ポケモン現代入り 作:ささみ
少し復活したので投稿です、徐々に投稿増やしていきまーす
「また来たぞ」
社長の声に、作業をしていた何人かが顔を上げた。
「何がです?」
「設計図」
「どのボール?」
「知らん。まだ見てねえ」
「じゃあ見てから呼んでくださいよ」
「うるせえな。どうせお前ら寄ってくるだろ」
言い返しながらも、新人は手にしていた工具を置いた。少し離れたところでは通常生産の組がモンスターボールを組み上げ、中央ではスーパーボール用の部品を載せ替えながら測定を続けている。奥からは相変わらず加工機の音が響いていた。ハイパーボールを弄っている連中は、こちらの声が聞こえているのかいないのか分からない。
つい先日、仕事を大まかに3つへ分けたばかりだった。
通常生産。量産開発。試作。
新しいものが届くたび全員で寄ってたかっていた頃に比べれば、少なくともモンスターボールの生産まで止まることはなくなった。
「で、今度は何です?」
「待て。開いてる」
社長がメールに添付された資料を開く。設計図らしいファイルがいくつも並び、その横に概要をまとめた文章が付いていた。
先に文章を開いた社長の眉が寄る。
「……わざマシンマシン」
「はい?」
「わざマシンマシン」
「聞こえてますよ。何すか、その頭悪そうな名前」
「俺に言うな」
「名前の時点で不安になってきたんですけど」
中堅が横から画面を覗き込み、数秒黙った。
「わざマシンを作る機械だから、わざマシンマシン?」
「多分な」
「そのまんまじゃねえか」
「分かりやすくていいだろ」
「よくねえよ」
そこで奥から1人、ようやくこちらへやってきた。
「さっきから何騒いでんだ?」
「新しい設計図です」
「ボール?」
「違います」
「じゃあ何だよ」
「わざマシンマシン」
「……何だそれ」
「今そこやってます」
人が1人増えたところで何も解決しない。社長が鬱陶しそうに手を振り、画面を下へ送った。
説明は思っていたより長かった。
ポケモンから自然に得られる素材。その内部に残された情報を専用装置で読み取り、必要なものを抽出し、専用のディスクへ書き込む。それを使用することで、本来なら自力では覚えていない技を、対応するポケモンへ習得させることができる。
そこまで読み終えたところで、誰も口を開かなかった。
「……技?」
最初に声を出したのは新人だった。
「技だな」
「技って、あれですよね。火ぃ吐いたり、風起こしたりするやつ」
「それ以外に何があんだよ」
「いや……それを何でディスクに入れられるんです?」
「知らねえよ」
「ですよね」
即答だった。
中堅が資料を奪うようにスクロールする。
「待て待て。ポケモンの素材って何だ。肉でも削るのか?」
「羽とか毛とか、鱗とか、自然に落ちたものでいいらしい」
「なんだ。じゃあまだマシか」
「まだって何だよ」
「『まずポケモンを解体します』とか書いてあったらどうしようかと思った」
「送ってくる奴がそこまでイカれてなくて良かったな」
「いや、これ送ってきてる時点で十分イカれてるだろ」
誰も否定しなかった。
モンスターボールの時点で散々おかしなものを作らされている。小さくなった生き物を収める球体を作り、捕獲性能を引き上げ、その次は用途の違う別種のボール。そのせいで、多少意味の分からない設計図を見ても以前ほど驚かなくなってしまった。
だからといって、技をディスクにする機械まで素直に受け入れられるかといえば話は別だった。
「この『情報』ってのは何を指してんだ?」
後ろから来たベテランが画面を指で叩く。
「こっちに読み取り部の仕様がありますね」
「見せろ」
「はいはい。……うわ」
「何だ」
「知らねえ部品増えてる」
「そりゃ新しい機械なんだから増えるだろ」
「そういう意味じゃなくて、今まで使ってない方式です。加工はできる。筐体も作れる。駆動部もたぶんいけます。でも、この検出器はうちじゃ作れないですよ」
「既製品で近いの探せ」
「なかったら?」
「付き合いあるとこに必要な部品だけ振れ」
「全体の図面は?」
「出すわけねえだろ。寸法と材質だけ渡せ」
「ですよね」
話はそれで終わった。
自分たちで作れない部品があること自体は珍しくない。必要なら買う。なければ作れるところに頼む。ただし、この機械が何をするものなのかまで外へ話す必要はない。
今までだってそうやってきた。
「制御基板は?」
「既製品弄ってどうにかならないか見ます。無理なら基板だけ発注します」
「ならそれでやれ」
「軽いなあ」
「金は出すって毎回言われてんだろ。必要なら買え。作れるとこだけ俺らで作る」
「それ町工場として正しいんですけど、最近買う物がおかしいんですよね」
「知らん。仕事来て金出るなら仕事だ」
「雑だなぁ」
「お前が細けえんだよ」
言いながらも、中堅はすでに資料を自分の端末へ送っていた。必要になりそうな既製品、自分たちで加工できる部品、発注が必要になりそうなもの。口では文句を言いながら、手だけは早い。
「で、肝心の素材は?」
「後日送るって書いてある」
「種類は?」
「何種類か。最初は読み取り確認だけでいいらしい。いきなり完成品作れとは書いてないな」
「珍しく良心的じゃん」
「感覚麻痺してねえか?」
「ハイパーボールの設計図まとめて投げてきた奴だぞ。今回は優しいだろ」
「比較対象がおかしいんだよ」
社長がもう一度資料を戻す。
装置そのものは大きく分ければ3つだった。
素材を読み取る部分。そこから必要な情報を抽出する部分。そして抽出したものを専用ディスクへ書き込む部分。
文章だけなら簡単だった。
簡単に書いてあるだけだった。
「これ作った奴、絶対現場知らねえだろ」
ベテランが吐き捨てるように言った。
「『規定値まで調整する』じゃねえんだよ。その規定値に合わせんのが面倒なんだろうが」
「そこ数値ありますよ」
「数値ありゃ何でもできると思うな」
「でも数値ないよりマシじゃないです?」
「そりゃそうだ」
「どっちだよ」
騒いでいる間にも、新人は別の設計図を開いていた。
「このディスクって普通の光学ディスクじゃないですよね?」
「見りゃ分かるだろ」
「いや形はそれっぽいんで」
「お前、モンスターボール見て『普通のボールですね』って言うか?」
「言わないです」
「じゃあそういうことだ」
「分かるような分かんないような……」
新人が首を傾げながら拡大する。その横から中堅が覗き込み、すぐに目を細めた。
「これ、書き込み部分は後回しでいいな」
「何で?」
「先に読む方が動かなきゃ話にならんだろ。素材突っ込んで何も拾えませんでした、じゃディスク作ってもゴミだ」
「そりゃそうか」
「まず読み取り。次に抽出。その後に書き込み。順番に潰す」
「……もうやる前提なんですね」
「何だよ。やらねえのか?」
「やりますけど」
「じゃあ黙って図面見ろ」
「はいはい」
社長が呆れたように息を吐く。
ほんの少し前まで、こいつらはモンスターボールの量産方法をどうするかで頭を抱えていたはずだった。その横では今もスーパーボールの測定が続いているし、奥ではハイパーボールがバラされている。
仕事が減ったわけではない。
なのに、新しいものが届くと目の色だけは変わる。
「おい」
「何です?」
「通常生産止めんなよ」
「分かってますって」
「スーパーもだぞ」
「そっちは俺らです」
「ハイパーも――」
「聞こえてるぞ!」
奥から怒鳴り声が返ってきた。
「こっちは止めねえからそっち勝手にやれ!」
「測定器は貸してくださいよ!」
「使ってなきゃ持ってけ!」
「ほら、話早い」
「お前らなあ……」
社長が額を押さえた。
数日後、荷物が届いた。
中身は小さな袋に分けられたポケモン由来の素材と、追加の資料だった。1本の羽、細かな粉末、短い毛のようなもの。どれも見たところ、珍しい工業材料には見えない。
「……これ入れんの?」
「そう書いてある」
「壊れない?」
「それ調べるための試作だろ」
「いや、そうなんですけどね」
まだ完成形には程遠い読み取り部が、作業台の上に固定されている。市販品をそのまま使った部分もあれば、このためだけに削り出した部品もある。検出部分には既製品を流用し、足りない小さな部品だけ馴染みの加工先へ個別に発注した。
もちろん、相手が知っているのは寸法と材質だけだ。
何を作っているのかなど、一言も伝えていない。
最初から綺麗な1台にはしていなかった。
壊れれば外せる。駄目なら交換できる。数値がおかしければ、その場で手を入れられる。見た目は悪いが、試作機なんてそんなものである。
「電源入れるぞ」
「待って。記録開始……はい、いいです」
「素材これで合ってんだな?」
「番号一致してます」
「じゃあ入れる」
小さな素材が容器へ収まる。カバーを閉じ、設定された手順通りに装置を動かした。
ファンの音が少しだけ高くなる。
画面には最初、何も出なかった。
「……おい」
「待ってください」
「何秒だ」
「まだ規定時間内です」
「壊れてねえだろうな」
「それ俺に聞かないでくださいよ」
「作ったの俺らだろ」
「だから怖いんじゃないですか」
数秒。
十数秒。
新人が画面を睨み込んだまま、ふっと眉を寄せる。
「ん?」
「何だ」
「いや……これ」
中堅が椅子ごと寄った。
「出た?」
「多分。ちょっと待ってください。ノイズじゃないか比較します」
「同じ条件でもう1回やれ」
「まだ終わってませんって」
「終わったらだよ」
「分かってますよ」
画面の端に、今まで何もなかった波形が浮かんでいた。
普通に成分を測っただけでは出てこないものだった。
設計資料には、それが何なのか説明されている。
ポケモンの技に関係する情報。
誰もすぐには口を開かなかった。
やがて、ベテランが画面へ顔を近づけた。
「……同じ素材もう1個あったよな?」
「あります」
「入れろ」
「まだ1回目です」
「だから比較すんだろ」
「別個体のもある?」
「ありますけど」
「それも後でやろう」
「別種は?」
「あります」
「じゃあ全部――」
「待て待て待て」
社長が割って入った。
「一気にやんな。まず今の結果確定させろ」
「でもこれ、同じ種類なら同じ波形になるか見たいじゃないですか」
「個体で違ったらどうなる?」
「それも見たい」
「使える技が違う個体なら?」
「見たいですね」
「進化前と進化後は?」
「それも――」
「だから先に機械完成させろって言ってんだよ!」
一喝され、ようやく全員が黙った。
ほんの数秒だけ。
「……でもデータは取っといた方がよくないです?」
「お前は黙れ」
「はい」
新人が笑いを堪えながら画面へ戻る。
社長も文句を言いながら、その波形をもう一度見た。
設計図だけを見ていた時には半信半疑だった。ポケモンの素材から技の情報を読み取る。そんなものを、どこまで本気で信じればいいのか分からなかった。
だが、今は画面に何かが出ている。
なら、次にやることは決まっていた。
「……もう1回。同じ素材で測れ」
「はい」
「終わったら別のやつもだ」
「はい」
「あと検出器、予備もう1個買っとけ」
「増やすんですか?」
「壊した時に止まるだろ」
「やる気じゃないですか」
「うるせえ。仕事だ」
その日の夕方。
工場のホワイトボードには、通常生産、量産開発、試作と並んで、新しい文字が増えていた。
『その他』
通りかかった社長が足を止める。
「……誰だこれ書いたの」
「俺です」
「雑すぎんだろ」
「じゃあ何て書くんです?」
「わざマシンとかでいいだろ」
「次また全然違うもん送られてきたら書き直すんですか?」
「……」
「絶対来ますよ」
社長は少し黙ったあと、消しかけていた手を止めた。
「まあいいか」
「ですよね」
「ただし増えすぎたら分けろよ」
「その時考えましょう」
ホワイトボードの端には、ひどく大雑把な『その他』の文字が残った。
その下には早くも、小さく1行が書き足されていた。
『わざマシンマシン 読み取り試験中』
「だから名前ダセえんだよな、これ」
「俺らに言われても知らねえよ」
加工機の音に混じって、そんな声が工場の中へ響いていた。
ここまでかなり閑話多いけど、こんなんでいい?
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本編進めやがれ
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これでいい
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どうでもいいからはよ