一郎SIDE
「お兄ちゃん」
家の庭で牙突を含めた剣術の鍛練をしていた俺を珠希が呼び掛ける
「どうした珠希?」
「姉様がお部屋に急いで来て欲しいそうですー」
「…また面倒事に巻き込まれそうだが…仕方ない、行ってやるか」
こうして俺は鍛練を中断して瑠璃の部屋に向かう
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「瑠璃、入るぞ」
『構わないわ、入りなさい』
襖の前で瑠璃からの了承を得ると俺は中に入る
そこにはいつも通り家での普段着であるジャージを着た瑠璃が不敵な笑みを浮かべて椅子に座っていた
「来たわね、今日兄さんを呼んだわけはこれを読んで欲しかったからよ」
そう言うと瑠璃は持っていた本を俺に渡してきた
「…なんだこれは?」
「なんだとは失礼ね、闇の眷属たる私がこの身に籠る有り余った魔力を込め創りあげた最高の代物よ、本来ならあなたのような雄が読むことなど出来ないのだから心して読みなさい」
「…生憎俺はそのようなことを言われてまで読む程お人好しではない」
「!? わ、私が悪かったわ! だから読んで頂戴! いや、読んで下さい!」
俺が拒否の姿勢を見せ、部屋から出ようとすると途端に瑠璃は土下座をして引き留める
どれだけ必死なんだこいつは…
「わかった、読んでやるから土下座はやめろ」
「ならやめるわ」
俺がやめろと言った瞬間に土下座をやめ、椅子に座る瑠璃
それを呆れた目で見やると、俺は本に目を移す
すると、そこに広がっていたのは所謂同人誌(マスケラの)とかいう一般人が見ると痛いと感じる部類のマンガの絵だった
「どうかしらそれを見ての感想は?」
「……」
「あら? あまりの出来に流石の兄さんでも声も出ないのかしら?」
「阿呆が…いきなりこれを見せられ呆れて物が言えんかっただけだ…まあ、確かに絵は上手くは描けているな…話の内容はバカ丸出しだが」
「なっ!? バ、バカとは酷いのではないかしら?」
「俺は本当のことを言ったまでだ。 まず話の筋が通っていない、読む者のことを考えていないただの自己満足な物だぞこれは」
「うっ…た、確かにそうね…」
俺からの指摘に言い淀む瑠璃
「…それで、何故これを創ったんだ?」
「近々有明の聖地でコミケがあるのよ…だから、今回“も”出展しようとしていたの」
「今回“も”だと? 毎回これを出しているのか?」
「ええそうよ。 でもいつも売れ行きが悪くて一度兄さんに見てもらおうと思っていたのよ」
「成程な。 しかし内容をもう少し何とかせんと今回も間違いなく売れんぞ」
「……兄さん、どのように修正を加えればいいのかしら?」
何故そういったものに疎い俺にアドバイスを求める?
「お前よりその手のものに圧倒的に詳しくない俺に聞くな阿呆……だがそうだな…以前会ったあの彼方さんだったか? 彼女はそのマスケラの原作者だ、あの人にアドバイスを貰えばいいんじゃないか?」
「!! それよ兄さん!! 早速連絡を取りましょう!!」
目を輝かせ大声で言う瑠璃
喧しいことこの上ない
「喚くな…あの人の連絡先がわからんからな、まずは沙織に聞け」
「ええ、早速電話するわ!」
俺から助言を受けて瑠璃は直ぐさま沙織に電話を掛ける
無事沙織に電話は繋がり、暫く話した後瑠璃は電話を切った
「今、沙織と彼方さんは一緒に秋葉原にいるらしいからちょっと行ってくるわ」
「ああ。家事は俺がやっておくから気にせずしっかりアドバイスを受けてこい」
「わかったわ」
瑠璃から返事を受けると俺は部屋から出た
それから少しして
「それじゃ出掛けてくるわ」
「ああ、気を付けろよ」
ジャージ姿から例の黒服に着替えた瑠璃が現れ、そのまま沙織と彼方さんの元へと向かい出掛けていった
「あれ? ルリ姉どっか行くの?」
瑠璃が出掛けると日向がふと聞いてくる
「有明であるコミックマーケットに向けて出展する予定の本をその手の詳しい人にアドバイスをしてもらいに行くのだとさ」
「へぇ~そうなんだー」
「姉様良いアドバイス貰えるといいですねー」
「だねー」
ニコニコと笑い合う下の妹二人
そういえば鍛練の途中だったな、また始めるか
「さて、俺は鍛練を再開するか」
「イチ兄、あたしとたまちゃんも見てていい?」
「構わんが暇なだけだと思うぞ?」
「平気平気! ねっ、たまちゃん?」
「はいですー お兄ちゃんの鍛練見てるの楽しいですよー」
フッ
物好きなやつらだ
こうして俺は再び庭に出て木刀持ち、鍛練を再開する
ん?
何だか瑠璃が帰ってきた後、何か良からぬことが起こるような予感がするがまあ気のせいだろう
この後その予感は的中し、俺もコミックマーケットの場に行かせられる羽目になるが、それはまた次に話すとしよう
短いですが、今回は一度これで区切らせていただきます