確かだ」
カイドーがフンと鼻を鳴らし、鉄パイプを首の裏に担ぎ直した。その瞳はすでに、去っていった男から目の前の階段へと切り替わっている。
「おいお前ら、呆けてる暇はねえぞ。本番はここからだろ」
「カイドーの言う通りだ。理由は分からないけれど、立ち止まっている時間はない」
カズヤが静かに、しかし力強く告げた。
彼の視線の先――地下深層へ続く階段からは、先ほどまでの血の気配とはまた別の凶悪で、禍々しい呪力とマグネタイトの澱みが、津波のように吹き上がってきていた。
「アツロウ、下の状況は?」
「……地下3階、副都心線ホームだ。高エネルギー反応が出てる。おそらく特級呪霊ってやつだろう……不気味な気配を感じてるだろう?間違いない強いぞ」
「そこに、五条先生を封印した奴らがいるんだな……!」
虎杖がギュッと顔を引き締め、困惑を無理やり胸の奥へと押し込めた。
「このまま進もう!」
宿儺の器と、東京封鎖をサバイブする悪魔使い達。
一瞬の奇妙な停滞を振り払い、彼らは再び一つの苛烈な意志となって、不気味な蠢きを見せる地下の深淵へと吸い込まれていった。