あのオフ会から数日後、俺はある人物に呼び出され、近所のとある喫茶店に来ていた
そこへ
「すまなかったな、突然呼び出して…すまん、コーヒーを二つ頼む」
俺を呼び出したがっしりとした体格でスーツ姿の強面の男…高坂の父親であり警察の警部である高坂大介が現れた
大介さんは近くにいた店員にコーヒーを注文する
「俺も先程来たばかりですから気にしないでください…ところで…またなにか事件でも起きましたか?」
俺はめったに使わない敬語を使い大介さんに問う
「…ああ。 以前神奈川の方で強盗殺人をして未だに逃亡している男がこの千葉に潜伏しているらしい…お前も遭遇する機会がありそうだから顔写真を渡しておこうと思ってな。 これがそうだ」
大介さんは懐から写真を取りだし、それをテーブルに置く
その写っている男は、生前に京都で戦ったある男が全身火傷をする前の姿にそっくりだった
「その男の名は保村(ほむら)誠(まこと)…鋸を持ち神奈川の銀行に現れ、店員を脅して金を奪い、そしてその店員の首筋を鋸で斬り付け殺害…そのまま逃走して今にいたる」
名まであの男と同じとはまるでやつが転生でもしたようだな…
しかも武装が鋸とは…やつの使用していた無限刃とやらに形状が似通っている…それに俺自身が身を持って転生するということを証明してしまっているからな…いよいよ持ってやつの転生説が濃くなってきた
生前京都でやりあった男の名は志々雄(ししお)真実(まこと)
抜刀斎から人斬りを受け継いだ男であり、明治政府を潰そうともくろみ、最後は抜刀斎との決戦中、幕末に政府の人間に負わされた全身火傷の影響である戦闘限界時間を超えたことで全身が人体発火を起こし、文字通り燃え尽きた男だった
「…保村誠ですか、わかりました、発見次第潰します」
「待て一郎、いくらお前でもこの男と一人で相手をするのは厳しい。 発見したら交戦せずに俺達警察に連絡しろ」
「…大介さん、いくら人殺しの殺人犯とはいえこの男を買い被り過ぎではないですか? いつも“犯人など殺さない程度に痛め付けてしまって構わんから見つけたら確実に現行犯逮捕しろ”と俺に言っているあなたが交戦せず応援を呼べとは…」
「…目撃者の証言によると、この男は何処か威圧感というか近寄りがたい雰囲気を持っていて近くを通っただけで“とても勝てそうにない”“殺される”と感じたそうだ…それに俺の直感だが、この男は化け物じみた力を持っている…そんな気がするのだ…」
警官としてかなりの事件での修羅場をくぐり抜けて来た筈の大介さんを直感的に戦慄させるとは…やはりこの男は志々雄の可能性が高いな…いや、俺の直感から察するに確実に志々雄に違いない
「了解しました、この男と遭遇する機会があった場合はそのように対応します」
俺はそう返答を返すと例のキセルを取りだし吸い始める
「俺の渡したそれを使っているようで安心したぞ」
「フゥ~…俺としては普通のタバコを吸いたいのですがね」
「お前はまだ未成年者だからな、20(はたち)を過ぎればいくらでも認めてやろう」
「…仕方ないですね、後数年はこれで我慢しましょう」
俺は再びキセルを吸い、はっかの匂いのするのど薬の煙を吐き出す
不味いな…家に帰ったら隠れてタバコ(ほんもの)を吸うか…
「…一郎、今回お前を呼んだのはこの男の件だけではないのだ…」
そんなことを思っていると、思い詰めた表情をしながらふと大介さんが言葉を漏らした
「他にどんなことがあるんですか?」
「…お前は以前、上の妹が中二病とかいうものになっていると言っていたな」
「あいつが中二病なのは今も変わりありませんよ…はっきり言うと最近はますます深みにハマっていますが…それがどうかしましたか?」
「…どうやら俺の娘もその中二病…いや、オタクというものに染まり出しているようなのだ…」
成程、どうやら桐乃は自身がオタクであることを今まで大介さんに隠していたらしいな
確かにこの厳格な人にそんなことが知れれば間違いなく止めさせられるだろうからな
だが、ついにバレてしまった…ということか
「今のうちは好きにさせておいても構わないのではないですか? どの道歳をとれば止めるでしょうし」
「…しかし、現にいい歳をして働かずそのようなものに没頭して犯罪を起こす愚か者を何人も見てきた…俺は娘にそんなことをして欲しくはないのだ…」
大介さんもこのことを直接桐乃に言ってやればやつもオタクを止めざるおえんのだろうがな…この人は自分の子供に本心を伝えるのが下手だから仕方ないことか…
まあ、それを言って瑠璃にせっかく出来た友を失わせるのも酷だ…なんとか承認させる方向に持っていかせるか
「大丈夫だと俺は思いますよ…確かに犯罪を起こす者がいるのは否定出来ませんが他ならぬあなたの娘さんだ、道を踏み外すことなどないでしょう?」
「…しかしだな…」
「それ程心配ならあなた自身が娘さんのやっていることを実際に行ってみたらいいのではないでしょうか?」
「お、俺が桐乃のあのゲームをやるのか!?」
普段見せない呆然とした表情で俺を見る大介さん
いつもの威厳が無くなってしまっている
「頭ごなしに否定するのは実際にやってみてからでも遅くはないのではないですか?」
「…確かにそうかもしれんが、お前は妹のしていることをやってみたりしたことはあるのか?」
「下の妹達と一緒にやつの見るアニメを見た時は何度かありますよ…まあ一応は見れる代物ですし、妹の生き生きした顔を見ますと今のうちは認めてやろうとは思いますね」
これは俺の本心だ
瑠璃の嬉しそうな顔を見るのは別に悪くはないからな
本人には決して言う気はないがな
「…考えておこう…相談に乗ってくれた礼だ、コーヒー代は俺が払っておく」
「ありがとうございます」
「それでは俺は先に失礼するぞ」
そう言うと大介さんは金を払い喫茶店を後にした
コーヒーを飲み終えると俺も喫茶店から家に帰宅する
すると
「兄さん! あのビッチがオタクを止めると言い出したのだけれど」
血相を変えて瑠璃が玄関に走ってくる
「騒ぐな瑠璃、やつはオタクを止めん…これは確信だ」
「えっ!? どうしてそんなことがわかるのかしら?」
「…俺の直感とでも言っておこう」
「兄さんの直感、ねえ…わかったわ、信用してあげる」
「ああ、信用しておけ…そろそろお前の好きなアニメが始まる時間だぞ」
「!! 兄さん! 早く行くわよ!」
俺の手を引いて居間へと向かう瑠璃
「だから騒ぐな阿呆が…」
とは言いながらも満更ではない気持ちに俺はなっていた
俺も丸くなったものだな
新撰組として幕末の京都で戦っていた頃には考えられんことだ
これも抜刀斎の影響、か…
やつとの因縁はやつが不殺(ころさず)のるろうにとして完全に歩みだした瞬間に切れた筈だったんだがな…因縁というものは思った以上に深いもののようだ
そういえば抜刀斎について説明していなかったな
やつの名は緋村剣心…飛天御剣流という剣術を使う幕末では人斬り抜刀斎の名で知れ渡り、俺達新撰組と幾度となくぶつかり合うが、明治に入ると不殺を誓い真剣を手放し、刃と峰を逆にした逆刃刀という刃を返さなければ決して斬れない刀を使用して戦闘を行っていた男だ…
「日向! 珠希! チャンネルはマスケラになっているわね!?」
「うん、チャンネル変えておいたよ」
「準備万端です姉様!」
「ふふっ、よくやったわあなた達。 さあ、兄さんも早く座ってマスケラを見なさい!」
「…仕方ないな」
瑠璃に言われるままにいつものようにマスケラを見る俺
本当に丸くなったものだ
作中に何度か出てきているのど薬キセルは緋弾のアリアAAに登場するイ・ウー構成員の夾竹桃が使用しているものと同タイプのものです