ポケモン現代入り 作:ささみ
画面の中央に浮かんでいた光が広がり、通話中の表示へ切り替わった。
『久しいな、新城悠真』
「挨拶はいい。中国地方に出てるポケモン、あれフィオレなのか?」
こちらが尋ねると、アルセウスは少しも間を置かずに答えた。
『その認識で構わない。ただし、フィオレそのものを移したわけではない。この世界の中国地方へ合わせ、生態系を再構成したものだ』
「やっぱりか……」
ポリゴンが作った分布図へ目を向ける。
カントー、ジョウト、ホウエンのポケモンが、元の地方とは関係なく環境ごとに配置されている。固有の新しい種類を追加せず、複数地方のポケモンを組み合わせて生態系を作る形は、やはりフィオレに近い。
「でも、そんな話は聞いてないぞ。カントーとかジョウトみたいな地方だけじゃなかったのかよ」
『フィオレもまた、ポケモン世界に存在する一地域だ。私にとって区別する理由はない』
「俺にはあるんだよ。今後どこに何が出るか予想するために必要だろ」
『君が、地方図鑑を基準に考えていたことは理解した』
「今さら理解されても遅いんだけど」
『今後の認識を改めれば済む話だ』
「その原因を作ったやつが言うなよ」
アルセウスは相変わらず悪びれない。
世界を勝手に混ぜた時と同じだ。自分が必要だと思わなかった情報は説明せず、こちらが困ってから初めて補足する。
「フィオレだけじゃないんだよな?」
『無論だ。アルミア、オブリビアをはじめ、他の地域も順次この世界へ組み込む』
「いつ?」
『それぞれと関係の深い世代が解放されている期間だ。フィオレは、カントーからホウエンまでのポケモンを中心とするため、今回のホウエン解放へ合わせた』
毎月の地方追加とは別に、新しい月が増えるわけではないらしい。
ホウエンが解放される期間の中で、フィオレ型の生態系も追加される。アルミアやオブリビアも、それぞれに関係するポケモンが揃う頃に来る。
「じゃあ、同じ日に全部来るとは限らないのか」
『そうだ。その時期に解放可能となるのであって、すべてを同時に配置する必要はない。現実側の環境や、既に現れたポケモンの定着状況も確認している』
「今日の中国地方みたいに、いきなり追加される可能性はあると」
『ある』
「それを先に教えろって言ってんだよ」
『君が必要としている情報の範囲は理解した。今後は考慮しよう』
「絶対に連絡するとは言わないんだな」
『私に、すべての判断を逐一報告しろと言うつもりか?』
「人間社会に影響することだけでいいよ。誰も知らない地域に、いきなり何百種類も追加するのは影響する側だろ」
そこで、アルセウスフォンの向こうから低い音が響いた。
遠くで何かが落ちたような音だったが、地面へ物体が衝突したというより、空間そのものを外側から叩いたような妙な響き方だった。
音が途切れた後も、微かな振動のようなものが通話へ残っている。
「……今、何か音しなかった?」
『気にする必要はない。こちらの事情だ』
「気にするなって言われて無視できる音じゃなかったけど」
『会話に支障はない。続けろ』
「なんで俺が許可される側なんだよ」
また説明を省くつもりらしい。
気にはなったが、中国地方以外にも確認しておきたいことがある。
「地方が増えたなら、伝説のポケモンも一緒に来てるのか?」
『すべてではない』
「来てないやつの方が多い?」
『現時点ではな。通常の生態系とは異なり、伝説や幻に属するポケモンは一体ごとの影響が大きい。移動させる時期と場所は個別に調整している』
ホウオウやルギアが確認されていないのは、単に人間が見つけられていないだけとは限らないらしい。
まだポケモン世界側へ残っている個体もいる。
既にこの世界へ来ていても、深海や地底、遺跡、異空間など、人間が簡単には到達できない場所にいる個体もいる。
「じゃあ、もう来てる伝説もいるんだな」
『当然だ』
「どいつ?」
『すべてを教えるつもりはない』
「別に場所まで聞いてないだろ。最低限、今いるやつくらい知っておきたいんだよ」
『知ったところで、君に対処できるとは限らない』
「知らずにいきなり出てこられるよりマシだろ」
少しの沈黙が入る。
アルセウスが迷ったというより、何か別の処理へ意識を向けたような間だった。
『カイオーガとグラードンは、既にこの世界へ移している』
「マジで?」
『カイオーガは深海、グラードンは地下深部にいる。互いがすぐに接触する位置ではない』
「絶対に会わせるなよ」
『私が意図的に会わせることはない』
「勝手に出会う可能性は?」
『存在する』
「そこは否定してくれよ」
『起き得るものを、君を安心させるためだけに否定するつもりはない』
「神様なら、会わないようにしてくれたっていいだろ」
『それぞれの意思まで常に管理するつもりはない。私は世界を檻に変えたいわけではないからな』
言っていること自体は分からなくもない。
だが、自由に行動した結果として海と陸が壊れかねない二体である。もう少しくらい管理してほしい。
アルセウスフォンの向こうで、今度は乾いた金属音が連続して響いた。
何か巨大な金属同士が正面からぶつかり、何度も弾かれているような音だ。先ほどより近い。
「……本当に何してるんだ、お前」
『後で話す。先に質問を終わらせろ』
「じゃあレックウザは? あいつももう来てるのか?」
『来ている』
「どこにいる?」
『宇宙空間だ』
「まあ、レックウザならそうか」
『現在はデオキシスと交戦している』
「…………」
聞き間違えたかと思った。
「もう一回言って」
『レックウザとデオキシスが宇宙空間で交戦中だ』
「ホウエンが来たの、今日だぞ?」
『両者が地球圏へ到達し、遭遇した。レックウザはデオキシスを外敵と判断したようだ』
「出会ってすぐ殴り合い始めたのかよ」
『あの二体にとっては珍しいことではない』
「こっちの世界にとっては、宇宙で巨大生物が戦ってる時点で大事件なんだよ」
人工衛星や宇宙ステーションが巻き込まれれば、珍しくないでは済まない。
「地上に影響は?」
『今のところはない。戦闘領域も地球から離れつつある』
「人工衛星とか壊してないだろうな」
『いくつかは軌道を乱される可能性がある』
「あるのかよ」
『直接攻撃を受けたわけではない。余波だ』
「余波で十分大問題だよ」
また、向こう側から衝撃音が届いた。
今度は音だけではない。通話が一瞬途切れ、アルセウスの声へ細かなノイズが混ざった。
その直後、遠くから低く長い鳴き声が聞こえる。
ポケモンの声だということは分かる。
だが、スマートフォン越しに聞いているだけなのに、腹の底へ響くほど低い。
「おい」
『何だ』
「さっきから後ろで戦ってない?」
『私自身が戦っている』
「やっぱりそうじゃねえか。何と?」
『正確には、この通話へ応じている私は分体だ。本体は別の場所で戦闘を続けている』
「分体?」
『私の意識と力の一部を分けたものだ。通常であれば君の傍へ直接生じさせることもできるが、現在は余力が少ない。ゆえに本体に近い領域へ発生させ、アルセウスフォンを介して接続している』
「だから戦闘音が電話に入ってるのか」
『そうだ』
「余裕ないなら、後で電話すればよかっただろ」
『君が説明を求めていた。応じてやったのだ』
「俺が無理を言ったみたいな言い方やめろ」
『事実を述べただけだ』
アルセウスフォンが勝手に現れたのは、俺が呼んでいたかららしい。
その点だけは律儀だが、戦争のすぐ近くへ分体を作ってまで電話してくる必要はなかった。
「それで、本体は何と戦ってる?」
『レジギガスと、その眷属たちだ』
「レジ系全員?」
『レジロック、レジアイス、レジスチル、レジエレキ、レジドラゴ。すべてレジギガスに従っている』
「普通に総力戦じゃん」
『そう呼んでも構わない』
アルセウスの声には、焦りも緊張もない。
だが、会話の向こうでは絶えず重い音が鳴っている。遠くで雷鳴のような放電音が走り、続けて何かが砕ける音が響いた。
「どこで戦ってるんだよ。地球じゃないよな?」
『ディアルガとパルキアが確保した特殊時空間だ。通常の時間と空間から切り離し、戦闘の影響が他へ漏れないよう境界を維持させている』
「ディアルガとパルキアも戦ってるのか?」
『あの二体は戦場の隔離を担っている。本体とレジギガスたちが正面から衝突すれば、通常空間では周囲の世界が耐えられない』
「そんな規模の戦争をしながら、世界融合も続けてんの?」
『止める理由はない』
「あるだろ。少なくとも相手は止めたがってるんじゃないのか?」
『レジギガスが不満を抱いているのは、融合そのものだけではない。私が他の者へ意見を求めず、決定し、既に開始していたことだ』
「……そりゃ怒るだろ」
『決定権は私にある』
「そういうところにキレてんじゃないの?」
『私が創り上げた世界を、どのように変化させるかは私が決める。許可を得る必要はない』
「それ、レジギガス本人にも言った?」
『無論だ』
「そりゃ殴り込んでくるわ」
世界全体に関わることを勝手に決めた。
それを知ったレジギガスが説明を求めた。
そこで謝るどころか、自分の世界だから自分が決めると言い切ったのだろう。
こちらから見れば、どちらが喧嘩を売ったのか分からない。
『レジギガスは、大地と大陸へ関わる存在である自分へ何の相談もなかったことを問題視している。世界融合によって地球側の土地へポケモン世界の環境を加える以上、自らも決定へ加わるべきだったとな』
「そこも割と正論じゃない?」
『あれへ任せれば、必要に応じて大陸そのものを移動させる』
「それは止めろ」
『だから私が判断した』
「判断したことじゃなくて、何も話さずに始めたことに怒ってるんだろ」
『加えて、レジロックたちの配置も気に入らなかったようだ』
アルセウスは、レジ系を同じ時期、同じ地域へまとめて移すつもりではなかった。
それぞれの性質や関係する土地、解放される世代に合わせ、異なる地域へ配置する予定だったらしい。
レジギガスにとって、レジ系は自らが生み出した眷属だ。
その行き先まで相談なしに決められたことが、さらに怒りを強めた。
「勝手に世界を混ぜて、勝手に仲間をバラバラに配置しようとしたと」
『適切な場所へ置こうとしただけだ』
「お前側の言い方だとそうなるんだろうな」
『レジギガスの主張は理解している。しかし、理解と同意は別だ』
「それ、向こうも同じこと思ってるだろ」
『ならば、どちらの意思が通るかを決める必要がある』
「最終的に殴り合いなのかよ、神様同士の話し合い」
『話し合いは終わった。その結果が今だ』
電話越しに、先ほどと同じ低い咆哮が響く。
直後、凄まじい衝突音が鳴った。アルセウスフォンの画面が一瞬だけ暗くなり、すぐに元へ戻る。
「今のがレジギガス?」
『そうだ。本体へ向けて突進した』
「冷静に実況してる場合か?」
『この分体が攻撃を受けたわけではない』
「本体もお前だろ」
『その通りだが、会話へ支障はない』
そう言っている割には、返答までの間が少しずつ長くなっている。
分体の口調は最初から変わらないが、本体側へ回す意識が増えているのだろう。
遠くで甲高い放電音が響いた後、空間が軋むような音が続いた。
『レジエレキが境界へ干渉しているようだ』
「大丈夫なのか、それ」
『ディアルガとパルキアが対処する』
「完全に戦争じゃん」
『先ほどから、そう言っている』
「認めるの早いな」
中国地方の話を確認するだけのつもりだった。
それがいつの間にか、宇宙ではレックウザとデオキシスが戦い、別の時空間ではアルセウスとレジギガスの陣営が戦争しているという話になっている。
知りたくなかったわけではない。
だが、一度に聞かされる量ではなかった。
「とりあえず、今後は大きな変更をする前に連絡してくれ」
『すべてを君へ報告するつもりはない』
「全部じゃない。今日みたいに、予告した地域以外へ大量のポケモンを追加するとか、地球に伝説を移すとか、人間社会に関係する話だけでいい」
『伝説を一体移すたび、君へ知らせろと?』
「カイオーガとかグラードン級なら知らせてほしいよ。あと宇宙で戦闘が始まってる時も」
『君が知ったところで、止められるわけではない』
「政府に注意を出すか、人工衛星を避難させるくらいはできるかもしれないだろ」
実際に情報を渡すかは、その内容を確認してから決める。
それでも、何も知らないよりは選択肢が増える。
アルセウスは少し黙った。
向こうで戦闘が続いているせいか、それとも俺の要求について考えているのかは分からない。
『地上の社会へ直接影響する変更については、可能な限り事前に伝えよう』
「可能な限りってところが不安なんだけど」
『現在のように、他へ割ける力が少ない場合もある』
「レジギガスと戦争してる時を基準にするなよ」
『私にとっては、どちらも同時に進めるべき事柄だ』
「お前が余計なことを同時に始めすぎなんだよ」
再び大きな衝撃音が響く。
今度は通話が数秒間途切れた。
画面へ細かな乱れが走り、アルセウスの声が戻る。
『そろそろ本体へ意識を戻す』
「最初からそうしてろよ」
『君が私を呼んだのだろう』
「だから、こっちが悪いみたいに言うなって」
『聞くべきことは聞いただろう』
「まだ色々あるけど、今日のところはもういいよ。頭が追いつかない」
『ならば終わりだ』
相変わらず、通話を切る判断まで勝手だった。
「次は戦争中じゃない時に連絡してくれ」
『次に話す時、平時である保証はない』
「嫌なこと言うなよ」
電話の向こうから、レジギガスの咆哮が響く。
続いて、巨大な何か同士が正面から衝突した音が鳴った。
アルセウスフォンの画面が白く染まり、通話が切れる。
手の中にあった端末は、そのまま細かな光へ変わった。指の間から粒子がこぼれ、数秒で跡形もなく消えていく。
急に静かになった部屋で、ポリゴンが小さく鳴いた。
『ポリ』
「……中国地方について聞いただけだったんだけどな」
パソコンの画面には、通話中に記録された内容が整理されている。
フィオレのような地域も、関係の深い世代に合わせて追加される。
カイオーガとグラードンは既に地球上にいる。
レックウザとデオキシスは宇宙空間で交戦中。
アルセウスは、世界融合を独断で始めたことに激怒したレジギガスと、その眷属たちを相手に戦争中。
「朝から聞く話じゃないだろ……」
椅子へ深く座り直し、中国地方の分布図へ視線を戻す。
画面の向こうでは、何も知らない人間たちが、新しく現れたポケモンの目撃情報を次々と投稿していた。
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ