ポケモン現代入り 作:ささみ
リングマを捕まえた翌朝、野営地を片づけて車へ戻った。山の深い場所まで入ってはいたが、移動に何日も必要な距離ではない。途中で何度か休憩を挟みながら来た道を辿り、昼前には林道の終点へ停めていたレンタカーが見えてきた。
「戻ってきたなぁ」
『ポリ』
車は置いてきた時のままだった。後部を開け、残していた荷物を確認する。持ってきた食料や回復道具は減っているが、代わりに採取したぼんぐりやきのみ、植物の種、野営中に増えた道具がある。全体の量は、出発時と大して変わっていなかった。
「行きも帰りも荷物多いな」
『ポリ』
「使った分だけ拾ってるからね」
野営装備をまとめ、採取物が入った容器の番号を確認する。いつどこで採った物なのかはポリゴンが記録しているので、帰ってから整理すればいい。
荷物を積み終え、車を走らせた。山を下りるにつれて携帯電話の電波が戻り、溜まっていた通知が一斉に表示される。
ニュース、掲示板、SNS、家族からの連絡。中でも多かったのは、山間部で発生したバンギラスとリングマの戦闘に関するものだった。
空撮映像には、バンギラスがリングマを投げ飛ばし、じしんで岩盤を割り、はかいこうせんで森を一直線に吹き飛ばす様子が残っている。その周囲を飛ぶバタフリーとスピアー。地上から攻撃するリザードとコンパン。浮遊するゴースト。そして画面の端を飛び回る、角張った小さな影。
掲示板では、以前に俺が投稿した手持ちの写真との照合まで済んでいた。
バタフリー、スピアー、リザード、コンパンは一致。過去の写真に映っていたゴースはゴーストへ進化したと考えられ、六匹目の影もポリゴンではないかと推測されている。
「普通にバレてるな」
『ポリ』
「顔が見えなくても、手持ちが全部同じなら誤魔化せないか」
映像には、最後にバンギラスがボールへ収まる場面まで残っていた。有識者本人なら戻ってきて説明しろという書き込みも増え続けている。
「書き込むのは家に帰ってからだな。今出たら、移動中ずっと質問される」
掲示板を閉じ、母さんへ山から無事に戻ったことだけ送る。すぐに返ってきたのは、『ニュースに映ってたの、あんたじゃないでしょうね』という文章だった。
「こっちもバレてる」
山を離れた後、宅配会社の営業所へ立ち寄った。野営装備や採取物、着替えなど、持ち歩く必要のない荷物はすべて十勝の実家へ送る。
手元に残したのは、財布とスマートフォン、それからポケモンたちのボールだけだった。身軽になった状態でレンタカーを返却し、そのまま北海道へ戻る。十勝の実家へ着いたのは、翌日の昼過ぎだった。
「ただいま」
「おかえり。怪我は?」
玄関へ出てきた母さんが、俺の顔から足元までを確認する。
「大きいのはないよ。手持ちの傷も、もうほとんど治ってる」
「荷物は?」
「全部送った。明日か明後日には届くと思う」
「また変な木の実とか大量に入ってるんでしょうね」
「前より種類は増えた」
「置く場所は自分で考えてよ」
居間へ入ると、父さんがテレビを見ていた。肩には正式に父さんのポケモンとなったポッポが乗り、足元ではニドラン♀が寛いでいる。
テレビには、ちょうどバンギラス戦の映像が流れていた。
「おかえり」
「ただいま」
父さんが画面を指す。
「これ、お前だろ」
「やっぱり分かった?」
「分からんと思ってたのか。いつも連れてる奴らが何匹も映ってるぞ」
「六匹全部いたよ」
『ポリ』
スマートフォンの画面からポリゴンが顔を出す。
「映像にいた四角いのもポリゴンか」
「画質が悪いから、掲示板ではまだ推定扱いだけどね」
父さんがテレビへ目を戻す。画面の中では、バンギラスがリングマを持ち上げて岩場へ投げ飛ばしていた。
「それで、この緑の奴はどうなったんだ?」
「捕まえた」
「今持ってるの?」
母さんが聞く。
「ボックスの中。今は絶対に出さないよ」
スマートフォンへ個体情報を表示する。
『バンギラス レベル58』
「五十八って、どれくらい強いんだ?」
「今の俺の手持ちが二十代後半。外へ出して暴れたら、全員でかかっても止められないくらい」
「なら出さないでよ」
「だから出さないって。人がいない広い土地と、暴れた時に押さえられる戦力が揃うまでは、そのままにする」
父さんが次にリングマを指す。
「こっちの熊は?」
「そっちも捕まえた。バンギラス戦の後に、もう一度戦って」
「助けてもらった相手を、わざわざ捕まえに戻ったのか?」
「向こうは俺を助けたつもりなんてないだろうし、俺たちも前に殺されかけてるからね。それに欲しかった」
「結局それか」
「でも今回は、ちゃんと俺たちの力で勝ったよ。リングマもバンギラス戦で強くなってて、捕まえた時にはレベル三十七だった」
最初に戦った時は、全員が倒れる寸前まで追い込まれた。今回は危ない場面こそあったものの、最後まで連携を崩さずに戦えた。
こちらも強くなったことを実感できた戦いだった。
「ほかにも増えたよ。オタチと、ニョロゾが二匹と、コイキングが一匹」
「今回、何匹捕まえたの?」
「六匹」
「十分多いわよ」
「前の遠征より少ないよ」
「前回を基準にしないの」
母さんが呆れたように息を吐く。
「それで、家の裏に全部出すつもりじゃないでしょうね」
「バンギラスは出さない。リングマも、まずは周りに何もない時に様子を見る。ニョロゾとコイキングなら大丈夫だと思う」
「思うじゃなくて、ちゃんと確認してからにしなさいよ」
「分かってるよ」
オタチは自作ボールへ入っているため、ほかのポケモンのようにボックスへ送られていない。今も手元のボールに収まったままだ。
そのほかの新しいポケモンについても、いきなり全員を外へ出すつもりはない。一匹ずつ性格や反応を確かめて、実家の環境へ慣らす必要がある。
「とりあえず、今日は休むよ」
「そうしなさい。帰ってきた日にまた何か始めるんじゃないよ」
「さすがに今日は何もしないって」
自分の部屋へ戻り、荷物も置かないままベッドへ倒れ込む。山の中でも眠ってはいたが、慣れた布団へ横になると身体から一気に力が抜けた。
翌朝、朝食を終えてから自室のパソコンを起動した。
「ポリゴン、お金の確認しようか」
『ポリ』
ポリゴンがパソコンへ移り、運用に使っている口座と取引履歴を表示する。
残高は、遠征前より増えていた。短期間で考えれば十分な利益だが、山を買えるような金額ではない。
「順調だな」
『ポリ!』
「すごいよ。ただ、山はまだまだ先だな」
山林は安い場所なら土地だけ購入できる可能性もある。だが、土地だけ買って終わりではない。
車が入れる道があるか。水を確保できるか。周囲に民家がないか。隣接地との境界が明確か。購入後の管理や整備に、どれだけ金がかかるか。
何より、バンギラスが多少暴れても外へ被害が出ないだけの広さが必要だった。
山が欲しいという話自体は、以前からポリゴンとしている。今回バンギラスを捕まえたことで、必要になる時期が早まっただけだ。
「一か月くらいで山を買えるほど増えたら、それはそれで怖いよな。今までどおり、無理しない範囲で続けて」
『ポリ』
取引履歴も確認する。売買した日時と金額はすべて残され、俺名義の口座で処理されている。
問題は利益にかかる税金だった。
「そろそろ本当に税理士探さないとな」
『……ポリ』
「露骨に反応悪くなるな。稼いだら申告しないと駄目なんだよ」
投資や自動取引に詳しい税理士を何人か候補へ入れておく。ポケモンが取引を行っているとは説明できないが、自動化した仕組みを利用していることにして、必要な履歴と数字を渡せば処理はできるはずだ。
山については、今の段階では相場を見るだけにする。まずは資金を増やしながら、新しく捕まえたポケモンと既存の手持ちを育てる方が先だった。
昼前、接近戦を好む方のニョロゾを家の裏手にある未利用地へ出した。周囲にはリザードとポリゴンもいる。
ニョロゾは見慣れない場所を確認した後、すぐにリザードへ目を向けて両腕を構えた。リザードも相手の視線に気づき、尻尾の炎を強くする。
「今日は戦わないよ」
二匹とも俺を見る。
「まず進化だから」
川辺で見つけたみずのいしを取り出す。青く透き通った石の内部では、水面のような光が揺れていた。
「これを使えば進化できる。今より身体が大きくなれるんだ。嫌なら今すぐ使わなくてもいいよ」
ニョロゾは石と自分の腕を交互に見た。少し考えるように動きを止めた後、自分から近づいてみずのいしへ手を触れる。
青い光が全身を包み、輪郭が変わっていく。胴体が一回り大きくなり、腕と脚が太くなる。丸かった手には指が現れ、進化前より明らかに力強い身体つきになった。
光が収まる。
進化したポケモンは自分の両手を何度も握り、太くなった腕を曲げた。
「ニョロボン。みず・かくとうタイプ、バンギラス相手だと心強いね」
「それが進化した姿なのか」
少し離れた場所から見ていた父さんが、初めて見る姿を眺める。
「そう。力はかなり上がってるはず」
ニョロボンは確かめるように構え、近くの地面へ拳を向けた。
「待って。何も殴らなくていいから」
「ニョロ」
「畑も殴るなよ」
父さんに言われたニョロボンは、何を注意されたのか分からない様子で胸を張った。リザードも進化した相手を見上げ、再び尻尾の炎を強くする。
「戦うのは身体に慣れてから。今日は終わり」
二匹とも不満そうだった。
ニョロボンを休ませた後、交換装置を置いている部屋へ移動した。
父さんは既にポッポの所有者として登録されているため、交換相手として選択できる。
「一度ゴーストを父さんへ送る。交換された時に進化するから、終わったら俺へ戻して」
「交換するだけで進化するのか?」
「そういう種類なんだよ」
「何になるんだ?」
「進化すれば分かるよ」
ゴーストをボールから出す。
「交換すれば進化できるけど、いい?」
「ゴ」
ゴーストは迷う様子もなく、楽しそうに交換装置の周囲を飛び回った。
「父さんのところへ行っても、驚かせるなよ」
「ゴー!」
「今の返事、絶対信用できないな」
ゴーストをボールへ戻し、そのボールを交換装置へセットする。交換先に父さんを指定して処理を始めると、ボールが光に包まれ、そのまま装置の中から消えた。
少し遅れて、父さん側の受取部分へ同じボールが現れる。画面には、所有者情報が父さんへ移ったことに続いて、進化反応を確認したという表示が出た。
「これで進化したのか?」
「多分。出してみて」
父さんがボールを手に取り、少し離れた床へ向けて開いた。
放たれた光が大きく広がり、進化前とは違う輪郭を形作る。胴体から離れていた両手は身体へ繋がり、短い脚が床へ着く。丸みを帯びた紫色の身体と、大きく開いた口。
光が消えると、満面の笑みを浮かべたポケモンが立っていた。
「これが進化した姿か?」
「ゲンガー。ゴーストの最終進化」
「随分丸くなったな」
「見た目は前より親しみやすいかもね。悪戯は増えると思うけど」
ゲンガーは自分の手足を確認した後、大きく口を開いて笑った。そのまま床へ沈み、姿が消える。
「どこ行った?」
「影の中」
次の瞬間、父さんの背後の影からゲンガーの顔が浮かび上がった。
「うおっ!」
「ゲゲ!」
「驚かせるなって言っただろ」
ゲンガーは楽しそうに笑っている。父さんは呆れながらもゲンガーをボールへ戻し、そのボールを交換装置へセットした。
交換先に俺を指定し、再び処理を始める。転送されてきたボールを受け取り、所有者情報が俺へ戻ったことを確認してから開いた。
現れたゲンガーは、そのまま俺の足元の影へ潜る。
「そこで暮らす気?」
影から片手だけが出てくる。
進化して身体は変わっても、性格までは変わっていないらしい。
その日の夕方、現在のポケモンを改めて確認した。
これまで主力として戦ってきたのは、ポリゴン、バタフリー、スピアー、リザード、ゲンガー、コンパン。
ボックスにはコラッタとパラスがいる。自作ボールにはオタチ。実家には父さんのポッポと、管理を任せているニドラン♀。
今回新しく加わったのが、レベル37のリングマ、ニョロボン、もう1匹のニョロゾ、コイキング。そして、レベル58のバンギラスだ。
「本当に増えたな」
『ポリ』
リングマは、捕獲された後の反応を確認しなければならない。ニョロボンには進化後の身体の使い方を覚えさせ、もう1匹のニョロゾには、おうじゃのしるしを探す必要がある。コイキングも育てれば、いずれギャラドスになる。
バンギラスだけは、まだ外へ出せない。
「しばらくは育成中心だな」
新しく捕まえたポケモンたちを実家の環境へ慣らし、既存の手持ちもさらに育てる。
山を買うのはまだ先だが、バンギラスを外へ出すためには、いつか必ず広い土地が必要になる。それまでにリングマやニョロボンを戦力として育て、主力のレベルも上げておきたい。
「やること多いなぁ」
『ポリ』
ポリゴンがスマートフォンへカレンダーを表示した。
次の月まで、あと4日。
「……もう4日しかないのか?」
『ポリ』
カントーのポケモンが現れ、その1か月後にジョウトのポケモンが追加された。
同じ周期が続くなら、4日後にはホウエン地方のポケモンが九州を中心に現れる。
俺はジョウト遠征から帰ってきたばかりだ。新しく捕まえたポケモンの確認すら、まだほとんど終わっていない。
「1か月経つの、早すぎるだろ」
数字は何度見ても変わらない。
ホウエン追加まで、あと4日。
それまでにできることは限られている。
「とりあえず、明日はリングマからだな」
『ポリ』
今度は敵としてではなく、俺のポケモンとして向き合うことになる。
その結果がどうなるかは、まだ分からなかった。
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ