ポケモン現代入り 作:ささみ
あ、いつの間にかUA20万行きました
国際宇宙ステーションから見える地球は、いつも通りだった。青い海、白い雲。夜側へ入れば都市の光が輪郭に沿うように地表へ広がる。地上では今まさに、人類史どころか生物史そのものを書き換えるような騒ぎが起きているが、高度数百キロを秒速数キロで周回するこの場所から眺めてしまえば、それすら嘘のように静かだった。
少なくとも、数分前までは。
「……もう一度言ってくれ」
「未確認物体を二つ。相対距離、およそ――待って、また変わった」
「人工衛星では?」
「人工衛星があんな動きをするなら、先に推進機関の論文を出してほしい」
外部カメラの映像を拡大したところで、映っているのは点に近かった。一つは緑。もう一つは赤みを帯びた白。問題は、その二つの点が軌道上を普通に移動していないことだった。
人工衛星も宇宙船も、宇宙では好き勝手に曲がれない。地球の重力へ身を任せ、必要に応じて推進剤を吹かし、軌道という巨大な円の上を移動する。今カメラに映っている二つは違った。止まる。曲がる。加速する。急減速する。それを地上で鳥が飛ぶ程度の気軽さで繰り返していた。
「距離は?」
「こちらから約……二十七キロ」
「近いな」
別の乗組員が外部カメラを切り替える。光点が一つ、急に大きくなった。正確にはこちらへ近づいたわけではない。緑色の何かが、その長い身体を伸ばした。
「……生き物?」
誰かが言った。
細長い。蛇にも龍にも見える巨大な緑色の身体。全長が何メートルあるのか、映像からではすぐに判断できない。ただ人工物でないことだけは分かった。その頭部がもう一つの光点へ向き、口が開いた。
「何か光って――」
次の瞬間、宇宙が青白く裂けた。
「っ!?」
外部カメラが一瞬白く潰れ、露光補正が追いつくと映像が戻る。細長い青緑色の光が画面の端まで伸びていた。
「……レーザー?」
「知らない。少なくともこっちの知ってる兵器じゃない」
「対象は?」
「外れた」
「外れた?」
映像を巻き戻す。発射直前、緑の生物ともう一つの人型らしい物体との距離は数百メートルほど。人型は光が放たれる直前まで確かにそこにいた。それが次のフレームでは十数メートル横へ移動している。それだけだった。
「……避けたのか」
数キロ以上に渡って伸びている光線を、十数メートル動いただけで。
人型の姿が変わる。細身だった身体が一瞬で組み変わり、上半身が大きく、攻撃的な形状へ変化した。胸の中心、赤い結晶のようなものが光る。
「今度は向こうだ!」
赤紫色の光が人型の胸部から一直線に放たれ、巨大な緑の生物へ向かう。しかし、こちらも同じだった。頭部を傾け、身体を僅かに捻る。それだけで光線が首の横を通過し、そのまま背後へ抜けて何キロも宇宙の暗闇へ伸びていく。
誰も喋らなかった。
攻撃自体は冗談のように巨大だった。もしISSへ向けて撃たれれば、避ける以前の問題だろう。だというのに、その攻撃を撃ち合っている当人たちは数百メートル程度の範囲からほとんど動いていない。
大きく逃げる必要がないからだ。撃たれる場所が分かる。飛んでくる方向が分かる。ならば身体一つ分ずれればいい。人類が知る兵器なら、まず命中を前提に考える規模の攻撃を、二体はまるで拳を避けるように処理していた。
「また来る」
緑の生物――レックウザが口元へ光を集める。人型――デオキシスも胸の結晶を輝かせる。青緑と赤紫、二本の光線がほぼ同時に放たれた。
どちらも当たらない。ほんの数メートル。片方は上へ、片方は下へ。それだけ身体をずらし、互いの大技が互いのすぐ横を通過する。
「なんで当たらないんだ」
「知らない」
「いや、あの威力でどうしてそんな避け方ができる」
「だから知らない!」
答えようがない。知識がないのではなく、常識の方が役に立たなかった。
デオキシスが両腕を広げると、周囲に漂っていた細かな破片が動いた。
「デブリ?」
人工物なのか天然の岩石なのか。大小いくつもの物体が一斉に方向を変え、レックウザへ殺到する。レックウザは避けず、口から放った光でまとめて粉砕した。
「あ」
小さな声が漏れた。
砕けた。当然、消えたわけではない。大小の破片が無数のさらに細かな破片となって四方へ散っていく。
「追跡できるか!?」
「無理だ、数が多い!」
「こちらへ向かうものだけでいい!」
「分かってる!」
宇宙空間では、ネジ一つでも速度次第で十分な凶器になる。数十キロ先で化け物同士が殴り合った結果生まれた破片に、こちらが殺される可能性がある。あまりにも馬鹿馬鹿しいが、笑える者はいなかった。
「軌道予測を――」
「待って!」
カメラ担当が叫んだ。映像から二体が消えている。
「ロストした!」
「両方?」
「両方!」
カメラを振る。先ほどまで確かに二体がいた空間には、砕けた破片だけが漂っている。
「どこへ――」
光った。
最初の位置から百メートルも離れていない場所。一瞬だけ二体の姿が現れた。レックウザの頭部、その横を抜ける細身のデオキシス。次の瞬間には消える。
また光る。反対側。レックウザの尾が振り抜かれ、デオキシスが身体を沈めて避けている。消える。光る。消える。光る。
「……何をしてる?」
分からない。
外部カメラの映像では、二体が飛んでいるようにすら見えなかった。ある場所で光ったと思った直後には別の場所で光り、その直後にはさらに別の場所で閃光が生まれる。範囲自体は狭い。せいぜい数百メートル。その中で光だけが無秩序に発生していた。
「高速度映像に切り替えろ」
「もうやってる!」
「フレーム落ちは?」
「落ちてない! 対象が速すぎる!」
記録映像の一部をさらに細かく切り出して、ようやく見えた。
デオキシスの姿は先ほどとはまた違う。さらに細く、無駄のない形。スピードフォルム。
レックウザが突進する。デオキシスも正面から踏み込む。交錯した瞬間、腕がレックウザの顔面を打ち、同時にレックウザの身体が捻られて尾がデオキシスを薙ぐ。双方が軌道を変えた直後、また加速する。
正面衝突。反転。再加速。横。下。上。斜め後方。
一度の加速で遠くへ離れるのではない。数十メートル、時には百メートルにも満たない距離を一瞬で踏み潰す。
しんそく。
止まる前に向きを変え、またしんそく。攻撃、しんそく、回避、しんそく、反撃。その繰り返し。
レックウザの巨大な身体からは想像できないほど細かな方向転換と、デオキシスの人型だからこそ可能な最小限の姿勢制御。直線ではレックウザが押し、デオキシスは僅かに軸を外してすれ違いざまに拳を叩き込む。レックウザが即座に身体を折り返せば、デオキシスも振り向くことすらせず軌道を変える。そして再び激突する。
数秒。ただそれだけの時間に、何十回の攻防が行われているのか分からない。
「これ……再生速度落としてるんだよな?」
「二十分の一」
「まだ速いぞ」
「知ってる」
さらに落とす。それでも速い。人間が見て理解できる速度まで落とした頃には、数秒の戦闘が何分もの映像になっていた。
「……殴り合ってる」
「そうだな」
「宇宙で」
「そうだな」
「数十キロ先で」
「そうだな」
「何なんだよ」
「俺に聞くな」
その超高速戦が突然止まった。
デオキシスが移動しようとした先。そこへレックウザの頭部が既に向いていた。
「読んだ?」
激突。
今までの閃光とは明らかに違った。レックウザの頭突きがデオキシスの胴体を捉え、その小さな身体が数百メートル吹き飛ばされる。それでも遠くへ逃げることはない。
デオキシスの身体が宇宙空間で変形する。手足が太くなり、全体が重く、守りを固める形へ変わった。
「また形が変わった」
「記録してる」
「全部だ。全部残せ」
レックウザの全身が発光した。先ほどまでの光線とは違い、身体そのものから膨大なエネルギーが噴き出している。
「……来る」
レックウザが突進した。
デオキシスは逃げない。両腕を前へ出し、周囲に光の膜のようなものを重ねる。
次の瞬間、衝突。
外部カメラの映像が白く弾けた。音はない。宇宙空間に爆音など存在しない。だというのに、見ている全員が耳を塞ぎたくなるほどの光景だった。
レックウザの身体を中心に、緑と金の光が数キロ先まで伸びる。突進そのものはデオキシスへ真っ直ぐ向かっているだけなのに、溢れたエネルギーだけが周囲へ巨大な尾を引いていた。
デオキシスが止める。
ほんの一瞬。
全長七メートルを超える龍と、人間より少し大きい程度の身体。比べること自体がおかしいほどの体格差。それでも止まった。
「止めた……?」
次の瞬間、デオキシスの腕が崩れた。防御を突破したレックウザがそのまま押し込み、二体が数百メートルを一気に走る。デオキシスの身体が弾き飛ばされた。
腕がない。肩口が大きく失われ、胴体にも穴が開いている。
「……死んだ?」
「待て」
赤い結晶は残っている。
そこを中心に身体が蠢いた。失われた部分が伸び、形を作る。腕が戻り、胴体が塞がっていく。
「再生してる」
「そんな」
「映ってるだろ!」
再生途中で身体が再び攻撃的な形へ変化した。
「もう撃つぞ!」
胸部の結晶が発光する。レックウザとの距離は近い。先ほどまでなら十分に避けられた。しかしレックウザは避けなかった。
いや、避けきれなかった。
サイコブースト。
赤紫の光が至近距離から放たれ、レックウザの側面を掠める。直撃ではない。それでも緑色の鱗がまとめて吹き飛び、巨大な身体が押された。
「当たった」
「初めて?」
「少なくとも確認できた中では」
レックウザが止まる。体表の一部が焦げている、その頭がゆっくりとデオキシスへ向く。
「……怒ってないか?」
「顔で分かるのか?」
「分からないけど、あれは怒ってるだろ」
「俺もそう思う」
デオキシスも逃げない。傷は既に塞がっているが、完全ではない。レックウザにも傷がある。初めて互いの攻撃が届いた。
それだけだった。
だというのに、ISSの中にいた人間たちは誰一人、それを優勢とも劣勢とも考えなかった。むしろ逆だった。先ほどまで、あれだけの攻撃を、あれだけの速度で、ほとんど無傷のまま捌いていた。
つまり。
「……これから、もっと激しくなる?」
誰もすぐには答えなかった。
モニターの向こうで二体が向かい合っている。距離は数百メートル。宇宙という尺度では、ほとんど目の前だった。レックウザの口元へ光が集まり始め、デオキシスの胸部も輝く。
「外部カメラ全部記録」
「やってる」
「デブリ監視継続」
「やってる」
「地上にも送れ」
「もう送ってる!」
「なら――」
緑と赤紫、二つの光が膨れ上がる。
「頼むから」
誰かが呟いた。
「こっち向いて撃つなよ」
二本の光が、再び宇宙を裂いた。
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ