ポケモン現代入り 作:ささみ
バンギラスを捕まえた翌日は、ほとんど移動せずに過ごした。
戦場となった山から十分に離れ、沢の近くへ野営地を作る。手持ちの傷を確かめ、キズぐすりを使い、食事を与えて休ませるだけで一日が終わった。
バンギラスはボックスへ入れたままだ。
スマートフォンで状態を確認すると、レベルは五十八。全身に大きな傷を負っているが、ボックス内では悪化することなく安定している。
性格は、ようき。
「……ようき?」
山を食べ、リングマを何度も投げ飛ばし、はかいこうせんで森を消し飛ばした姿を思い返す。
「どの辺が?」
『ポリ』
「いや、性格悪そうって意味じゃないけどさ」
少なくとも、負傷して完全に動けないわけではないらしい。
ボックス内の映像では、時折周囲へ顔を向けたり、落ち着きなく尻尾を動かしたりしている。
捕獲されたことへ激しく抵抗している様子はなかった。
だからといって、外へ出した瞬間に俺の指示へ従う保証もない。
一度だけバンギラスのボールを手元へ転送し、掌の上で眺める。
ボタンを押せば、ここへ出せる。
そう考えた瞬間、木々を一直線に吹き飛ばしたはかいこうせんが頭へ浮かんだ。
「……無理だな」
すぐボックスへ戻した。
「捕まったことを受け入れてるのと、俺の言うことを聞くのは別だ。今出して暴れられたら、止められない」
バンギラス戦を終えたことで、手持ちのレベルはさらに一つか二つ上がっていた。
それでも平均すれば二十六から二十七前後。
五十八のバンギラスとは、まだ三十以上も離れている。
しかも昨日は、オヤブンリングマが正面から押さえてくれた。俺たちだけで同じ状況を作るのは不可能だった。
「十勝へ戻ってからだな。人のいない山を用意して、全員をもっと育てて、それから出す」
『ポリ』
「問題は山を買う金があるかだけど」
ポリゴンが運用している資金は、ジョウトへ来てから詳しく確認していない。
帰ったら一度、現在の金額を確認する必要がある。
利益が出ていれば山を買える可能性もあるが、同時に税金という別の問題も出てくる。
「まあ、それは帰ってから考えよう」
今考えても、口座の数字は分からない。
それよりも、バンギラスを外へ出すための戦力が足りなかった。
いわ・あくタイプには、水タイプが有効だ。さらにニョロゾをニョロボンへ進化させれば、かくとうタイプも加わる。
「モンスターボールも残ってるし、帰る前に水タイプを探そう」
手持ちの回復を待ち、翌朝から川を目指した。
ポリゴンが表示した地図によれば、現在地から半日ほど下った場所に大きな川がある。山から流れる支流がいくつも合流し、深い淵も点在していた。
道中で野生ポケモンを見かけても、戦闘は避けた。
歩けないほどではないが、バンギラス戦の疲れはまだ残っている。無理をして余計な傷を増やす必要はなかった。
川へ着いたのは昼を過ぎた頃だった。
山中にしては川幅が広く、透明な水が岩の間を勢いよく流れている。流れの緩い場所には、水タイプの姿も見えた。
最初に捕まえたのはコイキングだった。
何匹かいる中から、流れに押し戻されても何度も上流へ向かおうとしている一体を選ぶ。
岸辺へ餌を落として近づけ、ボールを投げると、ほとんど抵抗せずに捕獲できた。
「とりあえず一体でいいか」
コイキングを何匹も捕まえても、今は育てる場所がない。
ギャラドスへ進化すれば身体も大きくなる。複数の個体を育てるのは、山や池を確保してからでいい。
その後、川沿いを移動しながら二体のニョロゾを見つけた。
一体目は浅瀬を歩きながら、流れてくる石を腕で弾き飛ばしていた。こちらへ気づいても逃げず、正面から向かってくる気の強い個体だった。
二体目は少し離れた淵に単独でおり、水中へ潜りながら距離を保つ個体だった。
既存の手持ちでそれぞれ弱らせ、二体ともボールへ収める。
戦い方はまるで違う。
一体目は体力と力が強く、接近戦を好む。
もう一体は周囲の動きを見ながら、さいみんじゅつなどで相手を妨害する方を好んでいた。
「前に出る方をニョロボン。もう一体をニョロトノにするのが良さそうだな」
ニョロトノへの進化に必要なおうじゃのしるしは、まだ持っていない。
交換装置は実家にあるので、道具を手に入れた後に父さんと交換すればいい。
ニョロボンには、みずのいしが必要になる。
そのみずのいしは、川辺で野営の準備をしている時に見つかった。
ポリゴンが岩の隙間から異なる反応を見つけ、俺が手を入れて取り出す。
青く透き通った石の内部では、水面のような光が揺れていた。
「本当にあるんだな」
周囲も調べてみたが、見つかったのは一個だけだった。
進化石は完全に無作為な場所へ現れるのではなく、近いタイプの環境へ発生するのかもしれない。
みずのいしなら川や湖。
ほのおのいしなら火山や地熱地帯。
かみなりのいしなら、落雷の多い場所。
「今は使わないでおこう」
ニョロゾは捕まえたばかりだ。
性格も身体の状態も、まだ詳しく分かっていない。山中で急に進化させるより、十勝へ帰って落ち着いた環境で行った方がいい。
みずのいしを布で包み、硬質ケースへ収納した。
それから数日、川沿いで休みながら移動した。
新しく捕まえたニョロゾたちは、食事の時だけ外へ出す。
接近戦を好む方は、早い段階からリザードやスピアーへ興味を示した。もう一体は少し離れた場所から全体を眺め、俺が餌を置いて下がってから近づいてくる。
まだ命令を素直に聞く段階ではない。
それでも食事を受け取り、ボールへ戻す時にも強く抵抗はしなかった。
既存の手持ちも、バンギラス戦で得た経験によって少しずつ強くなっている。
リザードとゴースト、ポリゴンは二十七前後。
バタフリー、スピアー、コンパンも二十六前後まで上がっていた。
最初にリングマと戦った時から見れば、およそ十レベルほど高くなっている。
「そろそろ行こうか」
向かう先は、あのオヤブンリングマの縄張りだった。
前回は全員が倒れる寸前まで追い込まれ、どうにか動きを止めただけだった。
今はレベルだけでなく、進化や実戦経験も増えている。
バンギラスとの戦いを経たことで、大型ポケモンに対する動き方も分かってきた。
ニョロゾたちは連れていくが、戦闘へ出すつもりはない。
捕獲したばかりの二体を、いきなりオヤブンとの戦いへ参加させる必要はなかった。
戦うのは、これまで一緒に進んできた六匹だ。
数日かけて山を戻り、新しい足跡を探した。
リングマもバンギラス戦で大きな傷を負っている。動けないほど弱った状態を狙って捕まえる気はなかった。
倒木が新しく動かされ、幹へ新しい爪痕が残っていることを確かめてから、縄張りの奥へ入る。
リングマを見つけたのは、最初に戦った場所から少し離れた岩場だった。
大きな背中がこちらを向いている。
左肩には以前の傷と、バンギラスに噛みつかれた跡が残っていた。それでも動きに大きな乱れはなく、既に普通に活動できる程度には回復している。
「リングマ」
声をかける。
巨体がゆっくり振り返った。
額の模様から赤い光が溢れる。
俺たちを覚えている。
リングマは低い唸り声を上げ、二本の脚で立ち上がった。
俺も六匹を出す。
リザードが前へ進み、バタフリーとスピアーが左右へ分かれる。ゴーストは木々の間へ浮かび、コンパンが触角を動かした。ポリゴンは上空からリングマの全身を捉える。
以前は、立ち上がった姿を見ただけで身体が強張った。
今も怖くないわけではない。
それでも、逃げるつもりはなかった。
「もう一度やろう」
空のモンスターボールを腰から外す。
「今度は、お前を捕まえに来た」
リングマが咆哮し、地面を蹴った。
「散開!」
六匹が左右へ分かれる。
リングマの巨体が、先ほどまで全員がいた場所を通り抜けた。
最初に戦った時は、この突進だけで隊列が崩れた。
今回は誰も巻き込まれていない。
「バタフリー、ねんりき! コンパン、ちょうおんぱ!」
横から力を加え、同時に高い音を浴びせる。
リングマの足取りが僅かに乱れた。
「スピアー、左肩へミサイルばり! リザード、りゅうのいぶき!」
光る針と青白い息が続けて当たる。
リングマの巨体が半歩下がった。
以前は攻撃が当たっても、ほとんど止まらなかった。
今は違う。
一撃で倒せるほどではないが、無視して進めるほどの差も残っていない。
リングマの赤い目が強く光る。
こわいかお。
周囲へ威圧が広がり、スピアーの動きが一瞬鈍った。
リングマの腕が振り上げられる。
「ポリゴン、あやしいひかり! バタフリー、腕を逸らせ!」
不規則な光が視界へ入り、ねんりきが腕の軌道を横へずらす。
きりさくがスピアーのすぐ下を通り過ぎた。
風圧で身体を崩したものの、スピアーは木へぶつかる前に姿勢を戻す。
「そのまま離れろ! ゴースト、背後からさいみんじゅつ!」
リングマの背後にゴーストが浮かぶ。
視線が合う直前、リングマが振り返った。
「リザード、えんまく!」
正面から黒煙が広がり、リングマの姿を覆い隠す。
「煙の中へ入るな! 外から攻撃するぞ!」
バタフリーとコンパン、ポリゴンが動きを乱し、リザードとスピアーが隙を見て攻撃を入れる。
誰かが狙われれば、別のポケモンが妨害する。
攻撃を受けた個体は、一度後ろへ下げる。
前回のように、一匹が崩れたことで全員の動きが止まることはなかった。
リングマのレベルは、以前よりさらに上がっている。
バンギラスとの戦闘で大量の経験を得たのは、こちらだけではない。
攻撃は前より重く、動きも僅かに速い。
それでも、リングマの成長以上に俺たちの方が強くなっていた。
「焦るな。このまま削るぞ!」
煙の中からリングマが飛び出した。
狙いはリザード。
「横へ!」
リザードが跳ぶ。
リングマは動きを読んでいたように腕を伸ばし、空中の身体を掴んだ。
「バタフリー、腕を上へ! スピアー、手首!」
ねんりきで腕が持ち上がり、ミサイルばりが手首へ刺さる。
握る力が緩んだ瞬間、リザードが身体を捻って抜け出した。
地面へ転がりながらも、すぐ立ち上がる。
「一度下がれ!」
リザードは悔しそうに牙を見せたが、指示どおり距離を取った。
前回なら、空いた場所を埋めるためにすぐ戻していた。
今は残りの五匹で時間を作れる。
「ゴースト、あやしいひかり! コンパン、右からちょうおんぱ!」
光と音を浴びたリングマが頭を振る。
「バタフリー、ねむりごな!」
上空から粉が降る。
リングマは顔を背け、強引に範囲から抜け出した。
「やっぱり簡単には眠らないか」
リングマが走り出す。
今度の狙いは手持ちではなかった。
真っ直ぐ俺へ向かってくる。
「また俺か!」
指示を出している人間を倒せば、残りの動きが乱れると理解している。
「ポリゴン、足元へあやしいひかり! バタフリー、右脚!」
低い位置へ光が浮かび、ねんりきが踏み込んだ脚を横へ引く。
巨体が傾いた。
「リザード、りゅうのいぶき!」
青白い息が胸へ直撃する。
それでもリングマは止まらない。
「スピアー、左肩!」
ミサイルばりが傷へ集中する。
リングマの身体が大きく揺れ、俺の数メートル手前で片膝をついた。
「ゴースト、さいみんじゅつ!」
顔を上げたリングマと、ゴーストの目が合う。
動きが止まる。
完全には眠らない。
リングマは頭を振り、ゴーストへ腕を伸ばした。
「バタフリー、もう一度ねむりごな!」
今度は避けられなかった。
粉を吸い込んだリングマの足元が揺れる。
「眠るまで距離を保て!」
リザードとスピアーが左右から攻撃を重ねる。
ポリゴンとコンパンが動きを乱し続け、バタフリーとゴーストが眠りを深くする。
リングマは何度も立ち上がろうとした。
爪で地面を削り、力任せに身体を起こそうとする。
だが、以前のように一度の突進で状況を覆す余力は残っていなかった。
片膝が落ちる。
続いて両手を地面へついた。
「今だ!」
ボールを投げる。
リングマの身体が赤い光へ変わり、内部へ吸い込まれる。
地面へ落ちたボールが揺れた。
一度。
二度。
三度目へ入る前に、中央が開く。
「駄目か!」
リングマが再び姿を現す。
眠気と傷でふらつきながらも、まだ戦意は消えていない。
こちらを見て咆哮し、もう一度立ち上がった。
「まだやるか」
手持ちも疲れている。
それでも、前回のように全員が倒れかけているわけではない。
全員がまだ動ける。
全員が次の指示を待っている。
「こっちも、まだ終わってないぞ」
リングマが最後の力を振り絞るように走り出す。
「リザード、正面からりゅうのいぶき!」
青白い息が胸へ当たる。
「バタフリー、左脚へねんりき!」
踏み込んだ脚が横へ引かれ、巨体が傾いた。
「スピアー、左肩へミサイルばり!」
針が傷へ突き刺さる。
リングマが片手を地面へついた。
「コンパン、ちょうおんぱ! ポリゴンはあやしいひかり!」
音と光が同時に重なり、リングマの視線が定まらなくなる。
「ゴースト、さいみんじゅつ!」
今度は顔を背ける余裕がない。
リングマの赤い目と、ゴーストの視線が重なる。
巨体から、ようやく力が抜けた。
完全に倒れる直前、リングマがこちらを見る。
前回のように一方的に追い回せる相手ではない。
少なくとも、そう理解しているように見えた。
二個目のボールを投げる。
リングマの身体が赤い光へ変わり、内部へ吸い込まれる。
ボールが激しく揺れた。
一度。
二度。
三度。
中央のランプが点滅する。
「…………」
全員が動かずに見守る。
やがて小さな音が鳴り、ランプが消えた。
「捕まえた……?」
ポリゴンがボールへ近づき、情報を確認する。
スマートフォンへ表示された。
『リングマ レベル37』
「三十七……」
高いが想像以上とまでは行かなかった。こんなレベルでもあのバンギラスとやりあえたと思うと、オヤブンがどれだけ恐ろしいか理解できる。
それでも今回は勝てた。
「……俺たちも、ちゃんと強くなってたんだな」
前回も、最後にはリングマを倒した。
だが、あの時は勝ったという実感が薄かった。
誰かがもう一撃受ければ終わっていた。リングマが僅かに早く立ち上がっていれば、逃げ切れなかったかもしれない。
今回は違う。
攻撃を受け、危ない場面はあった。
それでも全体の動きを見ながら指示を出し、傷ついたポケモンを下げ、最後まで戦線を維持した。
偶然ではない。
俺たちが強くなったから勝てた。
「今回は、ちゃんと俺たちの力で勝ったな」
リザードが疲れた顔で胸を張る。
バタフリーとスピアーは近くの岩へ降り、コンパンはその場へ座り込んだ。ゴーストは笑いながら地面へ沈み、頭だけを外へ出している。
「そのまま休もうとするな。ちゃんとボールへ戻れ」
全員を順番に戻し、最後にリングマのボールを拾う。
レベル三十七。
現在の手持ちより十ほど高く、実際にバンギラスと正面から戦ったポケモンでもある。
バンギラスを外へ出す時には、大きな戦力になるだろう。
今回の遠征で増えたポケモンを確認する。
バンギラス。
リングマ。
二体のニョロゾ。
一体のコイキング。
みずのいしも一個ある。
捕獲数そのものは多くない。
だが、山や飼育環境を手に入れてから改めて増やせばいい。
「これで、本当に帰れるな」
『ポリ』
「帰ったらニョロゾを進化させて、ゴーストも交換進化させて……その前に、お金の確認か」
ポリゴンが運用している資金が、どれほど増えているのか。
山を買える程度なのか。
そもそも利益が出ていた場合、税金をどうすればいいのか。
考えた途端、バンギラス戦とは別の種類の不安が込み上げてきた。
「……税務署って、はかいこうせんより怖くない?」
『ポリ』
「否定してくれよ」
リングマのボールをボックスへ送り、車を置いた場所までの帰路を表示する。
ここから戻るだけでも、まだ数日はかかる。
それでも、もう寄り道する理由はなかった。
「今度こそ十勝へ帰ろう」
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ