ポケモン現代入り   作:ささみ

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第19話

 

 

 

 

「スピアー、もう一回上から!」

 

「ビィィ!」

 

 声をかけると、スピアーが甲高い羽音を響かせながら高度。上空で大きく旋回したスピアーは、こちらへ身体を向けると一気に速度を上げ、コラッタへ向かって急降下してきた。

 

「ラッ……!」

 

 コラッタもじっと待っている。

 

 三日前までなら、ここで俺の指示を待っていた。

 

 でも今は違う。

 

 スピアーがあと数メートルまで迫ったところで、コラッタは自分の判断で横へ走り出した。身体に白い光をまとい、でんこうせっかの勢いで突進の軌道から抜けていく。

 

「いいぞ、そのまま振り向け!」

 

「ラッタァ!」

 

 コラッタが勢いを殺さず大きく回り込む。

 

 狙うのは、地面すれすれを通り抜けたスピアーの背中だった。

 

 だが、スピアーも素直に追撃を受けてくれるほど鈍くない。

 

「ビィ!」

 

 羽ばたきを強めて急上昇すると、空中で身体を捻りながらこちらを振り向いた。

 

 その瞬間、身体の周囲に細長い光がいくつも生まれる。

 

「来るぞ、避けろ!」

 

 次々に放たれたミサイルばりが、コラッタの周囲へ降り注いだ。

 

 一発目を右へかわし、二発目は前へ走って抜ける。三発目が地面へ突き刺さり、その衝撃に驚いてコラッタの足が一瞬止まった。

 

「ラッ!」

 

「止まるな!」

 

 四発目が脇腹を掠める。

 

 コラッタが小さく悲鳴を上げたが、そのまま走り続けた。むしろ当てられたことで腹が立ったらしく、顔つきが露骨に変わる。

 

「ラッタァ!」

 

 歯を剥き出しにして地面を蹴った。

 

 スピアーが次の攻撃へ移るより早く距離を詰め、その身体へ思いきり噛みつく。

 

「ビィッ!」

 

「おお、入った!」

 

 スピアーが驚いたように羽ばたきを乱す。

 

 コラッタは離さない。

 

「ラッタァァ!」

 

「いやいや、そこまで本気で噛み続けなくていい! 離れろ、コラッタ!」

 

「ラッ!」

 

 声を聞いてようやく口を離す。

 

 自由になったスピアーは慌てて上空へ逃れ、距離を取ってからコラッタを睨んだ。

 

 コラッタも負けじと睨み返す。

 

「……二匹とも、なんか喧嘩みたいになってない?」

 

「ビィ!」

 

「ラッタ!」

 

「違うって言ってるのか、まだやるって言ってるのか分かんないなぁ」

 

 二匹ともやる気だけは十分だった。

 

 三日前、ジョウトについての情報を政府へ送った辺りから、訓練の内容をかなり変えている。

 

 それまでは技を狙った場所へ当てることや、威力を調整すること、俺の指示通りに動くことを優先していた。でも、それだけでは実際の戦いで通用するか分からない。

 

 だから今は、普通にポケモン同士を戦わせている。

 

 技を本気で当てるし、当てられれば痛い。

 

 相手の攻撃を避けられなければ、そのまま食らう。

 

 どちらかが戦えなくなる前に俺が止めることもあるが、最初から怪我をしないよう加減させることは減った。

 

 ポケモンを強くしたいなら、いつまでも安全な練習だけ続けていても仕方がない。

 

「スピアー、まだいける?」

 

「ビィィ!」

 

「元気だなぁ。コラッタは?」

 

「ラッタ!」

 

「そっちもか。じゃあもう少しだけ続けよう。ただし、今度は相手を倒すことだけ考えないで。こっちの声もちゃんと聞くんだぞ」

 

 二匹から返事が返ってくる。

 

 以前よりも、戦わせるのが楽しくなっていた。

 

 ゲームのように技を選ぶだけではない。

 

 スピアーがどの角度から入れば攻撃を当てやすいか。コラッタがどこまで自分で判断できるか。指示を出した方がいい場面と、黙って任せた方がいい場面も少しずつ分かってくる。

 

 俺自身も、ポケモンと一緒に戦い方を覚えている途中だった。

 

「じゃあ、もう一回――」

 

「お前ら、朝から元気だなぁ」

 

 畑の方から父さんの声が聞こえてきた。

 

 振り向くと、作業着姿の父さんが少し離れたところに立っている。肩には当然のようにポッポが乗っていた。

 

「見てたの?」

 

「さっきからな。あのスピアー?だっけ、進化する前とは別物だな」

 

「でしょ? 俺も最初びっくりしたよ。コクーンの時なんてほとんど動かなかったのに、今じゃこれだからね」

 

「ビィ!」

 

 自分が話題に出ているのが分かったのか、スピアーが誇らしげに鳴く。

 

「褒めてる褒めてる。速いし強いって話」

 

「ビィィ!」

 

「随分嬉しそうだな」

 

「こいつ、進化してから戦うの好きみたいなんだよね。組み合わせ決めてると自分から寄ってくるし」

 

「ポォ!」

 

「お前もだろ?」

 

 父さんが肩のポッポを見る。

 

 ポッポは俺から視線を逸らした。

 

「いや、今絶対聞こえないふりしたよね?」

 

「ポォ?」

 

「その顔しても駄目だからね。あとでやるよ」

 

「ポォー……」

 

 今度は明らかに嫌そうな声が返ってきた。

 

 父さんが吹き出す。

 

「戦うの嫌なのか?」

 

「嫌っていうより、楽な方が好きなんじゃない? 父さんの肩乗って麦食べてる方が楽しいでしょ」

 

「それは誰だってそうだろ」

 

「甘やかしてる本人が言わないでよ」

 

「俺は適度に可愛がってるだけだ」

 

「毎朝麦あげてるのを適度って言うの?」

 

「ポォ!」

 

「ほら、本人も適度だと言ってる」

 

「都合よく通訳するなって」

 

 父さんが笑いながらポッポの胸元を撫でると、ポッポは気持ちよさそうに目を細めた。

 

 完全に懐いている。

 

 別に俺から離れたわけではないが、最近は父さんについて畑へ行く時間の方が長い日すらある。

 

「まあ、好きにやるのはいいけど、火を使う奴だけは畑から離してくれよ。昨日の焦げ跡、母さんまだ気にしてたぞ」

 

「今日はヒトカゲをこっちで戦わせないから大丈夫。あれは俺も反省してるよ」

 

「ならいい。俺まで怒られるからな」

 

「なんで父さんまで?」

 

「ポッポ連れて見てたのに止めなかったって」

 

「ああ……それはごめん」

 

「次やったら一緒に謝れよ」

 

「そこは俺一人で謝るから安心して」

 

 父さんは満足そうに笑うと、ポッポを肩へ乗せたまま畑の方へ戻っていった。

 

 俺はその背中を見送り、まだ睨み合っている二匹へ目を戻す。

 

「さて、続きやる?」

 

「ビィ!」

 

「ラッタ!」

 

「二匹とも本当に元気だねぇ」

 

 再開してから数分後、今度はスピアーのミサイルばりをまともに食らったコラッタが尻餅をついたところで止めた。

 

「はい、今日はここまで。もう立ち上がらなくていいよ」

 

「ラッタ……!」

 

「その顔しても駄目。脚ちょっと震えてるからね」

 

 コラッタは不満そうだったが、立ち上がろうとして自分でも限界が分かったらしい。仕方なさそうにその場へ座り込んだ。

 

 一方のスピアーも無傷ではない。

 

 さっきのかみつくが効いているのか、身体を傾けながら傷ついた部分を気にしていた。

 

「スピアーもこっち来て。勝ったからって治療なしにはしないよ」

 

「ビィ」

 

「はいはい、偉い偉い」

 

 二匹を順番に診て、必要なところへ薬を使う。

 

 最近は以前より回復薬を補充しやすくなったので、こういう訓練もやりやすい。だからといって無駄遣いするつもりはないが、初期支給分を数えながら恐る恐る使っていた頃よりはずっと気楽だった。

 

「今日はスピアーの勝ちかな」

 

「ビィィ!」

 

 羽を大きく広げ、ものすごく嬉しそうに鳴く。

 

「ラッタァ……」

 

「そんな落ち込むなって。途中のかみつくは良かったよ。ちゃんと自分でタイミング見て入れたじゃん」

 

「ラッ?」

 

「本当だって。次はミサイルばりを見た時に足止めないようにしよう」

 

「ラッタ!」

 

 褒めた途端、さっきまでの落ち込みが消えた。

 

「分かりやすいなぁ」

 

 思わず笑いながらスマホを取り出し、図鑑アプリを開く。

 

 訓練を本格化してから、こうしてレベルを見る回数も増えた。

 

 捕獲済みの一覧を表示する。

 

 ポリゴン、Lv10。

 

 ポッポ、Lv13。

 

 トランセル、Lv9。

 

 スピアー、Lv12。

 

 ヒトカゲ、Lv14。

 

 ゴース、Lv12。

 

 コラッタ、Lv11。

 

 コンパン、Lv12。

 

 ニドラン♀、Lv11。

 

 パラス、Lv10。

 

「結構育ったなぁ」

 

 三日前から実戦形式に切り替えた影響もあるのか、数字の伸びが以前より分かりやすい。

 

 もちろんレベルだけで強さが全部決まるわけではない。

 

 ゴースなんかは相手によってはレベル以上に厄介だし、スピアーは速い代わりにまともに攻撃を受けると脆い。ポッポも空を飛べるだけで戦い方の幅がかなり変わる。

 

 それでも、成長を見る目安としては便利だった。

 

 画面を少し戻し、トランセルの項目を開く。

 

「九か」

 

「トラー」

 

 木陰に置いていたトランセルが反応した。

 

「やっぱり聞いてた?」

 

「トラ」

 

 キャタピーから進化して、まだそれほど経っていない。

 

 でもレベルを見る限り、次も近い。

 

「あとちょっとでまた姿変わるかもね」

 

「トラー!」

 

 普段ほとんど動かない身体を、少し大きめに揺らした。

 

「そんな楽しみ?」

 

「トラ!」

 

「そりゃそうか。今ほぼ動けないもんな」

 

 バタフリーになれば空を飛べる。

 

 この状態から急に羽が生えて自由に飛び回れるようになるのだから、本人からすれば待ち遠しいだろう。

 

「俺も楽しみにしてるから、もうちょい頑張ろうな」

 

「トラ」

 

 トランセルが小さく揺れた。

 

 ポケモンたちをしばらく休ませることにして、俺も納屋へ戻った。

 

 水を飲みながらスマホでネットを開くと、ジョウトのポケモンが出現してから一日しか経っていないとは思えないほど情報が増えている。

 

 新しいポケモンの写真や動画。

 

 目撃場所。

 

 捕獲に成功したという報告。

 

 何個もボールを投げて全部失敗したという愚痴。

 

 山まで探しに行って逆に追い回された人間。

 

 もちろん嘘も混じっているが、本物だけでも見切れないほど多い。

 

 川辺を歩くポケモンの動画をしばらく眺めているうちに、自然と身体が前のめりになっていた。

 

「……行きてぇなぁ」

 

 誰に聞かせるでもなく声が漏れた。

 

 正直、もう行くこと自体は決めている。

 

 せっかく新しいポケモンが現れたのに、北海道から動画だけ見て満足するなんて無理だ。

 

 捕まえたいポケモンはいる。

 

 野生の強い個体とも戦ってみたい。

 

 今いる連中が、実際の野生ポケモン相手にどこまで通用するのかも確かめたい。

 

 問題は、行くかどうかではなく、行くための準備だった。

 

「まずこっちだよなぁ」

 

 棚の奥から、ボールを入れているケースを引っ張り出す。

 

 中身を並べて数えた。

 

 正式なモンスターボールは一個も残っていない。

 

 ポリゴン、ポッポ、トランセル、スピアー、ヒトカゲ、ゴース。最初に手に入れた正式なボールは、全部こいつらに使っている。

 

 残っているのは自分で作ったボールだけだ。

 

「一、二、三……十個」

 

 空いている自作ボールは十個。

 

 一回の遠征なら、何も考えなければ十分に見える。

 

 ただ、十個投げれば十匹捕まえられるわけではない。

 

 関東でも何度も失敗しているし、投げ方や相手次第では普通に無駄になる。壊れる可能性だってある。

 

 それに今後も地方が増えて、そのたびに俺が捕まえに行くつもりなら、残り十個だけでどうにかする話ではない。

 

「また作るのは嫌だしなぁ……」

 

 前に一日かけて十四個作った時のことを思い出す。

 

 削って、合わせて、失敗して、また削る。

 

 翌日は腕まで痛かった。

 

 少しくらいなら自分で作ってもいいが、今後ずっと必要な分を手作業で補充する気にはなれない。

 

「やっぱ、あの人に頼むか」

 

 以前の掲示板を開き、過去ログを遡っていく。

 

 町工場の設備を使って、自作ボールを二十個以上作った人がいた。

 

 実際に捕獲まで成功させている。

 

 加工設備があり、ボールの構造も一度は自分で考えて作っている。全く何も知らない工場へ持ち込むより、ずっと話が早い。

 

「ポリゴン、ちょっといい?」

 

『ポリ?』

 

 画面の端からポリゴンが姿を見せる。

 

「前に掲示板でボール作ってた町工場の人、分かる?」

 

『ポリ』

 

「連絡取れそう?」

 

『ポリポリ』

 

 相変わらず返事が早い。

 

「なら頼みたい。有識者だってことは隠さなくていいよ。むしろそっちは名乗った方が話しやすいと思う」

 

 ポリゴンがこちらを見ている。

 

「ただ、新城悠真って名前とか、ここに住んでることとか、そういうのはまだ出さない。向こうに分かるのは『掲示板のポケモン有識者』まででいい」

 

『ポリ』

 

「完成品も匿名配送で受け取りたい。向こうにここの住所がそのまま渡らないようにできる?」

 

『ポリ!』

 

「本当に頼りになるなぁ」

 

 ポリゴンが少し胸を張ったように見える。

 

「褒めたら分かりやすく得意そうになるの、最近隠さなくなったね?」

 

『ポリ?』

 

「いや、別にいいけどさ」

 

 連絡経路だけ用意してもらい、文章自体は自分で打つ。

 

 何度か読み返してから送信した。

 

『突然の連絡失礼します。掲示板で「ポケモン有識者」を名乗っている者です。以前製作されていた捕獲用ボールについて、こちらから仕様を出す形で試作品の製作をお願いできないかと思い、連絡しました』

 

「こんなもんかな」

 

『ポリ』

 

「こういうの、妙に緊張するんだよな。掲示板で何百人相手に喋ってる方が気楽だわ」

 

『ポリポリ』

 

「知らない人に仕事頼むのなんて初めてなんだから仕方ないでしょ」

 

 送った以上、返事を待つしかない。

 

 その間に別の確認をすることにした。

 

「そういや、そっちはどうなってる?」

 

『ポリ?』

 

「お金の方。前からやってもらってるやつ」

 

『ポリ!』

 

 ポリゴンがすぐに表示を切り替える。

 

 俺名義で動かしている資金の数字を見て、思わず眉を上げた。

 

「……また結構増やしたね」

 

『ポリ!』

 

 明らかに嬉しそうだった。

 

「すごいよ。本当に助かってる。ただ、変なことはしてないよね?」

 

『ポリ! ポリポリ!』

 

「怒らなくても分かってるって。公開されてる情報使って普通に取引してるだけなんでしょ?」

 

『ポリ』

 

「ならいい。俺が知らないうちに犯罪者になってるのだけは勘弁してほしいから確認してるだけ」

 

 ポリゴンが少し不満そうにこちらを見た。

 

「信用してるよ。してるから任せてるんでしょうが」

 

『ポリ』

 

「ただ税金とかもあるから、稼ぐだけ稼いで終わりじゃないからね。その辺も一緒に調べような」

 

『……ポリ』

 

「なんで露骨にテンション下がるんだよ」

 

 思わず笑ってしまった。

 

 実家へ戻ってから、少しずつ資金を増やしてもらっている。

 

 最初は生活費とポケモンの餌代、あとは今後の遠征費が用意できれば十分だと思っていた。

 

 でも、実際に育て始めると必要な金は増える一方だった。

 

 ボールもいる。

 

 薬もいる。

 

 地方へ行くなら交通費や宿泊費もかかる。

 

 ポケモンが増えれば食費も増える。

 

 そして、今一番欲しくなってきたのが訓練場所だった。

 

 さっき戦わせたのはスピアーとコラッタだから、まだ何とかなる。

 

 ヒトカゲを本気で戦わせれば火を使う。

 

 このまま育てばリザードになり、その先にはリザードンがいる。

 

 今後捕まえるポケモンだって、小さい奴ばかりとは限らない。

 

 今の土地で周囲を気にしながら戦わせ続けるには、いずれ限界が来る。

 

「そのうち、山とか買いたいんだよなぁ」

 

『ポリ?』

 

「土地。広くて、人が近くにいないところ」

 

 ポリゴンが画面の中で動きを止めた。

 

「そんな驚く?」

 

『ポリ』

 

「本気だよ。多少地面が抉れても困らなくて、飛ぶ奴も走る奴も好きに動けて、火とか電気とか撃っても近所に迷惑かからない場所が欲しい」

 

 言いながら、自分でも少し笑えてきた。

 

 少し前まで札幌で工場勤務をしていたのに、今は真面目に山を買う話をしている。

 

 でも、ポケモンを本気で育てるなら必要になる。

 

「今すぐ探さなくていいけど、相場くらいはそのうち調べよう。遠征もしたいし、全部一気には無理だから」

 

『ポリ』

 

「頼りにしてるよ」

 

『ポリ!』

 

 元気な返事が返ってきたところで、通知音が鳴った。

 

「あ、来た」

 

 町工場の人からだった。

 

『すみません。最初に確認したいんですが、本当に掲示板のポケモン有識者さん本人ですか?』

 

「まあ、まずそこだよね」

 

 当然の反応だった。

 

「ポリゴン、掲示板の方から本人だって分かるようにできる?」

 

『ポリ』

 

「じゃあ俺が今から一回書き込むわ。余計なことしなくていいからね」

 

 普段使っている有識者のアカウントから、指定した短い文章を書き込む。

 

 その後もう一度メッセージを送ると、今度は返事が来るまで少し時間がかかった。

 

『確認しました。本当に本人だったんですね。正直かなり驚いています。試作については内容を見ないと判断できませんが、こちらで加工可能なものなら相談には乗れます』

 

「お、話聞いてくれるって」

 

『ポリ!』

 

「まだ喜ぶの早いよ。作れるかどうかはこれからだから」

 

 それでも、少し気分が上がった。

 

 全く見込みがないなら、最初から断られていただろう。

 

『ありがとうございます。最初から量産をお願いするつもりはありません。まず数個だけ試作していただいて、捕獲性能はこちらで確認したいと考えています。材料や必要な仕様についてはこちらから提示します』

 

 さらに、完成品は匿名配送で受け取りたいことも伝える。

 

 今度はしばらく返事が来なかった。

 

 加工できるか確認しているのかもしれない。

 

 スマホを置いて外を見ると、さっきまで休んでいたはずのコラッタが立ち上がっていた。

 

 その向かいではスピアーが低い位置を飛んでいる。

 

「……君ら、まさかまたやる気?」

 

「ラッ!」

 

「ビィ!」

 

「さっき終わりって言ったよね?」

 

 コラッタがスピアーへ飛びつこうとし、スピアーが少し上へ逃げる。

 

「ラッタ!」

 

「ビィィ!」

 

「こらこら、煽るなって!」

 

 慌てて外へ出ると、二匹が揃って俺の方を見た。

 

「明日またやるから今日は休む。負けて悔しいからって、怪我したまま続けたら余計弱くなるよ」

 

「ラァ……」

 

「そんなに落ち込まなくても。明日は別の組み合わせもやるからさ」

 

 コラッタの耳が少し上がる。

 

「分かりやすいねぇ」

 

「ラッタ!」

 

 スピアーも羽音を鳴らしながら寄ってきた。

 

「もちろんスピアーもやるよ。今度は空飛べる相手とも戦ってみようか」

 

「ビィィ!」

 

「だから今日は休めって」

 

 二匹を見ていると、自然と笑ってしまう。

 

 強くなりたいのは、俺だけではないらしい。

 

 もっと戦わせたい。

 

 もっと色々な相手と戦って、得意なことも苦手なことも見つけたい。

 

 その先で、どこまで強くなれるのか見てみたい。

 

 スマホからもう一度通知音が聞こえた。

 

『数個程度であれば試作できます。詳しい仕様を送ってください』

 

「よし!」

 

 思わず声が出た。

 

「ビィ?」

 

「ラッ?」

 

「ああ、ごめん。こっちの話」

 

 画面の中ではポリゴンも嬉しそうに動いている。

 

「まずは普通のモンスターボールだな。特殊なやつは後回しでいい。最初に欲しいのは、安定して同じ品質で作れる普通のボールだから」

 

『ポリ!』

 

「寸法と構造をまとめて、材料も確認して……試作品が届いたら実際に捕獲して性能を見る」

 

 やることが具体的になっていくと、また遠征したい気持ちが強くなった。

 

 新しい地方には、もうポケモンがいる。

 

 捕まえたい奴も、戦ってみたい奴もいる。

 

 そのためにボールを揃えて、今いる連中を鍛えて、金も用意する。

 

 そのうち、誰にも気兼ねせず思いきり戦わせられる土地も欲しい。

 

「思ったよりやること多いなぁ」

 

『ポリポリ』

 

「でもまあ、楽しいからいいか」

 

 画面の中のポリゴンが身体を揺らす。

 

 俺も笑いながら、町工場へ送る最初の仕様をまとめ始めた。

 

 ジョウトへ行くのは、それが済んでからだ。

 

 せっかく捕まえに行くなら、途中でボールが足りなくなって後悔するのだけは御免だった。

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