ポケモン現代入り   作:ささみ

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閑話 行政側

 

 

 ポケモン対策本部の会議室では、壁面の大型画面に山間部の空撮映像が映し出されていた。

 

 緑色の巨体がリングマを持ち上げ、そのまま斜面へ投げ飛ばす。太い木が何本も折れ、茶色い身体が土煙の中へ消えた。

 

 映像が切り替わる。

 

 地面が激しく揺れ、岩盤へ亀裂が走る。さらに別の角度から撮影された映像では、バンギラスの口元から放たれた光が森を一直線に貫いていた。

 

「山林の被害範囲は?」

 

「現地調査中ですが、戦闘地点を中心に地形そのものが変化しています。じしんと見られる現象による地割れに加え、はかいこうせんが通過した場所では樹木が帯状に消失しています」

 

「人的被害は」

 

「確認されていません。戦闘開始数分後に周辺住民への避難勧告が出されており、現場付近にも一般人は入り込んでいませんでした」

 

 報告を受けた本部長は、画面の一部を拡大させた。

 

 木々の陰に人影がある。

 

 その周囲には、バタフリー、スピアー、リザード、コンパン、ゴーストらしき個体が映っていた。画質は悪いが、空中を動く角張った影も確認できる。

 

「この人物については?」

 

 情報分析班の職員が資料を開いた。

 

「匿名掲示板では、以前からポケモンに関する情報を公開していた人物と同一ではないかと推測されています」

 

「一般の利用者が、そこまで絞ったのですか」

 

「過去に投稿された写真と、映像に映った手持ちがほぼ一致しています。バタフリー、リザード、スピアー、コンパン、ゴースト、コンパンを除くそれぞれの進化前の写真が上がってたことを加味すると可能性は高いとのこと」

 

 画面には、掲示板で行われた検証の抜粋が表示された。

 

 有識者が過去に公開した写真。

 

 空撮映像から切り出されたポケモンの姿。

 

 モンスターボールと思われる物を投げる人影。

 

 別人である可能性を完全に否定することはできない。しかし、偶然で片づけるには一致する情報が多すぎた。

 

「こちらの持つ情報とも矛盾しません」

 

 別の職員が続ける。

 

「映像の人物は集団戦闘を理解しています。バンギラスへ攻撃を集中させる一方、リングマには一度も攻撃を当てていません。はかいこうせんの直後には、反動によって動けない時間を利用して一斉攻撃を仕掛けています」

 

「ポケモンを6匹同時に動かしている点も、これまでの投稿内容と一致するか」

 

「はい。映像だけを見ても、野生のポケモンが偶然協力しているとは考えにくいでしょう」

 

 本部長は、人影がバンギラスへボールを投げる場面で映像を止めた。

 

「捕獲は成立したと見ていいのですね」

 

「2回目のボールから、バンギラスが再び出現した形跡はありません。空撮機が離脱するまで、現場にも姿は確認されませんでした。捕獲された可能性が極めて高いと判断しています」

 

 バンギラスは、現在までに日本国内で確認されたポケモンの中でも、特に危険性が高い。

 

 食事をしているだけで山肌を削り、戦闘になれば地震を起こし、森をまとめて吹き飛ばす。

 

 その個体が、個人の所有下へ入った。

 

「情報提供者本人である可能性は高い。しかし、人物の特定には至っていない」

 

「はい」

 

「映像から顔は判別できず、掲示板の投稿からも本名や住所へ繋がる情報は得られていません。政府へ送られてきた資料も、これまで通り送信元を追跡できませんでした」

 

「つまり、こちらから接触しようにも、その手段がない」

 

「現状では」

 

 情報提供者は、自分から政府へ資料を送ることができる。

 

 だが、政府側から返信を送る経路は存在しない。掲示板へ書き込むことはできても、本人が読む保証も、それが政府からの連絡だと信じる保証もなかった。

 

「バンギラスを捕獲した件について、本人へ警告を行うこともできないわけですね」

 

「警告が必要かどうかも判断できません。少なくとも映像では、捕獲後にバンギラスを外へ出していません。周囲に人間がいないことも確認しながら戦っています」

 

「無謀ではありますが、無差別に危険を広げる人物ではない、と」

 

「これまでの行動を見る限りでは」

 

 本部長は短く息を吐いた。

 

「本人より、映像を見た者の模倣を警戒してください。あれを見て、自分も強力なポケモンを捕獲できると考える者は必ず出ます」

 

 既に映像は全国へ広がっている。

 

 巨大なポケモン同士の戦闘。

 

 小型のポケモンを指揮して介入する人間。

 

 そして最後には、山を破壊したバンギラスすらボールへ収められた。

 

 捕獲までの経緯や、リングマの助力がなければ成立しなかった事実を無視し、結果だけを真似する者が現れる可能性は高い。

 

「危険個体への不用意な接近を控えるよう、注意喚起を更新します」

 

「モンスターボールを所持していても、安全に捕獲できるとは限らないことも明記してください」

 

 議題が切り替わり、画面へ一般公開中のポケモン図鑑が表示された。

 

 名前、外見、タイプ、確認されている生息地、習性、危険性、対処方法。公開開始後も新しい目撃情報や事故報告が届くたびに、内容は更新され続けている。

 

 ただし、政府が受け取った資料のすべてが公開されているわけではない。

 

「公開版図鑑の定期確認へ移ります」

 

 情報管理班の責任者が、内部資料と一般公開版を並べた。

 

「通常種については、事故防止に必要な情報を優先して掲載しています。今回の更新では、野生個体へ不用意に餌を与えないこと、進化後に体格や危険性が大きく変わる種が存在することを、各ページへ追加します」

 

「伝説、幻、およびそれらに準ずる個体については?」

 

「現行基準を維持します。能力、出現条件、起源、特定地点との関係について、一般公開に適さない部分は引き続き削除します」

 

 方針そのものに異論は出なかった。

 

 検討する余地がないほど危険な情報が含まれているためだ。

 

 画面に、ホウオウの内部資料が表示される。

 

 虹色の翼を持つ大型のポケモン。

 

 清らかな心を持つ者の前に姿を現すとされ、その羽根は見る角度によって異なる色に輝く。

 

 そこまでは一般公開版にも記載されている。

 

 しかし、続く部分はすべて削除されていた。

 

 焼けた塔で命を落とした3匹のポケモン。

 

 それらを蘇らせたホウオウ。

 

 雷、炎、雨の力を受け、ライコウ、エンテイ、スイクンとなった3匹。

 

「ホウオウの蘇生に関する記述と、ライコウ、エンテイ、スイクンの発生経緯は、引き続き全面非公開です」

 

「変更なし」

 

 本部長が即答する。

 

 公開すれば何が起こるのか、わざわざ意見を割る必要すらなかった。

 

 死者を蘇らせたい者が、ホウオウを探し始める。

 

 遺体や遺骨を持って目撃地点へ押しかける者も出るだろう。条件を再現しようとして、人間やポケモンを意図的に殺す者が現れる可能性すらある。

 

 宗教団体、医療機関、企業、犯罪組織、国家。

 

 ホウオウの存在を利用しようとする者は、いくらでも考えられた。

 

 そもそも、人間側はホウオウを発見していない。

 

 どこにいるのか、生息数がいくつなのか、この世界へ既に出現しているのかさえ確認できていなかった。

 

 会おうとして会える存在ではない。それでも能力だけが知られれば、世界中の人間が探し始める。

 

「3匹側の公開版にも、ホウオウや焼けた塔へ繋がる情報はありません」

 

「相互に照合しても、起源が推測できない状態を維持してください」

 

「承知しました」

 

 次に表示されたのは、セレビィだった。

 

 一般公開版では、森の守り神と呼ばれる希少なポケモンであり、清らかな森に現れるとされている。

 

 内部資料には、時間を越えて移動する能力が記録されていた。

 

「時間移動についても非公開を継続します」

 

「当然です」

 

 アンノーンが多数集まった場合に、思考や願望を現実へ反映する可能性。

 

 ルギアが翼を軽く動かしただけで家屋を吹き飛ばし、長期間の嵐を起こすという記録。

 

 ミュウツーが人の手によって作られた経緯。

 

 ミュウの遺伝子が、ほかの多くのポケモンの情報を含む可能性。

 

 ポリゴンが電子空間へ移動し、機器や通信網へ侵入できること。

 

 一般人の安全に必要な警告は残す。

 

 だが、再現方法や悪用方法、特定個体の確保へ繋がる情報は削る。

 

「過去に情報提供者が掲示板へ公開した内容についても、再確認が完了しています」

 

 別の資料が表示された。

 

 政府が公開版を加工したとしても、原資料を持つ本人が同じ情報を掲示板へ書いていれば、秘匿する意味はない。

 

 そのため情報管理班は、有識者による過去の投稿を保存し、公開図鑑の非公開項目と照合していた。

 

「結果は?」

 

「秘匿対象に該当する情報は確認されませんでした」

 

 投稿されていたのは、タイプ相性、進化方法、技、道具、捕獲方法、基本的な生態、野生個体への対処、育成に関する情報が中心だった。

 

 伝説や幻のポケモンについても、名前や外見、最低限の特徴へ触れる程度に留められている。

 

 ホウオウによる蘇生。

 

 3匹の発生経緯。

 

 セレビィの時間移動。

 

 アンノーンの現実への干渉。

 

 ミュウツーの製造経緯。

 

 そうした情報は、掲示板には書き込まれていない。

 

「情報提供者は、政府が行っている検閲を知っているのでしょうか」

 

「それを示す証拠はありません。政府へ資料を送る以前から、公開範囲を本人なりに選んでいたようです」

 

「無差別に知識を流しているわけではない、と」

 

「今のところは」

 

 本部長は、バンギラス戦の人影を思い返した。

 

 危険を恐れない人物ではある。

 

 だが、危険性そのものを理解していないわけではない。

 

 公開する情報を選び、モンスターボールの製造方法にも注意事項を付け、捕獲したバンギラスをその場で外へ出さなかった。

 

「引き続き過去の投稿は監視してください。新たに秘匿対象が公開された場合は、対応を検討します」

 

「了解しました」

 

     ◆

 

 国内向けの確認が終わると、次は海外からの問い合わせへ移った。

 

 ポケモンは現在、日本国内を中心に確認されている。

 

 海外での出現報告は皆無であり、日本政府が保有する情報への要求は日に日に増えていた。

 

「各国から、図鑑の原資料を求める照会が届いています。一般公開版ではなく、情報提供者から受け取った未編集資料の共有要求です」

 

「回答はこれまでと同じで構いません。安全対策に必要な情報は共有する。原資料は提供しない」

 

「アメリカからは、バンギラス戦の未編集映像と、捕獲に使用された装置の詳細な分析結果を求められています」

 

「映像は報道機関が撮影した範囲のみ。装置については、こちらも情報を持っていません」

 

「複数の国から、モンスターボールの製造技術を共同管理すべきだとの提案も届いています」

 

「共同管理ではなく、技術提供を要求しているだけでしょう」

 

 災害対策。

 

 生態研究。

 

 人道的な保護。

 

 要求書には様々な理由が並べられている。

 

 その裏に、ポケモンを自国の戦力や資源として確保したい意図があることは、隠しきれていなかった。

 

「中国からの照会は?」

 

「本日までに、中央政府、研究機関、文化行政機関を通じて合計17件です。内容には重複があります」

 

「ホウオウですか」

 

「はい」

 

 画面へ、中国側から送られた文書が表示された。

 

 中国文化圏に伝わる鳳凰と、ホウオウの名称および外見が高い類似性を持つこと。

 

 ホウオウが日本固有の存在であると判断する根拠を示すこと。

 

 中国の研究者を含む共同調査団を設置すること。

 

 東アジア全域で共同捜索を行うこと。

 

 発見された場合は、中国側へ事前通告すること。

 

 分類、保護、研究、命名について、中国との協議を行うこと。

 

 要求は研究資料の提供だけに留まらず、将来的な発見後の扱いにまで及んでいた。

 

「まだ、日本国内で確認されてもいない個体です」

 

「中国側も、それは理解しています」

 

「理解した上で、発見後の協議を要求しているのですか」

 

「発見されてからでは遅い、という判断でしょう」

 

 ホウオウが蘇生能力を持つことを、中国側が知っているわけではない。

 

 公開版に記載されているのは、名前、姿、伝承の一部だけだ。

 

 それでも、鳳凰と酷似した存在が実在する可能性が出た時点で、中国が強く反応する理由としては十分だった。

 

「日本政府は、ホウオウを日本の所有物とは位置づけていません」

 

「その回答は既に送付しています。名称についても、情報提供者から得た種名をそのまま使用しているだけだと説明済みです」

 

「それでも引かない」

 

「情報提供者が持つ原資料を、日本だけが保有していることを問題視しています」

 

 本部長は、画面に並ぶ要求項目へ目を通した。

 

「未編集資料の提供は拒否。共同捜索については、実在と出現地点が確認された後に検討。発見時の事前通告義務と共同管理機構の設置も受け入れない」

 

「文化的起源に関する共同研究については?」

 

「公開情報の範囲であれば、研究者同士が行うことを妨げません。政府が内部資料を提供する理由にはなりません」

 

「その内容で回答します」

 

 中国以外からも、問い合わせは続いている。

 

 危険なポケモンへの対処。

 

 国外へ移動した個体の所有権。

 

 捕獲済みポケモンの輸出。

 

 希少なポケモンの保護。

 

 モンスターボール技術の国際管理。

 

 野生ポケモンによる被害が日本国内へ集中している間に、各国は少しでも多くの情報を確保しようとしていた。

 

「こちらも余裕はないのですがね」

 

 誰かが小さく呟く。

 

 カントーとジョウト、合計251種類。

 

 それらすべてについて、目撃情報、事故、進化、捕獲、飼育事例が毎日追加されている。

 

 図鑑を公開すれば終わりではない。

 

 現実の生態に合わせ、資料を更新し続けなければならなかった。

 

「本日の確認事項は以上です」

 

 本部長が資料を閉じようとした時、情報管理班の端末から短い警告音が鳴った。

 

 職員が画面を見る。

 

 表情が変わった。

 

「どうしました」

 

「新しいデータを受信しました」

 

「送信元は?」

 

「これまでと同じです。追跡できません」

 

 会議室にいた全員が動きを止めた。

 

 情報提供者からの通信だった。

 

 カントーとジョウトの資料が届いた時と同じ形式で、複数のファイルが端末へ追加されていく。

 

「内容を表示してください」

 

 職員がファイルを開く。

 

 最初に表示されたのは、緑色の小型ポケモンだった。細い身体と、大きな尾を持っている。

 

 隣には、赤いひよこのようなポケモン。

 

 さらに、水色の身体と頭部のひれを持つポケモンが並ぶ。

 

 画面上部に、資料の表題が表示された。

 

『ホウエン地方ポケモン図鑑』

 

「ホウエン地方……」

 

 新たに収録されたポケモンは135種類。

 

 キモリ。

 

 アチャモ。

 

 ミズゴロウ。

 

 これまでの資料には存在しなかった名前と姿が、次々と追加されていく。

 

「新しい地方の資料です」

 

「追加が続くことは知らされていましたが……」

 

「具体的な時期は聞いていません」

 

 資料には、短い文章が添えられていた。

 

『次に出現するポケモンの情報です。4日後、九州地方を中心に出現が始まります。危険性の高い個体を優先して確認してください』

 

 会議室が静まり返る。

 

「4日後?」

 

 聞き返しても、表示は変わらない。

 

 現在対応している251種類に、さらに135種類が追加される。

 

 しかも準備期間は4日しかない。

 

 担当者が資料を読み進める。

 

 巨大な樹木のようなポケモン。

 

 砂漠へ潜むポケモン。

 

 海中で活動する大型個体。

 

 天候そのものへ影響を与える可能性を持つ存在。

 

 新しい危険情報が、画面へ次々と表示されていく。

 

「海外への情報提供は?」

 

「後です」

 

 本部長は閉じかけていた資料を机へ戻した。

 

「まず国内の対処計画を作ります。九州の自治体、警察、消防、自衛隊へ連絡。公開図鑑へ載せる情報と、非公開にする情報の選別も始めてください」

 

「今からですか」

 

「4日しかありません」

 

 職員たちが一斉に端末を操作し始める。

 

 終わるはずだった定例会議の資料は脇へ追いやられ、新しく届いた135種類の図鑑が画面を埋めていく。

 

 本部長は、添付された文章をもう一度確認した。

 

 4日後。

 

 九州地方。

 

 ホウエン地方のポケモン。

 

「会議を再開します」

 

ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?

  • 本編進めやがれ
  • これでいい
  • どうでもいいからはよ
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