有明・コミケ会場
「……」
「……」
「……」
「…いつまでそういじけているつもりだ?」
「……」
「今回は間に合わなかったのだから仕方ないだろ?今年が駄目なら来年がある、いい加減気持ちを切り換えろ阿呆」
「…言われなくてもわかっているわ…ただ、今回は間違いなく売れると舞い上がって余計に時間を掛けて間に合わなくしてしまった私自身に苛立っているのよ!」
瑠璃はそう言うと、苛立ちを解消する為か柄にもなく足を地面に連続で叩きつける
「端から見たら本当に阿呆に見えるぞ、止めろみっともない」
「うっ…」
俺から言われ、流石に羞恥心が出たのか瑠璃は顔を赤くして下を向く
阿呆が…お前が恥ずかしいならその身内の俺はもっと恥ずかしいんだが
「一郎氏ー! 黒猫氏ー!」
そんなやりとりをしていると、沙織が大声で俺達を呼びながらやって来た
「沙織、そんなに大声を出さんでもいいだろう、阿呆かお前は?」
「阿呆とは酷いですぞ一郎氏~」
「酷いと思っているやつがそんなにやけ面をするか阿呆。 だったら相当なマゾだぞ」
「失礼ですな~拙者はこれでもいたってノーマルなのですぞ?」
「誰がお前の性癖を聞いているんだ阿呆…」
「…それはそうとスイーツ(笑)とその下僕(げぼく)はどうしたのかしら?」
俺同様呆れていたのか一時的な間の後、瑠璃が沙織に問い掛ける
「少し遅れるとの連絡がありましたので拙者は先にこちらに来たのですが、そろそろ到着すると思いますよ」
沙織がそう言った直後、高坂と桐乃が現れた
「悪い、遅くなった。 こいつがちょっとバタバタしててな」
「何よ、あたしのせいにする気!? あんたがさっさとあたしを起こせば良かったんじゃない!」
「そんなことしたらいつも“なんで断りもなく部屋に入って来てんだ”“キモッ”“死ね”とか言ってくるだろ!」
「電話とか手段考えなさいよ!」
「お前、俺には電話番号教えねぇから電話しようがねぇんだよ!」
来て早々口論を始める高坂兄妹
「…仲がいいのは結構だけれど、私達を差し置いて勝手に口論始めないでちょうだい」
「「誰がこんなやつと仲がいい(の)(んだ)よ!!」」
「おやおや~息もぴったりですな~」
「ああ、まるで照らし合わせたかのようにな」
「「ぐっ…あんた(お前)のせい(よ)(だぞ)!!」」
再び高坂兄妹は口論を始める
相変わらず面倒なやつらだ
「はぁ~……これ以上この阿呆な小競り合いを見ていてもしょうがないし、私達は先にコミケのブースに行きましょ」
「確かに阿呆共など置いて先に行った方が無難だな」
「おー、五更兄妹は手厳しいですな~、それでは京介氏、きりりん氏、ごゆっくり~♪」
俺達は高坂兄妹を放置し先に向かうことにした
阿呆共、いつまでもやっていろ
「「……って、ちょっと待てー!!」」
後からそのような声が聞こえた気がしたが、まあ俺の気のせいだろ
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「はぁ、はぁ、はぁ……」
「あ゛~っ~づ~~い゛~っ!!」
あの後、大急ぎでこちらに来た高坂兄妹であったが、この夏の暑さの中走った影響で高坂は死んだ魚のような面(つら)で息を切らせ、桐乃は疲れてはいないようだが、暑さのあまり阿呆になったのかジタバタと大声を出しながら暴れていた
「高坂お前、これしきのことで息が切れるとは運動不足なんじゃないのか?」
「はぁ、はぁ……どうやらそうらしいな…」
「ちょっとあなた、少しは周りのことを考えなさい、迷惑よ」
先程の自分を棚にあげて桐乃に言う瑠璃
「うっさい! 暑いものは暑いのよ!!」
「…この暑い中走るようなことをしたのは他ならぬあなたでしょうに…」
「自業自得だ阿呆」
「申し訳ござらんきりりん氏、これには拙者もフォローできないでござる」
「う゛~~!! ちょっと! あんたのせいよ! この暑さどうにかしなさいよ!!」
「…暑いのは俺も同じなんだ、俺に言うな、どうにもできるわきゃねーだろうが…」
叫び声を上げる桐乃とは対照的に力なくそう返す高坂
どれだけへばっているんだ情けのない
「っていうかー、この列いつになったら進むのよー!暑いのはこの人ゴミも原因なのよ!!」
「ほんとにうるさいビッチね、暑いのが嫌ならさっさと帰ればいいじゃない」
「ここまで来て帰ったらもったいないじゃない!」
「なら大人しくしてなさい、暑いのはあなただけじゃないのだから」
「おや? 言ってるうちに列が動き出しましたなー、ここからが本番ですぞ」
列が進みだし、俺達は会場の内部に入る
中は外並みの暑さと奇妙な雰囲気に包まれていた
「瑠璃、この会場の重苦しい空気はなんだ?」
「暑さは今の季節の影響が主(おも)でしょうけど、人気のある同人誌を何としても手に入れたいという一人一人の焦燥と殺気がこの空気を生み出しているのでしょうね」
同人誌を手に入れる為に殺気まで出すとは…末恐ろしいやつらだな
「黒猫氏、今回は間に合わずに残念でござったな…」
「仕方ないわ。 兄さんにも言われたけど、今回がダメでも次があるもの…そこまで気落ちはしていないわ」
「なにあんた、サークル参加する予定だったの?」
「そういえばあなたに言ってなかったわね、そのつもりだったわ…一度完成したものに修正を加えていたら間に合わなくなって今回は断念したけれど」
「ふ~ん」
「同人誌作るのってどれぐらい金かかるんだ?」
「作り方にもよるわね。 普段私が頼んでいるセットだとわりと高くて五十部で三万円以上かかるわ」
「結構高いんだな!?」
「そうね、だから中学生の同人活動って難しいところがあるのよ」
「そうだよなぁ、金ばっかりはどうもなぁ…」
「それで、どこに並ぶんだ?」
「今日は並ぶつもりはないわ」
「拙者もです。今回は別段買う予定はないので、初めてのきりりん氏達にこの場を体験してもらえればいいでござるよ」
「あなたはなにか買いたい本はあるの?」
「う~ん…やっぱ今回はいいや。 次来たときに買うから」
「それなら屋外展示場にでも参りましょうぞ!」
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「な、なあ…あの人達は一体何をしてるんだ?」
「ただの撮影ですが何か?」
「高坂の言葉の真意をわかっているくせに澄まし顔で問うな阿呆」
俺はキセルを吹かしながら沙織に突っ込む
何しろ目の前ではコスプレした女をオタク共がカメラで撮影しているという言葉も出んような光景なんだからな
「なんかすげえ犯罪っぽい匂いがするんだが…」
「同感だ」
「まあ、会場外でしたらどちらも御用でしょうな」
犯罪…悪即斬と言いたいところだが、こんな阿呆なことで動く気になれん
「………着ぐるみもたくさんいるんだが、この暑い中大丈夫なのか?」
外の場合は犯罪だと迷いなく宣言した沙織に高坂は少しの間固まり、別の話題を話し出す
「……ふん、大丈夫よ。 あれは中に保冷剤を仕込んであるの」
「へー」
「瑠璃、何処でその知識を得たんだ?」
「以前にテレビでやっていたのよ、兄さんも見ていた筈なのだけれど?」
「そうだったか? 記憶にない」
「ねえあんた、そのコスにも保冷剤仕込んでるワケ?」
「……あなた、これは私服よ。 それに私はごくごく薄い妖気の膜を張っているから大丈夫よ」
「「「「……」」」」
またもや出た瑠璃の中二発言に俺達は呆れる
それに、阿呆が…暑さを誤魔化しているのが見え見えだ
「フウゥ……桐乃」
「言われなくてもわかってるわよ」
俺はキセルを吸って煙を吐き出すと、桐乃に合図を出す
桐乃はそれに頷くと瑠璃の後ろへと素早く回り込み…
バッ!
黒服の上着とロングスカートを脱がせ、強制的にノースリーブとミニスカート姿に変えた
「っ~~~!? あなた何をして!?」
「お前!? いきなり何やってんだ!」
「きりりん氏乱心でござるっ!!」
「うっさいわね! 外野は黙ってなさい!」
「同感だ、喚くな阿呆共。 あの姿のままでこのままいれば間違いなく瑠璃は倒れる…脱ぐのは当然だろうが」
「だったらお前も上着脱げばいいんじゃねえか? 長袖に長ズボンじゃ暑いだろ?」
「ふん、俺はお前らとは鍛え方が違う、これしきのことで倒れることなどありえん」
「…そうかよ…」
「…こんな辱しめを受けたのは初めてだわ……」
「倒れるよりマシでしょ? あとコレ、ゆっくりでいいからちゃんと飲みなさいよね。 グラビアの撮影とかであんたみたいなのが脱水症状で倒れるのよく見るのよ。 顔を真っ赤にして汗ひとつかいてないとか…」
「!」
「服の趣味は人それぞれ、でもTPOくらいはわきまえなさいよ。 夏は夏らしく! そうしないと体調にもよくないの」
「良く見ているじゃないか。 瑠璃、いい友を得たな?」
「ま、まあ、感謝はしておいてあげるわ」
「何よその言い方! ムカつくわね!」
「あら? 私としてはお礼を言ったつもりなのだけれど?」
「何処がよ!」
「まあまあお二人共~♪」
軽い痴話喧嘩を行おうとする瑠璃と桐乃を沙織がニヤニヤと楽しそうに止めに入る
「全く…ん? あれってシスカリのショッパーバック?」
「おや? そのようですな。 あれならば企業ブースに行けば手に入りますぞ」
「べっ、別に~、で、でも、その~、ど、どうしてもって言うなら「あー…すまん沙織、“俺が”行きたいから案内してもらえるか?」……」
明らかに行きたいにも関わらず、言い訳のようにブツブツ言う桐乃に高坂は“俺が”を強調して沙織に案内を頼む
全く難儀な妹を持っているな高坂
「にんにん♪ どうぞこちらへっ」
それを口元でニヤリと笑い了承すると、沙織は企業ブースとやらに向け歩き出し、俺達はそれに着いていく
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「へぇー、結構きっちりしてんだな?」
「まあ、きっちりしてなければ売れんだろうからな」
「確かに…ん? どうした桐乃?」
「……」
俺の返しに高坂は苦笑いすると、何かのポスターを眺める桐乃に声を掛けるが返答がない
そのポスターを見てみるとこう書いてあった“コミケ限定シスカリプス・プラス配付終了しました。”と
「…人気メーカーの人気商品ですからな、状況から察するに開場後瞬殺だったようでござるよ」
「そんなに人気あるのか?」
「モチのロンロンでござるよ」
「……」
「ええと…配布分は終了したんですが、イベントの賞品になってますのでよかったら挑戦してみてください」
いつまでもしつこくポスターを眺める桐乃を不憫に思ったのか店員が苦笑いしながらそう声を掛ける
「!! やったろうじゃない!!」
ただそれだけで桐乃は表情を一変させ、やる気を出した
単純なやつだ
だが
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「なによあのクソゲー! 勝てるわけないじゃん! ハメだよハメ――!!」
イベントであるシスカリとやらの格闘ゲームであっさりと敗れたことで桐乃はまたしても不機嫌になっていた
「いやーっ 拙者もやられてしまいました、申し訳ござらん! あのスタッフは確かPC版の上位ランカーですから、勝たせる気はないのでしょうな」
「マジかよ、ひでぇな」
「おい瑠璃、やつはお前でも勝てん相手か?」
「ふっ、兄さん、誰に物を言ってるのかしら?……あの愚者に自分がどれだけ哀れな天狗なのかということをじっくりと教えてあげるわ」
そう言い残すと瑠璃はニヤリと笑い、ゆっくりとゲームの席に歩いていく
「?…ほれ、拗ねてねぇで機嫌直せって」
「拗ねてないっ!」
「どれでも好きなグッズ買ってやるから」
「ふん…まあ、負けたもんは仕方n「まあ待て」何よ?」
「終わったと結論づけるのはまだ早い」
俺がそう言った直後
ワアアアァーーー!!!!!!
絶叫のような歓声が響き渡る
そう、瑠璃は宣言通り圧倒的実力でスタッフを破り、勝利をしたのだ
「流石黒猫氏、見事ですな!」
「あいつは言ったことは必ずやり遂げるからな」
「戻ったわ」
「ああ」
俺の返事を聞くと、瑠璃は桐乃の前に立つ
「な…なによ…?」
「……あげるわ、これ」
すると、瑠璃はおもむろにゲームソフトを取りだし、桐乃に差し出す
「え? なに? …どういうつもり!?」
「……なによ、いらなかったかしら?……ふん、いらないなら捨ててちょうだい」
「阿呆が……沙織」
「おや?」
「すまないが頼む」
「ふふん♪ 承知しました!」
俺と高坂に言われ、沙織は笑いながら瑠璃と桐乃に抱きつく
「はっはっは♪ お二人とも愛いですのぅ♪ 愛いですのぅ~♪」
「ちょっとやめっ! 苦しいってーーの!!」
「こ、このぐるぐる眼鏡…呪う、わよ……」
抱きつかれながらも満更でもない顔をする瑠璃と桐乃
また一つこいつらの仲が良くなったようだな
―
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―
あれから数時間が経ち、コミケは終了した
「ふん、ようやく終わったか」
俺は一息つくため、懐から本物のタバコを取りだし、火を付けて吸い出す
バッ グシャ
だが以前同様瞬時に瑠璃に取り上げられ、踏み潰された
「…何をする?」
「黙りなさい、我が眷族たるあなたがそのような邪悪の塊を吸収しようとする行為を断じて認めるわけにはいかないわ」
「…お前は闇の女王とやらだろう? 闇が邪悪なものを吸収するのは当然ではないのか?」
「へ、減らず口を、た、叩かないでちょうだい!」
「ちっ」
邪気眼全開の瑠璃に対し俺は冷静に突っ込むが、半ばやけくそ気味に叫ばれ、俺は舌打ちをしてやむ得ずキセルを吸う
「そう、それでいいのよ」
「五更お前、妹に負けてんのかよ?」
「貴様にだけは言われたくはない、この阿呆が」
「な、何も言い返せねえ…」
「まあ、取り敢えず今日は楽しかったですな~♪」
「そうね……そういえばあなた、そろそろ服を返してちょうだい」
「ん? おう。 そういや礼を言うの忘れてた、桐乃にゲームありがとうな」
「べ、別にあなたにお礼を言われる覚えはないわ」
「いや、あいつの兄貴として言わせてくれ。 ありがとな」
「…どういたしまして」
「お前今度ウチに遊びに来いよ、桐乃も喜ぶし。 一人が嫌ならお前の兄貴と来てもいいからよ」
「……そうね、考えておくわ」
「桐乃、お前もちゃんとおr「桐乃?」?」
高坂が桐乃に声を掛けると、近くから別の声が聞こえてくる
「あはっ! やっぱり桐乃だあ!」
「……あ、あやせ!?」
「…高坂、誰だあの女は?」 ボソッ
「…ああ、桐乃の中学の友達でモデル仲間の娘だ、名前は“新垣あやせ”」 ボソッ
「…成程な、桐乃の動揺ぶりから察するにあのあやせとかいう女はやつがオタクというのを知らんわけだな?」 ボソッ
「…その通りだ」 ボソッ
小声で高坂と話した結果、今の状況は桐乃にとって不味い状況らしい
「ところで桐乃、さっきから気になってたんだけど、あの人達って……桐乃の知り合い…なの?」
あやせは俺、瑠璃、沙織を見て、そう桐乃に問う
明らかに嫌悪感を抱いた表情をしているな
「え? あっ あ――…」
あやせの問いに言い淀む桐乃
「高坂、瑠璃、沙織、わかっているな?」 ボソッ
「「「コク」」」
俺の言葉にやつらは頷く
「あの、自分達そこを通りますので、道をあけてくださいますか?」
「あっ、すいません、今どきます」
作り笑いをして俺がそう言うと、高坂はそれに合わせて返事をする
そして高坂とすれ違う際に
「これはお前らの問題だ、何とかしておけ」 ボソッ
と、言い残し、俺達三人はその場を後にした
―
―
―
―
―
―
―
五更家
その後沙織と別れ、俺達は家に帰宅していた
「…兄さん、あのビッチと下僕は大丈夫かしら?」
「さあな。 だがこれはあいつらの問題だ、俺達が口を出すことではないだろ?」
「…それはそうだけれど……」
「あいつらなら問題あるまい、信じていろ」
「…そうね、そうするわ」
こうして、最後に波乱を迎えその日は終わった