ポケモン現代入り 作:ささみ
しれっと30万UAいってた……仕事中に突破してたな
白い球体が、作業台の中央に置かれていた。
「もう一回やるぞ。開閉から」
「了解です。記録回します」
制御担当がパソコンへ向かい、中堅がボールへ手を伸ばす。中央のボタンを押すと、白い外殻が滑らかに開いた。閉じる。もう一度開く。縮小させて元の大きさへ戻し、内部機構の反応を測る。
その一連の動きを、何人かが少し離れた場所から眺めていた。
「今ので何回目?」
「50回です。今のところ異常なし」
「コア側は?」
「ズレてないですね。最初に合わせた位置からほぼそのままです」
中堅が白いボールを持ち上げ、軽く振ってみる。
「じゃあ完成でいいだろ。プレミアボール、試作成功」
「……あっさり終わりましたね」
新人が少し物足りなさそうに言った。
「スーパーで散々苦労した後だとな。俺もこんな簡単でいいのかって思ったよ」
プレミアボールは、スーパーボールが完成した後に送られてきた大量の設計資料、その中に混じっていた一種類だった。
変わっているのは内部に追加された基礎コアくらいで、筐体そのものはモンスターボールの構造をほぼそのまま使える。特殊な捕獲条件もなければ、特定の環境へ合わせる機構もない。
既に安定生産できるようになったモンスターボールへ基礎コアを載せ、全体の動作を合わせる。
やっていることはそれだけだった。
「これなら失敗しようがないですよね。モンボ側はもう出来てるし」
「そう言って最初の一個で微妙にズレたの誰だっけ?」
「それは忘れてください」
「記録残ってるから無理だな」
新人が嫌そうな顔をしている横で、制御担当は完成報告をまとめていた。各試験の数値と動作記録を添付し、最後に完成品の写真を付ける。
「これで送りますよ。プレミアボール試作完了、各動作問題なし。現状は一個だけ、と」
「いいんじゃないか。量産依頼されてるわけでもないしな」
送信。
それで一区切り……とはならなかった。
中堅が完成したばかりのプレミアボールを開き、内部から基礎コアを取り外している。
「また始めるんです?」
「いや、ちょっと気になってさ」
指先でコアを転がしながら、その隣に置かれたモンスターボールを見る。
「これ思ってたより触れる範囲広くない?」
制御担当も椅子を寄せた。
「動作調整ですか?」
「それもあるけど、プレミアって結局、モンボの筐体をほぼそのまま使ってるだろ。それでもコア載せたらちゃんと別の設計として成立した」
「まあ、そうですね」
「だったら他のボールも、全部専用の筐体から作らなくていいんじゃないかと思って」
新人が少し考え、作業台の端に置かれている青と白の球体を見る。
「スーパーボールも?」
「例えばな」
スーパーボールの最初の試作では、外殻から内部構造まで何度も手を入れた。加工条件を変え、素材の状態を調べ、組み合わせを試してようやく完成へ辿り着いた。
あの時は、それ以外の作り方を知らなかった。
「捕獲性能の調整をコア側に持たせられれば、筐体はモンボを流用できるかもしれないですね」
「そこまでできたら楽なんだけどな。種類が増えるたびに筐体の製造工程まで増やしてたら、そのうち工場が死ぬ」
「もう結構死にかけてません?」
「まだ生きてるから大丈夫だろ」
「判定が雑だなあ」
制御担当が基礎コアの記録を開き直す。プレミアボールを作る際にどこまで制御値を動かしたのか、モンスターボールのデータと並べて比較し始めた。
その時、パソコンから通知音が鳴った。
「早っ」
「もう返ってきたの?」
「さっきの完成報告じゃないですね。新しいメールです」
制御担当が開く。
数秒ほど黙って画面を読んでから、顔を上げた。
「今話してたやつ、やることになりました」
「何が?」
「スーパーボールです。安定して継続生産できる工程を作ってほしいそうです。最初は週数個くらいで、モンスターボールの生産は止めないでくれって」
新人が机へ突っ伏しかけたところで、中堅が笑った。
「タイミング良すぎるだろ」
「設備とか治具が必要なら金は出すそうですよ」
「条件はいいな。急げとも書いてないんだろ?」
「品質と安定性優先でいいそうです」
新人もメールを覗き込む。
「前の作り方でも出来なくはないですけど……毎週やるのは無理ですね」
「だからちょうどいい。今話してた方法を試そう」
中堅がプレミアボールから抜いた基礎コアを指先で持ち上げた。
「筐体は今のモンボを使う。スーパーの性能差を、どこまでコア側で出せるか確認してみよう」
「上手くいったら、途中まで全部同じ工程で作れるってことですよね」
「そうなるな。最後に載せるコアと外装を変えるだけで済むなら、今よりずっと楽になる」
「じゃあ俺、モンボ筐体持ってきます」
「プレミア用の治具も出して。まず流用できるところから使おう」
試験はその日のうちに始まった。
使うのは、普段から週10個から15個ほど作っているモンスターボールと同じ筐体。そこへ試験用のコアを載せ、スーパーボールの完成品と反応を比較していく。
一個目から基本動作は通った。
「お、普通に動いた」
「捕獲側は少し足りないですね。復帰も若干遅いです」
「そこだけなら十分だよ。筐体側は触らないで、コアの方を変えよう」
「じゃあ次、少し上げます?」
「何段階か作ろう。近いやつ見つけてから詰めた方が早い」
条件を変えたコアを載せ、測定する。終われば外して次を入れる。
以前のスーパーボール試作では、一つ変更するたびに内部のあちこちへ手を入れていた。それに比べれば、今回はずっと楽だった。
「これいいですね。めちゃくちゃ試しやすい」
「プレミア作った甲斐があったな。簡単だった分、基礎コアだけの挙動を見られたのがでかい」
「最初にこっち作ってたら、スーパーでもあんな苦労しなかったんじゃ……」
「それは言うな。あの頃は追加図面そのものが来てなかったんだから」
「分かってますけど、ちょっと悔しいっす」
机の端に番号付きのコアが増えていく。
その一方、工場の奥からは相変わらず加工機の音が聞こえていた。
「そこ、もうちょっと詰められるだろ」
「削れるけど、戻せなくなっても知らんぞ」
「失敗したらもう一個作ればいい」
「簡単に言うな。作るの俺だぞ」
新人がそちらを見る。
最年長の熟練者を中心に、経験の長い職人が何人か集まっていた。作業台の上には黄色と黒の部品が並んでいる。
「向こう、今日ずっとハイパーボールやってません?」
「通常の仕事終わってからな」
「なんか楽しそうなんですよね」
中堅も一度だけ振り返る。
「スーパーより難しいからじゃないか?」
「普通、難しい方が嫌じゃないですか?」
「技術屋にそれ聞く?」
「聞く相手間違えたかな……」
ちょうど奥から声が飛んできた。
「測定器、そっち終わったら貸してくれ!」
「まだスーパーで使いますよ。終わったら声掛けます!」
「急がなくていいぞ。こっちはまだ加工してるから!」
新人は小さく笑いながら作業へ戻った。
「これ、このまま種類増えたら全員で一個ずつやってられないですよね」
その言葉を聞いていた工場長が、工場内を見回す。
入口側では通常のモンスターボールを作っている。
中央では、モンスターボールの筐体を使ってスーパーボールを量産する方法を試している。
奥では、ベテランと熟練者がハイパーボールの試作に夢中になっている。
「……そろそろ分けるか」
「何をです?」
「担当だよ。今までみたいに新しい図面が来るたび全員で集まってたら、モンボの生産まで止まるだろ」
人数の少ない工場なので、完全な分業はできない。それでも中心になる仕事くらいは決められる。
「通常生産を回す組と、量産工程を作る組。それから試作だな。忙しい時は手を貸し合えばいい」
「試作はもう勝手に固まってません?」
新人が奥を見る。
ベテランたちはこちらの話など聞いていない。ハイパーボールの部品を囲み、寸法をどうするかで盛り上がっている。
「まあ、あそこはあれでいいだろ」
「俺、しばらく量産側がいいです」
「心配しなくても、まだ向こうには入れないよ」
「安心しました。今のうちにいっぱい覚えときます」
「そのうち向こうから呼ばれるぞ」
「その時は諦めます」
制御担当が測定結果を更新する。
「3番、かなり近いですよ。完成済みのスーパーボールとほとんど差がないです」
中堅がすぐ横へ寄った。
「同じ条件でもう何個か作ろう。それで揃うなら、この方式でいけそうだな」
「筐体は全部いつものモンボですからね。これ通ったらかなり楽になりますよ」
「他のボールにも使えるかもしれないしな」
完成したばかりの白いプレミアボールが、作業台の端に置かれている。
ほんの数時間前までは、追加された設計図の中でも簡単な一種類を片付けただけだと思っていた。
それが今では、これから増えていくボールをどう作るか、その考え方そのものを変えようとしていた。
翌日、ホワイトボードには新しく三つの欄が増えた。
通常生産。
量産開発。
試作。
プレミアボールが一個増え、スーパーボールの作り方が変わり始め、その奥では今日もハイパーボールが弄り回されている。
町工場の中ではいつの間にか、ボールを一個作ることより、その次をどう作るか考える時間の方が長くなり始めていた。
マジで余裕が無さすぎて更新ができねぇ。
盆になるまで一旦休みます……体力持たんですわ……
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ