ポケモン現代入り 作:ささみ
翌朝、居間に下りると、テレビで九州の映像が流れていた。
まだ薄暗い住宅街を、茶色と白の小さなポケモンが走り抜けていく。別の映像では、海岸近くの空を白い鳥の群れが旋回し、山道の脇の草むらから黒い犬みたいな顔が覗いていた。
画面の下には、九州各地で新しいポケモンがたくさん見つかったという速報が出ている。
『政府は、九州地方の広い範囲でポケモンの出現が始まったと発表しました。現在、各自治体と関係機関が目撃情報を収集しています。見慣れないポケモンを発見した場合は、不用意に接近せず――』
「また増えたのか」
父さんが食卓からテレビに目を向けた。その肩ではポッポが羽をふくらませて、画面の中の鳥ポケモンを追うみたいに首を動かしている。
「今度は九州みたいね」
母さんは味噌汁を置くと、足元にいるニドラン♀の皿も床に下ろした。
「昨日まで、そんな話してなかったでしょう?」
「政府も今朝出したばっかりみたいだな」
それだけ言って、椅子に座る。
画面に映っていたのは、ジグザグマ、キャモメ、ポチエナだった。
九州にホウエン地方の生態系が追加された形だ。
予想どおりではある。
昨夜、全国図鑑と周辺情報をまとめて政府に送ったばかりだが、今日に合わせたわけじゃない。散らかっていた資料を整理して、できたから送っただけだ。
たまたま、次の地方が追加される前日になっただけだった。
『現時点では、毒や炎を扱う可能性のある種類も確認されています。小型の個体であっても、素手で触れたり、餌を与えたりしないでください』
「前より注意が具体的だな」
父さんが言う。
「これまでの経験があるからじゃない?」
「まあ、少しは慣れてきたんだろうな」
母さんと父さんは、政府が昨日どんな資料を受け取ったか知らない。
情報提供の件も、掲示板の有識者が俺だってことも、全国図鑑を持っていることも話していない。今後も話すつもりはなかった。
「また捕まえに行くの?」
母さんの問いに、パンへ伸ばしていた手を止める。
「今は行かないよ。帰ってきたばっかだし、こっちの世話もあるし」
「今は、ね」
「すぐ行くって意味じゃないって」
父さんが窓の外を見る。
林にはリングマ。使ってないタンクにはニョロゾとコイキング。庭には進化したばかりのニョロボン。さらにボックスには、まだ外に出せないバンギラスまでいる。
「増やす前に、今いるやつらを落ち着かせろ」
「分かってるって」
「特に林の熊な。昨日の夜もいたぞ」
「リングマなら、あそこ気に入ってるみたいでさ」
「畑に来なきゃいい」
父さんはそれだけ言って、食事に戻った。
テレビでは次の映像が流れている。水路の縁に並ぶハスボーを、近所の人が遠くから撮ったものだった。
新しいポケモンが出ているのに、両親の反応はかなり落ち着いている。
最初のカントー出現のときとは違う。
ポケモンが増えること自体、もう普通の出来事として受け入れられていた。
朝食を終えて自分の部屋に戻ると、ポリゴンはすでに九州の目撃情報を集め始めていた。
パソコンの画面に地図を出し、確認された種類と場所を順番に重ねていく。
山林ではキノココやケムッソ。
市街地や農地の周辺ではジグザグマとポチエナ。
海岸や漁港ではキャモメ。
河川や湿地ではハスボー、アメタマ、ヘイガニ。
今回初めて出たポケモンだけじゃない。九州に再現されたホウエンの生態系に、カントーやジョウトのポケモンも一緒に混ざっている。
「今のところ、ホウエンの分布で合ってそうだな」
『ポリ』
政府の公式サイトも確認する。
最初の発表は「新しいポケモンが出現した」くらいのざっくりした内容だったが、時間が経つにつれて種類名や注意事項が追加されていた。
ポチエナは群れで動く可能性がある。
ケムッソはトゲや毒に注意。
アチャモは小さくても炎を使う。
キノココは胞子を出すことがあるので近づくな。
「もう追加資料使ってるな」
『ポリ』
「昨日送ったばっかなのに、仕事早いな」
資料はかなりの量だが、ポリゴンが検索用に整理している。
現場でポチエナって名前が出れば、すぐに生態と危険性が引ける。全部読む必要はない。
それでも、向こうは昨日からずっと確認してるはずだ。
「向こう、寝てないんじゃないか?」
『ポリ』
「まあ悪いとは思うけど、減らすわけにもいかないしな」
昨日送ってなければ、今日の現場はもっと混乱してたはずだ。
間に合ったのは結果論だけど、役に立ってるならそれでいい。
九州のニュースやSNSでは、もう現地に行こうとする人も出てきている。
ポケモンを捕まえたい人。
新しいきのみやぼんぐりを探したい人。
珍しい映像を撮りたい配信者。
素材を売ろうとする人。
九州の住民からは「今来るな」って声も多い。
「出現初日から行く気かよ」
『ポリ』
「俺もジョウト行ったから人のこと言えないけどさ」
俺の場合は少し時間を置いてる。
知識も装備もあって、手持ちも育ててた。それでも山に入ってバンギラスとやり合うことになった。
準備してても危ないんだから、何も知らずに行ったらどうなるか分からない。
九州の宿やレンタカーの予約が埋まり始めたという投稿を見ていると、ポリゴンが短く鳴いた。
『ポリ』
「どうした?」
画面の九州地図が消え、中国地方に切り替わる。
山口、広島、島根、鳥取、岡山。
各県に目撃地点の印が増えていた。
「中国地方にも出てる?」
『ポリ』
「九州から広がったってことか?」
最初はそう思った。
山口なら九州のすぐ隣だし、飛べるやつや海を渡れるやつなら移動しててもおかしくない。
でも、まだ数時間しか経ってない。
広島や鳥取、岡山の内陸からも出てる。九州から移動しただけじゃ説明できない数だ。
「投稿見せて」
山口の林にジグザグマ。
広島の河川敷にマリル。
岡山の郊外にエイパム。
島根の山道にヒメグマ。
鳥取の砂地にサンド。
どれも今まで解放されてる世代のポケモンだ。
ただし、全部がホウエンってわけでもない。
「ヒメグマとエイパムは違うな」
『ポリ』
「ホウエンの追加が中国地方まで広がっただけじゃない」
ポリゴンに中国地方の情報だけをまとめさせる。
SNSの写真や動画はそのまま信用できない。時間や位置情報を確認して、古いものや加工を除外する。自治体や報道の情報も合わせて地図に重ねる。
目撃地点は減るどころか増え続けていた。
森では草や虫に加えてピチュー、エイパム、ヒメグマ。
川や湖ではニョロモ、マリル、ハスボー。
山や岩場ではイシツブテ、ゴローン、ココドラ。
洞窟や廃坑の近くではズバットやパラス。
住宅地や農地の近くにはコラッタ、オタチ、ジグザグマ。
世代も地方もバラバラだ。
でも、完全にめちゃくちゃってわけでもない。
「環境ごとに分かれてるな」
『ポリ』
森には森向きのやつ。
水辺には水辺のやつ。
人の生活圏には小さくて適応力あるやつ。
元の地方じゃなくて、中国地方の環境に合わせて組み直されてる。
新しい地方図鑑をそのまま置いた感じじゃない。
「なんだこれ」
政府の発表も更新されていた。
九州に加えて中国地方でも広範囲で出現を確認。
種類や範囲は調査中。
九州と同じく不用意に近づくな、との注意。
中国地方の件は政府も想定外っぽい。
昨日送った資料には種類は全部入ってるから、危険性は確認できる。
でも「どこにどう出るか」までは書いてない。
俺も知らなかったからだ。
「全国図鑑は出現予定表じゃないしな」
『ポリ』
「個別対応はできるけど、なんで中国に出たかは分からん」
もう一度地図を見る。
複数世代のポケモンを、環境ごとに組み合わせた地域。
本編の地方じゃなくて、既存ポケモンで構成された地域。
「……待てよ」
別の作品の地図が頭に浮かぶ。
カントーでもジョウトでもホウエンでもない。
ポケモンレンジャーの舞台になった地方。
「フィオレ?」
『ポリ?』
「レンジャーのやつ。カントーとかジョウトとかホウエンのポケモンが混ざってる地方」
目撃情報をフィオレの環境と照らす。
完全一致じゃない。
中国地方とフィオレは地形も気候も違う。原作そのままだと合わない部分もある。
でも、複数地方のポケモンを環境ごとに組み合わせる構造は似てる。
九州にホウエンを足したのと同時に、中国地方にフィオレっぽい構成を作った。
そう考えると説明がつく。
「これ、中国地方をフィオレっぽくしてるのか?」
『ポリ』
「いや、聞いてないぞ」
アルセウスから聞いたのは「一か月ごとに地方が追加される」って話だけだ。
カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、その先の本編地方。
少なくともスピンオフまで同じ扱いとは聞いてない。
「本編だけじゃなかったのかよ」
『ポリ』
「フィオレがダメってわけじゃないけどさ」
問題は説明がないことだ。
昨日送った資料には中国地方のポケモンも全部入ってる。だから情報自体は間違ってない。
でも、なぜそうなってるのかは分からない。
俺も政府も同じだ。
「スピンオフも来るなら、他もあるのか?」
フィオレだけじゃない。
アルミア、オブリビア、オーレ。
他作品の地域もまだある。
それが今後来るなら、予想は全部崩れる。
「せめて事前に教えろよな」
『ポリ』
「政府に送るにしても、フィオレ確定とは言えないし」
可能性は高いけど、断定はできない。
アルセウスに確認してない以上、間違った情報になるかもしれない。
今は余計なことは足さず、様子を見るしかない。
「連絡できれば早いんだけどな」
机を見る。
普通のスマホしかない。
アルセウスフォンはもうどこにもない。通話が終わったら消えてた。
番号も呼び出し方も分からない。
「ポリゴン、アルセウスフォン探せる?」
『ポリ』
「だよな」
分かってて聞いた。
あれは普通の機械じゃない。ネットで追えるものでもない。
中国地方の地図にまた新しい印が増える。
今のところ大きな被害はない。
でも、住んでる人にとっては今日がスタートだ。どこに何がいるか分からないまま、自治体も対応してる。
九州に気を取られてた政府も、完全に想定外だろう。
「ほんとに忘れてたとかないよな」
『ポリ?』
「アルセウスだよ、スピンオフ忘れてたとかはあんましないとは思うけどさ」
世界作るような存在に「忘れた」は変だけど、あいつの動機は好奇心とノリだ。
こっちの重要度と同じとは限らない。
「フィオレ来るなら、全部聞き直しだな」
そうつぶやいた瞬間、机の上から電子音が鳴った。
「うわっ」
スマホじゃない。
さっきまで何もなかった場所に、白と金の端末が置かれている。
やたら装飾が出っ張ってて、持ちやすさゼロの形。
一度見たら忘れないやつだ。
「……出たな、クソダサスマホ」
画面が光る。
『何か問題があるか?』
数秒固まる。
中国地方の地図を見る。
もう一度端末を見る。
どうやら本気で分かってないらしい。
俺は出っ張りを避けながら、それを持ち上げた。
「問題しかないんだけど」
画面の中央に、通話開始の光が浮かんだ。
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ