ポケモン現代入り   作:ささみ

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第30話

 

 

 

 

 翌朝、林へ様子を見に行くと、リングマは昨日と同じ木の根元で寝ていた。

 

 朝食として持ってきた果物を近くへ置いても、片目を開けただけで起き上がろうとしない。俺が離れれば食べるだろうと、そのまま林を出る。

 

 家にも畑にも近づいた形跡はなかった。

 

 ひとまずリングマについては、今のまま様子を見ればよさそうだ。

 

「次はこっちだな」

 

 未利用地まで戻り、手に持っていたボールを見下ろした。

 

 ジョウトで捕まえたコイキング。

 

 捕獲してからは、状態を確認する時以外ほとんどボールの中へ入れたままになっている。持ち運ぶ分にはそれでいいが、実家で暮らすなら、外で過ごせる場所も用意しておきたかった。

 

 問題は、家に池がないことだった。

 

 昨日のうちに納屋から引っ張り出した大きめの容器へ水を張り、未利用地の端へ置いてある。普通の魚なら数匹入れそうな大きさはあるが、コイキングが過ごすには足りるか分からない。

 

「とりあえず、出してみるか」

 

『ポリ』

 

 ボールを開くと、白い光が容器の上へ伸びた。光の中から現れたコイキングが、水面へ落ちる。

 

「コイッ!」

 

 大きく跳ねた。

 

 容器の縁を越えるほどではなかったが、水が派手に溢れて俺の足元へかかる。

 

「うわっ」

 

『ポリ』

 

「今のは俺が悪いの?」

 

 コイキングは狭い容器の中で身体を曲げ、もう1度跳ねようとする。

 

「待て待て。外に出るぞ」

 

 慌てて両手で押さえるような真似はしない。指示を出して落ち着かせようとしたが、コイキングはこちらを見ながら口を開閉するだけだった。

 

「コイキング、跳ねないでくれ」

 

「コイ」

 

 短く返事をした直後、また水面を叩く。

 

 今度は最初より多くの水が飛び、近くにいたポリゴンの身体を通り抜けた。

 

『ポリ……』

 

「狭いから仕方ないって。多分」

 

 容器の中で向きを変えるだけでも、コイキングの尾が縁へぶつかっている。本人は大して気にしていないようだが、普段から過ごさせるには明らかに狭かった。

 

 別のボールを開き、進化していない方のニョロゾも出す。

 

「ニョロ」

 

 ニョロゾは初めて見る場所を確認してから、水へ近づいた。容器へ手を入れ、水温を確かめるように何度か動かす。

 

「入ってみる?」

 

「ニョロ」

 

 ニョロゾが容器へ入ると、それだけで水位が大きく上がった。

 

 コイキングが押し出されるように端へ寄り、ニョロゾも脚を折り畳まなければ座れない。2匹が動くたびに水が縁から溢れ続ける。

 

「駄目だな、これ」

 

『ポリ』

 

「コイキング1匹でも狭いよな」

 

 ニョロゾはこちらを見て頷くと、容器から出た。コイキングは少し広くなった水の中で泳ごうとするが、半回転する前に頭が反対側へぶつかっている。

 

 さすがにこのまま使う気にはなれなかった。

 

「一旦戻ろう」

 

 赤いビームでコイキングをボールへ収め、ニョロゾにも戻るか尋ねる。ニョロゾは首を振り、そのまま俺の後ろをついてきた。

 

 

 

 

 

 畑の方へ行くと、父さんは機械の点検をしていた。ポッポは近くの支柱へ止まり、時折飛び立って畑の上を回っている。

 

「父さん、水を張れる大きい容器って何かない?」

 

「何に使うんだ?」

 

「コイキングを出しておく場所。納屋にあった容器を使ってみたけど、狭すぎた」

 

「魚か」

 

「魚ではあるけど、結構大きい」

 

「どれくらいだ?」

 

 手でおおよその全長を示すと、父さんが少し考える。

 

「それなら、あれじゃ無理だ。水を入れたら動かせんし、排水も面倒だ」

 

「地面掘って池にした方がいいかな」

 

「今すぐ掘る話をするな」

 

 父さんは点検していた機械から顔を上げ、未利用地の方を見る。

 

「穴だけ掘っても、水は抜けるぞ。シートを敷くにしても、破れたら終わりだ。雨で溢れた時にどこへ流すかも考えないと、畑まで水が来る」

 

「そこまで大げさな池にするつもりはないんだけど」

 

「小さくても水は水だ。作るなら先に場所を決めろや」

 

 父さんは工具を置き、俺と一緒に未利用地まで来た。

 

 ニョロゾも後ろをついてくる。

 

 さきほど置いた容器の周囲は、既に水浸しになっていた。試しに出した時間は短かったのに、半分近くまで水が減っている。

 

「こりゃ駄目だな」

 

「思ったより跳ねるんだよ」

 

「コイキングって名前の通り、元気いっぱいの王様かい」

 

「跳ねることしかできないって言われるくらいだからね」

 

「役に立つのか?」

 

「育てば強くなる」

 

「またそれか」

 

 父さんはコイキングの強さより、水が流れた方向を見ていた。幸い、畑とは反対側へ流れている。

 

「置くなら、この辺だな。畑から離れてるし、水を抜いても林側へ流せる。ただ、池を掘るのは後にしろ」

 

「じゃあ、どうする?」

 

「ホームセンターに大きい角型のタンクがあるべ。農業用の。まずはあれで様子を見ればいい」

 

「魚を入れても大丈夫?」

 

「元は水を溜める物だ。使う前に洗えば問題ないだろ。お前の方が詳しいんじゃないのか」

 

「コイキングのことは分かるけど、農業用タンクのことまでは知らないよ」

 

「なら店で聞け」

 

 母さんへ買い物に行くことを伝えると、ちょうど必要な物があるからとメモを渡された。

 

「ついでにこれもお願い」

 

「結構あるな」

 

「どうせ車を出すんでしょう。別々に行く方が面倒じゃない」

 

「はいはい」

 

「それと、買ってきた物を玄関に置きっぱなしにしないでよ。前に届いた荷物も、まだ廊下に1箱あるからね」

 

「あれは今日片づけるから」

 

「昨日も聞いたわよ」

 

 反論できなかったので、メモをポケットへ入れた。

 

 

 

 

 

 

 買ってきた角型タンクは、最初に使った容器より何倍も大きかった。

 

 コイキングが泳ぎ回るには池ほど広くないが、身体の向きを変えることはできる。ニョロゾが一緒に入っても、押し合うような狭さにはならない。

 

 父さんと位置を決め、地面を均してから設置する。満水にしてから傾いていることへ気づけば、やり直すのは難しい。水準器まで使って確認する父さんの横で、俺はホースを伸ばした。

 

「そこまで正確にする必要ある?」

 

「片側に寄ったら、縁から水が溢れるだろ」

 

「多少なら大丈夫じゃない?」

 

「多少って油断するな、後で面倒になるんだ」

 

 適当に置こうとしていた俺と違い、父さんは何度か土を削って高さを調整した。

 

 位置が決まると、タンクの内部を洗い、水を入れていく。

 

 水質と温度については、ポリゴンに確認してもらった。すぐに満水へはせず、コイキングが急な変化で体調を崩さないよう調整する。

 

 水が溜まるまでの間、ニョロゾはタンクの縁へ手を掛けて中を覗いていた。

 

「入りたい?」

 

「ニョロ」

 

「まだ浅いから待って」

 

 その横へオタチが近づいてくる。

 

 いつの間に家から出てきたのか、身体を伸ばしてタンクの中を見ようとしていた。縁へ前脚を掛けるが、背が足りず中までは見えない。

 

「オタチも水に入りたいのか?」

 

「オタ?」

 

「違うか」

 

 オタチはタンクより、ホースから出ている水の方へ興味を持ったらしい。流れ落ちる水へ前脚を伸ばし、触れた瞬間に引っ込める。それを何度か繰り返して遊び始めた。

 

 足元の影が伸び、オタチのすぐ後ろでゲンガーの顔が浮かぶ。

 

「ゲンガー、驚かせるなよ」

 

「ゲンゲン」

 

 返事をした時点で、もう遅かった。

 

 オタチが振り返る。

 

 目の前にいたゲンガーが大きく口を開いた。

 

「オタァッ!」

 

 飛び上がったオタチがタンクの縁へぶつかり、跳ね返るように俺の脚へしがみついた。

 

「やると思ったよ」

 

「ゲンゲン!」

 

「笑ってないで謝れ」

 

 ゲンガーは悪びれもせず、地面の影へ沈んだ。俺の脚へ掴まったオタチは、消えた場所を警戒しながら濡れた身体を震わせる。

 

 飛び散った水が俺のズボンにもかかった。

 

「お前も濡れたのか」

 

「オタ……」

 

「家に戻る前に拭こうな」

 

 タオルを取りに行こうとしたところで、母さんが縁側からこちらを見ていた。

 

「何してるの?」

 

「ゲンガーがオタチを驚かせた」

 

「それで水浸し?」

 

「ホースでも遊んでたから、半分は自分で濡れた」

 

 母さんは家の中へ引っ込み、少しして古いタオルを持って戻ってきた。

 

「そのまま入れないでよ」

 

「分かってる」

 

「ゲンガーも泥をつけてるなら拭きなさい」

 

「影に入ってるから、多分ついてない」

 

「多分で家に入れるのはやめて」

 

 タオルを受け取り、オタチの身体を拭く。最初は逃げようとしたが、背中を拭き始めると大人しくなった。

 

 母さんはタンクの方を見る。

 

「今度は何を飼う場所なの?」

 

「コイキングとニョロゾ。あのままボールに入れっぱなしにするわけにもいかないから」

 

「また増えたやつの場所を作ってるのね」

 

「捕まえたんだから仕方ないでしょ」

 

「捕まえる前に考えるものじゃないの?」

 

 その通りだが、山の中で大型の水槽を用意できるはずもない。

 

「帰ってから考えようとは思ってたよ」

 

「それを考えてなかったって言うのよ」

 

 母さんは呆れた顔をしたが、タンクを置くこと自体には反対しなかった。

 

「水を腐らせないでよ。虫が増えるのも嫌だから」

 

「定期的に入れ替えるし、ポリゴンにも確認してもらう」

 

「ならいいけど。オタチを拭いたら、そのタオルは洗濯機に入れないで外に置いて」

 

 言うだけ言って家へ戻っていく。

 

 オタチの身体を拭き終える頃には、水も十分な深さまで溜まっていた。

 

 

 

 

 

 

 まずニョロゾに入ってもらう。

 

「ニョロ」

 

 ニョロゾは縁を越えて水へ入り、底へ脚をつけた。数歩歩いて広さを確かめた後、身体を沈める。

 

 窮屈そうな様子はない。

 

「どう?」

 

「ニョロ」

 

「大丈夫そうだな」

 

 続いてコイキングを出す。

 

 ボールから放たれた白い光が水面へ落ち、コイキングが姿を現した。

 

「コイッ!」

 

 着水と同時に大きく跳ね、水が飛び散る。

 

 今度は縁を越えて外へ出ることも、半分近い水が溢れることもなかった。

 

 コイキングは底近くまで潜り、端から端まで泳ぐ。反対側へ着くと身体を曲げ、問題なく方向を変えた。

 

「さっきよりはいいな」

 

『ポリ』

 

 ニョロゾもコイキングの後ろを泳ぎ始める。

 

 コイキングの方が速いわけではない。ただ、意味もなく行ったり来たりするのが楽しいらしく、何度も同じ場所を往復していた。

 

 タンクの外では、ニョロボンが腕を組んで2匹を見ている。

 

「入りたいなら入ってもいいよ」

 

「ニョロ」

 

 ニョロボンは首を振り、少し離れた場所にいるリザードへ視線を向けた。

 

 リザードも気づき、尻尾の炎を揺らす。

 

「お前たちは本当にそればっかりだな」

 

「リザ」

 

「ニョロ」

 

「やるならタンクから離れろよ。壊したら今日の作業が全部無駄になるから」

 

 2匹は未利用地の反対側へ移動した。

 

 本格的な戦闘はさせず、軽い組手だけにする。ニョロボンは進化した身体の扱いにまだ慣れていないが、腕力はニョロゾの頃とは比べものにならない。

 

 リザードの突進を受け止め、そのまま持ち上げようとする。

 

 リザードは尻尾を振って体勢を崩し、腕から抜け出した。

 

「いきなり投げるな。今日は動きの確認だけだって」

 

 俺の声に、ニョロボンは渋々腕を下ろす。

 

 水の中では、もう1匹のニョロゾが静かにこちらを見ていた。

 

 同じニョロゾだったとは思えないくらい、性格が違う。

 

 ニョロボンは陸へ出ればすぐ身体を動かしたがり、進化していない方は水の中で過ごす方が落ち着くらしい。

 

「ニョロゾはここを使っていいよ。ニョロボンは入りたい時だけでいいか」

 

「ニョロ」

 

「ニョロ」

 

 返事だけを聞けば同じだった。

 

 コイキングは俺たちの話に興味も示さず、水面近くを泳ぎ続けている。

 

 勢いよく跳ねる度に水が飛び散るので、縁の一部へ簡単な覆いを取り付けた。完全に塞ぐつもりはないが、外へ飛び出すのだけは防ぐ必要がある。

 

「これで当面は大丈夫かな」

 

『ポリ』

 

「池は急がなくていいか。狭そうになったら、その時考えよう」

 

 父さんも遠くからタンクの様子を確認し、傾きや水漏れがないことを見てから畑へ戻った。

 

 

 

 

 

 夕方、家の周囲を一通り見て回った。

 

 林へ行けば、リングマは朝と同じ木の根元にいた。置いておいた果物はなくなっている。俺を見ても近づいては来ず、身体の向きを変えただけだった。

 

 未利用地のタンクでは、ニョロゾが水へ身体を沈めて休んでいる。コイキングはまだ同じ場所を泳ぎ続けていた。

 

「疲れないのか?」

 

「コイ」

 

「元気ならいいけど」

 

 庭ではリザードとニョロボンが向かい合い、互いの動きを確かめている。バタフリーとスピアーは納屋の近くで羽を休め、コンパンは日陰へ入り込んでいた。

 

 家の中へ戻ると、父さんの肩にはポッポがいる。ニドラン♀は母さんが台所へ移動するたび、その後ろをついて歩いていた。

 

 オタチは廊下を走り回り、時折何もない場所で立ち止まる。近くの影が不自然に動いているので、ゲンガーがまた悪戯をしているのだろう。

 

 ポリゴンは俺のスマートフォンと居間のテレビを行き来している。

 

 全員が同じ場所に集まっているわけではない。

 

 家の中を好む奴もいれば、納屋や未利用地を使う奴もいる。水が必要な奴もいれば、林の中で人間から離れて過ごす奴もいる。

 

 ジョウトへ行く前より、ポケモンたちの生活範囲は明らかに広がっていた。

 

 夕食の時、母さんが窓の外へ目を向けた。

 

「水の中の赤いの、まだ泳いでるわよ」

 

「コイキング?」

 

「名前は知らないけど、今日入れた方」

 

「それがコイキング。元気そうなら大丈夫だよ」

 

「夜もあのままなの?」

 

「ニョロゾも一緒にいるし、今日はそのままにする。何かあったらポリゴンが教えてくれるよ」

 

「便利な見張りね」

 

『ポリ!』

 

 スマートフォンの中から得意そうな声が返る。

 

 父さんは食事を続けながら、窓の外を見た。

 

「明日も天気は悪くないらしいな」

 

「そうなの?」

 

「夜まで晴れだ。せっかく増えたんだし、外で肉でも焼くか」

 

 俺より先に、母さんが父さんを見る。

 

「誰の分まで用意するつもり?」

 

「人間は3人だろ?」

 

「ポケモンが何匹いると思ってるの。普通の焼肉の量じゃ足りないでしょう」

 

「熊の分まで全部肉を買う必要はない。普段の餌も混ぜればいい」

 

「言い出した人が準備してよ」

 

「買い出しは悠真が行くしかないだろ」

 

「なんで俺?」

 

「暇だろ、あと責任者」

 

「今日ずっと水槽作ってたんだけど」

 

「仕事には行ってないだろ」

 

 否定はできない。

 

 母さんが箸を置き、少し考える。

 

「やるなら、明日の昼までに必要な物を言って。家にある野菜は使っていいけど、畑から勝手に取らないでよ」

 

「家の畑なのに?」

 

「あれは売り物だから」

 

 父さんも頷く。

 

「肉は多めにな。リングマを呼ぶなら、あいつの分は別にしておけ」

 

「リザードたちも結構食べるよ」

 

「だから先に数を確認しろって話だ」

 

 いつの間にか、明日の夜に外で食事をすることが決まっていた。

 

 ジョウトから帰ってきて、新しく増えたポケモンたちを家へ置く場所はひとまず整った。全員が揃って食事をする機会も、まだ作っていない。

 

「歓迎会みたいなものか」

 

「何でもいいけど、火の近くで暴れさせないでよ」

 

 母さんの言葉に、リザードとニョロボンの顔が浮かぶ。

 

「そこは見張っとく」

 

「リングマもね」

 

「あいつは肉を置けば林で食べるでしょ」

 

「だったら連れてこなくていいじゃない」

 

「歓迎会なのに1匹だけ林は寂しくない?」

 

「本人が寂しいと思ってるか聞いてから言いなさい」

 

 確かに、リングマは大勢で食卓を囲みたい性格には見えない。

 

 無理に庭へ連れてくる必要はないが、肉を持っていけば顔くらいは出すかもしれなかった。

 

「まあ、明日考えるか」

 

 窓の外では、タンクの水面が小さく揺れている。

 

 明日の夜には、家にいるポケモンをできるだけ集めてみよう。

 

 全員が同じように喜ぶかは分からない。それでも、新しく加わった奴らを迎えるには、ちょうどいい機会だった。

ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?

  • 本編進めやがれ
  • これでいい
  • どうでもいいからはよ
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