ポケモン現代入り   作:ささみ

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第21話

 

 

 

 

 三日後。

 

 中部地方へ到着し、予約していたレンタカーの前まで案内されたところで、思わず足が止まった。

 

「……デカいな」

 

 予約画面でも大型SUVなのは分かっていた。荷室の寸法まで確認して選んだのだから、当然自分で決めた車である。

 

 それでも実物を見ると普通にデカい。

 

『ポリ』

 

「いや、文句じゃないよ。むしろ今回これくらい欲しかったんだけどさ。前回との差がすごいなと思って」

 

 スマートフォンの画面からポリゴンがこちらを見ている。

 

 最初に関東へ入った時は、キャリーケースとリュックを積んで終わりだった。そもそも手持ちはポリゴン一匹で、空のモンスターボールも五個しかなかったのだから、それで十分だったとも言える。

 

 今回は違う。

 

 レンタカーの後部ハッチを開け、営業所から少し離れた場所で事前に送っておいた荷物を順番に積んでいく。

 

 人間用の食料と水、ポケモン用の餌。回復薬に救急用品、防水装備、厚手の手袋、ゴーグル、ヘルメット、ロープ、ライト類。大容量のモバイルバッテリーにポータブル電源、寝袋とテント、簡単な調理用品まである。

 

 さらに別の箱には、今回かなり増やした採取用品。保存袋、密閉容器、保冷箱、剪定ばさみ、小型スコップ、折り畳みコンテナ。持ち帰ったきのみやぼんぐりを傷めないための緩衝材まで詰めてある。

 

「……ポケモン捕まえに来たんだよな、俺」

 

『ポリ』

 

「キャンプ用品店を開く予定はないけどさ」

 

 もちろん全部を背負って山へ入るわけではない。この車自体を補給地点として使い、その日の探索に必要な物だけ持って、残りは車へ置いておく。前回の経験から、最初からそうするつもりで荷物を分けてきた。

 

 今回は日が暮れたら帰るとも限らない。むしろ夜まで残るつもりだった。昼間には出てこないポケモンもいるし、せっかく本物のジョウト地方の生態が現れたのだから、昼間だけ見て帰るのは勿体ない。

 

「ホーホーとかイトマルとか、夜の方が探しやすい奴もいるしね」

 

『ポリ』

 

「ゴースもいるし、夜歩く戦力は前回より遥かにマシだし」

 

 荷物を積み終えると、それでもまだ荷室には余裕が残った。

 

「すげぇ。まだ空いてる」

 

 前回ならこれだけで後ろが完全に埋まっていた。今回はぼんぐりやきのみを見つけたら、この空間へ積んで持ち帰ることもできる。小型の苗木程度なら状態を見て持ち帰ってもいい。研究をするつもりはないので、土を掘ってサンプル採取まで始める気はない。

 

 欲しいのは、育てられる物。それだけだ。

 

 運転席へ乗り込み、エンジンをかける前にスマートフォンでボックスアプリを開いた。

 

「さて。こっちも決めないとな」

 

 現在、正式なモンスターボールに入っているポケモンは八匹。

 

 ポリゴン、トランセル、スピアー、ヒトカゲ、ゴース、コラッタ、コンパン、パラス。

 

 ポッポは父さんへ正式に譲渡済み。ニドラン♀は自作ボールのまま実家に残してあり、父さんが管理している。もっとも、本人は母さんの後ろをついて歩いていることの方が多いらしい。

 

 正式なボールには手持ち六匹の制限がある。七匹目以降はボックスへ送られるため、八匹全員を同時に出して連れ歩くことはできない。

 

「今回は固定六匹ってわけでもないんだけど……最初はこれかな」

 

 ポリゴン、トランセル、スピアー、ヒトカゲ、ゴース、コラッタ。ひとまずこの六匹を手持ちへ設定し、コンパンとパラスはボックス側へ回す。

 

「トランセルは最優先で経験積ませたいし、スピアーは普通に戦力。ヒトカゲも育てたい。ゴースは夜まで考えると外せない。コラッタも実戦増やしたい」

 

『ポリ』

 

「君はナビ兼索敵兼通信兼いろいろ担当なので強制参加です」

 

『ポリ!』

 

「そこ誇らしげにするところなんだ」

 

 もっとも、一日中この六匹で通す必要もない。ボックスがある以上、場所や時間帯、狙う相手に合わせてコンパンやパラスと入れ替えればいい。

 

 前回とは、その辺りも随分違う。最初は一匹しかいなかったのに、今では誰を連れて行くか選ぶ必要がある。

 

「増えたなぁ……」

 

 何となく嬉しくなって、表示された八匹をしばらく眺めた。ここへさらにジョウトのポケモンが増える予定なのだから、今後はもっと悩むことになるだろう。

 

 そのために来たので、まったく問題はない。

 

「あと自作ボールもあるしね」

 

 正式ボールへ移したコラッタ、コンパン、パラスが使っていた分も戻っている。所有者認証も図鑑連携もない代わりに、正式システムの六匹制限にも関係しない。

 

 今回どこまで使うかは状況次第だが、少なくとも捕獲手段そのものは前回よりずっと多かった。

 

 そこで、もう一つ思い出す。

 

「あ、そうだ。配送」

 

『ポリ?』

 

「次のボール、家に届いたら意味ないでしょ。こっちで受け取れるようにしといて」

 

『ポリ』

 

 ポリゴンがスマートフォンの中へ消え、匿名配送サービスの画面が開く。

 

 町工場とのやり取りには最初からこのサービスを挟んでいる。工場側へ伝わるのは発送に使う識別コードまでで、俺の氏名や住所、その荷物が最終的にどこへ運ばれるのかまでは表示されない。

 

 一度サービス側の中継拠点へ入り、そこから俺が指定している場所へ転送される仕組みだ。

 

 受取先の一覧を開くと、現在地周辺の候補が地図へ並んだ。駅構内のロッカー、コンビニ、宅配会社の営業所、無人の受取ボックス。街中なら選択肢はいくらでもある。

 

「駅はなし。街まで戻るの面倒だし……コンビニも人多そうだな」

 

 これから向かう山と現在地を見比べながら、少し郊外まで地図を動かす。

 

 ちょうど進行方向に、大型商業施設の駐車場脇へ設置された二十四時間利用可能な宅配ロッカーがあった。幹線道路から少し入るだけで、大型車を停める場所にも困らない。山から戻る途中でも寄れる位置だった。

 

「ここいいじゃん」

 

『ポリ』

 

「営業時間気にしなくていいし、車も停められる。次からここで受け取ろう」

 

 受取先を選択する。

 

 確認画面には俺のアカウントと受取拠点だけが表示され、発送元へ通知されるのは配送先を変更したことすら含まれていない。町工場からすれば、今まで通り同じ匿名配送先へ箱を出すだけだ。

 

 受け取る時には、荷物が到着するとスマートフォンへ一回限りの受取コードが届く。それをロッカーへ読み込ませれば扉が開く。

 

「これなら北海道にいようが中部にいようが、向こうからしたら何も変わらないわけか」

 

『ポリ』

 

「楽でいいな。下手に住所教えて、あの工場の人たちがぼんぐり持って押しかけてきても困るし」

 

『ポリ?』

 

「……いや、さすがに来ないよな?」

 

 先日の報告を見る限り、妙な方向に行動力がある人たちなのは少し気になった。

 

 数秒後、受取先変更完了の表示が出る。

 

「よし。次からあそこ」

 

 今のところ町工場から届いている正式ボールは、先日完成した三個だけ。ただ、量産自体は引き続き頼んである。向こうにはスーパーボールとハイパーボールの設計も送っているので、いずれそちらの試作品も届くだろう。

 

 遠征中に追加のモンスターボールを補給できるなら、かなり助かる。山から一度戻って風呂や食料の補充をするついでにロッカーへ寄ればいい。

 

 空のボールが尽きたから北海道まで帰ります、ではさすがに寂しい。

 

「これで補給も大丈夫」

 

 カーナビへ視線を移す。

 

 画面には既に、ポリゴンが集めた情報が大量に重ねられていた。道路規制、ポケモンの目撃地点、事故報告、立入禁止区域。ぼんぐりらしき植物が撮影された場所、きのみの報告、人の出入りが多い観光地や登山道まで、一目で分かるようになっている。

 

「今回は、人がいるところはなるべく避けよう」

 

『ポリ』

 

「前みたいに道路横でポッポ見て喜ぶ旅行じゃないからね」

 

 本格的に戦わせる。捕まえる。採取する。夜も歩く。その全部をやるなら、人目がある場所では都合が悪い。

 

 正式なモンスターボールを何度も投げるところを見られるのも避けたいし、スピアーやヒトカゲに技を使わせているところを撮られれば、それだけで面倒なことになる。それに今回欲しいのは、人里へ普通に姿を見せる個体だけではない。

 

「進化した奴も探したいんだよなぁ」

 

 未進化のポケモンを捕まえて育てるのは楽しい。それはそれとして、既に野生で進化している個体も欲しい。

 

 強い個体。山奥で縄張りを持っているような奴。人間の生活圏までわざわざ降りてこないポケモン。

 

 そういうものを探すなら、最初から人里近くをうろうろする理由がない。

 

「情報少ないところの方が今回はいいか」

 

『ポリ』

 

 画面上の候補地が絞られていく。人の投稿が少なく、舗装道路も途中で途切れている。ただし林業用らしい道が山のかなり奥まで伸びている。

 

 周辺では、ジョウト出現後に数件だけポケモンらしき目撃報告がある。何か大きなものを見たという曖昧な書き込みまで混じっていた。

 

「ここ面白そう」

 

 目的地を設定する。

 

 今回の遠征でやりたいことは明確だった。

 

 まずポケモン。ジョウトで新しく現れた種類を確保する。

 

 次にぼんぐり。前回手に入れた物だけではなく、種類を増やして持ち帰りたい。町工場へ加工用として回す分も必要だし、十勝で育てる分も欲しい。

 

 そしてきのみ。オボンのみは既にあるので、今回はそれ以外を優先して集める。食用として使えるものもあれば、ポケモンの状態異常や体調管理に役立つものもある。持ち帰って栽培できれば、今後の維持費もかなり変わってくる。

 

 最後が戦闘。今回はむしろ、これが大きい。

 

「前みたいに危なそうだから全部避ける必要ないし」

 

 手持ちは増えた。実戦も積み始めている。回復手段も以前より揃っている。

 

 だから、戦えそうな野生ポケモンがいれば積極的に戦わせるつもりだった。トランセルは特に進化が近い。他のポケモンも、実戦経験を積ませたい。

 

「まあ、明らかにヤバいのが出たら一対一なんかしないけどね」

 

『ポリ?』

 

「囲むよ」

 

 当然のこととして答える。

 

「野生相手に大会ルール守る必要ないでしょ。危ないなら二匹でも三匹でも出す。こっちはそのために仲間増やしてるんだから」

 

 相手が強ければ数を使う。相性が悪ければ入れ替える。危険なら撤退する。

 

 現実でポケモンと戦う以上、一匹ずつ順番に出さなければならない理由はない。

 

「六匹全員必要になるようなのは、できれば会いたくないけど」

 

『ポリ』

 

「何その反応。フラグみたいなのやめてよ」

 

 ナビがルートを表示した。

 

 営業所を出てしばらくは、ごく普通の市街地だった。ジョウト地方のポケモンが現れたと言っても、一週間足らずで街そのものが別世界へ変わるわけではない。

 

 信号がある。コンビニがある。学校がある。普通に会社へ向かう人もいる。

 

 ただ、道路脇の電光掲示板には正体不明生物への注意が流れ、場所によっては警察車両も見かけた。

 

 少し郊外へ出ると、違いはさらに分かりやすくなった。

 

「あ」

 

 畑の端に、細長い身体を起こしてこちらを見ている茶色いポケモンがいた。

 

「オタチじゃん」

 

 車を止めるほどではないので、速度を落としながら横目で見る。オタチはこちらを警戒していたが、車が通り過ぎても追ってくる様子はなかった。

 

「……おお。ジョウトだなぁ」

 

 思わず笑う。知っているポケモンでも、本物を見る楽しさはまだ全然薄れていない。

 

 その後も、電線に留まる小さな鳥らしき影や、遠くの草地で跳ねるものを何度か見かけた。捕まえようと思えば捕まえられるかもしれないが、今は止まらない。

 

「今日は奥まで行く」

 

『ポリ』

 

「その辺にいる奴は、帰りでも探せるしね」

 

 街が消え、家が減り、道幅も狭くなっていく。途中からセンターラインもなくなり、周囲はほとんど山だけになった。

 

 大型SUVを借りて正解だった。舗装が荒れた場所を越えてさらに奥へ進み、何度か枝を踏んでタイヤの下で乾いた音が鳴る。

 

「前回の車なら、この辺でちょっときつかったな」

 

 まだ走れる。ポリゴンが通行可能な道を確認しながら案内してくれるので、行き止まりへ突っ込む心配も少ない。

 

 やがて舗装そのものが消れ、さらにしばらく進んだところで道と呼ぶのも怪しくなってきた。

 

「ここまでかな」

 

 車を止める。

 

 周囲に人家はなく、当然ながら他の車もない。スマートフォンの電波表示もかなり弱くなっている。

 

 エンジンを切ると一気に静かになった。風が木々を揺らす音と鳥の声。それに混じって、聞き覚えのない鳴き声がかなり遠くから響いた。

 

「……いいね」

 

 後部ハッチを開ける。

 

 ここから先は徒歩だ。全部は持たず、水、食料、回復薬、救急用品、採取道具、ライト、防護装備、それに今夜そのまま戻れなくても困らない程度の野営用品を選んでリュックへ詰めていく。

 

「車デカくした意味、ここで出るなぁ」

 

 必要になれば戻って補給できるし、採った物もここへ置ける。最悪、車まで戻れれば寝る場所にも困らない。

 

 装備を整え、スマートフォンを見る。

 

「ここから先、かなり歩くよ」

 

『ポリ』

 

「人がいたら教えて。あとポケモンも、できれば先に見つけてくれると助かる」

 

『ポリ!』

 

 続けて別のボールへ手をかけたが、一度止める。

 

「……いや、まだいいか」

 

 最初から全員出して歩く必要はない。必要になった時に出せばいい。

 

 車へ鍵をかけ、林道の奥を見る。ここからさらに何時間か歩くつもりだった。

 

 携帯の電波がなくなる程度では止まらない。人間が普通に歩いてくるような場所から離れ、ポケモン同士の戦闘をやっても、ボールを投げても、まず誰にも見つからないところまで行く。

 

 そして、そこからが今回の遠征の本番だ。

 

「よし」

 

 リュックの位置を直す。

 

「行こうか」

 

 前回の関東遠征では、本物のポケモンを見るだけで一日中興奮していた。今回は違う。

 

 捕まえる。育てる。戦わせる。新しいきのみとぼんぐりを持ち帰る。昼だけでなく夜まで森を歩き、もっと奥にいる強いポケモンまで探す。

 

 やりたいことはいくらでもあった。

 

「ジョウト遠征、開始だな」

 

『ポリ!』

 

 ポリゴンと一緒に歩き出す。

 

 十分、二十分と進むうちに、舗装された道どころか林業用の道らしい形すら少しずつ消えていく。人間が残した痕跡が減るほど、逆に別のものが増えてきた。

 

 木の幹についた大きな傷。何かが草を押し倒して通った跡。食い散らかされた木の実。遠くで枝が折れる音。

 

 まだ姿は見えない。それでも、この山にかなりの数のポケモンがいることだけは分かった。

 

「……この辺からかな」

 

 足を止める。

 

 振り返っても車はもう見えず、人の声も聞こえない。ポリゴンが周囲を確認し、こちらへ短く鳴いた。

 

「誰もいない?」

 

『ポリ』

 

「よし」

 

 今度こそモンスターボールへ手を伸ばす。ここなら技を使っても問題ない。野生ポケモンが来ても逃げるだけでは終わらせない。

 

「前回みたいな見学はここまで」

 

 ボールの中央へ親指を置く。

 

「ここから本気でやろうか」

 

 その直後、少し離れた藪の奥で何かが大きく草を揺らした。

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