絶望の花咲く東京で   作:ベイベ後藤

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23話 絶望の果て、黒く爆ぜる魂

 

「無事か!ブラザー」

 

 東堂葵の身体が、瓦礫の煙を押し払うように虎杖の前に立ちはだかる。その背後から、荒い息を吐きながら呪術高専京都校の1年、新田新が駆け寄ってきた。

 

「虎杖クン! 動かんといて! うちの術式で今ある傷の悪化を止めるから!」

 

 新田が虎杖の肩に手をかざすと、淡い呪力の光が虎杖の傷口を包み込む。激痛が和らぎ、出血がピタリと止まる。

 

「新田、東堂……助かった」

 

「礼など要らん。俺とブラザーの間に遠慮は不要だ!」

 

 東堂が太い腕を組み、ニッと不敵に笑う。その視線の先――壁の瓦礫を弾き飛ばし、全身から黒く歪んだ呪力を滾らせて立ち上がる男がいた。真人だ。

東堂の不意打ちの飛び蹴りを食らいながらも、その瞳には禍々しい愉悦の色が失われていない。

 

「へえ……面白くなってきたじゃないか。ギャラリーが増えたところで、俺のやることは変わらないけどね!」

 

 真人の姿が歪む。その皮膚が硬質化し、背中から異形の刃が生え揃っていく。人間の負の感情から生まれた呪い――その純粋なる殺意と魂の形を凝縮させた、真人の『遍殺即霊体』

 

「魂を理解した俺の真の姿を見ろ!!」

 

 変貌を遂げた真人のプレッシャーは、先ほどまでとは桁違いだった。その全身を包む硬質化した肉体は、並の術式や打撃では掠り傷一つ負わせられない強度を誇る。

 

「ハハハハハッ! 祝詞をあげろ!!俺と虎杖悠仁の、最後の殺し合いのために!!」

 

 超速の踏み込み。真人の姿が視界から消えた瞬間、虎杖の目前に凶悪な拳が迫っていた。

 

「くっ……!」

 

 虎杖は間一髪で両腕を交差し、ガードを固める。だが、その衝撃は凄まじく、地下ホームの床を派手に砕きながら弾き飛ばされた。

 

「逃がさねえよ!!」

 

 追撃のために跳躍する真人。だが、その背後からカズヤの冷静な号令が飛ぶ。

 

「アツロウ、ミドリ!取り巻きの改造人間を完全に片付けるぞ!虎杖たちを真人に集中させるんだ!」

 

「了解! これで吹き飛べ、『なぎ払い』!」

 

「マジカルドリーの邪魔をするなーっ! 『マハジオンガ』ッ!!」

 

 カズヤの指揮のもと、アツロウとミドリ、そして仲魔たちの広範囲魔法が地下ホームに残っていた改造人間たちの群れを一網打尽に焼き払い、切り刻んでいく。

戦場を埋め尽くしていた雑兵が一瞬にして消滅し、カズヤたちによるバックアップ体制が完全に整った。

 

「雑音が消えたぜ……!おいツギハギ、俺たちの前で虎杖にばっか気を取られてんじゃねえぞ!」

 

 鉄パイプを強く握りしめたカイドーの全身から、凄まじい闘気が湧き上がる。

虎杖の命を削り合う死闘、そして東堂の覚悟。それらの熱量に触発され、カイドーの内に秘められた悪魔使いとしての本能が限界突破を起こそうとしていた。

 

 戦場の中央では、虎杖と真人の命をかけた『黒閃』の応酬が始まっている。

 

「お前は俺だ、虎杖悠仁!!どれだけ否定しようと、お前と俺は同じ存在なんだよ!!」

 

 真人の拳に、黒い火花が弾ける。空間が歪み、空間の密度が跳ね上がる。

極限の集中が生み出す呪力の核心――『黒閃』

 

「違う……!俺はお前を祓う!理由なんて、もういらない!!」

 

 虎杖の瞳に、極限の静寂が宿る。

全身の呪力を一点に集約し、真人の『遍殺即霊体』の拳へと、己の全存在を賭けた右拳を打ち下ろす。

二つの黒い火花が激突した。

 

『――ッッ!!!!』

 

 音すらも置き去りにする衝撃波が地下3階のホーム全体を揺らし、壁や天井に無数の亀裂を走らせる。

互いの魂と呪力が爆発的に干渉し合い、黒閃の黒光りが二人の肉体を激しく照らし出した。

黒く爆ぜる呪力の火花が、地下3階のホームで激しく揺れている。

 

 『黒閃』と『黒閃』の衝突。その凄まじい衝撃波によって爆風が吹き荒れ、壁のアスファルトが派手に弾け散った。

 

「ぐ……ッ!!」

 

 遍殺即霊体となった真人の圧倒的な硬度と質量に押され、虎杖の身体が後方へと滑る。

変貌を遂げた真人の肉体は、魂の形を固定した超硬度の鎧そのものだった。並の打撃では表面を傷つけることすら叶わず、虎杖の拳から血が滲む。

 

 

「ハハハハハッ!無駄だよ無駄!!今の俺には、どんな攻撃も通さない完全な肉体へと進化しているんだ!!」

 

 真人は狂喜の笑い声を上げ、硬質化した刃のような両腕を激しく振り下ろす。その一撃一撃がホームの床を叩き割り、虎杖を容赦なく追い詰めていく。

 

「ちっ……硬いなんてレベルじゃねえぞ!物理攻撃がまるで通ってねえ!」

 

 アツロウがCOMPを操作しながら焦りの声を上げる。

カズヤもまた、冷徹な眼差しで真人の生体波形を見定めていた。

真人の『遍殺即霊体』は、物理属性をはじめとするあらゆる干渉を極限まで遮断する「全門耐性」の領域に達している。このままでは、虎杖の体力が尽きるのが先だ。

 その時――戦場の熱気と死線の中、一人の男の全身から異様な圧力が噴き出した。

 

「ふざけんなよ……ッ!!」

 

 カイドーだった。

鉄パイプを両手で強く握りしめる彼の全身から、怒りと闘志の塊のような凄まじいプレッシャーが立ち上る。

死線を幾度も潜り抜け、命を賭けて戦う虎杖悠仁と東堂葵の姿。その魂の叫びに触発され、カイドーの内に眠る暴力と生存の本能が、限界を超えて覚醒を起こしていた。

 

『――スキル【貫通】を獲得しました――』

 

 COMPから聞こえる無機質な電子音。

あらゆる耐性や防御を力づくで食い破り、対象の命そのものへ物理打撃を叩き込む悪魔使いの極致――『貫通』

 

「耐性だの鎧だの……知ったこっちゃねえんだよ!!俺の前に立ってんなら、全員叩き潰すだけだぁぁぁッ!!」

 

 カイドーが地鳴りのような踏み込みとともに跳躍した。

その身体から解き放たれたのは、極大の物理威力を誇る必殺スキル――『デスバウンド』

 

「死ねやぁッ!!」

 

 振り下ろされた鉄パイプが、空間そのものを切り裂くような縦横無尽の無秩序な衝撃波となって真人に襲いかかる。

 

「ハッ、無駄だって言っ――ぐあああああッ!?!?」

 

 真人の嘲笑が、絶叫へと変わった。

あらゆる物理攻撃を弾くはずの『遍殺即霊体』の外殻が、カイドーの一撃によってまるで薄いガラスのように粉砕されたのだ。

貫通の理を帯びた威力が、真人の変貌した肉体を突き破り、その奥にある「魂」へダイレクトに激甚なダメージを叩き込む。

 

「なっ……何だ今の攻撃は……!?俺の魂に、直接攻撃が届いて……ッ!?」

 

 真人は胸を大きく抉られ、激痛に顔を歪めて体勢を激しく崩した。完璧だったはずの『遍殺即霊体』の防御陣形が、カイドーの力任せの一撃によって完全に瓦解する。

 そして――その瞬間を、最高の相棒が見逃すはずがなかった。

 

「――今だ、ブラザー!!」

『パパンッ!!』

 

 地下ホームに、「手を叩く音」が響き渡る。

 東堂葵の『不義遊戯(ブギウギ)』

 位置が、入れ替わる。

 

胸を抱えて苦悶する真人の目の前――そこには、全身の呪力を拳の一点へ極限まで凝縮させた虎杖悠仁が立っていた。

 

「真人……ッ!!」

「しま――」

 

 真人の目が、死の恐怖に大きく見開かれる。

逃げ場はない。入れ替わった瞬間、虎杖の領域に真人は完全に捕らえられていた。

 空間が歪む。

虎杖の拳が放たれた瞬間、閃光すら置き去りにする黒い火花が、地下3階の爆風をすべて飲み込んで爆発した。

――『黒 閃』

 

『ガァァァァァァァァッッ!!!!』

 

 最大出力で解き放たれた虎杖の拳が、遍殺即霊体の胸腔を完全に貫通した。

黒い稲妻が真人の全身を駆け巡り、硬質化していた肉体が内側から派手に砕け散る。

真人は魂を殴られた凄まじい衝撃とともに吹き飛ばされ、ホームの端まで転がり落ちて動かなくなった。

 

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