ポケモン現代入り   作:ささみ

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第31話

 

 

 目を覚ました時には、カーテンの隙間から差し込む光が、すっかり部屋の奥まで伸びていた。

 

 枕元に置いたスマートフォンへ手を伸ばす。画面に表示された時間は、普段なら朝食を終えている頃を過ぎている。

 

「……寝たな」

 

『ポリ』

 

 スマートフォンの中から声が返ってきた。

 

 ポリゴンはとっくに起きていたらしい。俺が画面を覗くと、待っていたとばかりに天気と気温を表示する。

 

 夜まで晴れ。

 

 昨日、父さんが言っていた通りだった。

 

「今日は何もしないからな」

 

『ポリ?』

 

「買い物と、夜に肉を焼くくらい。訓練も遠出もなし」

 

 布団から起き上がると、足元にあった影がゆっくり膨らんだ。

 

「ゲンガー?」

 

「ゲン……」

 

 寝起きの声を漏らしながら、ゲンガーが上半身だけを出す。

 

 どうやら昨夜から俺の影で寝ていたらしい。

 

「お前もよく寝るな」

 

「ゲンゲン」

 

「俺のことは言えないけど」

 

 着替えて廊下へ出る。

 

 居間には誰もいなかったが、台所のテーブルには朝食が残されていた。皿の上にはラップが掛けられ、その横に母さんの字で、起きたら自分で温めるよう書かれている。

 

 電子レンジへ入れようとしたところで、庭の方から物音が聞こえた。

 

 窓を開けて外を見る。

 

 母さんが物干し竿へ洗濯物を掛けていた。

 

 その足元にはニドラン♀がいる。

 

「ニド」

 

「それはこっち。落とさないでよ」

 

 ニドラン♀は口にくわえていた靴下を、母さんの伸ばした手へ渡した。

 

 洗濯籠の中身を運んでいるらしい。

 

 大きな物は無理でも、靴下や薄いタオル程度なら問題ない。母さんが洗濯籠から取り出した物を地面へ落とすと、ニドラン♀が拾い上げて渡していた。

 

「手伝ってるの?」

 

 窓から声を掛けると、母さんがこちらを見る。

 

「今起きたの?」

 

「今日は休むって決めてたから」

 

「決めたら昼まで寝ていいことにはならないでしょう」

 

「まだ昼じゃないよ」

 

「似たような時間よ」

 

 ニドラン♀が洗濯籠へ前脚を掛け、中を覗き込んでいる。

 

 母さんが小さな布巾を取り出し、その前へ差し出した。

 

「はい、これお願い」

 

「ニド!」

 

 布巾を受け取ったニドラン♀が、母さんの隣まで運ぶ。

 

 母さんは礼を言いながら受け取り、皺を伸ばして物干し竿へ掛けた。

 

「随分慣れたね」

 

「この子、私が何か始めると後ろをついてくるのよ。だったら少しくらい手伝ってもらった方がいいでしょう」

 

「毒針には気をつけてよ」

 

「分かってるわよ。触る場所くらい、この子も覚えたみたいだし」

 

 母さんがニドラン♀の額を指先で軽く撫でる。

 

 ニドラン♀は逃げずに目を細めた。

 

 最初は母さんの後ろをついて回っているだけだった。それが今では、洗濯物を運んで褒められている。

 

「朝ご飯、そこに置いてあるから」

 

「今から食べる」

 

「食べたら買い物に行ってきてね。肉の量は昨日のうちに紙へ書いておいたから」

 

「俺が全部買うの?」

 

「歓迎会をやるって言ったのは父さんだけど、ポケモンの食べる物が分かるのはあんたでしょう」

 

「言い出した父さんは?」

 

「畑を見に行ったわよ。ポッポも一緒」

 

 完全に休むわけではないらしい。

 

 もっとも、農家に曜日通りの休日があるわけでもない。天候と作物の状態次第では、休む予定だった日でも畑へ出る。

 

 今日は最低限の確認だけで戻ってくると聞いていた。

 

「早く食べなさい。片づかないから」

 

「はいはい」

 

「返事は1回」

 

 窓を閉めようとすると、ニドラン♀がこちらへ向かって鳴いた。

 

「ニド」

 

「おはよう」

 

 返事をすると、尻尾を小さく動かす。

 

 母さんに呼ばれ、すぐに洗濯籠の方へ戻っていった。

 

 朝食を済ませた後、車で買い物へ出た。

 

 ポリゴンが作った一覧を確認しながら、人間用の肉と野菜、ポケモンたちへ分ける味付け前の肉、果物、飲み物を籠へ入れていく。

 

 全部へ同じ物を食べさせるわけではない。

 

 バタフリーやスピアー、コンパンには果物や普段の餌を中心にする。コイキングとニョロゾにも、別に用意した方がいい。

 

 リングマは普段の食事へ肉を増やす程度で十分だろう。

 

 売り場を一周した頃には、籠がかなり重くなっていた。

 

「……増えたな」

 

『ポリ』

 

「いや、分かってたけどさ。食べる量で実感すると違うな」

 

 ポリゴンがスマートフォンへ口座の残高を表示しようとする。

 

「それはいい」

 

『ポリ?』

 

「金があるからって、毎回高い肉を買う必要はないだろ。普段から食べさせる物なんだから」

 

 残高の表示が引っ込む。

 

 その代わり、少し安い商品の一覧が出てきた。

 

「そういうのは助かるな」

 

『ポリ!』

 

 結局、予定より少し多めに買った。

 

 家へ戻ると、玄関の前でオタチが待っていた。車の音を聞いて出てきたらしい。

 

「ただいま」

 

「オタ!」

 

「袋に入るなよ。食べ物だから」

 

 運び出した袋へ鼻先を突っ込もうとするオタチを避けながら、荷物を家へ入れる。

 

 母さんは台所で野菜を切っていた。

 

 その隣では、ニドラン♀が床へ落ちた葉を前脚で集めている。

 

「まだ手伝ってるの?」

 

「さっき少し寝てたわよ。起きたらまた来たの」

 

 母さんが切り落とした葉を小さな容器へ入れると、ニドラン♀がそれを鼻先で押して台所の端へ運ぶ。

 

 重い物は持てないため、押して動かすことを覚えたらしい。

 

「これ、肉。ポケモン用は味付け前で分けてある」

 

「冷蔵庫へ入れて。夜まで出しっぱなしにしないでよ」

 

「分かってる」

 

「リングマの分は?」

 

「別の袋。あいつは林で食べさせるから」

 

「それがいいわ。庭まで連れてこられても、こっちが落ち着かないもの」

 

 母さんは作業を止めずに答えた。

 

 ニドラン♀が容器を押し終え、得意そうに母さんを見上げる。

 

「ありがとう。次は休んでていいわよ」

 

「ニド」

 

 言われた通り、その場へ腰を下ろす。

 

 母さんの足へ身体を寄せて丸くなる姿は、もう以前からそこにいたように見えた。

 

 買ってきた物を片づけた後は、本当に何もしなかった。

 

 縁側へ座り、冷たい飲み物を片手に未利用地を見る。

 

 水槽ではニョロゾが縁へ両腕を掛け、半分だけ身体を水から出していた。コイキングはその後ろを行ったり来たりしている。

 

 何度往復しても飽きないらしい。

 

 庭の端ではリザードとニョロボンが向かい合っていた。

 

 訓練は休みだと伝えたはずなのに、互いの動きを見ているだけで身体が前へ出そうになっている。

 

「今日は駄目だからな」

 

「リザ」

 

「ニョロ」

 

「返事はいいんだから」

 

 2匹とも目を逸らした。

 

 戦わない代わりに、力比べでも始めそうな顔をしている。

 

 俺の隣ではオタチが身体を伸ばし、縁側の下を覗いていた。何かを見つけたのか前脚を差し込むが、すぐに影の中からゲンガーの手が伸びてくる。

 

「オタッ!」

 

 オタチが後ろへ飛び退く。

 

 ゲンガーの笑い声が縁側の下から響いた。

 

「昨日もやっただろ」

 

「ゲンゲン」

 

「怒らせても知らないからな」

 

 オタチはしばらく縁側の下を睨んでいたが、やがて俺の横へ移動し、太腿へ背中を預けた。

 

 眠るつもりらしい。

 

 少しすると、コンパンも日陰から近づいてきた。縁側の下へ入ろうとしたところで、ゲンガーの気配に気づいたのか足を止める。

 

「今日はそこ、ゲンガーがいるぞ」

 

「コン」

 

 コンパンは少し考え、縁側の脇へ座った。

 

 バタフリーとスピアーは、風の少ない場所を選んで羽を休めている。

 

 誰も俺へ何かを求めてこない。

 

 ただ近くにいて、それぞれ好きなように過ごしていた。

 

 スマートフォンで動画を流していたはずが、いつの間にか目を閉じていた。

 

 次に起きた時には、オタチが腹の上へ移動していた。

 

「重い」

 

「オタ……」

 

「寝てるのか」

 

 起こすほどではなかったので、そのままにする。

 

 空は高く、雲の流れも遅い。

 

 遠征中は、眠っていても周囲の気配を気にしていた。何が出るか分からない場所では、完全に力を抜くことができない。

 

 ここでは、林にリングマがいる。

 

 水槽ではコイキングが水を揺らし、庭ではリザードたちが退屈そうにしている。家の中では母さんとニドラン♀が動き、畑には父さんとポッポがいる。

 

 何かが起きそうな気配はなかった。

 

 そう思えるだけで、もう1度目を閉じるには十分だった。

 

 昼過ぎに父さんが戻ってきた。

 

 帽子を脱ぎながら縁側へ上がり、その肩からポッポが飛び降りる。ポッポは少し疲れた様子で羽を膨らませた。

 

「畑はどうだった?」

 

「問題なし。見ただけだ」

 

「休みの日まで行かなくてもいいんじゃない?」

 

「見ないで休む方が落ち着かん」

 

 父さんは冷蔵庫から麦茶を出し、縁側へ座った。

 

 ポッポがその膝へ飛び乗る。

 

「ポッポも疲れた?」

 

「ポポ」

 

「今日は大して飛んでないぞ。俺の肩に乗ってただけだ」

 

「それでも外にいたら暑いでしょ」

 

「夕方まで休ませればなんとかなる」

 

 父さんが指先で胸元の羽を撫でると、ポッポは目を細めた。

 

 初めて捕まえた頃は、父さんもどう扱えばいいのか分からず、俺に何度も確認していた。

 

 今では羽の乱れを直し、鳴き方で何を求めているのかある程度分かるようになっている。

 

「随分慣れたね」

 

「毎日一緒にいればな」

 

「最初は肩に乗られるのも落ち着かなかったのに」

 

「いつの話してんだ」

 

 父さんが俺を見る。

 

 その間にも、手はポッポの背中を撫で続けていた。

 

「夜、肉焼くんだろ。炭は出したのか?」

 

「夕方でいいでしょ」

 

「直前に慌てるぞ」

 

「父さんも手伝ってよ」

 

「言い出したのは俺だ、やるに決まってる」

 

 そう言いながら、父さんもすぐには立ち上がらなかった。

 

 縁側へ座ったまま麦茶を飲み、膝の上で休むポッポを眺めている。

 

 休みの日らしい時間だった。

 

 夕方になってから、庭へコンロと椅子を出した。

 

 大げさな準備はしない。

 

 肉と野菜を並べ、ポケモン用の食事を別に用意する。母さんが台所から皿を運び、父さんが炭へ火をつける。

 

 リザードがコンロの前へ来て、尻尾の炎を揺らした。

 

「リザードにやってもらえば早いんじゃない?」

 

「火力が分からん。炭どころかコンロまで駄目にされたら困る」

 

「リザァ」

 

「信用してないわけじゃない。加減を知らんだけだ」

 

 父さんに言われ、リザードは不満そうに鼻を鳴らした。

 

 ニョロボンはその隣で腕を組んでいる。火を眺めているだけなのに、いつでも勝負を始められそうな姿勢だった。

 

「今日は戦うなよ」

 

「ニョロ」

 

「肉を食べるだけだからな」

 

「リザ」

 

 返事だけは素直だった。

 

 煙が上がり始めると、ポッポが父さんの肩から離れ、少し離れた物干し竿へ移った。

 

 母さんの足元にはニドラン♀がいる。人の動きが多いため、踏まれないよう母さんの横から離れない。

 

 オタチは焼ける匂いにつられ、俺の足元を何度も行き来していた。

 

「まだ焼けてない」

 

「オタ」

 

「今見ても早くならないぞ」

 

 ゲンガーは俺の影から顔だけを出し、皿の上を覗いている。

 

 ポリゴンはスマートフォンの中で時間を測り、肉を裏返す頃になると音を鳴らした。

 

「そこまで管理しなくても焦げないって」

 

『ポリ』

 

「分かった、返すよ」

 

 肉を裏返す。

 

 夕食を外で食べているだけで、歓迎会らしい挨拶はしなかった。

 

 父さんが肉を焼き、母さんが皿へ分ける。俺が食べられる物を確認して、ポケモンたちへ順番に渡す。

 

 バタフリーとスピアー、コンパンには果物を切った物を用意した。ニョロゾは水槽の縁へ座り、小さく切った食事を受け取る。

 

 コイキングは水面へ浮かび、食べ物が落ちてくるのを口を開けて待っていた。

 

「コイキングは分かりやすいな」

 

「コイ!」

 

 落とした餌を一口で飲み込む。

 

 オタチは自分の分を食べ終えると、別の皿へ近づこうとした。

 

「それはニョロボンの分」

 

「オタ」

 

「見ても増えないぞ」

 

 抱き上げて元の場所へ戻す。

 

 リザードとニョロボンは食事中だけは争わなかった。互いの皿を気にしてはいたが、手を出せば俺に止められることが分かっている。

 

 リングマだけは庭へ呼ばなかった。

 

 途中で肉と果物を持ち、林へ向かう。

 

 木々の奥から声を掛けると、すぐには姿を見せない。袋を開いて匂いを漂わせると、枝を踏む音が近づいてきた。

 

「やっぱり飯なら来るんだな」

 

「グマ」

 

 林の入り口へ皿を置く。

 

「一応、お前たちの歓迎会なんだけどさ」

 

 リングマは俺の話を気にせず、肉へ鼻を近づけた。

 

「庭まで来たいなら連れていくけど」

 

「グマァ」

 

 リングマはその場へ座り、食べ始める。

 

 これ以上の返事は必要なさそうだった。

 

「じゃあ、ここで食べてていいよ」

 

 背中を向けても追ってはこない。

 

 林の中で1匹だけ食事をしているが、寂しそうには見えなかった。リングマにとっては、騒がしい庭へ連れていかれるより、こちらの方が落ち着くのだろう。

 

 庭へ戻ると、父さんが俺の皿へ肉を追加した。

 

「熊は来なかったのか?」

 

「林で食べるって」

 

「そっちの方がいい」

 

「母さんと同じこと言うね」

 

「庭に座られたら、俺らの食う場所がなくなるだろ」

 

 父さんは笑いながら、次の肉を網へ載せた。

 

 母さんがニドラン♀へ小さく切った野菜を渡す。

 

「熱くない?」

 

「ニド」

 

「ゆっくり食べなさい」

 

 ニドラン♀は母さんの膝の近くへ座り、少しずつ口へ運んでいる。

 

 物干し竿にいたポッポも、煙が落ち着くと父さんの肩へ戻った。父さんが自分の皿から食べられる物を選び、少しずつ与えている。

 

 何かを祝うには、随分と静かな食事だった。

 

 誰かが挨拶をするわけでもない。新しく加わったポケモンたちを前へ並ばせることもない。

 

 それでも皆が同じ場所で食べ、家族がその様子を当たり前のように受け入れている。

 

 それだけで十分、歓迎会らしく思えた。

 

 食事が終わる頃には、辺りは暗くなっていた。

 

 コンロの火を消し、皿や椅子を片づける。

 

 母さんはニドラン♀と一緒に、小さなゴミや落ちた野菜を拾っていた。ニドラン♀が見つけた物を鼻先で示し、母さんが箸で拾って袋へ入れる。

 

 父さんは煙の匂いがついた服を嗅ぎ、顔をしかめた。

 

「先に風呂入るぞ」

 

「片づけは?」

 

「炭は俺が見た。残りは悠真の仕事だろ」

 

「言い出した人が準備も片づけもするんじゃなかったの?」

 

「半分はやったからな」

 

 父さんが家へ入る。

 

 肩には当然のようにポッポが乗っていた。

 

「ポッポも一緒に行くの?」

 

「煙くさいからな、羽も流してやる」

 

「湯船に入れるなら、先にちゃんと洗ってよ!」

 

 台所から母さんの声が飛ぶ。

 

「分かってる!」

 

 返事をしながら、父さんはポッポを連れて脱衣所へ消えていった。

 

 しばらくすると、風呂場から水音が聞こえてくる。

 

「ポポッ!」

 

「暴れるな、泡が目に入る」

 

「ポッポ!」

 

「羽広げたら流せんだろ」

 

 楽しそうな声だった。

 

 気になって脱衣所の前まで行くと、曇った扉の向こうで人影と小さな影が動いている。

 

「覗くなよ」

 

「見てないよ」

 

「声掛けた時点でそこにいるべ」

 

「ポッポ、風呂入れるの?」

 

「洗い場で流した。今は一緒に温まってる」

 

 扉を少し開けて中を見る。

 

 父さんは湯船へ肩まで浸かり、ポッポはその胸元へ乗っていた。身体全部を沈めることはせず、温かい湯へ足だけを入れている。

 

 濡れた羽は普段より細く見えた。

 

「ポ〜」

 

「気持ちいいか?」

 

「ポッポ」

 

 父さんが指先で頭の羽を整える。

 

 ポッポは逃げずに、胸元へ身体を預けていた。

 

「本当に一緒に入ってるんだ」

 

「こいつが出ないって言うんだから仕方ないだろ?だろ?」

 

「父さんが連れて入ったんでしょ」

 

「細かいこと言うな。冷めるから閉めろ」

 

 言われた通り、扉を閉める。

 

 居間へ戻る途中、母さんとすれ違った。足元にはニドラン♀がいる。

 

「本当に湯船へ入れてた?」

 

「足だけ。父さんの胸に乗ってた」

 

「あの人も随分甘くなったわね」

 

「母さんも人のこと言えないでしょ」

 

 ニドラン♀が母さんを見上げる。

 

 母さんは一瞬だけ黙り、その頭を軽く撫でた。

 

「この子は手伝ってくれるもの」

 

「ポッポも父さんの手伝いしてるよ」

 

「だから似た者同士なんでしょう」

 

 母さんはそれ以上否定せず、ニドラン♀を連れて台所へ向かった。

 

 片づけを終え、縁側へ出る。

 

 昼間の暖かさは残っていたが、風には少しだけ夜の冷たさが混じっている。

 

 水槽では、ニョロゾが縁へ腕を掛けたまま眠っていた。コイキングも昼間ほど泳ぎ回らず、底近くをゆっくり動いている。

 

 林の方は暗く、リングマの姿までは見えない。

 

 それでも、あの木の根元で横になっているのだろう。

 

 家の中から、風呂を上がった父さんの声が聞こえる。

 

「悠真、ドライヤー持ってこい!」

 

「ポッポに使うなら弱くしろよ!」

 

「分かってる!」

 

 その後ろで、ポッポの鳴き声も響いた。

 

 母さんはニドラン♀を連れ、洗濯物を畳んでいる。オタチはその周囲を歩き回り、畳み終えたタオルの上へ乗ろうとして止められていた。

 

 ゲンガーは俺の影に戻り、ポリゴンはスマートフォンの画面から静かな音楽を流している。

 

 世界へポケモンが現れてから、まだそれほど長い時間が過ぎたわけではない。

 

 それでも、この家ではもう、ポッポが父さんと風呂へ入り、ニドラン♀が母さんの仕事を手伝っている。

 

 変わったはずなのに、不思議と以前より騒がしくなっただけにも思えた。

 

「今日は、本当に何もしなかったな」

 

『ポリ』

 

「買い物して、肉焼いて、片づけただけだ」

 

 大した成果はない。

 

 新しい道具も作っていなければ、ポケモンについて何かを公開したわけでもない。強い相手と戦ったわけでも、遠くへ出かけたわけでもない。

 

 ただ家にいて、家族と食事をした。

 

 それだけの1日だった。

 

 家の中から笑い声が聞こえる。

 

 父さんが濡れたポッポに逃げられ、母さんが床を濡らすなと怒っているらしい。

 

 俺は縁側へ背中を預け、その声を聞きながら目を閉じた。

 

「まあ、たまにはいいか」

 

『ポリ』

 

 返事と一緒に、音楽の音量が少しだけ小さくなる。

 

 夜の庭には、水の揺れる音と、林を抜ける風の音だけが残っていた。

ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?

  • 本編進めやがれ
  • これでいい
  • どうでもいいからはよ
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