ポケモン現代入り 作:ささみ
翌朝、林へ様子を見に行くと、リングマは昨日と同じ木の根元で寝ていた。
朝食として持ってきた果物を近くへ置いても、片目を開けただけで起き上がろうとしない。俺が離れれば食べるだろうと、そのまま林を出る。
家にも畑にも近づいた形跡はなかった。
ひとまずリングマについては、今のまま様子を見ればよさそうだ。
「次はこっちだな」
未利用地まで戻り、手に持っていたボールを見下ろした。
ジョウトで捕まえたコイキング。
捕獲してからは、状態を確認する時以外ほとんどボールの中へ入れたままになっている。持ち運ぶ分にはそれでいいが、実家で暮らすなら、外で過ごせる場所も用意しておきたかった。
問題は、家に池がないことだった。
昨日のうちに納屋から引っ張り出した大きめの容器へ水を張り、未利用地の端へ置いてある。普通の魚なら数匹入れそうな大きさはあるが、コイキングが過ごすには足りるか分からない。
「とりあえず、出してみるか」
『ポリ』
ボールを開くと、白い光が容器の上へ伸びた。光の中から現れたコイキングが、水面へ落ちる。
「コイッ!」
大きく跳ねた。
容器の縁を越えるほどではなかったが、水が派手に溢れて俺の足元へかかる。
「うわっ」
『ポリ』
「今のは俺が悪いの?」
コイキングは狭い容器の中で身体を曲げ、もう1度跳ねようとする。
「待て待て。外に出るぞ」
慌てて両手で押さえるような真似はしない。指示を出して落ち着かせようとしたが、コイキングはこちらを見ながら口を開閉するだけだった。
「コイキング、跳ねないでくれ」
「コイ」
短く返事をした直後、また水面を叩く。
今度は最初より多くの水が飛び、近くにいたポリゴンの身体を通り抜けた。
『ポリ……』
「狭いから仕方ないって。多分」
容器の中で向きを変えるだけでも、コイキングの尾が縁へぶつかっている。本人は大して気にしていないようだが、普段から過ごさせるには明らかに狭かった。
別のボールを開き、進化していない方のニョロゾも出す。
「ニョロ」
ニョロゾは初めて見る場所を確認してから、水へ近づいた。容器へ手を入れ、水温を確かめるように何度か動かす。
「入ってみる?」
「ニョロ」
ニョロゾが容器へ入ると、それだけで水位が大きく上がった。
コイキングが押し出されるように端へ寄り、ニョロゾも脚を折り畳まなければ座れない。2匹が動くたびに水が縁から溢れ続ける。
「駄目だな、これ」
『ポリ』
「コイキング1匹でも狭いよな」
ニョロゾはこちらを見て頷くと、容器から出た。コイキングは少し広くなった水の中で泳ごうとするが、半回転する前に頭が反対側へぶつかっている。
さすがにこのまま使う気にはなれなかった。
「一旦戻ろう」
赤いビームでコイキングをボールへ収め、ニョロゾにも戻るか尋ねる。ニョロゾは首を振り、そのまま俺の後ろをついてきた。
畑の方へ行くと、父さんは機械の点検をしていた。ポッポは近くの支柱へ止まり、時折飛び立って畑の上を回っている。
「父さん、水を張れる大きい容器って何かない?」
「何に使うんだ?」
「コイキングを出しておく場所。納屋にあった容器を使ってみたけど、狭すぎた」
「魚か」
「魚ではあるけど、結構大きい」
「どれくらいだ?」
手でおおよその全長を示すと、父さんが少し考える。
「それなら、あれじゃ無理だ。水を入れたら動かせんし、排水も面倒だ」
「地面掘って池にした方がいいかな」
「今すぐ掘る話をするな」
父さんは点検していた機械から顔を上げ、未利用地の方を見る。
「穴だけ掘っても、水は抜けるぞ。シートを敷くにしても、破れたら終わりだ。雨で溢れた時にどこへ流すかも考えないと、畑まで水が来る」
「そこまで大げさな池にするつもりはないんだけど」
「小さくても水は水だ。作るなら先に場所を決めろや」
父さんは工具を置き、俺と一緒に未利用地まで来た。
ニョロゾも後ろをついてくる。
さきほど置いた容器の周囲は、既に水浸しになっていた。試しに出した時間は短かったのに、半分近くまで水が減っている。
「こりゃ駄目だな」
「思ったより跳ねるんだよ」
「コイキングって名前の通り、元気いっぱいの王様かい」
「跳ねることしかできないって言われるくらいだからね」
「役に立つのか?」
「育てば強くなる」
「またそれか」
父さんはコイキングの強さより、水が流れた方向を見ていた。幸い、畑とは反対側へ流れている。
「置くなら、この辺だな。畑から離れてるし、水を抜いても林側へ流せる。ただ、池を掘るのは後にしろ」
「じゃあ、どうする?」
「ホームセンターに大きい角型のタンクがあるべ。農業用の。まずはあれで様子を見ればいい」
「魚を入れても大丈夫?」
「元は水を溜める物だ。使う前に洗えば問題ないだろ。お前の方が詳しいんじゃないのか」
「コイキングのことは分かるけど、農業用タンクのことまでは知らないよ」
「なら店で聞け」
母さんへ買い物に行くことを伝えると、ちょうど必要な物があるからとメモを渡された。
「ついでにこれもお願い」
「結構あるな」
「どうせ車を出すんでしょう。別々に行く方が面倒じゃない」
「はいはい」
「それと、買ってきた物を玄関に置きっぱなしにしないでよ。前に届いた荷物も、まだ廊下に1箱あるからね」
「あれは今日片づけるから」
「昨日も聞いたわよ」
反論できなかったので、メモをポケットへ入れた。
買ってきた角型タンクは、最初に使った容器より何倍も大きかった。
コイキングが泳ぎ回るには池ほど広くないが、身体の向きを変えることはできる。ニョロゾが一緒に入っても、押し合うような狭さにはならない。
父さんと位置を決め、地面を均してから設置する。満水にしてから傾いていることへ気づけば、やり直すのは難しい。水準器まで使って確認する父さんの横で、俺はホースを伸ばした。
「そこまで正確にする必要ある?」
「片側に寄ったら、縁から水が溢れるだろ」
「多少なら大丈夫じゃない?」
「多少って油断するな、後で面倒になるんだ」
適当に置こうとしていた俺と違い、父さんは何度か土を削って高さを調整した。
位置が決まると、タンクの内部を洗い、水を入れていく。
水質と温度については、ポリゴンに確認してもらった。すぐに満水へはせず、コイキングが急な変化で体調を崩さないよう調整する。
水が溜まるまでの間、ニョロゾはタンクの縁へ手を掛けて中を覗いていた。
「入りたい?」
「ニョロ」
「まだ浅いから待って」
その横へオタチが近づいてくる。
いつの間に家から出てきたのか、身体を伸ばしてタンクの中を見ようとしていた。縁へ前脚を掛けるが、背が足りず中までは見えない。
「オタチも水に入りたいのか?」
「オタ?」
「違うか」
オタチはタンクより、ホースから出ている水の方へ興味を持ったらしい。流れ落ちる水へ前脚を伸ばし、触れた瞬間に引っ込める。それを何度か繰り返して遊び始めた。
足元の影が伸び、オタチのすぐ後ろでゲンガーの顔が浮かぶ。
「ゲンガー、驚かせるなよ」
「ゲンゲン」
返事をした時点で、もう遅かった。
オタチが振り返る。
目の前にいたゲンガーが大きく口を開いた。
「オタァッ!」
飛び上がったオタチがタンクの縁へぶつかり、跳ね返るように俺の脚へしがみついた。
「やると思ったよ」
「ゲンゲン!」
「笑ってないで謝れ」
ゲンガーは悪びれもせず、地面の影へ沈んだ。俺の脚へ掴まったオタチは、消えた場所を警戒しながら濡れた身体を震わせる。
飛び散った水が俺のズボンにもかかった。
「お前も濡れたのか」
「オタ……」
「家に戻る前に拭こうな」
タオルを取りに行こうとしたところで、母さんが縁側からこちらを見ていた。
「何してるの?」
「ゲンガーがオタチを驚かせた」
「それで水浸し?」
「ホースでも遊んでたから、半分は自分で濡れた」
母さんは家の中へ引っ込み、少しして古いタオルを持って戻ってきた。
「そのまま入れないでよ」
「分かってる」
「ゲンガーも泥をつけてるなら拭きなさい」
「影に入ってるから、多分ついてない」
「多分で家に入れるのはやめて」
タオルを受け取り、オタチの身体を拭く。最初は逃げようとしたが、背中を拭き始めると大人しくなった。
母さんはタンクの方を見る。
「今度は何を飼う場所なの?」
「コイキングとニョロゾ。あのままボールに入れっぱなしにするわけにもいかないから」
「また増えたやつの場所を作ってるのね」
「捕まえたんだから仕方ないでしょ」
「捕まえる前に考えるものじゃないの?」
その通りだが、山の中で大型の水槽を用意できるはずもない。
「帰ってから考えようとは思ってたよ」
「それを考えてなかったって言うのよ」
母さんは呆れた顔をしたが、タンクを置くこと自体には反対しなかった。
「水を腐らせないでよ。虫が増えるのも嫌だから」
「定期的に入れ替えるし、ポリゴンにも確認してもらう」
「ならいいけど。オタチを拭いたら、そのタオルは洗濯機に入れないで外に置いて」
言うだけ言って家へ戻っていく。
オタチの身体を拭き終える頃には、水も十分な深さまで溜まっていた。
まずニョロゾに入ってもらう。
「ニョロ」
ニョロゾは縁を越えて水へ入り、底へ脚をつけた。数歩歩いて広さを確かめた後、身体を沈める。
窮屈そうな様子はない。
「どう?」
「ニョロ」
「大丈夫そうだな」
続いてコイキングを出す。
ボールから放たれた白い光が水面へ落ち、コイキングが姿を現した。
「コイッ!」
着水と同時に大きく跳ね、水が飛び散る。
今度は縁を越えて外へ出ることも、半分近い水が溢れることもなかった。
コイキングは底近くまで潜り、端から端まで泳ぐ。反対側へ着くと身体を曲げ、問題なく方向を変えた。
「さっきよりはいいな」
『ポリ』
ニョロゾもコイキングの後ろを泳ぎ始める。
コイキングの方が速いわけではない。ただ、意味もなく行ったり来たりするのが楽しいらしく、何度も同じ場所を往復していた。
タンクの外では、ニョロボンが腕を組んで2匹を見ている。
「入りたいなら入ってもいいよ」
「ニョロ」
ニョロボンは首を振り、少し離れた場所にいるリザードへ視線を向けた。
リザードも気づき、尻尾の炎を揺らす。
「お前たちは本当にそればっかりだな」
「リザ」
「ニョロ」
「やるならタンクから離れろよ。壊したら今日の作業が全部無駄になるから」
2匹は未利用地の反対側へ移動した。
本格的な戦闘はさせず、軽い組手だけにする。ニョロボンは進化した身体の扱いにまだ慣れていないが、腕力はニョロゾの頃とは比べものにならない。
リザードの突進を受け止め、そのまま持ち上げようとする。
リザードは尻尾を振って体勢を崩し、腕から抜け出した。
「いきなり投げるな。今日は動きの確認だけだって」
俺の声に、ニョロボンは渋々腕を下ろす。
水の中では、もう1匹のニョロゾが静かにこちらを見ていた。
同じニョロゾだったとは思えないくらい、性格が違う。
ニョロボンは陸へ出ればすぐ身体を動かしたがり、進化していない方は水の中で過ごす方が落ち着くらしい。
「ニョロゾはここを使っていいよ。ニョロボンは入りたい時だけでいいか」
「ニョロ」
「ニョロ」
返事だけを聞けば同じだった。
コイキングは俺たちの話に興味も示さず、水面近くを泳ぎ続けている。
勢いよく跳ねる度に水が飛び散るので、縁の一部へ簡単な覆いを取り付けた。完全に塞ぐつもりはないが、外へ飛び出すのだけは防ぐ必要がある。
「これで当面は大丈夫かな」
『ポリ』
「池は急がなくていいか。狭そうになったら、その時考えよう」
父さんも遠くからタンクの様子を確認し、傾きや水漏れがないことを見てから畑へ戻った。
夕方、家の周囲を一通り見て回った。
林へ行けば、リングマは朝と同じ木の根元にいた。置いておいた果物はなくなっている。俺を見ても近づいては来ず、身体の向きを変えただけだった。
未利用地のタンクでは、ニョロゾが水へ身体を沈めて休んでいる。コイキングはまだ同じ場所を泳ぎ続けていた。
「疲れないのか?」
「コイ」
「元気ならいいけど」
庭ではリザードとニョロボンが向かい合い、互いの動きを確かめている。バタフリーとスピアーは納屋の近くで羽を休め、コンパンは日陰へ入り込んでいた。
家の中へ戻ると、父さんの肩にはポッポがいる。ニドラン♀は母さんが台所へ移動するたび、その後ろをついて歩いていた。
オタチは廊下を走り回り、時折何もない場所で立ち止まる。近くの影が不自然に動いているので、ゲンガーがまた悪戯をしているのだろう。
ポリゴンは俺のスマートフォンと居間のテレビを行き来している。
全員が同じ場所に集まっているわけではない。
家の中を好む奴もいれば、納屋や未利用地を使う奴もいる。水が必要な奴もいれば、林の中で人間から離れて過ごす奴もいる。
ジョウトへ行く前より、ポケモンたちの生活範囲は明らかに広がっていた。
夕食の時、母さんが窓の外へ目を向けた。
「水の中の赤いの、まだ泳いでるわよ」
「コイキング?」
「名前は知らないけど、今日入れた方」
「それがコイキング。元気そうなら大丈夫だよ」
「夜もあのままなの?」
「ニョロゾも一緒にいるし、今日はそのままにする。何かあったらポリゴンが教えてくれるよ」
「便利な見張りね」
『ポリ!』
スマートフォンの中から得意そうな声が返る。
父さんは食事を続けながら、窓の外を見た。
「明日も天気は悪くないらしいな」
「そうなの?」
「夜まで晴れだ。せっかく増えたんだし、外で肉でも焼くか」
俺より先に、母さんが父さんを見る。
「誰の分まで用意するつもり?」
「人間は3人だろ?」
「ポケモンが何匹いると思ってるの。普通の焼肉の量じゃ足りないでしょう」
「熊の分まで全部肉を買う必要はない。普段の餌も混ぜればいい」
「言い出した人が準備してよ」
「買い出しは悠真が行くしかないだろ」
「なんで俺?」
「暇だろ、あと責任者」
「今日ずっと水槽作ってたんだけど」
「仕事には行ってないだろ」
否定はできない。
母さんが箸を置き、少し考える。
「やるなら、明日の昼までに必要な物を言って。家にある野菜は使っていいけど、畑から勝手に取らないでよ」
「家の畑なのに?」
「あれは売り物だから」
父さんも頷く。
「肉は多めにな。リングマを呼ぶなら、あいつの分は別にしておけ」
「リザードたちも結構食べるよ」
「だから先に数を確認しろって話だ」
いつの間にか、明日の夜に外で食事をすることが決まっていた。
ジョウトから帰ってきて、新しく増えたポケモンたちを家へ置く場所はひとまず整った。全員が揃って食事をする機会も、まだ作っていない。
「歓迎会みたいなものか」
「何でもいいけど、火の近くで暴れさせないでよ」
母さんの言葉に、リザードとニョロボンの顔が浮かぶ。
「そこは見張っとく」
「リングマもね」
「あいつは肉を置けば林で食べるでしょ」
「だったら連れてこなくていいじゃない」
「歓迎会なのに1匹だけ林は寂しくない?」
「本人が寂しいと思ってるか聞いてから言いなさい」
確かに、リングマは大勢で食卓を囲みたい性格には見えない。
無理に庭へ連れてくる必要はないが、肉を持っていけば顔くらいは出すかもしれなかった。
「まあ、明日考えるか」
窓の外では、タンクの水面が小さく揺れている。
明日の夜には、家にいるポケモンをできるだけ集めてみよう。
全員が同じように喜ぶかは分からない。それでも、新しく加わった奴らを迎えるには、ちょうどいい機会だった。
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ