ポケモン現代入り 作:ささみ
残りの9匹についても、その後まとめて両親へ紹介した。
ヒトカゲの尻尾を見た母親が真っ先に火事の心配をし、ゴースが何の悪気もなく壁へ潜った時には父親まで露骨に距離を取ったが、最終的には全員ここで暮らすことを受け入れてくれた。
思っていたより話は早かった。
三週間近くニュースでポケモンを見続けていたのも大きいのだろうが、実際にこいつらが人の話を理解しているところを見せたのが一番効いたらしい。
「それで、この子たち毎日何食べるの?」
一通り落ち着いたところで、母親が当然の疑問を口にした。
「種類による。木の実とか野菜でいいやつもいるし、穀物食うやつもいる。肉とか魚が必要なのもいるけど」
「10匹分でしょう? 結構かかるんじゃないの?」
「結構どころじゃなかったから戻ってきた部分もあるんだよな」
札幌では普通にスーパーで全部揃えていた。
小さいうちはまだ何とかなったが、この先進化して身体が大きくなれば当然食べる量も増える。10匹で終わるつもりもない以上、あのまま続けるのは流石に厳しかった。
「売れない野菜なら結構あるけどね」
「規格外のやつ?」
「形悪かったり、大きさ揃わなかったりしたやつ。全部捨ててるわけじゃないけど、家で食べるにも限度あるでしょう」
「それ欲しいな」
「食べられるなら好きにすればいいけど、何でもあげて大丈夫なの?」
「そこは俺が見る。種類によって駄目なのもあるから、勝手にはやらないで」
「はいはい。その辺はあんたの方が詳しいんでしょうから任せるわ」
それだけでも相当助かる。
野菜や穀物の一部を実家で賄えるだけで、札幌にいた時より負担はかなり減る。肉や魚はどうにもならないが、全部が全部金を出して買う必要がなくなるだけでも十分だった。
問題は餌だけではない。
「父さん、奥の納屋ってまだ使ってる?」
「ほとんど使ってないぞ。農機具も手前の方に移したし、古い棚が残ってるくらいだ」
「ちょっと見ていい?」
「別にいいけど、何に使うんだ?」
答える代わりに足元を見る。
父親も察したらしい。
「こいつらか」
「流石に10匹ずっと家の中は無理だからね」
それに、今はまだ小さい個体が多い。
ポッポがピジョットになり、ヒトカゲがリザードンにまで進化した後も居間で一緒に暮らせるとは思っていない。
納屋を見に行こうと立ち上がる。
すると、それまで父親の近くにいたポッポがこちらを見上げ、ぱたぱたと羽ばたいた。
「ん?」
そのまま頭の上へ着地する。
「……そこにするの?」
「ポォ」
当然のように返事が来た。
重いわけではないので別に構わないが、爪が頭皮に当たる感覚が微妙にくすぐったい。
「ずいぶん懐いてるな」
父親が笑いながらこちらを見る。
「関東からずっと一緒だからね。まあ、頭の上に乗るのは初めてだけど」
「そこ気に入ったんじゃないの?」
「巣扱いされてない?」
「ポォ?」
「首傾げんな」
何も分かっていないような顔をしている。
そのまま外へ出ようとして、念のためポッポへ声をかけた。
「外では勝手に飛んでくなよ。北海道じゃまだお前らいないんだから」
「ポォ」
降りる気はないらしい。
「まあ、それなら見つかりにくいか」
「頭に鳥乗せて歩いてる方が目立つと思うぞ」
「敷地の中だからいいんだよ」
道路側へ出るわけでもない。
頭にポッポを乗せたまま、父親と奥の納屋へ向かった。
「本当に言えば分かるんだな」
「全部言うこと聞くわけじゃないけどね。嫌なことなら普通に嫌がるし」
「そりゃそうか。頭いいなら余計にな」
そこを理解してくれるなら話は早い。
納屋の扉を開けると、中には使わなくなった道具や古い棚が残っていた。
埃っぽいが、広さは十分。
「思ってたより空いてるな」
「使わない物は去年かなり捨てたからな。掃除するなら好きに使え」
「助かる」
頭の上にいたポッポも興味を持ったらしい。
ようやく離れたと思ったら納屋の中を一周し、そのまま天井近くの梁へ降りた。
「ポォ」
「早速気に入ったな」
梁も多いし、ポッポにはちょうどいいだろう。
キャタピーやビードルも、狭い部屋にいるよりは遥かに動ける場所を作れる。
ヒトカゲだけは火対策を考えた方がいい。
ゴースについては――まあ、どこに部屋を用意しても壁を抜けるので、本人に言い聞かせる方が早い。
「ここなら、もう少し増えてもいけそうだな」
「増やす気なのか?」
「そりゃまあ」
「10匹いるんだぞ?」
「まだ10匹だろ」
「その感覚は多分おかしいと思うがな」
自覚はある。
ただ、本当にポケモンがいるのに10匹で満足できるかと言われれば無理だった。
納屋を一通り確認した後、今度は家の裏手へ回る。
関東から先に送っていた荷物も置いてあった。
ぼんぐり、きのみ、薬草。それ以外にも、持ち帰れそうな種や苗をいくつか分けてある。
「これが例の変な木の実か」
父親が箱を覗き込む。
「畑の端にでも植えればいいんじゃないか?」
「いや、畑には入れない」
「何でだ?」
「この世界の植物じゃないから」
育つかどうかだけなら試せば分かる。
問題はその先だ。
この土地の虫が食べるのか。
逆に、この世界の植物へ病気を持ち込まないか。
根や種がどこまで広がるのかも分からない。
ポケモンについて知識があっても、現代日本の環境へ持ち込んだ時に何が起きるかまでは知らない。
「普通の作物と混ぜて何かあったら嫌だから、使ってない場所で離して育てる」
「そこまで気にするもんなのか」
「分からないから気にするんだよ。何もないならそれでいいし」
「まあ、それもそうか」
農地として使っていない場所ならいくつかある。
その中でも畑から離れ、管理しやすい一角を使わせてもらうことにした。
最初から広く植える必要はない。
少量だけ育てて、周囲へ変な影響が出ないか確認する。
ぼんぐりやきのみが安定して採れるようになれば、今後かなり楽になるはずだ。
「あと、ポケモンたち外に出す時なんだけど」
「まだ何かあるのか?」
「北海道には今ポケモンいないから、近所に見つかると面倒なんだよ」
関東なら、ポッポが飛んでいたところで今更そこまで珍しくない。
だが北海道は違う。
ここで突然ポッポやヒトカゲが目撃されたら、それだけでニュースになる可能性がある。
「だから道路の方には出さない。隣の土地にも行かせない。誰か来たら家か納屋に戻す」
「ずっと隠しておくのか?」
「北海道にも出始めたら別にいいと思う。でも今はまだ早い」
父親も少し考えて頷いた。
「近所に説明するのも面倒だしな」
「それ」
一番大きいのはそこだった。
いずれ隠す必要はなくなる。
北海道にもポケモンが現れ、飼っている人間が珍しくなくなれば、ポッポが一羽増えたところで誰も気にしなくなるだろう。
それまでの話だ。
家へ戻ってから、今度はポケモンたちにも同じことを説明する。
道路の方へ行かないこと。
勝手に畑へ入らないこと。
知らない人が来たら、呼んだ時点で戻ること。
「特にゴース。壁抜けられるからって他所の家に入るなよ」
「ゴォース」
「面白そうとか関係ないからな」
「ゴォ……」
少し不満そうなのが嫌だった。
「今の、絶対何か企んでない?」
母親も同じことを思ったらしい。
「多分大丈夫」
「多分って言わないでよ、もー」
そこは俺も保証できない。
ただ、言っている意味自体は理解しているので、後はちゃんと守るかどうかだ。
その横では、父親がまたポッポに構っていた。
いつの間に持ってきたのか、手には少量の米まで乗っている。
「父さん」
「何だ?」
「やりすぎんなよ」
「これくらい大丈夫だろ」
「さっき会ったばっかだろ」
「頭の上には乗るのに、俺から餌もらうのは駄目なのか?」
「そういう話じゃない」
もう駄目かもしれない。
母親の方を見ると、こちらはこちらでニドラン♀へ規格外の葉物を見せている。
「これは食べてもいい?」
「それなら大丈夫」
「ほら、お食べ」
「ニドッ」
ニドラン♀が嬉しそうに齧り始める。
思っていた以上に馴染むのが早い。
三週間前なら、こんな生き物を家へ10匹連れて帰ったと言えば、もっと大騒ぎになっていたかもしれない。
今は毎日のようにテレビで見ている。
実際に話が通じることも分かった。
そうなれば、後は少し変わった動物が増えたくらいの感覚になるのだろう。
少なくとも、この家では。
「……まあ、何とかなりそうだな」
札幌では10匹をどう収めるかばかり考えていた。
ここでは違う。
餌になる物もある。
納屋もあるし、土地もある。
後はそれを、こいつらが暮らしやすいように整えていけばいい。
ようやく、まともにポケモンを育てられる場所が出来そうだった。