Re:ゼロから始めるサーカス生活   作:アウトレットホール

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Re:ゼロから始めるサーカス生活

「スバル…」

 

「はい!」

 

「レムって_誰のこと?」

 

「…はっ?_」

 

 

 

 

 

 

 

エミリアからの衝撃の告白を受けた後の出来事だった。

 

それほどまでに俺の心はショックを受けたのか。それともそれは幻覚なのか。

まばたきをすると同時に目の前にはあまりにも異色な光景が広がっていた。

目が痛くなるほどアバンギャルドな赤、黄、緑の積み木が重なる建物。

カラフルなチューブ、カラフルなテント。

 

「…え…?」

 

大罪司教の攻撃を受けたのか?

さっきまで俺はエミリアと竜車にいたはずだ。

…エミリア…。そうだ、エミリア…!!

 

「エミリアっ!!!!」

 

俺は叫ぶ。周囲を確認するが人は全くいなかった。

俺だけ…。俺だけしかそこにはいなかった。

竜車の姿形もまるで最初からいなかったかのように消えていた。

なんで…。

 

レムって誰のこと?_

 

エミリアの言葉が頭の中で反芻される。

 

なんでなんでなんで!!!!!!

よりにもよってこんなときに!!!

くそがっ…!!!!

 

・・・

 

・・

 

 

しばらくその場でとどまっていたが、攻撃はこないことを確認すると俺は辺りを散策し始めた。

…不気味なくらい静かだった。赤い三角の積み木に手を触れてみる。

ザラザラとした感触が手に伝わる。

 

「幻覚じゃ…ないんだな」

 

精神支配をされている可能性は捨てきれないがひとまず危険はなさそうだ。

…レムのことが気がかりではあるが、徐々に気持ちに余裕を取り戻しつつある。

おかげで思考を巡らせることもできるようになってきた。

今のこの状況、考えられる可能性は2つある。

 

一つ目は大罪司教による攻撃。

これまでの人外じみた力を目の当たりにしたからこそ、この思考に至った。

何度も死に戻りをして文字通りみんなと死力を尽くしたからこそペテルギウスに勝利できたものの、

身体を乗っ取る、見えざる手による攻撃、あまりにも対処が困難な強敵だったことは間違いない。

それを踏まえると今のこの状況も何ら不思議ではない。

 

二つ目は二回目の異世界転移。

…コンビニを出たらそこは異世界だった。

俺は前触れもなく唐突にエミリアたちのいる世界に転移した。

ラノベでよく見る異世界転生ものの展開がまさに俺の身に起きたのだ。

憧れの異世界転生。チートのような力を手にして異世界で無双する冒険!!

まさに全世界の男子が夢見る話なのだ。

レムの安否が確認できていれば安心してこの現状を心から楽しむことができたかもしれない。

けど今は…。

 

「エミリアたちを探さないと「ど、どいてー!!!」

 

ドン!!!!!

人の背丈くらいある大きな黄色い樽を曲がったところで誰かとぶつかった。

不意の衝撃にお互い尻餅をついてしまう。

 

「い、いってぇ!なんだぁ!?」

 

「ご、ごめん!!私、急いでて…!!!あぁもう!ケインはどこなのよ!?」

 

顔をあげる。ぶつかったのはあたふたとしているピエロの女の子…?だった。

第一印象はおっちょこちょいなドジっ子だろうか。

すっくと立ちあがり無事を伝える。

 

「い、いや!こっちこそ悪い!俺も人探しをしてて…。そ、それよりも…」

 

「え…人探し…?え、人!!?」

 

なぜか彼女は目を大きく見開いてこちらを見る。

だが、スバルはそれ以上に動揺していた。

なぜなら彼女の右腕が()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それは大丈夫…じゃないよな…?」

 

「え…?あ、あぁ、これ…?多分さっきぶつかった拍子に曲がっちゃったんだわ。驚かせてごめん」

 

「いや、それだけでそうはならないでしょぉ!?」

 

「あ、はは。ここじゃそれが当たり前なの。これを知らないってことはあなたも新入りってことなのかな?多分、こうしてここを曲げたら…」

 

ピエロの女の子は右腕に力を込める。ぷるぷると右腕が震えたかと思うとジジジ…とバグのような演出の後、何もなかったように戻っていた。

って、すごすぎるだろ!?最近のピエロすげぇな!!?

驚愕の表情にふふっと彼女は吹きだす。

 

「私以外にもあなたみたいな人がいたのね。ちょっと安心したわ。実は最近私もここに来たばっかりなんだけど、本当にここは疲れることばっかりで…。ケインは冒険とか言って私たちを振り回すしもううんざり。仲間は素敵な人ばかりだと思うけど現実が恋しいわ…」

 

話し終わると眉間に皺を寄せてうなだれてしまう。どうやら相当参っているようだ。

現実…つまりここは現実ではないということらしい。てことはやっぱり異世界転移の可能性が大いに出てきた。

それに私たちと彼女は言った。つまり、他にも異世界転移者がいるということだ。

その事実に少し安堵する。

 

「大変なんだな…。そのケインってやつは知らないけど同情するぜ。俺はスバル。菜月昴っていうんだ。よろしくな!」

 

「あ…!ご、ごめん!!愚痴っぽくなっちゃった。私はポムニ。その…あなたのアバターってなんだか人間みたいね。びっくりしたわ…」

 

「アバター…?」

 

アバターとはゲームとかで設定するプレイヤーの分身とかそういうのだよな?

壁に設置されている鏡を見てみる。そこにはジャージ姿で目つきの悪いいつもの自分の姿が映った。

もしかするとここはゲームの世界なのだろうか?それならさっきの右腕修復現象も合点がいく。

ということはポムニは元人間だと推察できる。

 

「ん?待って!?ケインに会ってない…!?あなた名前を憶えてるの!!?」

 

「え、そ、それはまぁ」

 

「もしかして、あなたって本当に人間なの?ちょっと触らせて!…あったかい。体温が伝わってくる。これってシステムがあなたの体温を設定してるわけじゃないのよね…?なんてこと…!」

 

「え、っと。名前を憶えてるのがそんなに珍しいのか?君だって自分の名前を言ってるじゃん?」

 

「それは本当の私の名前じゃないの。ケインが付けてくれた名前よ…。現実の私の名前は…覚えてないのよ。ここの誰もみんな」

 

両手を強い力で握られてたじたじになる。

体温…。確かに彼女の手はまるで無機物のように温度を感じなかった。

 

「ちょっと待って…。ケインならあなたのこと何か知ってるかも…!尚更彼を探し出すべきだわ!!」

 

「ポムニも人を探してるんだよな?よかったら手伝うぜ!ピエロも猫だけじゃなく人の手も借りるべきだ!」

 

「ありがとう!スバル!…最後のはちょっとよくわからないけど助かるわ!」

 

「ところでよ。さっきからポムニの後ろに滅茶苦茶デカい歯茎が浮かんでるように見えるんだけど、これって夢?」

 

ポムニはハッとして振り返る。

杖をタキシード姿の歯茎がふわふわとそこに佇んでいたのだ。歯茎の中には目があり、ぎゅるぎゅるぎゅる!とこちらを睨みつける。

いや、どういうこと!?

 

「やぁ!ポムニ!!サーカスの日常は楽しんでくれているかな!?君が来てからというもの、みんなの心も体も健やかになってるようだ!!結構結構!でも、それはなんでだろうねバブル?」

 

『きっと毎日歯磨きをしているからだよ!!』

 

「なるほど!!私も今から健やかになるべきかもしれないね!!シャコシャコシャコ…」

 

そういうと巨大な歯ブラシで自分の顔?を磨き始める。

ちなみに歯茎ではなく目玉をゴシゴシと磨いているので、目玉が左右に激しく転がっていた。

「いや、キモチワル!?」

思わず脳が拒否する光景にそう突っ込んでしまった。

 

「…!?」

 

俺の声に反応して歯茎の動きが止まる。

一瞬、びっくりしているような気がした。

それがなぜかを考える前に_

 

「ケイン!ようやく見つけた!いろいろ聞きたいことがあるんだけど、一番重要なことから聞くわ!カフモがいないの!!あなたなら何か知ってるでしょ!?」

 

ポムニが声を荒げてケインに訴える。

ケインはというと歯ブラシを構えた状態でフリーズしたまま微動だにしない。

よく見ると目玉にブルースクリーンのようなものが映っていた。

 

「…?どうしたんだ?アイツ」

 

「気にしないで。彼はたまにああなるの。ちょっと待てば元に戻るはずだから」

 

「やぁやぁ!!君の質問に答えよう!カフモがどこにいるかだったね!?彼なら君たちの心にずっといるだろう!?」

 

いつの間にか俺の後ろに出現していたケインとかいうやつは胸のところをパカッと開き、びっくり箱のようなギミックを披露する。

ギミックの先には黄色い帽子を被ったピエロの写真が貼られていた。おそらくこいつがカフモとかいうやつなんだろう。

 

「ってうぉぉ!?びっくりしたぁ!?」

 

「からかわないでよ!…もしかしたら部屋にいるのかしら…!?心配だわ…!」

 

ポムニはそれだけ言うと駆け出して行ってしまう。

彼女の後に続こうとして目の前にケインがぶら下がってきた。

厳密には逆立ち状態で浮遊して佇んでるだけなのだろうが。

 

「お、おいおい!?何だよ!俺になんか用か!?」

 

「君…いつからここにいた?」

 

ゾワリと背中を冷たいものが走る。

表情は読み取れないはずなのにさっきまでの様子と違って真顔なのがわかってしまう。わかってしまうからこそ不気味だった。

 

「いつって…俺もついさっきここに来たばっかなんだ」

 

無理やり笑顔を作ってそう答える。

何故だろう。こいつには真実を話してはいけない気がしている。エミリアを探していることは黙っておこう。

ポムニの方を見るとケインの豹変した様子に動揺しているようだった。

赤と青で彩られた瞳がぐるぐると動いている。

 

「おぉ!なるほど!つまり君はピカピカの新入りくんということだ!!ならまずはみんなを集めないといけないねぇ!!」

 

ケインは大げさに手を広げて歓迎のポーズをとる。

ひとまずその場はしのげたようだ。

パンパン!とケインが手を叩くとポムニが宙に浮かぶ。

 

「ポムニ!?」

 

「ケ、ケイン!?」

 

「さぁさぁ!!ステージに移動しよう!ヒーウィゴー!!!」

 

ビューン!!

ポムニとケインはベルトコンベアのように宙に浮かんだまま移動した。

慌てて二人を追いかけた。

 

「…ふむ、君はやはりシステムに属している存在ではないようだね。不思議なこともあるものだ!あぁ不思議だ!!」

 

宙からこちらを見るケイン。

何を言ってるかはわからないがポムニを宙に浮かせてるのはアイツだということだと察する。

 

「おいこら!女の子には優しくしろ!降ろしてやれ!!!」

 

「スバル…!」

 

「はっはっはっは!!ここまで来てごらーん!!」

 

・・・

・・

 

しばらく奇妙な追いかけっこが続いていたが、いつの間にか目的地へ到着していたようだ。

広々とした舞台に幕が垂れ下がっている場所。

ケインの言っていたステージはここを指していたらしい。

 

「ぜはー…!!お、おいぃ…!!待ちやがれぇ…!!」

 

キキー!!と急ブレーキのように二人が停止する。

追いつくと膝をついて息を整えた。

 

「くそ…!あいつ舐めやがって…!!」

 

「さぁさぁ!!新入りの歓迎を兼ねて盛大に歌を披露しなくてはね!」

 

すると空中のポムニは突然降ってくる。

ケインが離したらしい。

 

「きゃあああああ!!???」

 

このまま地面と激突しても彼女は死なない。

それは彼女自身も理解していた。なぜならこんなことは日常茶飯事だからだ。

重傷を負ったとしてもべちゃっと地面に身体が張り付くだけ。

次の瞬間には何事もなかったかのように再生する。

目を瞑って自由落下に身を任せる。あぁ、痛くないといいな_

 

「うおおおおおおお!!!!ポムニ!!!!!」

 

どさっ!!

身体に衝撃が走った。しかし、思ったほどの衝撃はない。

足と背中にあたたかいものが当たっていた。目を恐る恐る開けると目の前には痛みをこらえて悶絶しているスバルの顔。

 

「ま…間に合った…!!大丈夫か…!?」

 

「スバル!?大丈夫なの?!」

 

「へ、へーきへーき…!こっちの事情で痛みには慣れてんだ…!!」

 

「助けなくても問題なかったのに!さっきのことも見てたでしょ!?あなたはどうか知らないけど、身体がバラバラになっても私たちは治る身体なのよ!無理しないで!私たちは慣れてるから…!」

 

ぷるぷると振動が伝わってくる。

かなりの痛手を負っていたようだ。

 

慣れている?あのケインとかいうやつ、相当ロクでもないぞ…。

こんなことを何回もされているという事実に腸が煮えくり返る思いがこみ上げた。

ポムニをここに縛り付けて生殺与奪の権を握っていたぶることを楽しんでいる。

そうとしか考えられない…!あの畜生が…!!

 

「そ、それにこれ…」

 

お姫様抱っこをされてる事実に意識が向くとポムニの顔が赤くなる。

しかし、スバルは無理やり笑顔を作ってこう答えた。

 

「女の子が傷つくのを黙って見ていられるやつは男じゃねぇよ。へへ…!無事でよかった」

 

ドキュン!!!!

デジタルの身体になってから、ないはずの心臓が高鳴るのを感じた。

 

「も、もう降ろしてくれていいから!ごめん…」

 

「あぁ、わりぃ」

 

なんて人…。

迷いなく恥ずかしいことを言い切った…。

地面に無事降ろされて呼吸を整えていると_

 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 

「なんだ?」

 

にぎやかな音楽がその場に鳴り響いた。

シャボン玉が空中を覆いつくす。

 

「さぁさぁ!オーディエンス諸君!!新たな仲間を加えてデジタルサーカスを魅力的にアレンジしたぞ!!レッツショーターイム!!!」

 

ガングル♪ズーブル♪あとキンガーも!♪

 

歌詞と同時に次々と奇妙なキャラたちが出現する。

手を振ったり、無関心なやつがいたり反応は様々だ。

 

ラガタ♪ジャックス♪それにカフモ&ポムニ…

 

「あれ!?いつの間に!?」

 

さっきまで傍にいたポムニがいつの間にか舞台にあがっていた。

怪訝な顔をして隣に立っている看板に視線を向けている…。

あれはさっきポムニが探していたカフモとかいうやつだろうか。

彼はここにいなかったので代わりに看板を用意したと。なんだそりゃ。

 

「おいおいおい!!!出演者が足りていないじゃないか!!これでは新たな仲間を迎える準備が整わない!!音楽ストーップ!!!!」

 

音楽が強制中断され召喚されたキャラたちがくたびれたように動き始める。

 

「ケイン、歌を再編集したって言ったけどほとんど変わっていないぞ。最後に早口で『ポムニ』を付け加えるのが魅力的なアレンジかい?」

 

舞台上で喋っていたのは紫色の笑顔を張り付けたウサギのマスコットだった。

ショーで出てきたときは寝転びながらだったが、やれやれと腰を起こす。

 

「あぁ、そうさ!これからだ!これからがいいところだったのに役者がそろっていないなんて!!!カフモは何をしてるんだ!?」

 

「そういえば朝から姿を見ていないわね…」

 

さっきまで笑顔で手を振っていた人形のような女の子が心配そうな表情で呟く。

強制的にやらされていたんだろう。あのケインとかいう歯茎野郎に…。

あいつはポムニを不思議な力で操り空中から落としたクソイカれたサイコパス野郎だ。

俺の中でケインの評価を決定づける。

 

「ラガタ、あなたも見ていないのね。どうしよう、もしかしたら…あぁ怖い!」

 

同じく笑顔で手を振らされていた仮面とリボンで構成された一番異形味のあるやつが人形の女の子、ラガタに声をかける。

今は泣き顔の仮面でリボンを器用に操り顔を覆い隠していた。

見た感じ一番小心者な感じだ。

 

「はぁ、悪いことは考えないようにしてるけど心構えはしておくべきかもね」

 

「誰か昆虫採集のことを考えるといったか!?」

 

「言ってないわよキンガー」

 

枕でできたカマクラのようなものから顔を出してそう叫ぶチェスの駒のようなやつ、あいつはキンガーというらしい。

どこか色気のある声でキンガーを宥めるのは不定形のオブジェクトで身体を構成する何とも形容しがたい人だった。

顔の部分は三角形の形をしている。

 

「い、いきなり大所帯になったな…」

 

ステージの外からワイワイと盛り上がる彼女たちを見てぼやく。

何だか人間である俺の方がアウェーな感じになってる!?

 

「それで?僕たちを呼び出したのは新たな冒険のためかい?それともそこにいる『新たな仲間』の紹介のためかい?」

 

ウサギ、ジャックスがケインに聞く。

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたまま俺の方を向いた。

第一印象で何となく嫌なやつっぽいと思った、間違いなくアイツとは仲良く出来ない!絶対!腹立つ!!

 

「え…?うそ、そんな…」

 

人形の少女、ラガタが息をのむ。

そう、ここにいるメンツは全員異形の姿だ。

人間である俺の方が完全に異物なのだ。くそ、なぜか元の世界で引きこもったときのことを思い出して嫌な気持ちになる。

 

「なんで人間が…!?」

 

「ガングル、落ち着いて。この場所は何が起きても不思議じゃないのは嫌というほど見てきたでしょ?今更慌てることじゃないわ」

 

「で、でもズーブル…!」

 

かなり異形味の強い二人は仲がよさそうだな、と呑気に考えていた。

リボンの肩、いや肩なのかわかんないけどとにかく身体を優しくさすっていた。

ドラ〇もんのような丸い手を動かして。…なんかシュールな光景だ。

 

「あの、彼はさっき来たばかりなんだって。私も驚いたんだけど、彼、自分の名前を憶えているのよ。ナツキスバルっていうの」

 

さらにざわつく。どうしよう、俺もなんか喋った方がいいだろうか。

怒涛の展開に自分の意識が吞まれていたが、ようやく自分らしさが帰ってくることを自覚するとまずはいつものあの自己紹介を決断した。

ビシッ!と人差し指を上に立てる。そしてサタデーナイトフィーバーのポーズを取る。

 

「俺の名前はナツキスバル!ひょんなことからこっちの世界に来た天下無敵の無一文だ!!どうぞよろしくよしなに!!!」

 

キラーン!

 

・・・

 

「ワーオ!素晴らしい自己紹介をありがとうナツキスバル!!まさにセンスも天下無敵だ!!」

 

パチパチ!!!

拍手をしてくれたのはよりにもよってケインだけだった。

他のみんなはというと苦笑いをしたり、不安そうな表情を浮かべたり望んだ反応はなかった。

けどウサギ、てめぇが馬鹿にしてるのはわかるぞ。ぜってぇそのニヤケ面に一発入れてやるからなっ。

警戒を解こうとして極力明るめに振舞ったのが裏目に出たようだ。

 

「でも残念だ!可能であればみんなと同じように私が素晴らしい名前を付けてあげたかったんだがねぇ!!どうだい?今からでも改名する気は_」

 

「ねぇよ!俺はナツキスバルだ!!」

 

こいつにだけは絶対名付けられたくない!その一心で全力でお断りした。

わざとらしくショボンとしたリアクションを取る。

 

「あぁなんて悲しい日だ、新入りに初日から嫌われてしまうなんてね。でも!心配ない!マイナスから始まった関係はあとはプラスにしかならないと相場が決まっている!私は気長に君が心を開く日を待つとしよう!!それでは!!」

 

シュンと吸い込まれるように姿を消す。

ぜってーそんな日はこないけどな…。

 

「えっと、スバル…でいいのかしら?初めまして、私はラガタよ。よろしくね」

 

ステージから降りてきたラガタが駆け寄ってくる。

 

「よろしくな!ところであのケインとかいうやつ、あんたらに酷いことをしてるんだろ?大丈夫なのか」

 

「大丈夫…って言ったらウソになるかもだけど、大きな危害は加えてこないから心配はしていないわ。ありがとうね」

 

諦めたように微笑む彼女に心が痛んだ。

ポムニの言葉を思い出す。現実が恋しいと言っていたことを。

きっと彼女たちはこの場所から脱出したいのだ。しかし、それは叶わない。

あのケインとかいうやつがここに閉じ込めている。それが理由なんだろう。

 

「残念だけど、あなたではどうすることもできないわ。ケインは私たちを常に見張っているもの」

 

「脱出を試みた人は大勢いたけど…みんな結末は一緒だったんだ。ここから脱出できる出口なんてどこにもなくて…諦めた人たちはバグっちゃったんだよ、みんな」

 

ガングルとズーブルが俺の表情を見透かして絶望的な事実を告げてくる。

バグる…。それが一体どのような事象なのか理解はできないが間違いなくいいことではないのだろう。

 

「そうなのか…」

 

自分の無力さに腹が立ってくる。

握りしめた拳に力が入っているのが自分でもわかった。

 

「ふふ、自分よりまず私たちのことを心配してくれるのね。あなたってとても優しいわ」

 

ラガタが手をそっと包み込んでくれる。

 

「スバル、あの、さっきはありがとうね」

 

ポムニも遅れて感謝を伝えてくる。

みんな笑顔を作ってはいるがかなり無理をしているはずだ。

ロズワール邸で無理やり明るく振舞ってエミリアやレムたちと打ち解けようとしたときのことを思い出す。

自分を偽るのはとてつもなく苦しい行為なのだ、それこそある意味死ぬよりも_

 

「あっはっは!変なやつが来たもんだ!なんだ?あんたは英雄でも目指してるのかい?確かにあんたはどうやらこの中で唯一の人間という特殊な存在だけど、だから何だって言うんだ?今すぐここから出してくれるのかい?」

 

「あぁ!?んだてめぇ!?」

 

ウサギがイヤミったらしく言い放つ。

やっぱこいつとは仲良く出来そうもねぇな…!!!

 

「ほらほらぁ、顔が醜く歪んでますよ英雄さん。まぁどうせ数日も経てば自分の無力さを痛感してこの場所に甘えることになる。みんなそうだったからな!何も変わんない!何もだ!!ラガタもポムニも泣き虫ガングルとズーブルも!!!変わるとしたらキンガーみたいにイカれるだけなんだよ!!」

 

「てんめぇ…!!!!」

 

「お前もここから出ることはできないんだ。わかっておけよ」

 

ドロドロと憎悪の感情が渦巻いてくる。

俺が否定されたことへの怒りではない。ポムニたちを見る。

みんなが俯いて暗い顔をしていた。ガングルは泣き出している。

ジャックスはそれに対して悪びれることもなく歩き去ろうとしていた。

 

我慢できない_

俺はジャックスに向かって走り出した。

後ろから近づいてくる音にあいつは振り向いた。

位置は完璧だ。

 

バキィ!!!!!!

「ギョアァ!!!????」

カートゥーンアニメのようにキリモミ回転をしながらぶっとばされるジャックス。

彼は一瞬何が起きたのか理解できなかった。

頬にジジジ…とバグのようなエフェクトが走っているのを確認して殴られたことを認識する。

その衝撃は一般人であれば気絶してもおかしくないほどの威力だった。

ズシャア!!と地面を擦りながら倒れる。

 

そう、思い切りぶん殴ってやった。

ニヤケ面に一発入れる望みは思ったより早く適ったようだ。

ポムニたちを悲しませたクソウサギをどうしても許せなかった_

 

「…思ったより早く本性をあらわしたな」

 

殴られた頬をさすりながら立ち上がる。

 

「す、スバル!?やめて…!」

 

ラガタが背後から声をかけてくる。

一瞥もせずにジャックスをひたすら捉えていた。

眉間に痛いほど皺が寄っている。

 

「…!」

 

スバルから放たれる圧に気圧されたが、構わず挑発を続ける。

 

「僕に当たってもここから出られるわけないのに馬鹿だね。それともなんだ?本当にイカれ_「そこじゃねぇよ」

 

言葉を遮る。

ジャックスが驚愕の表情のまま固まる。

 

「謝れ、ポムニたちに」

 

背後のポムニたちに指をさす。

 

「はぁ?何言って_「うるせぇよ」

 

有無を言わさない圧だった。

今まで散々人から憎まれてきた性格であることを自負はしていた。

だから殴られるようなことが起きたのも仕方ないと思っている。

だが_

 

「謝るまで絶対に許さねぇ…!!!!!」

 

本気だ。こいつ。

自分のことをまるで考えていない。

ポムニたちのために怒っている。

謝れだと?何でそんなことをしなくちゃならない?

そんなことをしたら僕は_

 

「…っ」

 

呼吸が乱れる_

こいつと比べたら俺は何だ?

勝手に周りを突き放して、いじめて、偽善まがいの奴が堕ちていく様を嘲笑してるだけの自分は_

 

「…ねる」

 

「逃がすと思ってんのかよ!!!てめぇ!!そうやって自分の状況に勝手に絶望して!!!周りを不幸にして!!!お前こそポムニたちに当たり散らしてるだけだろうが…!!!!」

 

「…やめろ、もう聞きたくない」

 

「今すぐ謝れって_」

 

やめて!!!!

ラガタが叫んだ。

ビクッと体が震えた。

 

「やめて…お願いだから…」

 

涙がポロポロと零れ落ちているラガタの姿を見てようやく冷静になった。

 

「あ…ごめん…」

 

「ひっく…ひっく…」

 

「…」

 

ジャックスは何も言わずにその場を去る。

 

「ラガタ…」

 

ポムニが心配そうに駆け寄る。

背中をさすって慰めるが、ラガタは泣き止まない。

 

「スバル、今のはひどいと…思う…。あなたの気持ちは嬉しいけれど…」

 

「…ごめん…」

 

「でも、ありがとう。怒ってくれて」

 

「本当に…ごめん」

 

ポムニの言葉にただ謝罪するしかなかった。

俺はジャックスとみんなの関係を知らないのに一時の感情で関係をぶち壊したかもしれない。

今更後悔の念に囚われる。

 

「スバル、あなたも今日は疲れてるでしょう?きっとケインが部屋を用意してるはずよ。ここは私たちに任せて」

 

ズーブルがそう言ってきた。

彼女の気遣いがさらに心を締め付ける。

 

「…あぁ、そうさせてもらうよ」

 

俺はただ、人が傷つく様子に我慢できなかっただけだった。

それがこんな葬式のような沈痛な雰囲気を作り出してしまった。

…今日は休んで頭を冷やそう。エミリアの捜索も明日だ。

 

「部屋はアッチだよ…。ゆっくり休んでねスバル」

 

ガングルがリボンで2階の廊下を指す。

お礼だけ告げるとそこに向かって歩き出した。

 

・・・

・・

 

2階に行ってから下を見下ろしてみる。

4人はまだそこにいた。

ラガタは目を覆ったまま顔をあげていない。

そして、枕のカマクラがもぞもぞと動いている。

枕の一部が開放されるとそこからキンガーが心配そうな表情でこちらとポムニたちを見ていた。

 

「…くそっ」

 

多少は成長したと思っていた。

どうしようもない状況だろうと今まで必ず乗り越えてきたのに。

何も変わってない。幼稚なままだ俺は。

 

「…寝よう」

 

・・・

・・

 

しばらく廊下を歩く。

ドアがいくつも並んでいるが、ドアの前にはキャラのプレートが掲げられている。

ポムニ、ラガタ、ガングル、ズーブル。そしてジャックス。

俺は一つ一つプレートを確認して自分の部屋に向かう。

 

…一つだけ変わったプレートが掲げられているドアがあった。

下手な字で「スバル」と書かれている。なんで俺だけ文字なんだ…。

もしかしてアバターを抽出できないから作成できなかったとか?はぁ…。

 

それ以上考えることはやめた。

そんなことは今どうでもよかった。

明日はみんなに謝ろう。ジャックスだってきっと苦しいはずだったんだ。ここから出られなくて。

周りを傷つけていたのは彼も苦しんでいたから_

だったら彼のことをもっとよく知ってあげれば対処できる方法はきっとあるはずだ。

 

そう思って部屋のドアに手をかけた瞬間だった。

バツン!!

廊下の電気が全て消えた。

奥を見渡しても暗闇で何も見えない。

 

「なんだ…!!?」

 

周囲を警戒する。

ケインが何かしでかしたんじゃないのか。

考えを巡らせていることで俺は背後から近づいてくる『ナニカ』に気づけなかった。

 

ズシン!!!

「あえ・・・?」

 

強い衝撃と共に足に鋭い痛みが走る。

地面に前のめりに倒れてしまい、立ち上がろうとするが力が入らない。

 

なん、で

 

自分の両足を確認した。

だがそこには既に自分の両足はなかった。

膝から先は肉と骨が露出し止め処なく血が溢れていたのだ_

 

「あ…アアアアアァァァァ!!!!!!ギャアアアアアア!!!!!!!」

 

痛い…痛い痛い痛いイタイイタイ!!!!!!!!!!!

 

カーペットに血が拡がる。

そして、視線をあげるとそこには_

 

「…ア」

 

目玉だらけの黒い物体が佇んでいた。

それら全ての視線は俺に注がれている。

さらに目の前が真っ暗になった。

何が起きたのか?

 

それは自分の頭部が潰されたと知ったのは全てが終わった後だった_

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめん!!私、急いでて…!!!あぁもう!ケインはどこなのよ!?」

 

「…」

 

慌てた様子のポムニが喋りかけてくる。

あぁ、いつものだ_

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